どうもゲーティア・バルバトスです。
魔王様に報告が終わり、今は用意された部屋で休んでいる。
疲れた。緊張したな。
でも、目的のバルバトス公爵領の問題解決、両親の名誉回復、この二つが解決した。
その上、魔王様に縁談の斡旋までお願いできた。
完璧だった。さすがデュフォーの作戦だ。
まあ、うちの眷属の清磨との頭脳2トップだ。今後も頼もう。
だが、この展開はデュフォーの読みになかったな。
「バルバトス公爵、いやゲーティア君と呼ばせてもらって構わないかな。」
「はい、魔王様。」
まさか、魔王と歓談するなんて。
□
side グレイフィア
「グレイフィア、ゲーティア君と話をしてみるんだが、君もどうかな。」
さっき、サーゼクスが突然言い出したことに私は驚きよりも先に
「参加します。」
返答していた。
彼には、申し訳なさがあった。
私も彼の母も旧魔王派に所属していた。
なのに私は幸せを、彼女は不幸を享受した。
私の息子ミリキャス・グレモリーと彼女の息子ゲーティア・バルバトス。
二人は似た境遇だ。
でも、今の立ち位置は全く違う。
優しい世界に育ったミリキャス、厳しい世界で育ったゲーティア。
親として比べるべきではないとわかっている。でも、どうしても比べてしまう。
ミリキャスではゲーティアに決して勝てない。
生まれた時には負けていなかったと思う。
でも、育った環境が違い過ぎた。
私はミリキャスを厳しく育てたつもりだ。
でも、ゲーティアのことを見ると、厳しいなどとお世辞にも言えない。
ミリキャスが今いる場所は仮初の平和だと、本当の世界はゲーティアがいる世界だと、そう見えてしまう。
ゲーティアが悪いとは決して思っていない。
むしろ・・・あれ、どうしたいんだろう?
謝りたいのかしら?何を?幸せでごめんなさい?
知りたいのかしら?何を?生き方を?
怒りたいのかしら?何を?ミリキャスが勝てないから?
憐れみたいのかしら?何を?苦労しているから?
・・・・・・・・・・・・・
浮かぶことが全て、自分の小ささを、ひいては私の息子の不出来さを感じてしまう。
こんな気持ちなら会うべきではないと、思う。
でも、何故か、何故か会わなければいけないと突き動かされる。
□
「急にこのような場を用意してすまないね。ゲーティア君。」
「いえ、光栄です。魔王様。」
「ははは、ここでは公の立場ではなく、
「分かりました。サーゼクスさん。」
「ああ、それでいい。」
サーゼクスとゲーティア君が話をしている。
私は給仕の立場でここにいる。
やはり、彼を見ると何故か突き動かされそうな衝動に駆られる。
いけない、給仕なんだから仕事をしないと。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
サーゼクスにはいつもの紅茶を。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
ゲーティア君には、
「これ、オレンジですね。おいしいです。」
オレンジティーを作ってみた。
彼女が昔作った物を思い出して作った。
「喜んで頂けて光栄です。」
私は彼が心から喜んで、私のオレンジティーを飲んでいることが嬉しかった。
彼が喜ぶ姿が嬉しいのかもしれない。
「ゲーティア君は先日、グレモリー家を訪れたようだね。」
「ええ、ジオティクス殿には大変よくしていただきました。」
「そうか、父も喜んでいたよ。父とゲーティア君の父上が友人だったと聞いたかい?」
「ええ、私は父のことを知りませんでしたので、父のことを教えてもらえて嬉しかったです。」
「そうか、ゲーティア君は母上のことは知りたいと思うかい?」
「・・・サーゼクスさんの前で言うのはどうかと思いますが・・・知りたいと思います。」
「ならば、ゲーティア君の母上を知るべきだ。今日はここにゲーティア君の母上を知る人を呼んである。」
「え?・・・・彼女ですか?」
