政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔   作:あさまえいじ

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第6話 人妻に抱きしめられました

どうもゲーティア・バルバトスです。

 

魔王様に報告が終わり、今は用意された部屋で休んでいる。

疲れた。緊張したな。

でも、目的のバルバトス公爵領の問題解決、両親の名誉回復、この二つが解決した。

その上、魔王様に縁談の斡旋までお願いできた。

完璧だった。さすがデュフォーの作戦だ。

まあ、うちの眷属の清磨との頭脳2トップだ。今後も頼もう。

だが、この展開はデュフォーの読みになかったな。

 

「バルバトス公爵、いやゲーティア君と呼ばせてもらって構わないかな。」

「はい、魔王様。」

 

まさか、魔王と歓談するなんて。

 

 

side グレイフィア

「グレイフィア、ゲーティア君と話をしてみるんだが、君もどうかな。」

 

さっき、サーゼクスが突然言い出したことに私は驚きよりも先に

 

「参加します。」

 

返答していた。

 

彼には、申し訳なさがあった。

私も彼の母も旧魔王派に所属していた。

なのに私は幸せを、彼女は不幸を享受した。

私の息子ミリキャス・グレモリーと彼女の息子ゲーティア・バルバトス。

二人は似た境遇だ。

でも、今の立ち位置は全く違う。

優しい世界に育ったミリキャス、厳しい世界で育ったゲーティア。

親として比べるべきではないとわかっている。でも、どうしても比べてしまう。

ミリキャスではゲーティアに決して勝てない。

生まれた時には負けていなかったと思う。

でも、育った環境が違い過ぎた。

私はミリキャスを厳しく育てたつもりだ。

でも、ゲーティアのことを見ると、厳しいなどとお世辞にも言えない。

ミリキャスが今いる場所は仮初の平和だと、本当の世界はゲーティアがいる世界だと、そう見えてしまう。

 

ゲーティアが悪いとは決して思っていない。

むしろ・・・あれ、どうしたいんだろう?

謝りたいのかしら?何を?幸せでごめんなさい?

知りたいのかしら?何を?生き方を?

怒りたいのかしら?何を?ミリキャスが勝てないから?

憐れみたいのかしら?何を?苦労しているから?

・・・・・・・・・・・・・

浮かぶことが全て、自分の小ささを、ひいては私の息子の不出来さを感じてしまう。

こんな気持ちなら会うべきではないと、思う。

でも、何故か、何故か会わなければいけないと突き動かされる。

 

 

「急にこのような場を用意してすまないね。ゲーティア君。」

「いえ、光栄です。魔王様。」

「ははは、ここでは公の立場ではなく、()の立場だよ。堅苦しい言葉は無しにしよう。私のこともサーゼクスで頼むよ。」

「分かりました。サーゼクスさん。」

「ああ、それでいい。」

 

サーゼクスとゲーティア君が話をしている。

私は給仕の立場でここにいる。

やはり、彼を見ると何故か突き動かされそうな衝動に駆られる。

いけない、給仕なんだから仕事をしないと。

 

「どうぞ。」

「ありがとう。」

 

サーゼクスにはいつもの紅茶を。

 

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

ゲーティア君には、

 

「これ、オレンジですね。おいしいです。」

 

オレンジティーを作ってみた。

彼女が昔作った物を思い出して作った。

 

「喜んで頂けて光栄です。」

 

私は彼が心から喜んで、私のオレンジティーを飲んでいることが嬉しかった。

彼が喜ぶ姿が嬉しいのかもしれない。

 

「ゲーティア君は先日、グレモリー家を訪れたようだね。」

「ええ、ジオティクス殿には大変よくしていただきました。」

「そうか、父も喜んでいたよ。父とゲーティア君の父上が友人だったと聞いたかい?」

「ええ、私は父のことを知りませんでしたので、父のことを教えてもらえて嬉しかったです。」

「そうか、ゲーティア君は母上のことは知りたいと思うかい?」

「・・・サーゼクスさんの前で言うのはどうかと思いますが・・・知りたいと思います。」

「ならば、ゲーティア君の母上を知るべきだ。今日はここにゲーティア君の母上を知る人を呼んである。」

「え?・・・・彼女ですか?」

 

ゲーティア君が私を見て、サーゼクスに尋ねた。

 

「ああ、ゲーティア君の母上と同じ旧魔王派に所属していた、グレイフィアだ。私の妻でもある。」

「そう、ですか。」

「グレイフィアです。ゲーティア君のお母さんとは昔、交流がありました。」

「そうですか。・・・あの母はどういう人でしたか?」

「彼女は旧魔王派に所属していましたが、戦いを好む人ではありませんでした。彼女は料理を作ることが好きでした。実は今日のオレンジティーは昔彼女が作った味を思い出して作ってみました。」

