女流作家 フィリーネ・オルフ   作:物語の魔法使い

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またも挑戦よりも前の時間軸のこぼれ話です。


フィリーネ・オルフの日常(こぼれ話)

 

女流作家フィリーネ・オルフこと軍務尚書パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥は、今日も激務から帰宅後に小説を書いていた。

彼は大体の場合構想を完全に作った後に一気に書き上げる。

これはいつ死んでも未完にならないようにしているためだ。

発表するかしないかの問題ではない。

きちんと書き上げたいのである。

だから一度キーボードをたたき始めると、書きあがるまで止まらない。

例え背後に複数の気配がして鬱陶しくてもである。

「・・・・影になるから離れてほしいのだが」

「おい、言われているぞ、ビッテンフェルト提督」

「ロイエンタール提督、離れろだそうだ」

「両提督に言っているのだが」

きっぱりと言っても双方離れる様子はない。

背後にぴったりと貼りついて、増え続ける文字を凝視していた。

オーベルシュタインはため息をつきつつ、相変わらず指を止めることはない。

脳内で作られた世界を文字に起こす作業は続いている。

 このふたり、オーベルシュタインの屋敷に来た時はまるで構ってほしい犬猫のように家主の後ろからディスプレイを覗き込んでくるのだ。

出来たら印刷してやるから待てと言っても聞く様子はない。

熱心過ぎるファンだ。

素直に指示に従っているのは、今もソファで二ヤついているフェルナーのみである。

聞き分けがない両提督は動体視力が良いらしく、『フィリーネ』の高速タイピングにしっかりとついてきているようだ。

凄まじい速さで構築されていく物語に、何故かビッテンフェルトの顔が赤くなってきた。

「・・・おい、なんで男同士なのに濡れ場に突入しているのだ」

呻くように呟かれた言葉に、ロイエンタールが小馬鹿にしたようにくすりと笑う。

「刺激が強すぎたか、坊や?」

「違うわ!馬鹿にするな!」

「後ろで怒鳴らないでくれ。今回の話のテーマのひとつは同性愛だ。言っておくが卿の好みに合わせて書き直すつもりはないぞ」

筆者はロイエンタールが言うように刺激がかなり強いシーンを書いているにもかかわらず、恥じることなどない、と堂々としている。

 銀河帝国は建国以来同性愛は犯罪扱いされていたが、ラインハルトが帝位についてからは合法となった。

しかし、未だに同性愛者は差別されることが多く、大っぴらに周囲に言えないことがほとんどだ。

「今まで禁忌とされていたことをあえて文章にするのも『フィリーネ』だからな。誰から抗議がこようとこのスタイルは変えるつもりはない」

最初に小説を投稿した動機は単純に誰かに読んでほしかったからだし、今もそれは変わっていない。

多くの人間に読んでもらえただけで十二分に嬉しいという気持ちも嘘はない。

ただこれは復讐のひとつにもなると、密かにオーベルシュタインは思っていた。

自分が今まで憎んできて、これからも憎み続けるルドルフが作り出したものを破壊し、腐った社会の風通しを良くする一助。

そう考えるとなおいっそう文字を打つ力が強くなる。

 美丈夫がくつりと意味ありげな笑みを浮かべた。

「むしろ『美貌の女流作家』が書いたとなったらそれはそれで興奮する輩も多いだろうな。夜な夜な無駄撃ちに使われる感想は?『オルフ女史』」

「・・・・私が女性ならば卿をセクハラで訴えられたのに残念だ」

オーベルシュタインは心底嫌そうにため息をつく。

普段の無表情を崩せたのが楽しいのか、ロイエンタールの笑みは治まらない。

ビッテンフェルトがもの言いたげに太い眉を寄せた。

「・・・・・こうしていると、本当に卿は思っていたより人間だな」

揶揄われると不機嫌になったり、怒ったり、褒められると照れたり、私人のオーベルシュタインはいたって普通に人間だった。

確かに自分を含めた他の人間よりも表現が圧倒的に下手だと思うが、それでも驚くほど普通だ。

普段のオーベルシュタインは嫌いだが、私人で『フィリーネ』のオーベルシュタインは嫌いではなかった。

「それに色々なものを見て、考えて、感じているのだな。本当に感心する・・・・・・・・・っておわっ!?どうなるのだこれは!?」

「ビッテンフェルト提督、煩い。だから怒鳴らないでくれ」

「見ていればこれからわかるだろう」

「だって、こいつが自爆したらメンゲレの居場所がわからないではないか!?このままでは奴が死んでしまうぞ!?」

「だから黙って読んでくれ」

再びため息がもれる。

作者はそれでも騒がしい読者を無理矢理追い払おうとはしない。

なんだかんだ言っても、この熱心な読者達に感謝と好意を抱いているからだ。

「!?・・・まさかここまでが前座だったとは」

「ああああ!まさか!そんな!」

「・・やっぱりしばらく部屋を出ていてくれ」

オーベルシュタインは嘆息するが、それでも最後まで筆を止めることはなかったし、ふたりを追い出すこともなかった。

 

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