ようこそ才能至上主義の教室へ   作:ディメラ

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探索

 

 

 無人島における特別試験も4日目を迎えた。7日間あるこの試験もとうとう折り返しだ。

 さすがに3日も経過したので他クラスにも多少の変化が見られる頃だろう。

 四方八方を森に囲まれたDクラスのキャンプ場を照らす太陽を見上げながら、オレはそう思索する。

 今の所ミスはない。Dクラスが昨日の昼頃に殆どリタイアしたことも、使わなくなった男子用テント1つをBクラスへと渡したことも間違いではない。

 そして昨日の夕方、海岸に船が止まっていた(・・・・・・・・・・・・)のも視認している。

 Dクラスのリタイアは昨日の昼頃。つまり夕方にリタイアしたのは他クラスの生徒。

 どのクラスの生徒がリタイアしたかまでは遠くて確認はできなかったが、他クラスの誰かがリタイアしたことさえ踏まえていれば問題ないだろう。

 そんな諸々を考慮しながら、オレは1つしかない男子用のテントの中に入っていく。

 

 ……ああ、広いなぁ。

 内部を見回したオレの率直な感想はこれだ。

 8人用のテントを4人の男子で過ごす。空いているスペースに4人分の荷物を置くと、テント1つだけで実質的な簡易拠点になっている。

 次に感じたのは、楽になったもんだなぁだ。

 一之瀬から教えて貰ったテントの下にビニールを大量に敷く使い方。その効果もあって、快適とまでいかないが十分に質の良い睡眠は取れた。

 それに昨日までキャパオーバーの人数が寝ていて蒸し暑かったテントも今では普通に過ごしやすい。

 

「おはよう綾小路くん」

 

「おはよう平田」

 

 平田が上半身を起こしながら挨拶してきた。

 まだ眠気が残っていて半開きだったオレの瞼は、キラキライケメンスマイルによって完全に開く。

 

「オレは昨日より快眠だが、そっちはどうだ?」

 

「僕も同感かな。なにしろ昨日までギュウギュウに詰められてキツかったからね」

 

 はは、と平田は苦笑いを溢しながらそう言った。さすがの平田もあれには参っていたようだ。

 

「綾小路くん、まだ水滴が残ってるよ」

 

 平田はとんとんと自身の顔をつつき、その場所を伝えてきた。

 

「ああ……すまない」

 

「気にしなくていいよ」

 

 顔の拭き方が不味かったようだ。オレは少しだけ恥ずかしさが頭に過ぎったが、すぐにやるべきことを思い出す。

 オレは『アヤノコウジ キヨタカ』と書かれているカードをポケットから取り出す。

 リーダーである堀北がリタイアしたことにより、必然的にリーダーが変更された。

 堀北の後任がオレだ。彼女と行動を共にしていたという功績?によって満場一致で推薦された。

 オレは、取り出したカードを平田に渡した(・・・・・・)

 

「ありがとう。今は僕が管理しておく時間だから、油断しないよ」

 

 単純な方法だが、これが1番効果的だろう。

 一定時間毎に、カードをローテーションする。今出来る『防御』だ。

 

「うぁ〜……なんだもう起きてたのか?」

 

「ああ、お前が3番目だな───須藤」

 

 須藤(すどう) (けん)

 バスケ部に所属するDクラスの生徒であり、堀北を除けばこの学校で1番話してるだろう男子生徒。

 

「ビリじゃねえから俺の勝ちだな」

 

「……勝ち負けなんかないぞ」

 

 大きな欠伸をして起きた須藤は、背中をボリボリと掻きながら冗談を言う。

 そして大きく身体を伸ばした後に立ち上がって、彼の隣で未だに眠っている最後の一人、池の方へと視線を動かす。

 

「おい平田、綾小路。見てみろよ寛治の顔。すっげぇ間抜け面」

 

 ちょっと気になってしまったオレは平田と一緒にそそくさと行動に移す。須藤の横に行き、池の顔を覗くと、確かに納得がいった。

 開いた口の端から涎を垂らして眠る池。今頃彼の精神は、たいそう楽しい夢の中なのだろう。

 

「あはは。池くん、随分と疲れが溜まってたみたいだね」

 

「そうだな。清々しいくらいの熟睡だと思う」

 

 オレは困った顔で笑う平田に同感した。

 だがそろそろ、池を起こさねば行動に移せない。

 その旨を須藤に伝えると、任せろという頼もしい声で彼は応え、池の肩へと手を伸ばした。

 

