政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第38話 先輩の解決方法

side 木場裕斗

 ゲーティア部長と楓さん、そしてサイラオーグ・バアル様の三人が医務室に来られて、一時間くらいが経った。

 

「‥‥‥なるほど。普段はゲーティアの通う人間界の学校で鍛錬を積んできたんだな」

「ええ、僕はゲーティア部長が創設された剣道部に入部していて、毎日僕より強い、もしくは対等な相手と戦っています。先日の部内での対抗戦で漸く八人いる先輩の内、一人に勝利することが出来ました」

「なるほど、ライザー殿に言っていた、駒王学園には木場よりも強い相手は腐るほどいる、という発言はそういう意味だったんだな。うむ、是非とも俺も行ってみたい。ゲーティア、駄目だろうか?」

「私に許可を求めないでくれ。バアル家の事情にクビを突っ込むことなど出来る訳がない。君自身でどうにか出来るなら、私に否やはないが‥‥‥」

「そうか‥‥‥残念だが、今は無理か。あーーー、実に残念だ!!」

 

 色々質問されたな。初めは一誠君で、次はアーシアさん、そして最後に僕。順番に今回の戦いについて、アレは良かった。これはもう少しこうすればいいのでは?などの色々な意見とお褒めの言葉を頂いた。そして、今日に至るまでの訓練の内容にまで質問された。変わった方だな、僕はそう思って、サイラオーグ様を見ていた。

 サイラオーグ・バアル、僕はこの方の噂を聞いたことがあった。リアス部長と同世代の悪魔で、ゲーティア部長に次ぐ、世代二位の悪魔である。リアス部長の従兄妹で‥‥‥バアル家の落ちこぼれ。そう言われていることを知っていた。

 バアル家はリアス部長のお母さまのご実家で、家特有の力、滅びの魔力の源流の家だ。だが、サイラオーグ様は滅びの魔力、それどころか、通常の悪魔が持つ魔力そのものを持たない、非常に稀有な悪魔だ。だから、ご嫡男でありながら、次期当主の座を追われたそうだ。だけど、そのバアル家の次期当主の座を自身の肉体で勝ち取った、ということも聞いたことがあった。

 今日会うまではどの様な存在か、まるで知らなかった。だけど初めて会ったときから、嫌みなところなど一切なく、ひたすらに力を求め、高みを目指す、その姿勢に尊敬と共感の念を抱いてしまった。裏表がない真っ直ぐな目をしている方だった。そして、何故か憧れの存在に似ているようにも感じていた。

 

「サイラオーグ、満足したか?」

「うーむ、もう後、四、五時間程、話がしたいんだが‥‥‥」

「‥‥‥結婚披露宴まで、後30分程だ。またの機会にしてやってくれ」

「そうか‥‥‥残念だ。では結婚披露宴が終わった後にでも、ゲーティアも交えて話の続きがしたいが‥‥‥」

「残念だが、私も結婚披露宴の後には自領に戻る必要がある。だからその申し出には応えられない」

「そうか、残念だ。だが何時かは腰を落ち着かせて、話がしたいものだ!」

 

 何と言うか、とても前向きな方だ。大らかという雰囲気で、引くべきところは弁える方だ。

 

「では、俺はこの辺りで失礼するぞ。どうやら話込み過ぎて、あちらを待たせ過ぎたようだ」

 

 サイラオーグ様はそう言って、去っていった。本当に真っ直ぐな方だな。

 あれほどの力を持ちながら、偉ぶらない、驕らない、だけでなく、ひたむきで向上心の塊の様な方だった。いつか、あの方とも戦うことになるのか‥‥‥楽しみだ。

 式が終わったら、一誠君と今日の反省会と共に稽古に励まないと、もっともっと強くならないと、まだまだ先は長いな。

 

「塔城、話とはなんだ?」

 

 サイラオーグ様が来られた時、小猫ちゃんがゲーティア部長に話があると言っていた。サイラオーグ様は先を譲ってくれていたけど、小猫ちゃんが遠慮した。それに僕らにも聞いてほしい、と言っていた。

 だけど、一体なんだろうか?

