回帰の刃   作:恒例行事

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鬼殺隊階級辛・不磨回帰

 一つ、頸を狩る。

 そうして日を置き、鴉が指定してきた場所へと向かう。それの繰り返しを既に一月ほど行って──鬼を殺した数が、十を突破した。それだけ殺しても、上弦の弐は愚か十二鬼月に関する情報すら出ない。

 

 数も大量に居る鬼の中でも選ばれた十二体──そう簡単に出てくるとは思わない。

 だが、こうも情報が少ないと現実感がない。そもそも鬼が群れる習性を持っていない、それどころか出会えば必ず殺し合うような仲だ。そんな連中が知っていたとしても、おとなしく教えるとは思えない。なればこそ。鴉の言う通り進んでいけば、いつか辿り着けるはずだ。

 殺す予定の鬼すら殺せば、いつかは十二鬼月以外居なくなる。

 

 そんな簡単な話ではない。話ではないが──そうする以外に道がないとも言える。

 ままならない物だ、夜が明けて日が差してきた山の中で俺は嘆息した。

 

 

 

 

『次は、北東(ホクトォ)! 北東(ホクトォ)! 北東(ホクトォ)だ!』

 

 そんな何度も言わなくたって分かるよ。

 そう告げると少し寂しそうにするので、わかった好きにすると良いと折れる。そんな喋れないくらいで落ち込むとは思わなかった。

 

 元気に俺の周りを飛び回る鴉に、いい加減不審者扱いされてもおかしくないと考えつつ歩く。山の中に居た鬼はそれなりに手強かった。具体的には、あの試験にいた憎き卑怯者と同じくらいには。今更負ける程弱くはない──いや。この言い方は良くない。真菰を侮辱している。

 経験をしたんだ。ただの雑魚鬼も、ちょっと強い鬼も戦った。幸い、まだ死んで無い。

 

 北東ならば、先日寄った街がある。

 鬼殺隊は政府非認可ではあるが、協力者はいる。藤の花の家紋を使用している家は、昔鬼殺隊の剣士に救われた経緯があり無償で協力してくれる。鬼を殺す、そう一心で願っていても体力や精神は疲弊していくものだ。だからこそ有難い。

 先日寄った街には、藤の花の家紋を掲げた家があった。そこで世話になったので、今回も泊まらせてもらう事にしよう。

 

 道を歩き、正午になる頃に街に到着した。

 この街は平和だ、そう思いながら歩く。鬼の脅威も無く、人々が一生懸命一日を生きている。それが堪らなく素晴らしいと思うし、愛おしいと思う。人の技や想いというのは受け継がれるモノで、何時迄も不朽ではない。それを俺たちが間接的に守れていると思うと──少しだけ誇らしく感じる。

 藤の花の家紋の家を目指し歩いて数分、先日と同じ様に扉を開け声をかける。失礼します、先日世話になった鬼殺隊の者ですが──と、話したところで気配に気がつく。

 濃密な気配。鬼とは違う、異質な空気が混じってる。二階──もしや、鬼殺隊の誰かか。ここまでの気配は感じた事はない。それこそ、槇寿郎程の気配は。

 

「お待たせしました、鬼殺の剣士様……あら。ご無沙汰しております」

 

 気が付けば目の前に女性がいた。つい先日世話をしてくれたまだ若さの残る女将。次の目的地に行くのに丁度半ば程でしたので、ご迷惑になりますが……。

 

「でしたら、此間と同じ部屋でもよろしいでしょうか? 今丁度別の剣士様もいらしていて……」

 

 勿論何処でも構いませんよ、そう告げてから女将の案内に着いて行く。それにしても、これほど濃密な気配。柱かそれに準ずる最高階級、(きのえ)に近いだろう。俺はまだ(みずのと)──手の甲に力を入れて、自身の階級を見る。つい先日知ったが、こうする事で自分の階級が更新されたりしているのを確認できるらしい。

 ぐぐぐ、と力を入れる。浮き上がってきた文字は(かのと)──おや。いつのまにか階級が上がっているな。まぁ、いいか。上弦の弐。いつか殺すのだ。柱で無くても、柱と同等の力が必要になる。

 

 ……都合が良いな。話を聞いてみるか。

 今ここに泊まっているもう一人──柱の方ですか? 