「──く、櫛田ちゃん!」

 

「おわぁ!」

 

 須藤が肩を掴んだ瞬間、池は櫛田の名前を叫んで勢いよく起き上がった。

 あまりに唐突な池の挙動に、須藤は1歩下がり、目を見張って立ち往生する。

 

「んぁ?……なんだ健か。おはよう」

 

「なんだとはなんだ寛治。こちとらお前のせいで驚いちまったじゃねえか」

 

 そう言うと、須藤は寝ぼけている池へと近付き、ヘッドロックを掛けた。

 とはいっても軽くであり、ほんのじゃれあってる程度の締め方だ。

 

「お、おい!なんで朝からこんな目に遭ってるんだよ!助けてくれ平田、綾小路!」

 

「あはは、須藤くんそろそろ止めてあげて。時間も時間だしね」

 

「ん?それもそうだな」

 

 須藤は池のヘッドロックを解除し、胡座をかく。

 それに続いてオレと平田も腰を下ろした。遅れながら池も座る姿勢を作る。

 

「じゃあ早速、今日からの方針を決めよう」

 

 平田は在り来りな切り出しで会議を始める。

 

「まずは昨日話し合った役割を再確認しようか。

 池くんと須藤くんは食料の確保を。覚えているね?」

 

「あったり前だろ!」

 

「おうよ!運ぶのは任せとけ」

 

 2人とも気合いの入った様子で返事した。

 

「僕と綾小路くんは敵リーダーの詮索を。その際、須藤くんか池くんがカードを持つこと。

 そしてスポット占有の更新には必ず4人で集まること。以上だよ」

 

 確認事項を挙げ終えた平田は、オレたちと顔を見合わせていく。

 全員が飲み込めた表情で見返すと、平田は頷き、本題へ移った。

 

「じゃあ今日は分けた役割に無理がないかの確認、そしてその調整だね。

 昼頃に1度と緊急事態が起きたら4人で集まる、それで良いかな?」

 

 OKだ、と3人の返事がハモる。

 

「よし!早速行動に移そう!」

 

 平田の号令を合図に、平田とオレ、池と須藤、と予定通りのペアで分かれた。

 そして平田と調査に向かう中、オレは歩きながら話を切り出す。

 

「平田、お前に伝えたいことがある」

 

「何かな?」

 

「昨日の夕方、集合場所に“船”が止まっていた」

 

 オレが今朝見たことを簡潔に報告すると、平田は立ち止まって顔を険しくする。

 

「……つまり、Dクラスの他にリタイアした生徒がいるってことだね?」

 

「ああ。誰がリタイアしたかまでは分からないが、他クラスにも動きがあったんだろう」

 

「油断できないね。僕たちも気を引き締めなきゃ」

 

「そうだな」

 

 そこで会話を切り、オレたちは移動を再開した。

 オレたちは自身の役目を果たすための行動を開始した。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

「平田、そろそろAクラスの拠点近くだ」

 

「分かったよ」

 

 オレと平田はAクラスの拠点付近へと移動した。

 堀北と調査したAクラスは、洞窟を拠点にしていた。なので彼らの活動範囲はその周辺だろう。

 森の中を彷徨い歩き、それでも前に進んでいると波の音が微かに聞こえてきた。

 オレと平田は頷き合うと、邪魔な枝葉を掻き分けながら、波音を頼りに突き進む。

 そして海岸へと出ることに成功した。

 

「綾小路くん。下、気を付けて」

 

「……みたいだな」

 

 平田の注意で足元を見たオレは、慎重に止まる。森を抜けた先は滑りやすい崖だったからだ。

 視界には海岸が映っているが、目の前は崖。どうにかして下に行ける手段はないのかとオレは辺りを見渡す。

 平田も同じように迂回ルートを探す。見当たらなかったためか、今度は崖に沿って歩き始めた。はぐれないようにオレも後に続く。

 

「……これは」

 

 何かを見つけたのか、平田が声を発する。

 

「ハシゴだな」

 

「……やっぱりこの島は管理が行き届いてるんだね。これがあるって事は……」

 

「ああ。この先に何かがあるんだろうな」

 

 そこで会話を止め、オレたちはハシゴを使い崖の下へと降りる。

 降りてからも探索を続けると、程なくして小さい小屋を見つける。

 小屋の入り口にはスポットである証の装置が取り付けられていた。

 