 

「ゲーティア先輩、ありがとうございます。姉様の秘密を聞き出してくださって‥‥‥」

 

 姉様!確か小猫ちゃんの姉とは、SSランクはぐれ悪魔『黒歌』。確か、数日前にゲーティア部長が撃退したはず‥‥‥

 

「塔城、何か勘違いしているぞ。私は私の職務を全うしただけだ。リアスの代理で駒王町のはぐれ悪魔を撃退しただけだ。塔城からしたら、実の姉の命を狙った男だ。そんな私に礼を言う必要などない」

「ですが、姉様の秘密を聞き出してくれました」

「勝手に話し出したからだ。私は聞き出そう、などとしていない。報告書に戦闘時の情報を事細かに記載するのは当然の事だ。それくらいは私の職務の範疇だ。‥‥‥私は撃退は出来たが、捕獲も、討伐も出来ていない、事実はただそれだけだ。だから礼を言われるのは、むしろ私の無能を晒すようなものだ。取り下げてもらえると助かる」

「‥‥‥分かりました。ではお礼は言いません。‥‥‥実は、皆さんに聞いてもらいたいことがあります」

 

 小猫ちゃんが僕らを見て、そう言ってきた。真剣な表情だ。

 すると、ゲーティア部長と楓さんが席を離れようとしている。二人は聞くべきではないと、判断したようだ。

 

「あの、出来れば聞いてもらえませんか?」

「私はこれ以上、リアスの眷属の事に口出しを出来ない」

 

 先日のギャスパー君の一件があるからか、ゲーティア部長はこれ以上は関わるのは避けたいようだ。

 

「お願いします」

 

 小猫ちゃんは頭を下げて頼み込んだ。ゲーティア部長にどうしても聞いてもらいたいみたいだ。だけど‥‥‥

 

「すまないが、私はこれ以上関われない」

「そう、ですか‥‥‥いえ、ご無理を言ってすいません」

「いや、私はこれ以上、関われない。‥‥‥だから、楓。後は頼む」

「はい、お任せください。ゲーティア様」

 

 楓さんが残ってくれた。少し、変なところがあるけど、その力はゲーティア部長の眷属で最強、らしい。そして、その能力の多様性は‥‥‥どれ程のことが可能なのか、見当がつかない程だ。

 僕と一誠君がゲーティア部長に指導してもらっていた場所を創り出したのも、楓さんだ。

 何度か、黒崎先輩と手合わせしているところを見たけど、その力は‥‥‥よく分からない。消えたり、現れたり、魔法を使ったり、ハリセンで叩かれたり、色々だった。僕も手合わせしてもらったけど、ハリセンならまだましで、ひどいときはデッキブラシだった。ちゃんと未使用だったけど、その剣技?は多彩で流動的だった。一つの技から次の技に連携していき、地面に叩きつけられては拾い上げられて、また落とされる。その繰り返しが続いた。確か、『1000ヒットしたから終わり』、という感じで遊ばれた。

 ‥‥‥あまり思い出したくないことまで思い出したけど、とにかく、色々な力を持っている方だから、相談してみると、アッサリ解決するかも知れない。

 

「塔城小猫さんね。話すのは初めてね。私は秋野楓。ゲーティア・バルバトス様のクイーンをしているの。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 楓さんは普段は面倒見のいい先輩という感じなので、小猫ちゃんも特に警戒していなかった。

 でも僕は知っている。この人のこの顔は三つの内の一つでしかないことに。後の二つは‥‥‥口に出すのも憚られる。知らない方が身のためだ。

 

「私が皆さんに聞いてほしいのは‥‥‥私の姉と私の正体についてです。‥‥‥私の姉はSS級はぐれ悪魔『黒歌』です。私と姉は親も亡くし、途方にくれていた時、姉はとある上級悪魔の眷属に誘いを受けました。姉はビショップの駒二つを消費して転生しました。姉は多彩な術を扱うことが出来ました。しかしある日、ある術を使用しすぎて、暴走して‥‥‥主を殺しました。姉様は主を殺した罪でSSランクの「はぐれ悪魔」となりました。私はその姉のせいで処分されそうになりました」

「処分?」

「‥‥‥殺されるところでした」

「!!」

 