「これが、母の味ですか。」

 

ゲーティア君はオレンジティーを飲み、天を見上げた。

 

「覚えていないことがつらいな。」

 

私はその言葉を聞き、居ても立っても居られなくなって、

 

「失礼します。」

「え!」

 

彼を抱きしめていた。

私は自分が何をしているのか、理解していた。

その上で分かった。

私が彼に言いたかった言葉を。

 

「よく頑張りました。偉いですね。」

 

褒めたかったんだ。

彼女の代わりに、彼女が出来ない代わりに、褒めてあげたかったんだ。

自分の息子と同じ境遇に生まれた、全く違う境遇で育った、自分の息子が辿ったかもしれない彼を褒めたかった。

ただの私の自己満足。それは分かっている。

 

「ごめんなさい。でも、もう少しだけ、このままで、いさせてください。」

「・・・・はい。」

 

私の中の母性が収まるまで、時間をください。

 

 

「ごめんなさい。」

「ああ、いえ、その・・・ありがとうございます。」

 

落ち着いて、すぐに謝った。

恥ずかしい。顔が真っ赤だ。鏡を見なくても分かる。

彼もなんと言っていいか分からず困惑している。

だけど、只一人面白そうに笑っているのがいる。

 

「ククククク・・・」

 

サーゼクスだ。

こう言っては何だけど、自分の妻が他の男に抱き着いているのに止めもせず、笑っているなんて・・・

私が非難の目を向けると、

 

「いや、すまない。グレイフィアが随分思い詰めた顔をしていたのに、彼を抱きしめてから随分と表情が優しくなったから。」

「う!」

 

確かに彼を抱きしめて、張り詰めていた気持ちが落ち着いた。

頭じゃなく、心が理解していた。

彼女がしたかったことをしてあげたかったんだ、それが分かって大分落ち着いた。

 

「ゲーティア君、君のことを教えてほしい。この7年のことを。」

「あ、はい、構いません。」

 

 

「・・・今日に至ります。」

「つかぬことを聞くが、学校に行ったことはないのかい?」

「ええ、ありません。勉強は当家の執事に習いましたので。」

 

私は怒っていた。

彼のこれまでが仕事かトレーニングばかりだったことに。

8歳の頃から7年間、遊ぶということをしていない彼に。

子供らしくあるべき時にひたすらに仕事をする彼に。

隣にいる仕事をしない大人に。

怒っていた。

むしろゲーティア君の中身がサーゼクスと逆だといいのにと思ってしまうほどだ。

だから口を出した。

 

「それはいけません!学校とは勉強のためではなく、交友を深める場所でもあります。」

「ですが、私は公爵家の当主です。私がしなくてはなりません。」

「確かにその通りです。ではもし公爵家の仕事が楽になれば何をしますか?」

「そうですね・・・トレーニングですね。」

「趣味はないんですか?やりたいことは?興味があることは?」

「趣味はトレーニングです。やりたいことはトレーニングです。興味があることは効率の良いトレーニング方法の研究です。」

 

私は絶句した。

トレーニング、トレーニング、トレーニング、・・・

何ですかそのストイックなトレーニング押しは!

貴方悪魔でしょ!もっと自堕落になりなさい!そんなんで立派な悪魔になれませんよ!

しかし、隣の悪魔、あなたはダメだ。

 

「この際学校に通ってみましょう。そうすれば他に色々なことも見えるかもしれませんよ。」

 

私が頑張って説得しないと。

彼を立派な悪魔にするためにも、ここで私が頑張らないと。

彼女の分も私が世話を焼かなくては!

 

「そうですねぇ・・・少し考えさせてください。」

「私は学校に行くというのはいいと思うよ。ちょうどリアスが人間界の学校に行くんだ。ゲーティア君も一緒にどうかね。それに君にお願いされた件も時間がかかるかもしれないし。」

 

そうだ、縁談。

それもありました。

彼はバルバトス公爵家当主だ。

家格のつり合い、経済地盤、影響力、等を総合的に判断する必要があるわね。

それに、バルバトス公爵家が一方的に搾取されるような、彼が苦労する相手はダメね。

後はやっぱり当人同士の相性も大事だし。

歳も出来れば近い方がいいかしらね。悪魔が長命とはいえ歳の差があり過ぎるのは苦労するでしょうし。

こんな大変なこと隣のダメ悪魔じゃ何年かかるかしら。

仕方がない。私が頑張るしかないわね。

そうだわ、お義父様にも手伝ってもらいましょう。

彼のことに心を痛めていたお義父様なら、必ず良縁を見つけてくださるわ。

早速連絡をしなくては、ですがその前に。

 

