私は一誠と裕斗を担いで、近くのコンビニに買い物に行って、食料を買い込んでから旧校舎にやって来た。
しかし、大量に買ったな。
私は両腕に一誠と裕斗を担いだ状態で、袋を片手に5つずつ持っている。
女性陣に持たせるなど、私の矜持に反するので荷物は全て持っている。
それに当初は旧校舎の彼の分だけにしようとしたんだが、私も鍛錬の後で腹が減っていたし、裕斗も一誠も同じだろうと思い、大量に買い込むことになった。
お金は全て私が出した。
後輩に出させるような恥ずかしい真似は出来ない。
「さて、裕斗どこに行けばいいんだ?」
「はい、一階の奥にある『開かずの教室』までお願いします」
私は裕斗の指示に従い、目的の場所まで運んだ。
目的地にはすぐにつき、目の前の状況に唖然とした。
『KEEP OUT!!』のテープが貼られていて、呪術的な封印も施されている。
なるほど一目で封印されていることが分かる。
「あの中です。ただ封印を壊していけないので、あのテープをくぐります。あのゲーティア部長もうここまでで大丈夫です」
「いや、下ろすのはいいんだが、あのテープをくぐれるほど回復しているのか?」
「‥‥‥あの、大変申し訳ございませんが、いいですか」
「元よりそのつもりだ。気にするな」
私は裕斗と一誠を担いだまま、テープを器用に避けて扉に近づいた。
扉の目の前で二人を下ろし、支えて立たせた。
「すいません。ゲーティア部長」
「ありがとうございます」
「構わん。気にするな」
私が支えながら、裕斗が扉をノックする。
「ギャスパー君、食事持ってきたよ。悪いんだけど扉開けてもらえないか?」
「はーい」
すると中から甲高い声が聞こえた。
あれ?彼、と裕斗が言っていたので『男』だと思っていたが‥‥‥いや声変わり前なのか?
そんなことを考えていると扉が開き、中から小柄な女の子?が現れた。
その子は私たちを見て、叫んだ。
「イヤァァァァァァァァァ!!」
大きな甲高い声で叫び、部屋の中に逃げ込んでいく。
私たちは彼?を刺激しないように裕斗に先頭に立って、彼?を落ち着かせてもらうことにした。
「ギャスパー君、大丈夫だから落ち着いて。今日の分の食事だよ。ごめんね遅くなって、お腹空いたでしょう」
裕斗が柔らかく、ギャスパーに話しかけ落ち着かせようとしている。
「で、でで、でも、あ、あ、あ、あ、あの人、とっても怖いですーーーーー」
「大丈夫だよ。怖くないよ、とても強くて優しい人だから、それに僕たちを指導してくれてとても強くしてくれているんだから。大丈夫、信頼できる人だから安心して」
「‥‥‥うううう」
こちらを警戒しながら見ている、ひどく怯えているようだ。
仕方がない、ここは事情だけ説明して帰るとするか。
「ギャスパー、というのか?」
「!!!来ないでーーー!!」
何か力を発したようだが、何も影響がないな。
いや、私以外には影響があるようだ。
「ほぉー、動きを止めるのか」
「な、なんで!なんで動けるの!」
「なんで?単純に力が足りないからだろう」
私が事もなげに答えると、ギャスパーは驚き、怯え、泣きながら謝罪を繰り返した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。‥‥‥」
そう言っていると、みんなが動きだした。
裕斗が彼の様子を見て、私に聞いてきた。
「ゲーティア部長、彼、力を使いましたよね?」
「ああ、どうやら動きを止める力のようだな」
「ええ、正確に言うと視界に映した物体の時間を一定時間停止させる神器を持っているんです」
「そうか。その力を制御できないから封印されているということか。なぜ制御できない?いや制御できないなら制御出来るようにすればいい。なぜしない?」
「‥‥‥そういった知識を持つ人がいなかったからだと思います。僕も詳しくは知らないんです」
「そうか、まあいい。とりあえずはこれだ」
私は両手のコンビニ袋を掲げると、裕斗も納得した。
いい加減に食事にしよう。
私も腹が減ったし、彼も腹が減っただろう。
「ギャスパー君、お腹空いたし、食事にしよう。一誠君、机があるから出すの手伝って」
「ああ、分かった」
2人が机を並べようとしている。
少し回復したようで、それくらいは出来るようだ。
私はギャスパーの方を見ると、まだ俯き、謝り続けている。
力にトラウマがあるんだろう。
強すぎる力は孤独になる、そうだ。
私には無縁だったのでよくわからないな。
幼き頃からセバスがいて、成長してからは眷属が出来、そしてこの学園で友が出来た。
彼のことを助けること、力を制御できる方法を教えることは難しいことではない。
だが彼が制御しようとするか否か、それ次第だな。
「ギャスパー君、用意できたよ」
「‥‥‥ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
まだこの状態だ。
仕方がない、少し驚くかもしれんが許せ。
「ギャスパー」
「はいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
目の前に立ち、目線を合わせただけでこの様だ。
驚いて逃げようとしているが、それはさせない。
私はギャスパーの両肩を押さえ、ジッと目を見る。
華奢な体だ。
本当に男なのか?