 アーシアさんが驚きのあまり、口を覆った。‥‥‥僕も初めて聞いた。

 

「私は、リアス部長の兄、サーゼクス・ルシファー様に保護され、処分を免れました。それから、リアス部長に預けられて‥‥‥『小猫』という名を貰いました。元の名は‥‥‥捨てることになりました」

「‥‥‥」

 

 何も言えなかった。僕もかつては処分されることになって、逃げだして、今に至った。小猫ちゃんまで、そうだったなんて‥‥‥

 

「私はつい最近まで、姉様を恨んでいました。私が処分されそうになったのは姉様が主を殺したからです。姉様が殺さなければ、そう思っていました。‥‥‥昨日までは」

「昨日?」

「はい、ソーナ会長に風紀委員の報告書を見せてもらいました。‥‥‥昨日、ゲーティア先輩がオカルト研究部にやって来た時、主を殺したはぐれ悪魔の話をされていました。覚えていますか?」

「ああ、覚えているよ」

「ゲーティア先輩が話していた内容が、姉様の事だと、何故だかそう思いました。だから追いかけて、聞こうとしましたが、ゲーティア先輩からは聞く勇気がありませんでした。‥‥‥ソーナ会長が助け船を出してくれて、それで、はぐれ悪魔の事を知りました。結果は‥‥‥やっぱり姉様でした。知りたかったのは、生死、だけ、だったと思います。生きているのか、死んだのか、知りたかったんだと思います。私にもあの時、何を知りたかったのか、分かりません。でも‥‥‥生きていて、良かったと思いました。それに、私が知らないことも知ることが出来ました」

「知らないこと、ですか?」

「はい。姉様がどうして、主を殺したのか、私の中の疑問が解けたんです。原因は‥‥‥私だったんです。姉様が使っていた術を、私にも使わせようとして、それを使わせないようにするために、姉様は主を殺したんだと思います。確信があるわけではありません。ただ、優しかった姉様が、力に呑まれて、殺しただなんて、私には‥‥‥信じたくないだけですが。」

「‥‥‥小猫ちゃんに使わせようとした術というのは?」

「『仙術』という術です。私と姉様は猫魈という、猫の妖怪の一種、その生き残りです」

 

 そう答えた小猫ちゃんの頭に猫の耳、そして尻尾が生えていた。

 

「これが、私が聞いてほしかった話です」

 

 僕らは小猫ちゃんの話を聞いて、何も言えなかった。あまり話をしたがる子じゃない。だけど、悪い子ではないのは、付き合いが長い僕にはよくわかる。だけど、気になることが一つある。

 

「小猫ちゃん。どうして今、そんな話をしたんだい?」

「‥‥‥今日の戦い、私には何もできませんでした。昨日、ゲーティア先輩がオカルト研究部に来た時、猫妖怪が気配に愚鈍でどうする、そう言われてから、気配を注意深く探るようにしました。すると、世界が違う、とそう思いました。一誠先輩が私よりもずっと強いと、漸く分かりました。一誠先輩は悪魔になってから日が浅く、廃教会にアーシア先輩を助けに行ったときも、弱かったんで、ずっと弱いと思ってました。それに駒王学園には私よりも強い人が大勢いました。ゲーティア先輩の眷属は言うに及ばず、剣道部もまた、私より圧倒的に強い人が大勢いました。そして今日、ライザー・フェニックス様に相対して、思いました。勝てないな、と。‥‥‥なのに、裕斗さんも、一誠先輩も、アーシア先輩も、戦っていました。私にはできないことを、やっていました。私がリタイアした後、一誠先輩がライザー様をあと一歩まで追い詰めました。先程、サイラオーグ様がお見えになって、三人の名を呼ばれていました。三人は前に進んでいるんだ、と思うと、私も前に進みたい、と思いました。だから、これは決意表明みたいなものです」

 

 そうか‥‥‥小猫ちゃんは過去に向き合い、未来を目指すことを選んだのか。

 僕は‥‥‥どうだろうな。たぶん聖剣を見ると、自分を抑えられないだろうな。僕の仲間を殺した、教会を許すことなんかできない。僕には、恨む理由がある。この復讐は正当な報復だ。でも、ゲーティア部長が知れば‥‥‥僕を止めるのかな。そうなったら僕はこの復讐を止めるのかな。