「一度は体験しておいた方がいいですよ。それに先程の話の中で、ご友人の話がなかったのですが、一人くらいご友人は・・・いますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いません。」

「学校行きましょう(ニッコリ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」

 

ふう、問題は一つ解決です。

もう一つは少し待っていてください。

私とお義父様であなたにふさわしい娘を探しますね。

 

side out

 

いや、色々驚いたな。

まさか母と同じ旧魔王派の人がサーゼクス様の奥さんだったなんて。

母の味もこの体が覚えているのか、何か懐かしい感じだった。

でも、記憶になかったからなあ。

そんなことを漏らすと、いきなりグレイフィアさんに抱きしめられて、ドキドキした。

人妻だとは分かっているけど、めっちゃ美人だったし、胸も大きかったし、めちゃくちゃ興奮したけども、・・・何故だか懐かしい感じがした。

8歳の時に今の状態になったから、それ以前は記憶はほぼない。

前世の記憶はあるが、母の記憶は遠い過去だ。

だから、興奮というよりも落ち着いた気分になったほどだ。

それからはグレイフィアさんも遠慮が無くなってきて、ズバズバ言ってきた。

友達がいないことも学校に行ったことがないことも。

不思議といやな気分ではなかった。

前世の母、いや前世の親戚のおばさんを思い出した。

それくらいの遠慮のなさだった。

結局押し負けて学校に行くことになったし。

これから経済の立て直しも大変なんだけどな。

帰ったらセバスに相談だな。

 

 

side サーゼクス・ルシファー

 

「魔王様、失礼いたします。」

「ああ、バルバトス公爵。息災でな。」

「ありがとうございます。」

 

ゲーティア君が帰っていった。

今日の出会いはとても良かった。

彼が実直で誠実だとよくわかった。

さて、彼のお願いに関してどうするか。

 

「お義父様、グレイフィアです。至急ご相談したい案件がございます。」

「どうした。グレイフィア、突然。」

「大変申し訳ありません。ですが一刻を争います。ゲーティア・バルバトス公爵に関わる案件です。」

「詳しく聞こう。」

「はい、単刀直入に申し上げます。ゲーティア君にふさわしい令嬢を探しております。お心当たりはございませんか。私は彼の亡き母に代わり、彼にふさわしい令嬢を選んであげたいと考えております。」

「私もだ、グレイフィア。亡き親友の忘れ形見である彼にふさわしい令嬢を探すことは、私の責務だと考えている。」

「お義父様。」

「グレイフィア。」

 

彼に頼まれたのは私だというのに、グレイフィアと父上が盛り上がっている。

グレイフィアも父上も彼を気に入っている。

いや、気に入ったどころか、我が子と言わんばかりだ。

二人とも亡き友のため、という思いが爆発している。

情愛のグレモリーの父上はともかく、グレイフィアは違うよね。

ヒートアップする二人を宥めるためにも、一言言っておこう。

 

「父上、グレイフィア、ゲーティア君に縁談を頼まれたのは私だ。だから私に任せて・・・」

「なにを言っていますか!普段仕事をしないあなたが、彼の縁談をまとめるだなんてできるわけがありません!」

「そうだぞ、サーゼクス。いつもみたいにテキトーでは済まされないんだぞ。」

「あなたに任せていては何千年かかるかわかりません!ここは私とお義父様で探します。なので、あなたは仕事をしてください!いいですね!」

 

私は二人の迫力に飲まれ、何も言えなかった。

おかしいな魔王なのに、力だけで魔王になったのに。

私は一人蚊帳の外でゲーティア君の将来を案じた。

 

「ちなみにグレイフィア、縁談に関して彼から要望はなかったかね。」

「いえ、ありませんでした。ですが要望を出せなかっただけだと思われます。ここは我々で彼に最良の相手を探すべきだと思います。」

「そうだな。ああ、前回彼が我が家に来た時、【家に力がある】と言うことを重視しているようだった。」

「そうですか。でしたら、【家に力がある】を優先事項の上位に置きましょう。後は私の方で考えた評価点は家格のつり合い、当人の相性、年齢と考えます。」

「そうだね、私もそう思うよ。ではそれでまずピックアップしよう。」

「分かりました。では情報の共有は密に行いましょう。」

「ああ、分かった。」

 

二人の作戦会議は終了したようだ。

頼まれたの私なんだけど。

まあいいか。最終的に伝えるのは私なんだし。

それくらいの役目は回ってくるよね。

 

 


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