政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第33話 獅子との出会い

 今日は遂に義兄殿、ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの対決の日になった。

 昨日は明日以降の領地への帰還の間、私が不在でも困らないように仕事を片付けていた。これで明日から私がいなくても問題ないだろう。私は大きく伸びをして、体をほぐした。

 私と楓は明日から、人間界を一週間の程離れることになっている。理由はバルバトス領である集団の出迎えをするためだ。以前セラフォルー様にお願いした件がようやく実現する、技術者の派遣のお願いだ。

 今回の相手はセラフォルー様のご推薦で来ていただく技術者たちだ、粗相をするわけにはいかない。だから私と楓の二人は技術者受け入れのために一度戻ることにした。

 そのため、私と楓がいなくても仕事が滞らないようにしておく必要があった。なので昨日一日を使い、一週間分の巡回スケジュールや問題対処マニュアルの制定に追われていた。

 それに駒王町に危険、いや強力なはぐれ悪魔がまた来ないとも限らない。

 2日前にはぐれ悪魔『黒歌』がこの駒王町に侵入するという事件があった。

 徳川や北条の二人一組が対応して、情報の入手と時間稼ぎを行ってくれた。その結果、はぐれ悪魔『黒歌』だと判明した。やはり二人一組の体制が効率が良さそうだ。

 この体制の利点は一人が戦闘を行い、もう一人がフォローに回ることで、情報の入手と送信、死角からの防御に、単騎であれば牽制などで数的優位に立てる。

 だが私が不在の間は巡回範囲が狭くなるが四人一組にすることにした。普段は二人一組の体制で4組に分けて巡回している。だが、黒歌程のはぐれ悪魔だと、二人だけでは足止めが精いっぱいだ。四人に成れば対応できることが増えるし、危険も減るだろう。

 私は風紀委員を統率する者として、彼らを無事に帰還させる義務がある。不在のときでもそれは変わらない。私は彼らを信じ、留守を任せることにした。

 

 さて時刻は23時、真夜中に差し掛かっている。私が居るのは風紀委員室。今日から当分の間、ここを離れる。最後に一度ここに来た。

だが、そろそろ時間のようだ。

 

「ゲーティア様、そろそろ参りましょう」

「‥‥‥ああ、そうだな」

 

 楓の声に私は答え、転移陣を展開する。向かう先はグレモリー家主催の会場だ。ここで、義兄殿とリアス達が戦うことになる。私達は来賓として、その戦いを見届けることになる。私は転移陣に乗り、転移を行った。

 

 

 転移が行われ、私と楓は会場に到着した。大きな城のような建物だ。

 まだバルバトス家の財力ではこれほどの贅を凝らした建物を建てる余裕はない。

 貴族として他者に威光を知らしめる為にも必要だとは思うが、我が領地では質実剛健を旨とするかの如く、武骨で機能性を重視している。

 それにセバスに以前聞いたが、どうやら当家に貯蓄という概念はないようであればあるだけ使うし、戦費に消えていたようだ。武門の家柄であることは財力とは無縁なんだろうか?私はバルバトス家の将来のためにも財力と貯蓄という概念を残すためにこれからも奮起しなければならない、と決意を新たにした。

 この会場には事前に連絡されていた通り、義兄殿、いやフェニックス家の関係者とグレモリー家の関係者がここに集まっている。そして皆が煌びやかな貴族らしい服装をしている。私も公爵家の当主として恥ずかしくない恰好をしてここに来ている。ここにいる貴族たちにご挨拶をするべきだが、生憎名前が分かる者がいない。楓も外交は担当していなかったので、顔と名前は一致しないようだ。しまったな、惣右介を連れてくれば良かったな。

 

「失礼、そちらの御方。バルバトス公爵様とお見受け致します」

 

 私は突然声を掛けられた。そこに立っていたのは、私と変わらない体躯であり、正装をしているというのに隠しきれない程に発達した筋肉を持つ、屈強な男が立っていた。自信に満ち溢れた真っ直ぐな眼差しはこの男の誠実さと清々しさを表しているようだ。

 