私はそんなことを考えている間も逃げようとしているし、神器を使っているようだ。
私には効かないので関係ない。
「メシだ。行くぞ」
「へ?メシ?」
「今からメシだ。行くぞ」
「で、でも」
「メシだ。行くぞ」
「で‥‥‥」
「メシだ。行くぞ」
「‥‥‥はい」
とりあえず腹が減っては何とやらだ。
食うもん食ってから聞いてみよう。
「よし、食うぞ。ギャスパー、嫌いなものはあるか?」
「え、え、えと、ニンニクとかダメです」
「ニンニク?」
「ゲーティア部長、ギャスパー君は吸血鬼と人間のハーフなんです。だから吸血鬼の弱点はダメなんです」
「そうか。ではこのペペロンチーノは‥‥‥一誠食うか?」
「あ、はい。いただきます」
「ではギャスパーは‥‥‥このとんかつ弁当はどうだ?」
「あ、はい。頂きます。」
すこし落ち着いてくれたな。
良い傾向だ。
「よし、皆行き渡ったな。では、いただきます。」
「「「「いただきます」」」」
「え、えーと、い、いただきます」
私の号令でみんなが手を合わせて、食べ始めた。
日本に来てから、いただきます、と言うようになった。
前世では当たり前すぎて忘れていたし、晩年は一人だったため、言うこともなかった。
もはや感謝も忘れてしまっていた。
だが大勢で一緒に食べるときに、一緒に号令するのは何かいいものだ。
少なくとも一人ではないと感じていた。
ギャスパーにも、そう思ってくれればいいと思った。
side ギャスパー・ヴラディ
僕は旧校舎の一階に封印されている。
外に出れないから、自分で食事を用意できないので、朱乃さんか小猫ちゃんが届けてくれている。
だからご飯も一人で、夜にまとめて用意されていた物を3食に分けて食べていた。
先日からリアス部長達が合宿に行っている間、裕斗さんが僕に食事を運んでくれていた。
僕は食事はいつも一人だったし、これまでもずっとそうだった。
きっとこれからもずっとそうだと、思っていた。
今日はいつもの時間に裕斗さんが来なかった。
忘れられたのかな、お腹空いたな、そう思っていると扉がノックされた。
「ギャスパー君、食事持ってきたよ。悪いんだけど扉開けてもらえないか?」
僕はその言葉で扉まで足を運んだ。
ちょっと時間がずれただけだ、そう思って扉を開けると、そこにはとんでもなく怖いものがいた。
恐怖というものを形にするとこんな形なのかな、そんなことが一瞬頭を過ったがそれよりも動物的本能が上回った。
『逃げろ!』
僕の中のなにかが、そう呼び掛け悲鳴を上げて部屋の奥に逃げ込んだ。
「イヤァァァァァァァァァ!!」
こんなに怖い思いをしたのはヴァンパイアハンターに出会った時以来だった。
その後、裕斗さんが僕を落ち着かせようとしていたけど、僕の頭には恐怖しかなかった。
「ギャスパー、というのか?」
その声を聞いたとき、僕の恐怖心は最高潮に達した。
「!!!来ないでーーー!!」
僕の神器が暴走した。
でも、この時ほど僕の忌み嫌われた力をこれほど心強く思ったことはない。
裕斗さんと他の人達を止めてしまった。
でも、止めたかった人は止まらなかった。
「ほぉー、動きを止めるのか」
平然としているその姿に、更に恐怖した。
「な、なんで!なんで動けるの!」
「なんで?単純に力が足りないからだろう」
力足りない。
初めて言われた、力が足りない、と。
力が強すぎて僕は封印しないと迷惑が掛かる。
忌み嫌われた力だから、吸血鬼達から追い出された。
あの時のヴァンパイアハンターも怖いと思ったけど、今日会ったこの人はおかしい。
あの時のヴァンパイアハンターには神器で時間を止めれた。
でも、この人にはそんなの全く意味を成さない。
だけど、周りの人達の時間を止めてしまった。
もうこんな力、使いたくなんてないのに。
時間が止まったときの顔は見たくないのに。
世界でただ一人、取り残された気持ちになる。
僕だってこんな力を欲しくなかったのに。
ごめんなさい、時間を止めてしまってごめんなさい。
ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい。
ごめんなさい、生きててごめんなさい。
僕はひたすらに謝り続けた。
でも、その懺悔を聞いたのは神ではなく、悪魔だった。
「ギャスパー」
「はいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
目の前に悪魔が降臨した。
本当に目の前に、僕の両肩を拘束して出現した。
「メシだ。行くぞ」
「へ?メシ?」
メシ?確か食事のことだよね。
僕を‥‥‥食べるんだ。
この悪魔に食べられるんだ。
逃げたい、拒否したい、命だけはお助けを。
逃げたいけど、両肩を拘束されているから逃げれない。
拒否居たいけど、鋭く有無を言わさない眼光に睨まれ拒否できない。
命だけは助けて欲しいけど、この状況ではそれも無理だ。
「‥‥‥はい」
さっき懺悔したのに、まだ未練残ってしまう。
ヴァレリー、せめて一目君にもう一度会いたかった。
僕は連行されて、椅子に座らされた。
「よし、食うぞ。ギャスパー、嫌いなものはあるか?」
え、僕を食べるんじゃないの!
