政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第5話 お上の印象を良くしましょう

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

現在我が領内の掃除を行っている。

いやあ、出るわ出るわ、大量に真っ黒な汚れが出てくる。

ここまで、よくも掃除しなかったものだ。

・・・私がしなかったのだがな。

まあいい、約7年に及ぶ頑固な汚れも優秀な眷属のおかげでみるみる綺麗になっていく。

 

「清麿、こっちから先は任せる。デュフォーはあっちだ。黒い奴から徹底的に探し出せ。」

「分かりました。ゲーティア様」

「了解です。」

 

清麿とデュフォーの二人が的確に見つけ、

 

「経絡秘孔【新一】」

「経絡秘孔【新一】」

 

ケンシロウとラオウの二人が自白させていく。

 

「こいつは黒だ。連れて行け。」

「い、いやだ!」

 

逃げようとする奴も当然いる。だけど、

 

「経絡秘孔【大胸筋】を突いた。筋肉をブヨブヨの脂肪に変え、しばらくすると逆に体は硬直し始め後に動かなくなる秘孔だ。これで動けない。」

 

ケンシロウとラオウなら、秘孔を突くことで逃走さえさせない。

 

side ラオウ

 

かつて俺は、ケンシロウに敗れた。

「見事だ、我が弟よ。」

「兄さん。」

 

あの時ケンシロウとユリアの幸せを願い、この命を天に帰した。

 

「わが生涯に一片の悔いなし」

 

だが、主にその直後、命を貰った。

 

「目覚めよ。強きものよ。」

「俺は天に帰ったはず。」

「私が貴様に命を与えた。強きものよ。」

「なに!」

 

それが主ゲーティアとの出会いだった。

主は俺に語った。

 

「貴様の生は終わった。もはや拳王の支配は終わった。だが、貴様も武人、これからは貴様の拳を更なる高みに至りたくはないか。」

「ーー!」

 

自分のために拳を極める。

ケンシロウに敗れたことに納得はしている。

だが武人としての悔しさはある。

 

「確かに、俺も再びケンシロウと拳を交えたい。」

「ならば・・・」

「だが、このラオウ、己より弱きものの下に付く気はない。」

「それでいい。戦わずに頭を垂れるような弱者であれば、こちらから願い下げだ。」

 

互いに構え、闘気をぶつけあった。

そして拳をぶつけあった。

 

「ハハハハハ・・・実にいい。心地良い殺気だ。闘気だ。貴様の力、実にいい、ラオウ。」

「今や天をめざすおれの拳! とくとみせてやるわ!!」

 

戦い続け、決着がついた。

 

「実にいい闘争だったぞ、ラオウ。」

 

この俺が地に伏し、天を仰ぎ見ることになろうとは、まだ己が見据えし天に届かず。

 

「よかろう、このラオウ、貴様の下に付こう。だが、このラオウの拳はおのれのために使う。」

「いいぞ、それで。貴様は我が眷属となった。其方が強くなることを楽しみにしておこう。」

 

それ以来、主と戦い、決して勝てぬが以前よりも強くなっている実感がある。

ならばこのラオウ、誰よりも高みに至る。主を越えて。

悪魔には万の時がある。

主よ、気を抜けばその首もらい受けるまで。

 

side out

 

「ゲーティア様、これで全員でございます。」

「ご苦労、セバス。」

 

現在、真っ黒なゴミを一か所に集め、引き渡す用意をしている。

これで父上と母上の名誉を回復できるだろう。

そうなれば、我がバルバトス家もようやく許されるだろう。

だが、クルゼレイ・アスモデウスは私の手で決着をつけたい。

引き渡すときにそれだけでも言ってみようかな。

 

「セバス、これから政府に引き渡しに行くぞ。共をせい。」

「は!どこまでついてまいります。」

 

 

side サーゼクス・ルシファー

「申し上げます。バルバトス公爵が旧魔王派の構成員を捕縛したので引き渡したいと申しております。」

「分かった。今向かう。」

 

旧魔王派の構成員の引き渡し、本来なら魔王がする仕事ではない。

だが、私はバルバトス公爵に会ってみたかった。

先日父上と母上から連絡があり、興味を持っていた。

政略結婚の是非に関して、リアスに説教をした、という内容だった。

うちのかわいいリーアたんに説教だと聞いたとき、全力で消してやろうと思ったほどだった。

だが、グレイフィアと母上に説教された。

そして父上ですら、敵に回った。

だが、聞けば確かにその通りだと思った。

彼の言葉には重みがあった。

父と母を亡くし、7年もの間、公爵家の当主を務めた重みがあった。

 