「中には釣り道具とかが見えるよ。どうやらここを占有すると釣り関係の無駄なポイントを抑えられるみたいだね」

 

「みたいだな」

 

 占有する機械の元へと近付く。そして占有の有無を確認すると……Aクラスの文字が記されていた。

 

「……先を急ごう平田」

 

「そうだね。ここには交渉の余地もないし、それが正しいと思う。でも次の宛はあるのかい?」

 

「ああ、確か向こうに塔があったはずだ」

 

 船が島を旋回していた時に覚えた記憶を頼りにして歩き始めた。

 ハシゴを登り、再び森の中へ。周囲や地面につく足跡を追うように進んでいく。

 やがて高台のある場所へと辿り着いた。

 備え付けられたハシゴを登れば浜辺を一望出来そうだが、それほど役に立つ施設にも見えない。

 辺りは木々と茂み。隠れた誰かに見られていてもおかしくない場所だ。

 

「綾小路くん、あれ……」

 

 平田はオレにそう言ってあるものに指差した。

 その先には壁に設置されたスポット占有の装置があった。

 オレたちは占有の有無を確認するために近付く。

 しかし数歩進んですぐに、オレは平田に止まるよう手で制した。

 高台付近の茂みがガサガサと動いたからだ。

 

「おやおや〜、何しようとしてるのかな?」

 

 こちらに話しかけてきた金髪オールバックで高身長な男子を筆頭に、3人の男子生徒が現れた。

 まるで待ち構えていたようなタイミングで現れた3人は、オレたちの進行方向に立ち塞がった。

 

 ───オレはその行動に、なんらかの“焦り”を隠しているなと分析する。

 予め待ち構えていたというより何かを隠すために出ざるを得なかったように見えた。

 

「ん?よく見たらDクラスの平田くんじゃんかよ」

 

「久しぶりだね。橋本くん、暴力事件の時以来だね」

 

 どうやら金髪の彼は橋本という名前らしい。2人は顔見知りのようだ。

 

「平田、知ってる奴なのか?」

 

 オレは平田にそう耳打ちをする。同時に日陰者のオレにも説明をくれと願った。

 

「彼は橋本 正義くん。暴力事件の時に協力してくれる姿勢を見せてくれたAクラスの生徒だよ」

 

 ニコリと微笑む平田に心の中で感謝する。他2人は平田も知らないようで説明はなかった。

 

「で、隣のキミは?」

 

「……オレは綾小路だ」

 

 オレは橋本からの突然の振りにビクリとしながらも、自分の名前を答えた。

 

「綾小路ね。……それで平田に綾小路よ〜、ここに何の用かな?」

 

「そこにあるスポットに用があったんだよ」

 

「ほー、でもそいつはダメだな。ここはAクラスが占有しているからさ、中を見せる訳には行かないんだよねこれが」

 

 人当たりの良い笑顔で橋本はオレたちに告げる。

 

「それはおかしな話だね橋本くん。どこのクラスが占有しているかを確認するくらいならルール上問題ない訳だけど」

 

 こちらは人当たりの良いイケメンスマイルでそう返した。

 

「確かにそうなんだけどね。これが今回のAクラスの方針って訳なんだよ。

 多少強引でも絶対防御を貫くっていうね。悪いけどオレたちはここを退く気はない」

 

「それはつまり、見られたら困る“なにか”がそこにあるってことでいいのかな?」

 

「そういう事、オレたちはそれをこうやって肉壁で守っている。突破してみるか?」

 

 橋本はやや挑発した様子でそう言う。

 そこに何かがあるとわかっていても手を出せない。何だかむず痒い感覚だ。

 

「……いや、止めとくよ。他クラスに暴力を振るうことはルール違反だからね」

 

「賢い判断だ。さすがDクラスの王子様、話が通じて助かるよ」

 

 少々強引だが、さすがはAクラスの生徒だな。Dクラスにこのような強気な行動をできる生徒が果たして何人いるだろうか。

 そんなことを考えていると、平田が鋭い刃のような情報を公開する。

 

「でもらしくないやり方じゃないかな、橋本くん?だってキミは『坂柳さん』派の人間じゃないか」

 