 前を歩く女将に問う。女将は歩く速度を緩ませずに俺に答える。

 

「とても身体の大きな人です。常に涙を流している、まるで僧の様な方でございました」

 

 それはまた、随分と特徴的だ。

 俺の知っている柱は、今はまだ一人。炎柱、煉獄槇寿郎のみ。他にも水や風はいるらしいが未だ会ったことはないし、そもそも呼吸の種類を覚えきれていない。基礎的な呼吸となる五つは覚えているが、派生となれば微妙だ。

 僧の様な人物であっても、鬼は殺す対象なのだろうか。とすれば、やはり鬼に救いなど無い。神仏であっても鬼を救えないのなら、一体鬼とは何なのだろうか。

 

 俺の部屋へと入り、女将の用意してくれた飯を食べる。

 ああ、やはり美味い。料理を上手に作るというのも並大抵の事ではない。少なくとも俺は作れない。俺に出来るのは鬼を殺す事だけだ。……そういえば、杏寿郎も言っていたな。守る事の、難しさ。

 人を、なにかを守るのは──とても難しい。真菰の一件以来、俺は守るという事がとても難しい物だと理解してしまった。理解させられてしまった。強くても、人を守らなければ意味がない。失ってから殺しましたでは、遅いのだ。

 鴉を部屋に呼ぶ。カァーカァーと鴉特有の声を出しながらも何か喋ろうとしているので、もうこいつらは叫ばなければ死ぬんだなと勝手に思う。

 それはおいておいて、なぁ鴉。お前は、俺をあの鬼の下に連れて行ってくれるのか? 

 

 ぐぁ? とよく分からない声を上げる鴉。

 頭を撫でてから、分かるわけないよなと一人笑う。次の鬼の場所へ、案内宜しくなと告げて出て行ってもらう。その流れで、外を見る。窓の外に広がる景色は美しく、街に夕暮れで出来た影が色彩の明暗を仕立てている。

 うつらうつらと、少しずつ眠気がやって来ているのを感じる。

 

「──剣士様。少々お時間よろしいでしょうか」

 

 襖の向こう側から声をかけられる。

 はい、構いませんよ──目を擦りつつ、眠気を覚ます。どうせ夜通し活動しているから眠いんだ。夜には眠れる。今の時間位は起きていよう。

 

「──……失礼……」

 

 襖を開いた先、座る女将の横に佇む一人の男性。

 大きな背丈に、目から溢れる涙。数珠を手に持ち、背中には広い羽織。着ている服は──俺と同じ。

 

 貴方が、先に泊まっていた方ですね。私は鬼殺隊階級辛、不磨。不磨回帰と申します。

 

「私は悲鳴嶼(ひめじま)行冥(ぎょうめい)。階級は甲の鬼殺隊士──此度は、北東に潜む鬼の討伐をしに来た。恐らく、同じではないかと思って声をかけた所存……」

 

 なぜずっと涙が出ているのだろう──理由は不明だが、何か深い理由でもあるのか。まあそれは置いておいて。

 甲……ということはやはり、実力は確かだ。少なくとも今の俺より強いし、屠ってきた鬼の質も違うだろう。

 

 丁寧にありがとうございます。仰る通り、私も北東の鬼を目指している途中でございます。ですが、悲鳴嶼殿は階級が甲との事。私との階級がかなり離れておりますが、何か理由があるのでしょうか。

 

「鎹鴉の指令は、お館様の指令。我々の前にも向かった隊士がいて、皆殺されてしまったと……話には聞いた」

 

