対決するクラスが決まった翌日の昼休み。
特別試験の話し合いや対策が本日から始まり、その決め方はクラスによって変わる。
坂柳さん率いるAクラスは彼女の絶対王政で話が進み、その方針を決めていく。
一之瀬さん率いるCクラスは彼女を中心にクラスメイトから意見を募って話し合いを通じて試験の対策を組み立てていく。
堀北さん率いるDクラスは堀北さんと櫛田さんが坂柳さん、一之瀬さんの役割を果たしながら対策を進めていく。
そして、僕が率いるBクラスはDクラスと似た方針だ。
話し合いを開くことはしないが、僕を中心として重要人物たちと対策を立てる。
クラスメイトの得意不得意や能力値はクラスカースト上位達と石崎くんに纏めさせていて、僕は最終的なデータを見て種目を決めていく。
もっとも、種目の大半は決まっている。
確実な勝利をもたらせる種目がある場合に僕へ提案させるのは、ただの意思確認。採用はオモシロければするつもりだ。
「うまい! うまい! うまい!」
この煩いのは伊吹さん。
前の席に座る彼女は、現在弁当を夢中に頬張っている。
この弁当は僕が作ったものだ。
選挙ゲームにおける木下さんの監視の報酬として、彼女は一週間僕の手作りお弁当を所望したので約束を守った。
しかし残り一週間、目の前の席で喚かれるのは少々鬱陶しい。
「……なぁ、そんなに美味しいのか?」
「あげないよ!!」
同じく金田くんの監視として働いた園田くんが喧しい伊吹さんに思わず聞いていた。
伊吹さんは威嚇するように園田くんを睨み、弁当を両手で隠すように彼から遠ざける。
ちなみに、園田くんには5万ポイントを与えた。
欲しいものは新しいスパイク。彼はサッカー部であり、今まで使っていたものが丁度壊れたので、新しいものを買うポイントを補填しつつ、多めにポイントを与えた。
初めは10万ポイントを与えたのだが、流石に多すぎると慌てた様子で5万ポイントを返還してきた。
「おい、カムクラ」
昼食を食べ終え、やるべきことをするためクラスから離れようとした僕を、龍園くんが引き止める。
教室前の出入り口付近で旧リーダーと現リーダーの接触。クラスメイトは聞き耳を立て、様子を窺う。
「俺の種目は力でねじ伏せる種目にしろ。それ以外を選んだらわざと負けてやる」
一瞬で静まり返った空気など気にした様子もなく、龍園くんは余計な前振りなしでそう告げる。
どうやらリーダーを降りても、試験のシュミレーションは行っているようだ。
ただの駒として利用される気はないと、その睥睨が語っている。
「安心してください。種目の大半は肉体能力の強さや運動神経が高い生徒が優位になる種目で組むつもりです」
「大半だと? 他は何を入れるつもりだ」
「もちろん、学力テストなどの知能が必要なものを入れておきます」
「はっ、必要のねぇブラフだな」
「あなたがリーダーであったならばそうでしょう。しかし、僕がリーダーの場合はブラフではなく、どちらも成立します」
この学年で最も賢い生徒は僕だ。
それは1年間テストが満点だったことや特別試験の結果から各クラスでも知られている。
そんな僕がテストの対策をクラスメイトに施している可能性、それは付け焼刃の刃と見なせない。
実際に、ペーパーシャッフルは僕の指導によってDクラスに学力の競い合いで勝利を収めている。この事実がある以上、一之瀬さんたちは警戒を薄められない。
「……相変わらずムカつく野郎だ」
龍園くんは不満げな表情を浮かべた後、教室を出ていった。
そんな彼の背中を、アルベルトと石崎くんが追いかける。選挙ゲームでこっぴどく負けてなお、彼らは龍園くんの後をついていくことを決めたようだ。
付き合いや相性もあるだろうが、龍園くんのカリスマもある。僕という存在が台頭しているので、龍園くんについて行く2人は盲目的に追いかけている訳じゃない。
昼休みの時間は貴重。僕も教室から出ていき、目的地へ向かう。
もっとも、移動時間はないに等しい。何せ、目的地は隣の教室だ。
僕はノックもすることなく、隣の教室……Dクラスの扉を開いた。
出迎えは沢山の間抜けな表情。
それぞれのグループで昼食を取っている彼らの中に、目的の人物を探すが、それよりも先に目に入る人物が1人。
数メートルの距離間で向かい合わせる理由は、彼も丁度この扉から廊下に出ようと向かってきたから。
その鋭い目付きは敵意を孕んでいて、こちらを威嚇している。だが、その覇気は弱く、瀕死の生き物の必死の抵抗にしか見えなかった。
「無様ですね、平田洋介」
誰に対しても優しいクラスの優等生、そんなレッテルは見るも無残に剥がれていた。
