クール系幼馴染と疎遠になったから頑張って距離を縮めたい   作:ビタミンB

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衝動書きの見切り発車です。最高に悶えるシーンを目指していざ書かん。



美少女幼馴染持ち≠人生勝ち組

 

 

 大抵、ネットや小説の中で語り描かれる幼馴染というものはどれも輝かしいものだ。

 

 美少女幼馴染が主人公と一緒に学校に通うために毎朝自宅のベッドまで起こしに来たり、いつでも気軽にお互いの家を行き来したり。極め付けには実はお互いが好き同士でそのままゴールイン──なんてこともあり得たりするのだ。ここまでがテンプレであり王道。テストに出るから覚えるように。

 しかも、幼馴染にはタイプがある。

 それは主人公を想い優しい言葉を使う清楚系幼馴染だったり、反対に厳しい言葉で主人公を叱責する辛辣系幼馴染だったり。そしてそれには一つ共通している部分があって、どれも決まって『実は主人公のことが好き』なのだ。

 羨ましいだろう。

 喉から無限に手が伸びるだろう。

 

 だが、俺はそれに異を唱えたい。

 そして高らかに宣言しよう。

 

 そんなものは空想である──と。

 

 

 ●

 

 

 俺、矢渡(やわたり)(わたる)には幼馴染がいる。──いや、いた。

 

 その名前は因幡(いなば)(みお)

 物心ついた時から彼女は俺の隣にいた。家が隣同士で歳も同じだった俺たちは、いつも一緒に遊んでいた。一緒にお風呂に入ったこともある。

 俺の意見で二人で外に飛び出しては迷子になって号泣したり、彼女の意見でおままごとをしてはその遊びの中で幸せな家庭を築いたり。

 側から見れば微笑ましいような日常を、幼い俺と彼女は送っていた。

 

 そんな二人は小学生になる。

 仲の良さは健在で、今までとなんら変わりなくいつも一緒に遊んでいた。幼い頃に比べて活発的になったせいで、よく門限を破って叱られたっけ。それでも懲りずに遊びに出かけていたことは今でも鮮明に覚えている。

 だが、そんな日々が続いたのは低学年までだった。

 学年が上がるにつれて徐々に交流は減っていき、それぞれが別の友達と遊ぶようになっていった。

 それでも会えば必ず言葉を交わしていたし、朝の通学路で一緒になれば足並みを揃えて登校したりした。

 やがて卒業を迎えた俺たちは、お互いの親と一緒に記念撮影をすることになった。

 澪とちゃんとした会話をしたのは、この時が最後だった。

 

 中学生になった。

 容姿も頭脳も優れていた彼女は瞬く間に人気者になった。他クラスである俺の教室でも彼女の人気は絶大で、事あるごとに男子連中が彼女の名前を話題に挙げた。

 そんな様子をただ眺めていた俺も、小学生の時に比べて成長した澪の身体つきに密かにドキッとしていたりして。話題になっていることを誇らしいと思う反面、何処か気まずさを感じていた。

 この頃から俺たちの間で交わされる会話はほとんどゼロ。思春期特有の恥ずかしさのせいで目を合わせることも、名前を呼ぶこともしなくなっていった。

 

 玄関先で鉢合わせても軽く会釈をするか「……オウ」とオットセイもびっくりな謎の言葉を発して終わり。通学路で姿を見かけようものなら、お互い気付いていない振りをしてさりげなくスピードを上げるような、そんな関係。

 いよいよ本格的に、取り返しがつかないほど疎遠になり始めている。その事に気付いていながらも、当時の俺は一度始めてしまった態度を変えることができなかった。

 

 そして、高校一年生の今に至る。

 

 俺は、澪のことが好きだ。

 幼少期の頃に抱いていた曖昧な好きではなく、異性として抱く『好き』。思えば、中学生の頃の俺の態度の根底には常にこの感情があった。そのせいで素直になれず、知らんぷりして、結局疎遠になってしまったのだ。

 今になれば後悔しか浮かばない。澪のことを想う反面、あまりに遅すぎるそれが重く肩にのしかかり、気がつけばこの感情を諦めようとしている自分がいた。

 

 ──澪は、こんな俺のことをどう思っているんだろう。

 

 まだ幼馴染として見てくれているのかな。

 もうただの他人なのかな。

 それとも俺のことなんか忘れてしまっているんだろうか。

 

 わからない。

 

 けれどそれがあまりいいものではないだろうという事は容易に想像できて、今日もため息が口から零れた。

 

 

 ●

 

 

「なあなあ、お前知ってるか?」

 

 高校に入学して約一ヶ月が経ったとある日の休憩時間。日直によって消されていく黒板の白文字をぼーっと眺めていると、俺の一つ前の席に座る友人が藪から棒に問いかけた。

 

「知ってるって何が?」

「因幡澪の噂だよ。ウチのクラスが誇る美少女の」

 

 因幡澪。まさかこいつの口からその名前が出て来るとは思っていなかったため、ドクンと心臓が跳ねた。

 黙っている俺の様子から知らないと判断したのか、そいつはその噂について話し出す。

 

「入学早々、因幡への告白が相次いだのはお前も知ってるだろ?」

「……ああ、うん。それは知ってる」

 

 むしろ知らない人の方が少ないだろう。中学の時からの恒例行事だ。頻繁に話す友人がこいつくらいしか居ない俺でも知っているんだから、この話題に関してはかなり有名だと言えた。

 その内容は今しがた言われた通り、入学直後に澪へと数多くの告白がされたというものだ。詳しい人物までは把握していないが、当の澪はこれら全てをバッサリ拒否。一連の流れはある種の伝説として密かに語られていた。