昔、父上に頼まれてバルバトス公爵家の取り潰しを回避した。

72柱の家系を断絶させることは容易ではない。

だがあの状況であれば、取り潰しても誰も文句を言わなかった。

私個人としても、取り潰すか悩んでいた。

最後の決め手が父上からの頼みだったことは否定できない事実だ。

だが、それからも父上は再三バルバトス家を支援したがっていたが、していないことを私は知っている。

バルバトス家は現体制に弓を引いた家と判断されたからだ。

そんな家を支援すれば、グレモリー家も同じ目で見られることは明白だった。

そして、私の立場も悪くすることも。

 

誰の助けもなく7年の時を経て、最悪の状況から立て直し、今日旧魔王派を捕らえて引き渡しに来た。

もし私が彼と同じ立場だったとき、同じことが出来ただろうか。

いや、出来なかっただろう。

私に彼と同じことが出来たなら、今これほど苦労していない。

私は戦う才能があったから魔王になった。

彼も武門のバルバトスの生まれであり、戦いの才能に恵まれたようだ。

以前彼が一度だけ参加したレーティングゲームの映像を見た時、恐怖と歓喜を感じた。

彼の戦いは相手に、見る者に恐怖を与える。

仲間にはこれほどの強者が共に戦う歓喜を与えた。

 

だが、時代がそれを許さなかった。

彼がもしリアスと同い年でなく、私と同い年であれば、きっと友に成れただろう。

本能的に分かった。彼も超越者だ。

私とアジュカと・・・あの男と同じ。

生まれてくるのが遅かった。

もし彼が先の大戦の時代に生まれていれば、魔王となっていただろう。

 

それほどの逸材に会える理由が出来た。

ならば是非ともあってみたい。楽しみだ。

 

「ゲーティア・バルバトスでございます。魔王様。」

「よく来てくれた、バルバトス公爵。」

 

リアスと同い年とは思えない程の迫力だ。

公爵としての日々は彼から子供らしさを奪い、急速に成長させたようだ。

大きな体躯と鍛えられた筋肉、サイラオーグを思い出す。

二人を合わせてみるのもいいかもしれない。

互いに親に恵まれなかった、いや、この言い方は二人に失礼だ。

ミスラ殿はサイラオーグを愛していたし、ゲーティア君のご両親だって彼を愛していたと父上は言っていた。

若くして苦労してきた者同士というのが適切か、そんな二人なら実にいい関係が築けると思う。

 

「この度、引き渡します旧魔王派の構成員が先のバルバトス領内の騒動について知っておりました。」

 

いかんな、少し思考が飛んでいた。

彼の話をしっかり聞かないとな。

 

「先の騒動とは、7年前の・・・」

「はい、7年前、当バルバトス領内で起こりました、旧魔王派の騒動のことです。」

「なにを知っていた。」

「こちらの報告書をご覧ください。」

 

私は彼から渡された報告書を読み、絶句した。

そこに記載されている内容は想像を絶していた。

この報告書が真実なら彼はどうして平然としているのか。

父と母の仇がいた。なのに仇を殺さず引き渡した。

私は思わず彼の顔を見た。

 

「なにか不備がございますか?」

「い、いや・・・この内容は本当かい?」

「構成員が全て吐きました。なんでしたら、直接聞いてみますか?」

「いや、それには及ばない。この内容は信じるに値する。だが・・・」

「何か問題が?」

「バルバトス公爵領の七割の産業に関わる大商会に強制査察からの捕縛というのは・・・」

「大変お恥ずかしい話です。バルバトス領の経済がここまで旧魔王派に関わっていた、ということをご報告しなければならないとは。」

「た、確かに悪い報告だ。だがそれ以上にこれではバルバトス領の経済は成り立たなくなるではないか!」

「ですがこれで魔王様方に二心のない、というまたとない証になります。」

「ーー!君は一体何を望むというのだ!」

「バルバトス家が二心がないことを知っていただくことです。」

 

私は彼の覚悟を計り間違っていた。

彼は両親のことを知り、何故誰も彼を助けないのか理解してしまった。

そのため、彼は我々に二心がないこと示すためここまでやったんだ。

仇を我々に引き渡し、自領の経済を破壊した。

いや、我々がさせた。そこまで追い詰めた。

8歳で公爵となり、バルバトス家を一人で守り続けた、リアスと同い年の子供にそこまで強いた。

 