ゲーティア君が私を見て、サーゼクスに尋ねた。
「ああ、ゲーティア君の母上と同じ旧魔王派に所属していた、グレイフィアだ。私の妻でもある。」
「そう、ですか。」
「グレイフィアです。ゲーティア君のお母さんとは昔、交流がありました。」
「そうですか。・・・あの母はどういう人でしたか?」
「彼女は旧魔王派に所属していましたが、戦いを好む人ではありませんでした。彼女は料理を作ることが好きでした。実は今日のオレンジティーは昔彼女が作った味を思い出して作ってみました。」
「これが、母の味ですか。」
ゲーティア君はオレンジティーを飲み、天を見上げた。
「覚えていないことがつらいな。」
私はその言葉を聞き、居ても立っても居られなくなって、
「失礼します。」
「え!」
彼を抱きしめていた。
私は自分が何をしているのか、理解していた。
その上で分かった。
私が彼に言いたかった言葉を。
「よく頑張りました。偉いですね。」
褒めたかったんだ。
彼女の代わりに、彼女が出来ない代わりに、褒めてあげたかったんだ。
自分の息子と同じ境遇に生まれた、全く違う境遇で育った、自分の息子が辿ったかもしれない彼を褒めたかった。
ただの私の自己満足。それは分かっている。
「ごめんなさい。でも、もう少しだけ、このままで、いさせてください。」
「・・・・はい。」
私の中の母性が収まるまで、時間をください。
□
「ごめんなさい。」
「ああ、いえ、その・・・ありがとうございます。」
落ち着いて、すぐに謝った。
恥ずかしい。顔が真っ赤だ。鏡を見なくても分かる。
彼もなんと言っていいか分からず困惑している。
だけど、只一人面白そうに笑っているのがいる。
「ククククク・・・」
サーゼクスだ。
こう言っては何だけど、自分の妻が他の男に抱き着いているのに止めもせず、笑っているなんて・・・
私が非難の目を向けると、
「いや、すまない。グレイフィアが随分思い詰めた顔をしていたのに、彼を抱きしめてから随分と表情が優しくなったから。」
「う!」
確かに彼を抱きしめて、張り詰めていた気持ちが落ち着いた。
頭じゃなく、心が理解していた。
彼女がしたかったことをしてあげたかったんだ、それが分かって大分落ち着いた。
「ゲーティア君、君のことを教えてほしい。この7年のことを。」
「あ、はい、構いません。」
□
「・・・今日に至ります。」
「つかぬことを聞くが、学校に行ったことはないのかい?」
「ええ、ありません。勉強は当家の執事に習いましたので。」
私は怒っていた。
彼のこれまでが仕事かトレーニングばかりだったことに。
8歳の頃から7年間、遊ぶということをしていない彼に。
子供らしくあるべき時にひたすらに仕事をする彼に。
隣にいる仕事をしない大人に。
怒っていた。
むしろゲーティア君の中身がサーゼクスと逆だといいのにと思ってしまうほどだ。
だから口を出した。
「それはいけません!学校とは勉強のためではなく、交友を深める場所でもあります。」
「ですが、私は公爵家の当主です。私がしなくてはなりません。」
「確かにその通りです。ではもし公爵家の仕事が楽になれば何をしますか?」
「そうですね・・・トレーニングですね。」
「趣味はないんですか?やりたいことは?興味があることは?」
「趣味はトレーニングです。やりたいことはトレーニングです。興味があることは効率の良いトレーニング方法の研究です。」
私は絶句した。
トレーニング、トレーニング、トレーニング、・・・
何ですかそのストイックなトレーニング押しは!
貴方悪魔でしょ!もっと自堕落になりなさい!そんなんで立派な悪魔になれませんよ!
しかし、隣の悪魔、あなたはダメだ。
「この際学校に通ってみましょう。そうすれば他に色々なことも見えるかもしれませんよ。」
私が頑張って説得しないと。
彼を立派な悪魔にするためにも、ここで私が頑張らないと。
彼女の分も私が世話を焼かなくては!