 

「で、なんでもその数がついに二桁まで登ったらしいんだよ」

「へー……ヘぇッ? 二桁!?」

「はっはっは、普通はそうなるわな。まだ高校生活始まって一ヶ月だぜ? とんでもない話だよな」

 

 二桁、二桁かぁ。大雑把に考えても一週間に二人以上が告白して、振られている計算になる。彼女が彼氏を作ったという話を聞かない以上、振ったという認識で間違いはないはずだ。

 まだ数件だった時は「ふ、ふーん。やっぱり澪ってモテるなー、ほーん」程度に考えるだけだったが、そこまで来るとただただ驚愕の感情しか湧いてこない。だが、同時に何処か納得している自分もいる訳で。

 

 ──そうだよなぁ、澪、かわいいもんなぁ。

 

 いや、美人と言うべきか。彼女は昔からクールっ気があったため、選ぶとすればこちらの方が的確だ。

 

 そこまで考えて、この気持ちが一方通行のものであることを思い出す。

 ふと、アイドルを推すファンってこんな気持ちなのかな、なんて思考が脳を過ぎった。凹む。

 

 自滅気味に密かに肩を沈めていると、教室のドアが開く。

 

「お。噂をすれば、だ」

 

 友人の声に目を向けると、そこには容姿端麗、頭脳明晰でクラスの人気者──兼、一応俺の幼馴染である因幡澪の姿があった。

 

 腰のあたりまで伸びるやや癖のついた水色の髪に、まるで陶磁器の様な白い肌。周囲に比べて少し高めの身長は彼女の凛とした雰囲気をより際立たせている。身に纏う黒を基調とした高校指定のブレザーも彼女の魅力を余すことなく引き立てていて、もう……なんて言っていいかわからないくらい似合っている。ヤバい。

 語彙力が何処かへ消え失せるくらい、因幡澪は誰が見ても満場一致の美少女だった。

 

 そんな彼女は数人の女子たちに声を掛けられながら席へ向かっていく。

 俺はその様子を頬杖をついて眺めていた。

 

「すげーよな。確かにあれなら告白件数二桁って言われても納得するよ」

「……な。まぁ本人は大変そうだけど」

「告る奴らも奴らだよな。自分の前は全員振られてるってわかってるのに突撃するあたり、尊敬するっつーか呆れるっつーか」

 

 完全に他人事としてこの話題を楽しむ友人に、「あんまり笑ってやるな」とツッコミを入れる。

 少なくとも散っていった彼らは行動に移した。恥ずかしい、なんて理由で言い訳をしていた俺とは違うのだ。まぁ、尊敬しているかと言われたらしてないけど。

 

 ぐだぐだと駄弁っていると、授業開始を告げるチャイムが鳴った。

 教室に入ってきた教師の顔で次の科目を認識し──宿題をやり忘れたことに気がついた俺は、夢の世界へ逃げることに決めたのだった。

 

 

 ●

 

 

 学校も終わり、帰り道。

 特に興味のある部活動がなかったため帰宅部を選択した俺は、一人静かに校門を出て帰路を辿っていた。

 春と言えどその夕日の角度は未だ浅く、路地を歩く俺を背後から照らす。自分の身長を影に越されたのを見て、ふと宙へ視線を彷徨わせた。

 

 ──何となく、寂しいもんだな。

 

 最近──いや、高校に入ってからこんな風に思う事が増えた気がする。

 家から近いという理由で入学して一ヶ月。多くはないが友人ができ、クラスの雰囲気にも慣れ始めた。学校は楽しいか、と訊かれれば間違いなく楽しいと答えられる自信はある。だけど……そうじゃない。

 

 充実さが足りていないのだ。

 そして、そう感じる原因に俺は心当たりしかなかった。

 

「……はぁ」

 

 無意識にため息が口をつく。

 俺の青春、このまま味気なく終わるのかなー……なんて考えて、そのジメジメした未来図を手でかき消した。

 やめろやめろ。全身の至る所からきのこが生えた自分なんて想像するな、俺。

 

 家の前に着いたため、鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込む。

 その間、俺の視線は隣の家へと向けられていた。

 

「……今頃何してんのかな」

 

 昔はよく遊びに行っていたその家の内装を思い出し、ぼそりと呟く。思いの外トーンの落ちた自分の声が、やけに鮮明に聞こえた気がした。

 どれくらいそのままでいただろう。ふと我に帰った俺は首を振って手にした鍵を握り直す。

 

 ええい、これもやめだやめ。女々しいぞ俺。

 

 気を取り直して自宅の玄関へと足を踏み出す。

 するとちょうどその時、コツコツという足音が俺の背後を通り過ぎて──隣の家の前で止まった。

 

「……え?」

 

 素っ頓狂な声が漏れると同時、凛とした瞳と視線が交わる。黄昏時に吹く春風が、彼女の水色の髪を揺らした。

 

 嗚呼、きっと今の俺は酷く可笑しな顔をしているんだろう。それは目の前の彼女の──澪の困惑を湛えた表情から何となく察することができた。

 

 ──どうしよ、これ。

 

 もう一度言おう。現実の幼馴染というのは、アニメや漫画で描かれるものとは大違いだ。

 実はずっと前から好きでした、なんてのはまずあり得ない。いやあって欲しいけど……ない。そういうものなのだ。

 

 でも、それでも──

 

「──オッ、ヨウ」

 

 あっダメだこれ。

 

 

 これは、俺が疎遠になった幼馴染と距離を縮めていくお話である。

 

 





次回から本格的にヒロイン登場 (予定)
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