「うむ、清楚な白のワンピースはよく似合う」
「ありがとうございます。でも私、何を着て行けばいいのか分からなかったから、その、リゼがデートに行くならこれが良いって選んでくれたの」
「そうか、デートだと思ってくれているのか……」
「はい、でもデートって何をすればいいのか、わからなくて」
「ふっ、私に任せてもらおうか」
街角の小さなオープンカフェのウッドデッキテラスにある丸テーブル。
右に足を組んで座るベージュのスーツを着こなす30代中頃の金髪ダンディなイケメンは、いつもと違い顔がほころんでいる。
左には足をそろえて座る真っ白なワンピースの高校生ぐらいに見える可愛いらしい雰囲気な子は気恥ずかしそうにしている。
「まずは、ここでコーヒーでも……、いや確か君は紅茶だったな」
「はい」
「この茶店は、チーズケーキがおすすめとある。種類も豊富なようだ。どうかな?」
「どれも美味しそう」
デートを今から楽しもうとする二人……。
だが……
「エドは何かリクエストはあるか?」
「お兄ちゃん、こっちのチーズケーキを頼んでほしいかな、後でちょっと貰っていい?」
何故か俺がこのデート中の二人と同じテーブルで、二人に挟まれるように座っている。
しかも、二人は平然と俺に声をかけてくる始末。
俺は頭を押さえ、ため息を吐く。
「はぁ……」
そう、俺はリタとキャスバルのデートに同行させられている。
なぜ、こうなった?
「エドはコーヒー派だったな」
「お兄ちゃん。こっちのチーズケーキもおいしそうだよ」
「……俺、邪魔じゃねーか?帰っていいか?」
「そんなことはない。いてもらわないと寧ろ困る」
「そ、そうだよ。デートは初めてだし」
「あのな、保護者同伴でデートするカップルなんて、どこにあんだよ!」
「ふう、エド、よく考えてみてくれ、私とリタ二人だけでデートなどしてみろ、リタの見た目と私の年齢では、あらぬ誤解を招く可能性がある」
キャスバル……、自分で言ってて悲しくないか?
確かにリタは高校生に見えるし、30中頃のおっさんが一緒だと、援助交際とかパパ活とかに見えない事もないが、キャスバルの奴はイケメンだし、そんなふうには見えないだろう。
それに、キャスバルの奴もここに来て3年経ってるし、この田舎街じゃ、顔も知られてるはず、わざわざ通報する奴もいないだろう。
いたとしても、ローザぐらいなもんだ。
「お兄ちゃんが一緒に居てくれないと、恥ずかしいし……」
つい最近ようやく恋愛を意識できるようになったばかりで、24歳で初恋ということになるが、これも致し方がない事情がある。
リタの青春時代はほぼ空白と言ってもいいものだ
リタは高校どころか中学にも通ってない。
青春時代をすべて、ニュータイプ研究所や軍で過ごしてきた。
ニュータイプ研究所では、サイコミュシステムに適合させるために記憶領域の一部を空白にするような手術を受けていた。
要するに過去の記憶を消すというものだ。
非人道的な扱いを受け、一般人とはかけ離れた生活を送らされてきたのだ。
青春時代で得るはずの経験や思い出、喜怒哀楽も一つも手にすることが出来ていない。
だから、人の接し方がおかしかったり、一般常識が欠如していたり、恋愛について小学生並だったりと、いろいろとおかしなことになっている。
そんな中でもリタは、地球や人々、幼馴染を守るという意思だけはなくさずに、連邦軍のニュータイプ兵として過ごしてきた。
だが、幸いにも、リタは俺の診療所に運ばれ、寝ていた1年半の間に過去の記憶のほとんどを取り戻したらしい。
本人曰く、寝ている間に宇宙に溶け込んだ過去の記憶が、ゆっくりと戻って来たんだと。
俺にはさっぱりわからないが、ニュータイプの能力なのか、はたまた、そういう奇跡か何かなのだろう。
「ったく、わーったよ。但し、俺はいないものと思って、デートしろよな」
「エド、こう考えたらどうだ?3人で遊びに行くというふうに考えれば問題ないだろう」
「うん、それがいいかも」
「……もう、それってデートじゃねーじゃねーか?」
リタの不安は分かるからいいとして、なんでキャスバルの奴は俺の同伴を求めるんだ?