 その名前を聞いた橋本は一瞬だけピクリと身体が硬直していた。

 ──坂柳。葛城と対抗するAクラスの2大巨頭の内の一方。

 非常に好戦的な生徒だという噂は聞いたことがある。

 その噂を鵜呑みにすれば、葛城とは真反対の人間なのだろう。葛城は石橋を叩いて進む慎重な人間。

 1日目に佐倉と見た時や、2日目に堀北と対面した時からもそれは正しい。

 橋本が坂柳派の人間なら、こんな守りを重視した策に興じるのは確かにおかしいと言えるだろう。

 

「確かにオレは坂柳派の人間だけど、今回あの人は不在。だから仕方なく葛城なんかの策に従っているんだよ」

 

「なるほどね。確かに坂柳さんは先天性疾患があるから参加出来ないのは仕方ないね」

 

 身体に関する病気がある坂柳という生徒。確かにこんなに過酷な試練を乗り越えるのは困難を極めるだろう。

 

「まぁそんな事より、オレたちももう1個聞きたいことがあるんだよね。なぁ平田、綾小路……誰がリーダーなんだ?」

 

「……随分と直球だね。それを言うとでも?」

 

「いやいや全く、あえて数人にすることで結束を高めたクラスから情報が漏洩するとは思ってないさ」

 

 ニヤリと怪しく笑いながら橋本は告げる。お前らがリタイアして数人残ってるのは既に把握しているということを暗に告げている。

 なるほど。侮れない相手のようだ。

 

「でも平田に綾小路よ。もしリーダーを教えれば、100万プライベートポイントが手に入るというのならどうする?」

 

「それはクラスをお金で売れということかな?」

 

「ああ、そう言った」

 

 金に目が眩んで仲間を売る。常套手段とも言えるこの手法は、毎月のプライベートポイントが多いAクラスならば簡単に出来る策だ。

 

「どうも信じられないな。金を渡すってのは試験が終わった後だろうけど保証がないな」

 

 平田の代わりにオレが応対する。当たり前の疑問を聞くことで会話を繋ぐ。

 

「安心しろよ。もちろんその趣の念書は書く」

 

「信用出来る人が立ち会いに来てくれるのか?葛城やそれこそ坂柳が」

 

「ああ、坂柳さんなら当たり前のようにしてくれるさ。だがその契約をしたいなら葛城はやめときな。あいつは面倒だからな」

 

 少しの不満を抑えながら、余裕の笑みを浮かべる橋本。ボロを全く出さないこいつの会話能力は優秀だとオレは理解した。

 

「綾小路くん、そろそろ集合時間が」

 

「……そうだな」

 

 平田にそう言われ、左手にある腕時計を確認すると既に正午が近づいていた。

 すぐにでも須藤や池たちの元へ戻らなければ、遅れる可能性がある頃合いだ。

 

「そろそろ時間か?」

 

 橋本は気遣うようにこちらへ聞いてくる。

 

「うん。気を遣わせてゴメンね橋本くん」

 

「気にすんな。こっちも強引で悪かったな。気を付けて戻ってくれ」

 

 そう言い終えると、オレたちはAクラスの3人に背を向け、ベースキャンプへの道を歩き始めた。

 しかし哀れだな。オレの鍛えられた視力は彼らが必死に隠そうとした事実を捉えていた。

 

「平田、先に戻っていてくれないか?」

 

「え?急にどうしたんだい?」

 

「気になることがあるんだ。頼む」

 

「……分かった。何か意図があるなら僕は君を信じるよ」

 

 笑って頷いてくれた平田を見送り、オレは先程の場所へと踵を返す。

 気配を殺し、茂みの中に隠れるように移動する。

 

 オレはスポット占有をしているクラスがAクラスではなく、「Cクラス」だというのを視認していた。

 ───そしてその更新時間が“分単位”でしか経過してないということも。

 これはつまり、先程あの近くには更新した人間がまだいたということ。

 彼らが焦ったように現れたのも更新したCクラスのリーダーの身を隠すためだろう。

 

 これでAとCが完全協力体制を組んでることが把握出来た。

 それに先程の言動から、奴らはCクラスが残っているということをDクラスにまだバレていないと思っている。

 

 それは油断だ。このまま向こうが誤認をすれば、オレが既に知っているAクラスのリーダーが替わる確率はかなり低くなる。

 ……いや、ポイント譲渡の情報を提供した張本人が助言していればその話は別か。

 あの情報を提供した男が譲渡の有用性に気付いていないはずがない。

 奴が残っているかどうかから確認しなくてはな。

 まぁいい、ともかく収穫はあった。さらなる情報を集めよう。

 