「確かに、私はゲーティア・バルバトスですが、貴殿は」

「これは申し遅れました。お初にお目にかかります、私はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主の者です」

 

 サイラオーグ・バアル。この名には聞き覚えがあった。私と同い年で大王家であるバアル家の次期当主。そして落ちこぼれと呼ばれていたことを知っていた。だが、眼前に現れた男のどこが落ちこぼれだと言うのか。これほどまでに己を鍛え上げることが出来る者が何故落ちこぼれなのか、心底疑問に思った。

 だが挨拶されて名乗りを返さなくては貴族として恥である。ならば堂々と名乗るべきであろう。

 

「おお、そうでしたか。サイラオーグ殿、ご丁寧な挨拶痛み入ります。改めまして、私はゲーティア・バルバトス、バルバトス家の現当主です」

「おお、バルバトス公爵様に以前からお目にかかりたいと思っておりました。バルバトス公爵様はフェニックス家のご令嬢とご婚約されているとお聞きしておりました。ですので、今日はお会いできるのではと、思っておりました」

「こちらこそ、光栄だ。かのバアル大王家の次期当主殿とお会いできるとは‥‥‥確かサイラオーグ殿はリアスとは従兄妹ということでしたね」

「ええ、バルバトス公爵様。従兄妹のリアスがもう結婚とは、私も婚約者を早く探さなければなりませんよ」

 

 実に礼儀正しく、それでいて自信に溢れた対応だ。同い年、同姓の悪魔だ。そこまで謙られたいとは思わない。彼と私は現当主と次期当主であり、私が目上に当たる。だから彼の対応は正しいものだ。だが彼の対応は私にとっては心苦しいものだ。いずれ彼が大王位を受け継げば、私と彼の立場は逆転する。そうなったときのための先行投資を行うことを考えた。

 

「サイラオーグ殿、そのように畏まられては困ります。今は私は家督を受け継いでいるため、公爵位を賜っていますが、いずれはサイラオーグ殿が大王位を賜ります。そうなったとき今日のことを話題に出されてはたまりません。なので後々のために、我々の間でだけは畏まることを止めませんか?」

「‥‥‥公爵様にそのように言われては、私に否やはありません。ここからは同い年と言うことでご容赦頂ければ幸いです」

「元よりそのつもりです。()()()()()()

「分かりました。()()()()()

 

 ほぼ同時に手を差し出し、自然と握手していた。

 

「「・・・・・・フハハハハハハハハハハ」」

 

 どちらともなく笑いが起きた。

 この男とは何故か仲良くなれそうだ。出会ってすぐに分かった。だからこそ、我々の間に敬語など不要だと、思った。

 

side サイラオーグ・バアル

 今日は従兄妹であるリアスとライザー・フェニックス殿の戦いの日だ。

 俺は今日のリアスの戦いに興味はなかった。ライザー殿の噂は最近よく耳に入ってくる。以前までは女にだらしないなどと言われていたが、ここ一年程は全く違う噂を聞く。最近のレーティングゲームでの戦績が著しい、という噂。元竜王のタンニーン殿とトレーニングを行っている、という噂。様々な噂はライザー殿の強さを讃えたものがほとんどだ。

 この戦い、リアスに勝ち目などないと思っている。周りにいる他の貴族たちも皆同じだろう。だから初めから勝敗が見えているリアスの戦いには興味がない。

 

 俺が興味があるのはゲーティア・バルバトス公爵だ。俺と同じ歳でバルバトス公爵家の現当主である、俺の先を行く男、その男に会えるかもと思いここに来た。

 俺は彼を心底尊敬している。彼が八歳の時にご両親を亡くし、頼れる身内も彼を助けなかった。弟、マグダランのクイーン、セクトーズもその親たちも彼を助けることはなかった。彼の両親、いや母が旧魔王派に組みしたとされていたので、もし彼を助けることをすれば、自分たちも旧魔王派だと思われる。そうなることを避けるため、彼を見捨てた。そんな周り全てが敵の状況を彼は7年で立て直して見せた。そして、旧魔王派を自身の手で捕らえ、現魔王であるサーゼクス様に差し出し、ご両親の名誉を取り戻した。そして、功績として魔王様直々の縁談を受けることになった。それも彼自身が願い出たという話だ。なんという発想だと思った。その婚姻は相手側の家を味方につけるだけではなく、魔王様をも味方につけることになる。俺にはそんな発想はない、だからそれほどの手腕を見せる彼に憧れた。