普通、デートの邪魔だろ?彼女の保護者なんてよ。
「お互い慣れが必要だということだ。それにリタを目の前にして、私とてこの胸の高鳴りだ。若かりし頃のように、自制を保てる自信はない。エドが居てくれると助かる」
……何言ってるんだ?こいつは?
自制を保てる自信がないとか、胸の高鳴りって、お前は中学のガキか!?
「はぁ、もうそれでいい」
リタの事もあるし、キャスバルの奴は奴でおかしいし、そうするしかないか。
こいつら、たまになんかのついでに喫茶店で話したりとかはしてたらしいが、こういう本格的なデートは初めてらしいしな。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「助かる。エド」
そんな感じで、カップルと彼女の保護者という組み合わせで遊びに行く事になった。
喫茶店を後にして、ため池の湖畔周りをゆっくりと散歩し、農家の直売所が集まってる市場に行き、ジャガイモ農家の赤鼻のおっさん所のじゃがバターやウラガン印の密芋ソフトを食べたり、農産試験所兼水上植物園を見学したりして、のんびり過ごす。
キャスバルの奴、リタの過去の経緯を考えて、こんなゆったりなデートプランを考えたようだな、流石は元赤い彗星、出来る奴だ。
トラヴィスのおっさんや俺だったら、大人のデートプランまっしぐらになりかねない。
その後は、ため池の湖畔近くにあるキャスバルんちで昼食だ。
キャスバルんちは北欧風のロッジのような作りで、街中の家と違って結構広い。
今は、妹のセイラと住んでる。
いや、正確に言うとセイラの付き人というか、使用人二人も一緒だ。
その使用人が作る料理を振る舞ってくれるらしい。
セイラ自身は医師免許を持った医者だが、今の実家の養子先のマス家が地球の超金持ちらしくて、金には不自由しないようだ。
セイラ自身も投資やら総合病院の経営やらなんだかんだで、資産はたんまりらしい。
この美男美女兄妹そろって、優秀なようだ。
うらやましい限りだ。
食事の後、リビングで茶を飲むキャスバルとリタを他所に、俺はダイニングでセイラとちょっと話す。
「俺なんかも一緒で悪かったな」
「いえ、エドワード先生が同席していただいた方が、私も安心です」
「なんでだ?……はぁ、まあ、なんか、彼奴ら初々しいというか、もう二人ともいい大人なんだが、なんていうか……」
「……兄も、真面な青春を送って来ていないので……、15でマス家を出てそれっきり……、本人の話によると偽名を使ってジオンの士官学校に入り、ジオンの兵士に……、復讐のためだけに、人生を使ってきたような人ですから」
「そうか……、セイラも苦労したんじゃないか?」
「私は……」
「まあ、アレだ。今から青春したっていいんじゃね?セイラもさ、もうちょっと肩の力抜いたらどうだ。キャスバルの奴を見ろよ。デレデレじゃねーか。しがらみってもんはそうそう消えるもんじゃないが、セイラも自分に素直に生きればいい。今からでも遅くないと思うぞ」
セイラは美女ではあるが、表情は感情に乏しく、どこかもの悲しく見える。
影があるというか、近寄りがたい雰囲気もある。
ジオン・ダイクンの娘として生まれ、幼くして、政治やジオンに翻弄され、父や母を奪われ、慕っていた兄も復讐のために居なくなり、心を閉ざして生きて来たのだろう。
「エドワード先生はお優しいですね。だから兄も……」
「俺が優しい?何言ってんだ?」
「ふふっ、……兄もようやく落ち着くでしょう。私も……」
セイラはそう言って微笑む。
「はぁ、……そんじゃ、デートの付き合いの続きに行って来るか」
「先生、よろしくお願いします」
「ああ、そうだ。今度うちでクリスマス会をやる事になったんだが、セイラもどうだ?キャスバルの奴は無理やり来るだろうし、あ~、アムロの奴も一応声はかけてるが、まあ、今はアレな状況だしな」
「ふふっ、そうですね。参加させていただきます」
再び微笑むセイラ。
この後は、街中に出て映画にビリヤードとなんだかんだと楽しんだな。
因みに映画は、今人気の一年戦争をモチーフとした恋愛もので、「嵐の中の輝き」だ。
一年戦争末期、舞台は東南アジア戦線で、ジオンと連邦の兵士が偶然出会いお互いを好きになっていくのだが、お互いは敵同士というシチュエーションが女性に大うけ、最終的にはハッピーエンドだったのも、よかったらしい。