 

 

 

 

 

 

「行ったな」

 

 Dクラスの生徒である綾小路と平田が去ったのを見送ったAクラスの集団からそんな言葉が漏れる。

 その言葉を発したAクラスの生徒は念入りに辺りを見渡した後、他の2人のAクラスの生徒へ見張りをするよう指示を飛ばした。

 

「……さてと」

 

 男は周囲に人影がいなくなると、首に手を当て、やれやれといった仕草で自身の頭を撫でる。

 そんなAクラスの男子生徒の名は橋本 正義。

 Aクラスのリーダー格である坂柳 有栖の側近だ。

 

「これでおっけーかな?」

 

 橋本は誰もいないはずの茂みの方に向かってそう呼びかける。

 すると、茂みはガサガサと不自然に動き始める。

 そして2度3度とその音が繰り返されると、茂みの中からボロボロな格好をした2人が現れた。

 1人は、獰猛な肉食獣のような強い瞳を持つ男。もう1人は、その人物の後ろで小動物のように縮こまっている男。

 

 

「クク、じゃあ話の続きといこうじゃねえか」

 

 

 ボロボロの男、龍園 翔は不敵な笑みを見せながらそう告げた。

 

「だがまあ、これ以上長居する気はねえ。だから手短に終わらせるぞ」

 

「答えはもう出てるさ。こちらの要求を呑んでくれるならな」

 

「狸……いや蝙蝠か。クク、だが今回はそのゴミみたいな性質に感謝してやるよ」

 

「最上の褒め言葉として受け取っておこう」

 

 龍園と橋本。両者は食えない笑みを浮かべながら会話を行う。

 全く友好的に見えない2人の関係。どこか不気味さが漂っているその空間に、もう1人の生徒は身を震えさせていた。

 

「……ん?そういえば、確か“もう1人”護衛がいなかったか?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

 龍園はチラリとだけ傍らの生徒に目配せする。

 それだけで、もう1人のCクラスの生徒はビクリと身体を揺らす。

 何も言うな、その視線にはこの言葉が込められていることが簡単に読み取れた。

 

「……まぁ、そっちの事情なんてどうでもいいか。それより話を纏めよう」

 

「良いだろう」

 

 2人の強い視線が交わり、会話は再び始まった。

 

「オレの要求は初めから1つ。ポイント徴収を一部変更して欲しい。

 具体的にはオレと坂柳さん、神室、そして鬼頭。この4人からの徴収の取りやめだ。

 その代わり───今回オレは、Aクラスを裏切るような行為をしないと誓おう」

 

「それでいい。オレはお前ら4人からの徴収を免除しよう。

 クク、坂柳の指示を受けていたのがお前だったのはこちらも運が良い。

 あっちの強気女だと……ここまで簡単に終わらなかっただろうからな」

 

「……おーおー怖いねぇ。容赦がなさそうだ」

 

 嗜虐心。龍園の笑顔からはそう読み取れるものが現れている。

 彼が信じる分かりやすい武器の事も考慮するに、もしこの盤外契約にごねていたらどうなっていたかなど想像に容易い。

 加えて彼は性別による手加減などしないだろう。

 橋本はそれを感じ取り、少しだけ身震いをした。

 

「くれぐれも頼むぜ。オレも立場が多少危うくなるんだ。しっかりとした成功を───」

 

「───誰にもの言ってやがる。今回の計画に失敗はねえ」

 

 

 言葉を被せた龍園。彼はその言葉を最後に、部下を連れてこの場を去っていった。

 

 

 ─────────────────────

 

 

 Aクラスの生徒たちとの対面を終えたオレと平田はベースキャンプへと戻った。

 戻ると池と須藤が取ってきたであろう食材を用意して待っていた。

 オレたちが来るのを待ちくたびれていた様子だったので、すぐに食事を開始した。

 

「大量だぜ平田!これなら今日の夜は食料を確保する必要がないと思う!」

 

 池は大きな声で嬉しそうにそう言う。

 

「まっ、高い所にある木の実を取ったのは俺だけどな」

 

「俺だってペットボトルに水確保したさ!」

 

 須藤と池が謎の張合いを見せる。平田はその光景を見て優しく微笑む。

 

「今日の夜の分がいらないってことは、4人でリーダー当ての方に行けるってことだね。2人ともさすがだよ」

 

「あ、当たり前だっていったろ!」

 

「そうだぜ平田。これくらい鈴音の……Dクラスのためだ」

 

 平田の純粋な褒めに2人は有頂天になっていた。というか須藤、今本音漏れたよな?