 僕は揺らいでいる。そんな僕に小猫ちゃんは前に進んでいる、と言った。進んでいる?とんでもない、むしろ今も止まっている。いつか、僕も胸を張って進んだと言えるんだろうか。僕は自問自答していた。

 

「私も聞いてもいいですか?」

「秋野先輩、なんですか?」

「楓でいいですよ。私が聞きたいのは、どうしてゲーティア様に事情を聞いて欲しかったのか、ということです」

「私も強くなりたいんです。だから、ゲーティア先輩の指導を受けたいと思いまして、お願いするために、引き止めました」

「なるほど、強くなりたい、ですか。‥‥‥何故ですか?」

「何故?」

「何故強くなりたいのですか。その理由は何ですか?」

「‥‥‥姉様の口から、真実を聞きたいんです。今の私では姉様から真実を聞くことが出来ません。私が強くなって姉様に対等に向き合わないと、真実を聞けないと思います」

 

 小猫ちゃんは真っ直ぐに楓さんの目を見て答えた。

 

「そうですか。姉の口から聞きたい、それだけが目的ですか?」

「はい」

「答えを知りたい、ではないのですね」

「‥‥‥私には事実なんてどうでもいいんです。私は事実より、姉様の語る真実を知りたいんです」

「‥‥‥私なら、過去に何があったか、知ることが出来ます。ゲーティア様の眷属なら、貴方の姉から、無理矢理真実を吐かせることが出来ます。それでも、自分の力で成し遂げたいですか?」

「はい!」

「‥‥‥そうですか」

 

 楓さんは目をつぶり、何か考えている。そして、考えがまとまったのか、目をゆっくり開いた。

 

「塔城さん。残念ながら、貴方の希望は通りません。貴方はリアスさんの眷属です。これまで、ゲーティア様が裕斗君と一誠君、アーシアさんを鍛えることが出来たのは、裕斗君は剣道部、一誠君は風紀委員、アーシアさんは‥‥‥まあ、旅行の留守番中だったので、その間にちょっと魔力の使い方を教えた程度です。ああ、あとギャスパー君、という子がいましたね。彼は夕飯を一緒に食べる程度でした。

 ただ、アーシアさんとギャスパー君に関しては、これ以上はゲーティア様も手を出すつもりはないでしょう。あくまで主不在の時だったので、教えたり、構ったりしたので、これ以上手を出せば、要らぬ軋轢を生みます。ゲーティア様はリアスさんには、どう思われても構いませんが、グレモリー公爵様、そして魔王サーゼクス様には気を遣われます。ですので、アーシアさんとギャスパー君への接触はこれ以降は控えることになります」

「そ、そんな~~~~」

 

 アーシアさんが酷く落ち込んでいる。確かに、ゲーティア部長の立場を考えると、アーシアさんとギャスパー君にこれ以後に接触するのは、引き抜きだと思われかねない。僕と一誠君は正式に複数の部活、委員会に所属しているから、所属の長であるゲーティア部長に指導を請うのは間違っていない。だけど、それなら風紀委員に所属させてしまえばいいんじゃないだろうか?

 

「あの、楓さん。風紀委員にアーシアさんとギャスパー君を所属させればいいじゃないんですか」

 

 一誠君が楓さんに提案している。だけど、

 

「それも考えました。ただ今回の戦いで名が売れたアーシアさん、強力な神器故に上層部から封印されているギャスパー君、この両名を風紀委員、いえ、ゲーティア様傘下にこのタイミングで置くとなると、他の貴族に知られた場合、もっと厄介なことになります。なので、バルバトス眷属としてはその方法を取っては欲しくないんです」

「いえ、ですが、人間界の駒王学園に探りを入れるでしょうか?」

「はぁ~、貴方が言いますか。裕斗!」

「え?僕ですか?」

 

 楓さんが僕を冷たい目で見ている。まずい、あの目は戦闘モードの目だ。僕は背筋がゾッとした。

 だけど、どうして僕が探りを入れる原因になるんだ?