理由は言うまでもなく投票試験の結果。山内春樹の退学は追い打ちをかけるように彼の気力を奪っていた。
「……どけ」
彼の言うことなど聞かず、僕は彼の方から退くことを待つ。
こんなツマラナイ人間の相手をする気はないが、目的の人物をこちらに向かわせるには一触即発の空気を作ることが手っ取り早い。
「敵陣に1人で何の用かしら?」
鈴のように響く意志ある声がDクラスに走る。一言で、全ての注目は堀北さんの方に収束した。
もはやこのクラスのリーダーとして疑いようのない立場を手にした。この場にいるDクラスの生徒は皆がリーダーとしての信頼を向けている。
僕の本題とは彼女へある提案をすること。
そのためにも、僕は席を立ち、こちらを見ている彼女の方へ進む。
真っすぐな瞳は、以前より強い眼差しを構成している。
素晴らしい変化。その心の強さは、まだまだ及ばないとはいえ
「知っていると思いますが、僕はBクラスのリーダーになりました」
「もちろん知っているわ。それで、そんなBクラスの新しいリーダーさんは挨拶をしに来た……だけじゃないのでしょう?」
要件を早く言えと不機嫌な表情が悠に語っている。
僕は揶揄うのを止めて本題に入る。
「はい。今回の特別試験に限り、僕はDクラスとの協力関係を提案します」
「協力関係、ね。具体的にはどのような協力をするつもりなのかしら?」
Dクラスの面々が驚く中、彼女は冷静に話の続きを促す。
内心では彼女も驚いているようだが、それを表情に出さず、リーダーとして堂々と言葉を交えていた。
「Aクラスから出された種目練習の手伝いと坂柳有栖の実力を引き出させないように動くことが主な協力です」
「後半の内容ならば手を組むことを前向きに考えてもいいわ」
練習の手伝いを拒否したのは、自クラスの情報が取られる可能性を危惧したのだろう。
「ちょ、ちょっと、堀北さん、そんな簡単に話を進めていいの?」
声をあげたのは、篠原さつき。以前松下さんや軽井沢さんと一緒にいた生徒だ。
「安心して。まだ協力するとは言っていない。ただ前向きに話をする、具体的な話し合いもこれからして判断する」
「で、でも……」
「あなたの心配ももっともね。正直、彼相手だと交渉を有利に運べるなんて己惚れてはいないつもりよ。でも……」
信頼できる自クラスのリーダーによる嘘偽りなく聞こえた不利の宣言。篠原さんはその言葉を疑うことなく鵜呑みにし、不安気な表情を浮かべる。
悪手。彼女は自分自身のカリスマを正確に分析できていないらしい。嘘を霞ませるその真っ直ぐな生き様と言葉は心が強い相手でなければ、誤解を生みかねない。
しかし、
「でも、もし上手くいったら……私たちがさらなるポイントを手に入れる可能性に繋がるかもしれない。そうでしょ、堀北さん?」
彼女の言動が浅いと推察した瞬間、それを否定するかのように櫛田さんが言葉を続けた。
「ど、どういうこと、櫛田さん?」
「つまり、メリットデメリットを見て、メリットが大きいから前向きに検討してもいいかもしれないってことじゃないかな。カムクラくんは龍園くんより得体のしれない相手……それが皆の共通認識で不安に思っちゃうけど、これまでの特別試験の結果から判断すると、本当に協力してくれた際の見返りは間違いなく期待できる」
櫛田さんは篠原さんの疑問に答え、自分たちのリーダーがしっかりと先を見ていることをクラスメイトへ暗に伝える。
僕の存在の大きさを利用した偽証。クラスの士気を下げないためだけに吐いた虚言、それは実に効果的だった。
大したものです。たかだか詐欺師の才能を持っただけの少女が、探偵の才能を持っているかのように偽証を扱い始めた。
「……そう言うことよ。危険は百も承知。けど、今のDクラスと他クラスのポイント差を考えると、どうしても無茶をしなくちゃいけない部分もある」
Dクラスの現在のクラスポイントは298.5、一之瀬さん率いるCクラスが961なので、その差は非常に大きい。
リスク承知で交渉に臨む姿勢は現状を誰よりも理解しているからに他ならない。
そして何より、このポイント差を理解して彼女は全く諦めた様子はない。
諦めて僕に接触してきた松下さんとの大きな違いはここであり、成長を続ける堀北さんとの差も徐々に大きくなっているだろう。
「待ってくれ、鈴音。いきなりこいつらを信用するのか? 今まで、それこそつい最近までストーカー染みたことまでされたクラスとの協力だなんて……」
話の方針が決まりつつある中、須藤くんが不安を口にする。