今回の一件、息子のミリキャスにも同じことになったかもしれない。

妻のグレイフィアはルキフグス家、先代ルシファーに仕えることを第一にする一族の出身だった。

本人も旧魔王派として戦っていた。

だが私の妻となり、ミリキャスが生まれた。

ゲーティア君と同じだ。母親が旧魔王派。

いや、彼の母は旧魔王派の家に生まれただけで、実際に内戦には参加しなかったそうだ。

グレイフィアに聞いたところ、彼女は心優しく争いを好まない性格だったそうだ。

先代アスモデウスに仕えた一族だったから、多少の交流はあったようだ。

グレイフィアは彼女のことを知っていた、だから余計に彼とミリキャスの境遇を思った。

片や両親を失い、周りが全て敵の中、7年耐えてきたゲーティア君。

片や両親が健在で一族に温かく育てられたミリキャス。

何故こうも違う。

一歩間違えば逆になっていたかもしれない。

そう思い至ったとき、寒気がした。

もしミリキャスがそうなったとき、誰も助けてくれなかったら、そして私が死んでいて何もできなかったら、ミリキャスはどうなる。

ミリキャスに乗り越えられるか、いや無理だ。

親の立場から甘い判断を下しても、ミリキャスが乗り越えられると思えない。

例え、私がその立場になったとき、打開できるか。いや無理だ。

何も打開する方法がない状態で、旧魔王派を捕らえ、証拠を集め、7年かけて築き上げていた産業を壊す覚悟が、それだけの力があるか。

そんなことが出来るのはアジュカくらいだ。

私にはできない。

 

ゲーティア・バルバトスは紛れもなく超越者だ。

私とは違う、アジュカと似たタイプの超越者だ。

精神と知性と力の超越者だ。

 

side out

 

「ゲーティア・バルバトス公爵、貴公の忠節、確かに受け取った。」

「ありがたき幸せ」

「バルバトス家から旧魔王派の影響は完全に取り払われた。これを魔王サーゼクス・ルシファーの名の下に宣言する。」

「は」

「7年前の事件の主犯とされた、先代バルバトス公爵並びに先代公爵夫人の名誉を回復することを約束する。」

「ありがとうございます。」

「貴公の忠節に報いるには今だ足りないと思っている。何か希望はないか。」

「勿体無いお言葉です。差し出がましいことですが一つ宜しいでしょうか。」

「ああ、言ってくれ。」

「先程の報告書に記載いたしましたが、現在旧魔王派の拠点が判明しております。討伐に参加する許可を頂戴したく、伏してお願いいたします。」

 

バルバトス公爵領の経済を一度破壊して、膿を出し切った。

その上で、お上にいい顔が出来る一石二鳥の作戦が見事に成功した。

さすがデュフォーだ。

その上、父上と母上の名誉の回復、これで我がバルバトス家は安全だと証明できる。

いいこと尽くめだ。

おまけにこれでも足りないと、思ってくれた。

どうせならもっと、忠実であることをアピールすると共に武門のバルバトスは健在であると証明しよう。

 

「それには及ばない。バルバトス公爵、貴公がご両親の仇を討たず、ここまで引き渡してくれたことは心から感謝する。旧魔王派の掃討も貴公あってのものだ。だが、それは我々の仕事だ。ここは耐えてほしい。」

「いえ、差し出がましいことを申し、大変申し訳ございません。」

「謝ることは何もない。むしろ貴公の折角の申し出を断り、すまないと思っている。」

「そう思っていただけるだけで幸福でございます。」

 

残念ながらこの辺りが潮時だな。

あまりしつこくすると、悪感情を与えかねない。

押すときは押す、引くときは引く。

こういうのはメリハリが大切だ。

今なら本命のお願いが通るかも。

 

「大変申し上げにくいことですが、お願いがあります。」

「ああ、先程の件は希望を聞けなかったので、可能な限り叶えよう。」

「私に他家との縁を頂戴することは出来ませんでしょうか。」

「縁・・・結婚ということかね?」

「はい、お恥ずかしい話ですが今だ婚約者もいない、未熟者です。ですが、バルバトス公爵家を次代に繋ぐため、ご縁を探しております。このようなこと魔王様にお願いするなど不敬の限りですが、伏してお願い致します。」

「そうか・・・すまない。少し時間を貰えるかな。何分その手の話は初めてだったのでね。」

「とんでもございません、このような突拍子もないことを言う未熟者が魔王様に拝謁するなど想定されておりませんので。」

「いや、悪魔界のことを考えても貴公の申し出は有難い。断絶してしまう家が多い中、貴公のように家を存続させようとしてくれる者が当主で非常に嬉しく思う。その願い聞き届けよう。私、サーゼクス・ルシファーの名の下の貴公に良縁を見つけることを約束するよ。」

「よろしくお願いいたします。」

 

よし、通った。

魔王直々の縁談だ。まず間違いなくいい話だ。

これでようやく政略結婚を遂げられる。

後はお願いします、魔王様。

 


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