確かによく出来た映画だった。
流石はキャスバル、この映画をデートにもってこいだ。
俺も一年戦争時、東南アジアにちょっとだけ派遣されたことがあるが……、ところどころ聞いた風な話も出てきてる。
とんでもないエースのグフとか、巨大モビルアーマーとか。
それに、主人公もなんか誰かに似てるんだよな。
声が大きいところとか、暑苦しい感じが。
そんで最後はヴィンセントのフランス欧州料理店で夕食だ。
結構繁盛してて、予約が1か月先までいっぱいらしい。
コース料理の最後のデザートが出て来たところで、リタは俯き加減で、キャスバルに謝りだした。
「レッドマンさんに謝らないといけないの、ごめんなさい」
「ん?急にどうした?」
リタが今日のこのタイミングで話し出すとは思わなかった。
もちろん、リタが見た未来視の話だ。
近い将来、この新サイド6が白いモビルアーマーに襲われるとのこと。
それを阻止するために、キャスバルとリタが一緒にそれを止めなくちゃならないという話だ。
「最初はレッドマンさんを利用しようとしたの」
「どういうことだ?……エド?」
レッドマンは俺の方を向いて何かを聞こうとしたが、俺は話の続きを聞いてやれと、手振りをする。
「でも、今は貴方の事が本当に好きなの、信じてほしい」
「そうか、私もリタの事を想っている。……どういうことなのか話してくれまいか」
リタはキャスバルに促され、未来視について話だした。
「ふむ、その程度の事か」
「え?」
「その未来視が切っ掛けで、リタとこうして直に出会い、お互い好意を寄せ合う事が出来たと言っても、過言ではない。ならば、その未来を確実の物にしなければな」
「いいの?」
「当然だ。私はリタとは結婚を前提で付き合いたいと思っている」
まあ、キャスバルの奴なら当然、受け入れるだろう。
しかし、言い回しが、キザったらしいというかなんて言うか。
「結婚!?……し、幸せな家族!?……ふみゅ~」
リタは結婚という言葉に過剰に反応し、顔を真っ赤にし、目を回しだす。
かなり初心だからな、こうなるか。
「リタ大丈夫か?すまんな、結婚の話はまだ早かったか」
「だ、大丈夫です!私も結婚したいです!」
あーあ、リタも言っちまったか。
これは、早々に結婚するだろうな。
ローザを説得しなきゃならないか。
お互い、熱いまなざしで見つめ合ってるのは良いんだが、俺もここに居るの忘れてないか?
「あー、そういう事だから、キャスバル。トラヴィスのおっさんの所に、出来るだけ早くリタと一緒に行ってくれ」
俺は改めて、リタの未来視で起こる白いモビルアーマーの襲撃について、キャスバルにトラヴィスのおっさんの所に行くように言ったのだが……。
「なるほど、トラヴィス氏に結婚の仲人を頼むのだな」
キャスバルの頭の中は既にリタとの結婚で頭がいっぱいのようだ。
「違う!リタの未来視についてだ。トラヴィスのおっさんも噛んでる話だ。とっとと阻止しないと、結婚が遠のくぞ」
「それはいかん。私とリタの幸せな未来のために、その白いモビルアーマーとやらはリタと共に早々に蹴散らしてくれよう」
キャスバルの目は何故かギラついていた。
キャスバルの奴、完全にやる気だ。
白いモビルアーマーっていうか、その白いモビルアーマーが所属してるジオンの残党か、どこかの組織の連中の未来は決まったな。
こうして、リタとキャスバルのデートは無事終わって、リタの未来視問題もキャスバルの協力の了承も得られた。
キャスバルとリタが結婚か。
年はキャスバルが36でリタが24、一回り違うが、トラヴィスのおっさんの所よりもましか。
まあ、俺も人のことをとやかく言えないか、ローザとは7歳違いだしな。
そういえば、キャスバルの奴、ネオジオン時代に付き合ってた女がいたらしいが、ちゃんと清算をすませたのか?
キャスバルの奴はドライな関係だったとかなんとか言っていたが、相手がどう思っていたかは別だろ?
ちゃんと切れてなかったら、アムロの二の舞だぞ。
なんだかんだとあったが、俺は肩を撫でおろし家路についたのだが……。
この時、俺は知らなかった。
このなんちゃってデートに、監視の目が付いていたことを……。