 気が付けば部屋の中に入って俺の前に座る悲鳴嶼。

 まぁ、悪い人ではなさそうだ。甲にいるその実力の高さと、癖のある感じがなんとも言えないが。それにしても、中々一筋縄では行かなそうだな。

 多分、これまでで相対してきた鬼の中でも一番手強い。でなければ、甲なんて上の人間が来るとは思えない。

 

 そして、お館様──この鬼殺隊を取りまとめる組織の長。

 その人直々に発した指令を、鴉は伝えてる。つまり、俺が何を探しているのかも知っている可能性が高い。ならば、この指令にも意味があるのだろう。俺がいつか奴に辿り着くための、な。

 

 わかりました、悲鳴嶼殿。これまでの鬼とは格が違う可能性が高い、という事ですね。

 

「然り。血鬼術(けっきじゅつ)を、扱う可能性が高い」

 

 血鬼術──力をつけた鬼が目覚める特殊な力。その血に宿った能力で、個体によって差があるらしい。少なくとも、十二鬼月は全員備えているだろう。ならば、乗り越えなければならない。たとえどんな力を持っていたとしても。俺にだって、特殊な力はあるのだから。

 

 では、互いの事を知るべきですね。

 

「……そう、です。連携が、大事になる」

 

 私は、炎の呼吸を使用します。育手は現炎柱の煉獄槇寿郎、まだ血鬼術を使用する鬼との戦闘経験は──……ありません。

 邂逅した事ならばあるがな、そう内心考える。

 

「私は岩の呼吸──日輪刀は、このような形で戦っている」

 

 そう言って取り出した日輪刀は……なんというか。鎖鎌とは少し違うが、鉄球と斧が鎖で繋がっている。とても僧が使う武器ではないなと思いながらなんとか言葉を返す。

 凄く、特徴的ですね。その……とても逞しい感じがして。

 

「……故に、私は中距離の戦闘も可能。相手によっては、不磨回帰。君にお願いする事もある」

 

 それは任せていただきたい。私も鬼殺の剣士故──鬼と戦う覚悟は出来ています。

 たとえ血鬼術を使う鬼であったとしても、それは変わりません。私にも、命に代えてでもやり遂げなければならないことがある。

 

「……なるほど。お館様の、言う通りか……」

 

 ボソリと何かを呟く。鮮明には聞くことは出来なかったが別に変な事は言っていないだろうと当たりを付ける。

 手を合わせ、何かに祈るように呟く悲鳴嶼の考えていることはわからない。だが、これからも長い付き合いになるだろう──何故か、そんな予感がした。

 

 

 

 

 一夜休息し、山へと向かう。

 隣にいる悲鳴嶼はその腰に携えた特殊な日輪刀をジャラジャラと鳴らして歩いている。少し目立つな──というより、それは刀ではないのではないだろうか。憲兵に見つかっても没収されないかもしれない。

 そんなうまい話は無いだろうが、少なくとも俺のこのまさに刀、という形よりは疑われないだろうな。

 

 山へと入り、悲鳴嶼と別れる。どうやら他の隊士たちは集団で入って殺されたらしい──故に今度は単独で入る。そういう切り替えを行っているようだ。

 互いに気を付けよう、そう言葉を交わして俺は山を登った。

 山の中に入って行った隊士が居る筈だが、どこにも見当たらない。殺されてしまった。けれど、それは誰が伝えたのだろうか。鴉か? あり得なくはないな。

 

 進めば進むほど濃密な気配がする。嫌な空気だ──ほんの一瞬だけ視界が遮られる。天で輝く月の光がほんの少しだけ遮られたのだろうか。ならば──何が遮った? 

 刀に手を当て、いつでも抜刀できるように準備する。

 息を吸って、吐く。目を細く、暗闇の中でも揺らぎを見通せるように。

 

──全集中・炎の呼吸。

 

 息吹を捉えろ。見逃すな。その空気の境目に──鬼は居る。

 

 背後で、動いた気配。

 刀を振るい──俺の胸を、何かが貫いた。

 

 


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