リーダー変更に伴う禍根。龍園くんのやり方は僕としては未知を見れる可能性が高いので構わないが、普通なら反感を買うもの。
不安が伝播し、Dクラスの生徒たちの表情を悪くしていく。
「あなたの考えは正しい。しかし、Bクラスの現状のリーダーは僕です。龍園翔のような卑劣な戦法を取るつもりはありません」
「……そんな言葉だけで信用できっかよ」
話を先に進めるため、僕の方から須藤くんに弁明する。
しかし、彼も議論に参加するのですね。入学当初の粗暴で非協力的な生徒とはとても思えない。
運動能力が秀でている不良だったはずが、自分の欠点を克服しようと努力していて、この発言によるクラスからの嫌悪感もない。
今はまだオモシロイとは言えない成長。優秀止まりなら興味は湧かないが、それ以上になるならば、Dクラスの総合力を計算し直す必要がありそうだ。
「意外ね。あなたたちのクラスからの協力となると、てっきり龍園くんのような手法を選択肢に入れると思っていたわ」
「僕には必要ありません。もっともあなたが望むのならば、彼がやっていたようにAクラスの生徒に圧力を与えても構いませんが」
「遠慮するわ。Dクラスには性に合わない策略よ」
プレッシャーを与えて試験本番まで圧力をかけ続ける、そんな嫌がらせはある程度の効果は見込めるだろう。
しかし、僕の才能があればそんなことをする必要はない。それに、龍園翔の手法は既に広まっているため、やられる側にもそれなりの耐性がついてきた。
期待している以上に効果がない可能性すらあるので、学校側からのリスクがあるこの手段は使わなくていい。
「一つ聞きたいわ。どうしてあなたは協力を持ち掛けたのかしら? Cクラスは対戦相手をBクラスに指名した。ただAクラスに勝ちたいだけならば直接対決すればいいのに、わざわざDクラスに協力を提案した。それはつまり、今のBクラスだけじゃ、Aクラスに直接対決で勝つのは難しいと判断したの?」
「いいえ。AクラスがDクラスに負ける……この事実が必要だから、僕は協力を提案しました」
「一番上のクラスが一番下のクラスに負けることで精神的なダメージを与えれることが狙い?」
「正解です」
「……本当にそれだけ? あなたにしてはあまりに普通すぎる理由、他の理由もあるんじゃないかしら?」
僕という存在を正しく認識できているからこその深読み。
根拠ない推論だが、僕を本気で打倒しようと考えた時、理屈で図ろうとするよりは正しいメスの入れ方です。
「クラス間のポイントを調整したいこと、そして坂柳さんには敗北してもらい、より成長して欲しいからです」
僕は嘘なく全てを教える。
本題とは坂柳さんの敗北、ひいてはクラス間のポイントの調整だ。
まずはDクラスの今後の指揮を上げるため、勝利というカンフル剤で成長の軌道に乗せる。
これによって、クラス間のポイントが縮まり、競争の激化を狙える。
次に坂柳さんのプライドをへし折る。
僕では駄目だ。僕は彼女にとっての理想の天才、負けても仕方ないと割り切ってしまう。
だから、堀北さんと綾小路くんにその役目を担ってもらう。
「相変わらず、合理性の全くない行動理由。ふざけているわ」
もちろん、わざわざ堂々と協力宣言するのは彼女と明確に敵対するためでもある。
彼女は僕に甘すぎる。
僕を自身の理想と重ねていることは明らかで、愚かにも僕を『本物』の天才と呼ぶ。
初めてチェスを打った時はその憧れは少なく、僕も才能を使用して迎え撃った。
しかし、今はもう情が移りすぎている。
彼女は切り替えができる人間だ。僕と戦うとなれば、全力で戦える。
だが、その全力は心の奥底にある無自覚な淡い心によって、本来の実力には到底及ばない。
当然、その先の力も引き出せない。
それではツマラナイ。
憧れが邪魔してるというならば、その憧れは徹底的に壊しましょう。
丁度良い機会。ここらで彼女は知る必要がある。
彼女の思想において────僕は存在してはいけない生物に他ならないことを。
これも全ては予想のできない未来のため。
絶望させる気はない。だが、彼女の成長のためなら、僕は悪魔になろう。
「あなた、一体何が目的なの?」
思考を纏め終え、堀北さんとの会話に集中する。
「昨日も言った通りです。目的は舞台を整えることです」
「舞台を、整える。そして、クラス間のポイントの……、調整……」
無数に広がる言霊の中からノイズを弾き、耳に残ったキーワードから矛盾点がないかを確認。
そして、その組み合わせから新しい発想を閃こうとする姿勢は頼もしく見える。
「……ッ!? ま、まさかあなた、Dクラスと他クラスとの差を埋めて、競争の激化を促すために協力するつもりなの?」