思わずそう言ってしまいそうになったけど、何とか話題に乗ることが出来た。
「え、え、えと、ニンニクとかダメです」
「ニンニク?」
「ゲーティア部長、ギャスパー君は吸血鬼と人間のハーフなんです。だから吸血鬼の弱点はダメなんです」
いえ、別に吸血鬼のハーフなんで特にニンニクが弱点じゃないです。
ただ匂いがキツイ食べ物が嫌いなだけです。
僕は裕斗さんの勘違いを正すことはなく嫌いなものが目の前からどけてもらえて安堵した。
「ではギャスパーは‥‥‥このとんかつ弁当はどうだ?」
「あ、はい。頂きます。」
嫌いなものを言ったら代わりの物を出してもらえた。
今まではこんなことなかったな。
何だかこの人、怖いけど、いい人かも、そう思った。
「よし、皆行き渡ったな。では、いただきます。」
「「「「いただきます」」」」
「え、えーと、い、いただきます」
大きな人が手を合わせて合図をすると、他の人達もそれに合わせて同じ掛け声が続いた。
僕も同じことをしようとして、不格好だけど同じことが出来た。
初めてだな、こんなこと。
誰かと一緒に食べるなんていつ以来だろうな。
暖かいな、これもいつ以来なんだろうな。
そう思いながら黙々とお弁当を食べていた。
side out
よしメシも食った。
どうやらギャスパーも落ち着いたようだ。
さて、まずは自己紹介だ。
「食い終わったか、ギャスパー」
「あ、はいごちそうさまでした」
「もう少し食べた方がいいな。成長期なんだ、もっと食べて体を大きくした方がいいぞ」
「は、はい」
「さて落ち着いたところで、まずは自己紹介だ。私の名はゲーティア・バルバトス。バルバトス公爵家の現当主だ」
「ええええ、バルバトス公爵様ですか!こ、これはご無礼を、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」
「いいから、頭を上げろ。それに今の私は駒王学園3年、風紀委員長であり、剣道部部長であり、文芸部部長であり、不良更生指導教官長だ。気にするな。いいな」
「は、はい」
「では次は一誠だ」
「はい!俺の名は兵藤一誠、駒王学園2年だ。今は風紀委員とオカルト研究部を兼部している。ギャスパーと同じグレモリー眷属だ。よろしくな」
「は、はい。よろしくお願いします、兵藤先輩」
「イッセーでいいぜ」
「はい、イッセー先輩」
「うむ、では次はアーシアだ」
「はい。アーシア・アルジェントです。駒王学園の2年生です。同じくグレモリー眷属のビショップです。よろしくお願いします」
「は、はい。同じビショップなんですね。よろしくお願いします。アーシア先輩」
「はい」
「では、最後にレイヴェル」
「はい、私はレイヴェル・フェニックス。フェニックス家の長女であり、ゲーティア様の婚約者ですわ。本年入学した駒王学園の1年生ですわ。ギャスパー君とは同級生ですわね。よろしくお願いしますわ。」
「はい。よろしくお願いします」
うんうん、落ち着いていれば神器は発動しないようだな。
同じメシを食う、というのは思いの外結束が生まれるものだ。
案外一緒に食事をしていけば、落ち着くんじゃないのか。
「さて、自己紹介も終わったことだし、少し聞いてみたいがいいか、ギャスパー」
「はい。どうぞ」
「ではまず、ギャスパーは神器のコントロールが出来ない、というのは本当か?」
「‥‥‥はい」
「コントロールできるようになりたいか?」
「‥‥‥もうあきらめてます」
「そうか、ではその話は止めよう」
「え!」
ギャスパーが大きな声を上げた。
「どうした?ギャスパー」
「いえ、今までは頑張って練習しよう、とか、諦めるな、とか言われていて、無理矢理やってきてずっとダメだったんで‥‥‥」
「まあ、頑張ったって無理なものは無理だ。自然に出来るようになるかもしれんし、出来んかもしれん。私が無理矢理教えても結局は当人次第だ。神器は人の思いで変わるものだ。ならば何よりも気の持ちようが大事だと私は思う」