 

「今回の戦いで、裕斗が駒王学園には強い相手が腐る程いる、なんて宣伝してくれたおかげですよ」

「あ」

「だから、眷属を探しに来るかもしれないんですよ。ただでさえ、明日、いえ、今日から私とゲーティア様が冥界に帰り、不在になります。その間に手を出さないとも限りません。一護、幽助、戸愚呂の三人は残しますが、力ずくではなく、政治的な圧力を掛けて来られたら、三人ではどうしようもありません。

 ゲーティア様自身は剣道部の部員には卒業するまでは人間として過ごしてもらいたいと思っているんです。だと言うのに、ゲーティア様が不在の折に上級悪魔が手を出すかもしれないんです。彼らがそう簡単に膝を屈するとは思いませんが、万一があります。そうなったとき、転生した彼らはまず間違いなく、自分を転生させた主を確実に殺すでしょう。彼らの忠誠はゲーティア様にこそ、捧げられています。違う誰かに従うとは思えません。

 ですが、そうなったら彼らは『はぐれ』認定されます。そうなれば彼らをゲーティア様が討たなければなりません。今の悪魔界のルールではそうなっていますから、それを覆さないといけません。

 確かにゲーティア様は強いです。私達眷属も強いです。ですが、悪魔という種族全てを敵に回しては、勝ちきれません。

 バルバトス家は武門の家柄であり、公爵位を持つ、由緒正しい名門貴族です。ですが、取り潰し間際から漸く上向きに転じたところなんです。貴族というのは、色々なところとつながりを持っています。しかし、今のバルバトス家はフェニックス家としか、つながりがありません。現政権の覚えめでたいとは自負していますが、味方が少ないのが現状です。

 ‥‥‥こういう言い方は、厳しいとわかっています。ですが、あえて言います。ゲーティア様を慕う者に優先順位を付けるべきではありません。ですが、貴方たちはリアスさんの眷属であり、ゲーティア様の眷属ではありません。だから私は、剣道部や風紀委員、文芸部、コンピュータ研究部の部員たちを優先します。ゲーティア様が築いてきた、大切な仲間たちです。そちらを優先します。なので裕斗と一誠君もゲーティア様の御立場が悪くなりそうであれば、最悪自ら退く覚悟もしてください」

 

 楓さんが状況を説明しつつ、アーシアさんとギャスパー君を風紀委員に所属させることを拒否した。そして、僕の不用意な発言が、ゲーティア部長の立場を、そして、剣道部のみんなを危険な目に合わせる、ということを理解させられた。

 

「ですが‥‥‥」

「え?」

「それは先程の戦いの決着がつく前の話です。今はまた状況が変わっています」

「‥‥‥どういう状況なんですか?」

「先程の戦いでグレモリー眷属が負けたため、リアスさんがライザー様と後20分くらいで結婚することになりました。そうすれば、グレモリー家も味方になります。そして、グレモリー家が味方に付けば、魔王サーゼクス様に後ろ盾になって頂くようなものです。そうなれば、魔王様の威光に逆らえるような悪魔はそう多くはありません。よって、ちょっかいを掛けてきた上級悪魔でも、当主以外なら、力尽くで叩きのめせます♪」

 

 楓さんは喜んでいる。僕らからすれば、ちょっと悔しいけど、貴族としては正しい結果、なんだろうな。

 

「いやあ、グレモリー眷属が負けてよかったです、安心しました。実は少し不安だったんですよ。ライザー様が途中で、無意味な全体攻撃をしたので、勝つ気がないんじゃないかと思ったくらいでした。最後に兵藤君が残ったときは焦りましたけど、結果的には問題なしでした。当初の見込み通り、でした」

「‥‥‥楓さんは僕らが勝つとは思っていなかったんですか?」

「はい。全く」

「‥‥‥そ、そうですか」

「「「‥‥‥」」」

 

 全く、期待はされていなかった、か。

 

「実は、貴方たちが勝っていた場合、もっと大変なことになっていたんです。だからこれでいいんです」

「もっと大変な事?」

「私も今日、知ったんですが‥‥‥リアスさんが結婚を拒否した場合、廃嫡、ということになっていたそうです。これはグレモリー眷属が勝利していた場合でも、廃嫡、だったんです」