意外ですね。この短い時間でこちらの狙いに気付きますか。
自信が付いたことによる彼女の成長は目を見張るものがある。感心の対価に、僕は正直に狙いを話す。
「はい。今回の勝利でDクラスには勢いに乗ってください」
「わ、訳が分からない。クラスに勝利をもたらし、Aクラスへ導くことがリーダーの役目よ。それなのに、あなたは他クラスや他者の成長を優先するなんて……」
「自クラスと自分の利益を優先できない人は何か裏があると疑ってしまい、信用できないと?」
彼女の口にしようとした言葉を代わりに伝える。
心を読まれたことに怒りを覚えたようだが、すぐに呼吸を整えて落ち着きを取り戻す。
以前ならば感情を顕わにしていた場面でも感情のコントロールができている。なるほど、櫛田桔梗との関係性修復はここまで大きな成長曲線を描かせましたか。
「……そうよ。協力のメリットは理解したけど、信用が足りてない以上、まだ手は結べない」
「勘違いを1つ正しておきましょう。僕は自クラスと自分の利益を優先した上でこの協力を持ち掛けています」
「Cクラスへの指名がそうだと言いたいのかしら? 総合力がものをいうこの手の試験で一之瀬さんが率いるCクラスは強敵。確実な勝利を手にするのはBクラスでも難しいはずよ」
「想定が少し甘い。今のBクラスを率いているのは、龍園翔ではなく僕です。集団を率いる者が変われば、その性質もまた変化する」
「リーダーがあなたになったBクラスならば、確実に勝てると?」
「相手にすらなりません」
それが出鱈目でないことは、先の混合合宿で露呈している。
リーダーが変わっただけで、集団の纏まり方やその質が変わっただけでなく、手に入れたクラスポイントの量も違う。
そこに、南雲雅の生徒会長降板に一枚噛んでいる情報が加われば、誰も僕の実力を疑う者はいない。
「相変わらず、傲慢な言葉ね。でも、あなたが協力してくれるなら心強く感じるわ。実際、どうやって坂柳さんの実力をひきださせないというのかしら?」
彼女は協力の対価の具体性を聞いてくる。
僕は彼女に耳を貸すように手振りで伝えれば、彼女は近寄ってきてくれる。
このことは個人的な情報もあるので、わざわざDクラス全員に伝える必要はない。
「彼女は僕へ特別な感情を持っています。それが間違いだっと気付かせてあげれば、彼女は試験本番で本調子じゃなくなります」
「……あなた、最低ね」
引き攣った表情とともに、堀北さんは僕から距離を取った。
「それでも、確実性はあるでしょう?」
「……まぁ、普段よりは実力が発揮できなくなるのでしょうね」
恋愛感情に疎い堀北さんは曖昧に肯定する。
この後、この対価で手を取るべきか櫛田さんに相談するのだろう。櫛田さんはこの手の話題に強い、かつ堀北さんを弄れる機会に恵まれて機嫌が良くなりますね。
「最後の質問よ、協力の対価は何かしら?」
「ありません。強いて言うのならば、Aクラスに勝利することです」
「……膨大なプライベートポイントは徴収しなくていいのかしら? 無人島試験でAクラスにした時のように、横暴な契約を用意していると思ったのだけれど」
「2000万プライベートポイントを回収する宛が僕にはあるので不要です」
あえて挑発するのはAクラスとの契約、その信用度の確認だろう。
しかし、その情報は既に僕にとってどうでもいい。
「話し合いは以上です。好意的な返事を期待します」
交渉が終わったので、僕は堀北さんに背を向ける。
平田洋介の姿がないことは気配から分かっていたが、やはりツマラナイ。
少し話し込んでしまったため、昼休みも残り僅か。
協力関係を結ぶかどうかはチャットで送ってもらう。連絡先は以前ショッピングモールであった時に交換済みだ。
平田は原作通りに意気消沈ですが、原作よりかは荒れていません。
「堀北、ちょっと黙れよ」というセリフも櫛田にパクられて暴れられなかったので、傍から見たらショックで超気落ちしちゃった人って感じ。
そして、ついにやってきました。これで私も坂柳をイジメられます。
選挙ゲームの影響でクラスのリーダーとなったカムさん。リーダーとなったからには勝つために動くのですが、目的のためには相変わらず手段は選んでない。
堀北⇒かつてはコンパスぶっ刺す人。頭齧るインデックスよりリアルだからヤバさが際立つ。
でも、今はDクラスのリーダー。まだリーダーとして未熟な場面はあれど、それを支えてくれる仲間がいることを理解し、その期待に応えようとする意志も彼女の原動力となりつつある。兄は超高校級の生徒会長であり、シスコン。