「そうですねぇ・・・少し考えさせてください。」
「私は学校に行くというのはいいと思うよ。ちょうどリアスが人間界の学校に行くんだ。ゲーティア君も一緒にどうかね。それに君にお願いされた件も時間がかかるかもしれないし。」
そうだ、縁談。
それもありました。
彼はバルバトス公爵家当主だ。
家格のつり合い、経済地盤、影響力、等を総合的に判断する必要があるわね。
それに、バルバトス公爵家が一方的に搾取されるような、彼が苦労する相手はダメね。
後はやっぱり当人同士の相性も大事だし。
歳も出来れば近い方がいいかしらね。悪魔が長命とはいえ歳の差があり過ぎるのは苦労するでしょうし。
こんな大変なこと隣のダメ悪魔じゃ何年かかるかしら。
仕方がない。私が頑張るしかないわね。
そうだわ、お義父様にも手伝ってもらいましょう。
彼のことに心を痛めていたお義父様なら、必ず良縁を見つけてくださるわ。
早速連絡をしなくては、ですがその前に。
「一度は体験しておいた方がいいですよ。それに先程の話の中で、ご友人の話がなかったのですが、一人くらいご友人は・・・いますか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いません。」
「学校行きましょう(ニッコリ)」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」
ふう、問題は一つ解決です。
もう一つは少し待っていてください。
私とお義父様であなたにふさわしい娘を探しますね。
side out
いや、色々驚いたな。
まさか母と同じ旧魔王派の人がサーゼクス様の奥さんだったなんて。
母の味もこの体が覚えているのか、何か懐かしい感じだった。
でも、記憶になかったからなあ。
そんなことを漏らすと、いきなりグレイフィアさんに抱きしめられて、ドキドキした。
人妻だとは分かっているけど、めっちゃ美人だったし、胸も大きかったし、めちゃくちゃ興奮したけども、・・・何故だか懐かしい感じがした。
8歳の時に今の状態になったから、それ以前は記憶はほぼない。
前世の記憶はあるが、母の記憶は遠い過去だ。
だから、興奮というよりも落ち着いた気分になったほどだ。
それからはグレイフィアさんも遠慮が無くなってきて、ズバズバ言ってきた。
友達がいないことも学校に行ったことがないことも。
不思議といやな気分ではなかった。
前世の母、いや前世の親戚のおばさんを思い出した。
それくらいの遠慮のなさだった。
結局押し負けて学校に行くことになったし。
これから経済の立て直しも大変なんだけどな。
帰ったらセバスに相談だな。
□
side サーゼクス・ルシファー
「魔王様、失礼いたします。」
「ああ、バルバトス公爵。息災でな。」
「ありがとうございます。」
ゲーティア君が帰っていった。
今日の出会いはとても良かった。
彼が実直で誠実だとよくわかった。
さて、彼のお願いに関してどうするか。
「お義父様、グレイフィアです。至急ご相談したい案件がございます。」
「どうした。グレイフィア、突然。」
「大変申し訳ありません。ですが一刻を争います。ゲーティア・バルバトス公爵に関わる案件です。」
「詳しく聞こう。」
「はい、単刀直入に申し上げます。ゲーティア君にふさわしい令嬢を探しております。お心当たりはございませんか。私は彼の亡き母に代わり、彼にふさわしい令嬢を選んであげたいと考えております。」
「私もだ、グレイフィア。亡き親友の忘れ形見である彼にふさわしい令嬢を探すことは、私の責務だと考えている。」
「お義父様。」
「グレイフィア。」
彼に頼まれたのは私だというのに、グレイフィアと父上が盛り上がっている。
グレイフィアも父上も彼を気に入っている。
いや、気に入ったどころか、我が子と言わんばかりだ。
二人とも亡き友のため、という思いが爆発している。
情愛のグレモリーの父上はともかく、グレイフィアは違うよね。
ヒートアップする二人を宥めるためにも、一言言っておこう。
「父上、グレイフィア、ゲーティア君に縁談を頼まれたのは私だ。だから私に任せて・・・」
「なにを言っていますか!普段仕事をしないあなたが、彼の縁談をまとめるだなんてできるわけがありません!」
「そうだぞ、サーゼクス。いつもみたいにテキトーでは済まされないんだぞ。」
「あなたに任せていては何千年かかるかわかりません!ここは私とお義父様で探します。なので、あなたは仕事をしてください!いいですね!」
私は二人の迫力に飲まれ、何も言えなかった。
おかしいな魔王なのに、力だけで魔王になったのに。
私は一人蚊帳の外でゲーティア君の将来を案じた。
「ちなみにグレイフィア、縁談に関して彼から要望はなかったかね。」
「いえ、ありませんでした。ですが要望を出せなかっただけだと思われます。ここは我々で彼に最良の相手を探すべきだと思います。」
「そうだな。ああ、前回彼が我が家に来た時、【家に力がある】と言うことを重視しているようだった。」
「そうですか。でしたら、【家に力がある】を優先事項の上位に置きましょう。後は私の方で考えた評価点は家格のつり合い、当人の相性、年齢と考えます。」
「そうだね、私もそう思うよ。ではそれでまずピックアップしよう。」
「分かりました。では情報の共有は密に行いましょう。」
「ああ、分かった。」
二人の作戦会議は終了したようだ。
頼まれたの私なんだけど。
まあいいか。最終的に伝えるのは私なんだし。
それくらいの役目は回ってくるよね。