 だが、本当に憧れたのはそんな政治的な手腕ではなく、力にこそ憧れた。彼が唯一出場したレーティングゲームの映像を探し、それを見た時、何とも爽快だった。彼はとても強かった。圧倒的な力で相手は押しつぶし、心をへし折った。彼が卑怯な手など使わない。戦略など力で覆す。相手は確かに強いわけではない。ランキング上位者ではない。だが、弱いかと問われればそれは違うと思う。相手は小さい大会に出場しているにしては強い方だと思う。ましてや成人悪魔が相手だ。それなのに彼は真っ向から叩き潰した。本当に私の理想を体現しているようだ。

 

 俺はバアルの滅びの魔力をいや、本来悪魔が持つ魔力さえもかけらも持っていない。だから次期当主に相応しくないとされ、廃嫡された。そして母と共にバアル領内の辺境に追いやられた。それに対抗するために、母から『魔力が足りないなら、それ以外の力を身につけて補いなさい』という言葉を信じて基礎的な体力を鍛え続けた。

 そして次期当主であるマグダランを倒し、次期当主となった。だが、俺はその姿を最も見て欲しかった人に見せることが出来ていない。我が母は眠り病のため、今だ目覚めない。だがそんなことで俺は歩みを止めない。俺の歩む先を行く男がいる。その男は親を亡くし、家族もおらず、周りも全て敵だった。そこから這い上がり、遂には魔王様からの信頼を得るところに至った。

 俺の夢は魔王になり、力と意志さえあればだれもが望む場所につける実力主義の世界を作ることだ。そんな世界、本来なら一笑に付されることだ。だが現実はそうではなかった。現実にした男がいた。その男がゲーティア・バルバトスだ。俺が目指す夢さえも先んじて成しえてしまう男だ。何処までも俺の先を行く男だ。だが、だからこそ追いかける価値がある。それを自覚したとき、俺は更なる精進を心に誓った。

 

「失礼、そちらの御方。バルバトス公爵様とお見受け致します」

 

 俺は遂に出会った。その男は他の貴族たちとは存在感が違っていた。誰も彼に声を掛けることが出来ない。当然だ、格が違う。貴族の中でも高位である公爵位を持つ序列8位の大貴族だ。ここにそれを超える貴族はいない。だが、そんな肩書が違うから声を掛けることが出来ないのではない。怖いのだ、ただの貴族として生きてきた悪魔に彼の存在感は毒なんだ。圧倒的なその存在感はただあるだけで、周囲の存在を威圧する。だが俺は思わず声を掛けずにいられなかった。

 俺はずっと会いたかった、俺の最も尊敬する男に。その男は他者を寄せ付けない、圧倒的な存在感を持っていた。

 

「確かに、私はゲーティア・バルバトスですが、貴殿は」

 

 彼を前にして少々舞い上がっていたようだ。だが、ここは俺の正念場だ。彼に俺を見てもらいたい。俺は彼を追いかける、いずれは超える男だと、彼に知ってもらうために、俺は名乗った。

 

「これは申し遅れました。お初にお目にかかります、私はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主の者です」

「おお、そうでしたか。サイラオーグ殿、ご丁寧な挨拶痛み入ります。改めまして、私はゲーティア・バルバトス、バルバトス家の現当主です」

 

 それからは威圧感が落ち着いたようだ。俺が彼に慣れたではない、彼が俺を認めてくれた、そう思ってしまった。

 彼は実に紳士的だった。やはり彼は一味も二味も違う。ついには名で呼ぶことさえ許された。俺は彼に認められた、そう思った。だがここで満足するわけにはいかない。いつか彼を、ゲーティアを超える。俺は今日の出会いに感謝をし、心に誓った。

 

side out

 


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