「気の持ちよう?」
ギャスパーはクビを傾げている。
まあ、こればっかりは自分と向き合うことだな。
神器も意志を持っている。
どうするかは自分次第だ。
「まあ、他に聞きたいこともあるし、神器の話は終わりだ。次の話をしよう」
「はい」
「ギャスパーは駒王学園の生徒なのか」
「はい、一応籍は置いています」
「そうか。ギャスパーは部活はどうしているんだ。やっぱりオカルト研究部なのか?」
「はい。でも一度も参加したことはありません。ここに封印されているんで」
「でも、ギャスパー君は悪魔の活動もこの部屋でやっているんですよ。あのパソコンを使ってやっているんです」
「ほう、パソコンで契約を取っているのか。ではパソコンの操作には自信があるのか」
「はい。大体の事ならできます」
「では、プログラミング開発なども出来るのか?」
「はい。自信があります」
どうやらかなりの熟練者のようだ。
それに今までになく自信に満ち溢れている。
だが、先程の会話で一つ引っかかることがあった。
「ん?でも確か、夜の間は旧校舎内を自由に出歩けるんだろ?なのに、一度も参加したことがないのか?」
「え、えええと‥‥‥」
ギャスパーがアタフタしている。
何かを取り繕うとしているようだ。
周りを見渡すと、裕斗だけが苦笑いをしている。
何か知っているのか?
「裕斗、何かわかるのか?」
「‥‥‥ギャスパー君はただ外に出たくないだけですよ」
「そうなのか?」
「‥‥‥はい」
私の視線に負けてギャスパーは観念したように白状した。
「そうか。まあ当人がいいならそれでいいだろう。特に困ってはいないんだろう?」
「ええ、まあ」
「ならば、それでいいだろう」
「え!」
またもギャスパーは大きな声を上げた。
どうしたんだ、一体?
「どうしたギャスパー?」
「いえ、今まで引きこもりはダメだ、外に出ろ、とか言われてきたんで‥‥‥それに、お外に出ると死んじゃったときのことを思い出してしまうんで‥‥‥」
「まあ、やりたくないならそれでもいい。困らなければそれでいいだろう」
「はい‥‥‥ゲーティア先輩は僕のやること認めてくれるんですね」
「私にギャスパーにどうしろ、こうしろと命令する権利も義務もない。ギャスパーはギャスパーだ。自分のスキにすればいい」
「‥‥‥はい」
ギャスパーは俯き、返事をした。
「では最後だ、他人は怖いか」
「!!」
やはりそうか、この部屋を訪れた当初よりは落ち着いたが、それでも手が震えている。
さっき言っていたが、外に出ると死んだときの事を思い出す、と言った。
それはそうだろうな、死んだときの事を覚えていて、もう一度生を得る。
その時どう思うか、当人次第だが、もう一度死にたいとは思わないだろう。
やはりトラウマになるだろうな。
それが外に出るという行為、ギャスパーはその行動が死に繋がった。
なら、この部屋に封印されることはギャスパーの望みであり、ギャスパーが自身を守る唯一の方法だったんではないだろうか。
そう思うとギャスパーが自身から出たいと思わない限り、神器をコントロールしようとはしないし、この部屋から出ようとは思わないだろう。
死ぬことも越えた興味が外になければ、彼はここから出ようとはしないのではないだろうか。
もしそうだとするならば、もし封印が解かれて、外に出た時、彼は生きることができるのだろうか。発狂するんではないだろうか。
もしそうなったとしても、リアスの眷属だからリアスに任せるべきだと思う。
だが、彼も駒王学園の生徒だ。
先輩として彼の指導しよう。
トラウマを消せるわけではないし、過去を変えることは出来てもしない。
そんな私にできることをしよう。
そう決めた。
「ギャスパー、もう一つ部活に入らないか?」