「!!そんな、じゃあ、最初から勝ってはいけなかった、ということですか」

「そうです。これはグレモリー公爵がお決めになったこと、グレモリー家のお家の都合、ということです。‥‥‥面倒ですよね、悪魔、というより貴族って。もう少し、簡単だったらいいんですが‥‥‥」

「楓先輩、お聞きしたいことがあります」

「なんですか、塔城さん」

「私の指導が出来ないことは分かりました。ですが、私も強くなりたいんです。今回の件で良く分かりました、独力では無理だと。強くなるには、優秀な指導者に学ぶべきだと理解しました。だからこそ、実績のある指導者にご指導を仰ぎたいんです。何卒、お願いします」

 

 小猫ちゃんは楓さんに頭を下げて頼み込んだ。

 僕や一誠君もゲーティア部長に指導されずにこれほどの強さを得られたとは思えない。剣道部も同じだ。

 僕も小猫ちゃんと逆の立場なら、一誠君と小猫ちゃんがゲーティア部長の指導を受けていて、強くなったのに、僕だけ受けれないと言われたら、納得は出来ないだろう。

 

「先程も言いましたが、塔城さんはグレモリー眷属です。そして、ゲーティア様の傘下に入れていませんので指導は出来ません」

「でしたら‥‥‥グレモリー眷属を抜けます」

「そうすれば『はぐれ』ですね。消されて終わりです」

「だったら‥‥‥ゲーティア先輩の眷属にしてください」

「うちはルーク全部埋まってます。それにルークは今の塔城さんより圧倒的に強いです。なので無理です」

「‥‥‥だったら‥‥‥どうすればいいんですか‥‥‥今の私ではこれ以上強くなれないなんて、わかっています。‥‥‥お願いします」

「‥‥‥手がないわけではありません。ですが、それにはここにいる全員の協力が必要ですよ。それでも出来ますか?」

 

 楓さんの言葉に全員が顔を合わせて、頷いた。それを見て小猫ちゃんは楓さんに返事をした。

 

「はい」

「分かりました。では、今の状況を説明しましたが、ゲーティア様の指導を受けるには、バルバトス家とグレモリー家の関係が良好になる必要があります。それは分かりますね」

「はい、分かります」

「では、この両家の関係を良くするにはどうすればいいでしょうか?一誠君、どうすればいいでしょうか?」

「うーん、ゲーティア風紀委員長とリアス部長が仲良くなればいいんですか?」

「いいえ、必要なのは家と家です。ゲーティア様のバルバトス家とグレモリー家が仲良くなればいい、が正しい表現です」

「だとすると、ゲーティア風紀委員長とグレモリー家の誰かが仲良くなればいいですか?」

「‥‥‥実を言うとゲーティア様と仲が悪いグレモリー家の方、というのはリアスさんだけです。他は全員がゲーティア様と関係は良好です。とりわけ、現当主様とグレイフィア様は非常に良好な関係です。そして、今回新しくグレモリー家に加わられるライザー様も同じく良好な関係です。ですので、私としてはリアスさんからゲーティア様と良好な関係の方に窓口が変われば、ゲーティア様が指導しても問題ないと思います」

「なるほど。つまり、リアス部長とライザー様が結婚して、次期当主をリアス部長からライザー様に代わって頂き、更に駒王の管理もライザー様にやってもらう。そうすれば、駒王の管理者であるライザー様からゲーティア部長にグレモリー眷属の指導を斡旋する、ということになるんですね。そうなれば、上同士で話がついているので、問題なし、となるわけですか」

「そうです。リアスさんが裕斗を剣道部に入れた時もそうですが、上同士で話がついていたので、剣道部に入部できたんです。覚えていますね?」

「はい、よく覚えています」

「これが私が考える、塔城さんがゲーティア様から指導を受けても問題ない方法です。如何ですか、皆さん?」

 

 僕は今の関係性が続くのであれば問題ない。一誠君も今まで通りだ。アーシアさんもこれなら今まで通りに色々教えてもらえるだろうし、小猫ちゃんも指導を受けられる。

 

「あの、お聞きしたいことがあるんですけど‥‥‥」

「何ですか、アーシアさん?」

「先程言ってた、協力、というのは、何をすればいいんですか?」

「はい、皆さんの協力というのは‥‥‥祝福をしてください。リアスさんとライザー様の結婚を眷属全員で祝福してあげてください」

「それは祝福しますけど、それだけですか?」

「はい、それだけです。簡単ですよね。一応説明しておくと、グレモリー家に連なる者が今回の結婚に不満を抱いていない、ということを示す必要があります。なぜなら、これはグレモリー家とフェニックス家のつながりとなり、そのつながりはフェニックス家のレイヴェル様と婚約している、ゲーティア様、バルバトス家のつながりになります。そして、グレモリー家は大王家のバアル家とつながりがあります。ゲーティア様が欲していた、家同士のつながりを増やすことになるのです。であれば、ここにいるみんなの協力はゲーティア様の御役に立ちます。そうなれば、見返りがあっても当然ですね」

 

 僕たちグレモリー眷属は顔を見合わせて、頷いた。

 

「分かりました。リアス部長の結婚を心から祝福します」

「俺もです」

「はい、私もです」

「はい」

 

 全員の返事を聞いて、楓さんが頷き、

 

「分かりました。では後は私に任せてください。塔城さんの事も、アーシアさんの事も私がゲーティア様にお願いしておきます。ただ、今日からゲーティア様は領地に戻られますので、一、二週間は人間界に来られません。ですので、それまではお待ちください」

「はい、よろしくお願いします」

「さ、では行きましょう。もう時間が差し迫っています。式の前には眷属全員で『おめでとう』を言いましょう。バルバトス眷属も主の婚約を大変喜びました。グレモリー眷属は婚約ではなく、結婚なんです。だからこそ、大いに祝福しましょう」

「「「「はい」」」」

 

side out

 

 

side 秋野楓

 私はグレモリー眷属を率いて、医務室を出て、リアスさんがいるであろう、控室に向かっている。

 歩きながら私はあることを思い出していた。グレイフィア様から依頼をされていました。依頼内容は『グレモリー眷属をリアスさんの結婚に賛成させること』でした。

 グレイフィア様、いえ、グレモリー家の総意として、この結婚に賛成している、ライザー様を迎え入れることに不満はない、ただ一人を除いては。

 グレモリー家は不安に思っている、万一この場でまた騒ぎを起こそうものなら、例えリアスさんをこの場で廃嫡したとしても、家の信用はガタ落ちだ。折角の決着すら白紙にされては、悪魔でありながら約束を守らない、と言われかねない。

 それを心配して、眷属もこの結婚を望んでいる、という風に説得しておくことにしたようだ。本来であれば、グレイフィア様が説得に動くべき話で、私にその話が来ることはない。

 だけど私がその役を買って出た。元々グレイフィア様とはクイーンの先達として指導を受けていた。謂わば師弟のような関係です。現在の準備に追われた状況では、説得に動けないので、代わりに私が動くことにした。

 ただし、代わりに一つお願いをしておいた。そのお願いが、『駒王学園へグレモリー家、シトリー家、バルバトス家の3家の許可なしに悪魔が来ないようにしてほしい』というお願いだ。魔王様の権力ならそれくらいは問題ないようで、快諾された。ゲーティア様がセラフォルー様からの恩賞を使うことも考えていたけど、折角なので取っておくことにした。

 なので、さっき裕斗に説明したことは当初から懸念されていたことだったから、対応は随分前から考えていた。裕斗を威嚇したのは演技だった。そしてその流れから、全員を説得することを考えていた。その上、塔城さんの話は渡りに船だった。なので、塔城さんの希望を叶えつつ、アーシアさんの希望にも応え、一誠君と裕斗は現状を維持する唯一の方法であるように、仰々しく説明した。

 その結果、全員を上手く説得することが出来た。元々からライザー様を嫌悪しているのはリアスさんだけで、眷属達からすると接点が少なく、判断材料はなかった。なので、利点があることを理解すると、全員がすんなりと頷いた。

 これで、依頼は達成できました。グレイフィア様にもいい報告が出来ます。そして、予てからの懸念事項も解決できますし、いいこと尽くめです。

 

side out

 

 


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