 

「おお!いたいた!」

 

 オレたちが雑談しながら、木の実や野菜、魚などを食べていると聞きやすく高い声が聞こえてきた。

 オレたち4人ともその声が聞こえた方に振り向く。

 木の陰にいたのは協力体制下にあるBクラスの生徒、一之瀬と神崎がいた。

 手を大きく振っている一之瀬。それに釣られるように彼女の胸も揺れていた。

 

「お、お、お、おおっ!」

 

「……露骨すぎるぞ寛治」

 

「グエッ」

 

 鼻息が荒くなり、吃った声を出す池の頭に須藤はチョップを加える。

 これにはさすがの平田も苦笑いだ。

 その後、一之瀬と神崎はこちらに近付いてきた。

 

「ん?……池くん、だよね?どうしたの?」

 

「い、いや何でもないよ。それより2人とも何の用かな?」

 

 池ではなく、苦笑いを浮かべたままの平田が誤魔化そうと答えた。

 神崎はある程度の事情を察した様子を見せる。が、時間を無駄にしたくないのか黙っている。

 

「?……まぁいっか。用ってのはテントのお礼と上手くやっていけてるかなっていう確認だよ」

 

「テントのお礼は気にしなくていいよ。4人の僕たちには広すぎるからさ。無駄使いにならないよう最善の手を行っただけだよ」

 

「ううん。テントで眠りたい女の子たちもいたから好評だったんだよ。だから本当に、ありがとうね」

 

 一之瀬は優しく微笑みながら、お礼を告げる。その言葉に池は心臓を抑え始めた。

 

「うっ、うっ、オレは桔梗ちゃん一筋だ」

 

「……何と戦ってんだよお前」

 

 呆れた表情を浮かべる須藤。彼の意見にオレも全面的に同意だ。

 まぁ、言動がやかましい池は放っておき、話を続けようか。

 

「それで平田、リーダー当ての方は上手くいってるのか?」

 

「まあまあかな。さっきAクラスを偵察しにいったけど得るものはあったよ」

 

 クールに言う神崎と微笑みながら言う平田。別種のイケメンたちは話を続けていく。

 

「何か分かったのか?」

 

「CクラスとAクラスが組んでいる事が分かったんだよ」

 

「……何か証拠でも見つけたのか?」

 

「うん。綾小路くんのおかげでね」

 

 平田は笑顔でそう言うと、Aクラスと接触した際の事を神崎と一之瀬、そして須藤と池にも説明した。

 

「お手柄じゃねえか綾小路!」

 

「……目が良かっただけなんだがな」

 

 自慢出来るようなものでもないので、オレは吐き捨てるようにそう言った。

 

「でもこれで1歩前に進めたね。前進前進!」

 

「……そうだな」

 

 一之瀬はニコニコとした笑みを浮かべながら、両手でガッツポーズをしてそう告げる。

 可愛い。うん、確かに池がああなるのも少し納得だな。

 

「さてと、そろそろ私たちは帰るね」

 

「そうだな。クラスの奴らに任せっぱなしなのはさすがに悪い」

 

 一之瀬と神崎はそう言い、この場に背を向け、歩き始めた。

 

「くそ〜やっぱりイケメンか〜。神崎は一之瀬ちゃんと付き合ってるんだろうな」

 

「まぁ、お似合いな気がするがな」

 

 オレも須藤の意見に賛成だな。確かにお似合いだ。

 池は目から血が出そうなほど去っていく神崎を睨んでいるが、神崎はそんな鼻につくような性格じゃないし妬むことないと思う。

 

「さて、じゃあ僕たちもそろそろ準備を始めようか。他クラスに負けてられないからね」

 

 立ち上がった平田は食べた食材の片付けをしながら、リーダー当ての準備を始めようとオレたちを鼓舞する。

 池と須藤もやる気十分といった返事を平田に送った。

 オレも返事こそしないが、やる気スイッチを切り替えた。

 

「じゃあ早速行こうぜ偵察!」

 

 片付けを終えたオレたちは身支度を整えた後に再度集まった。

 気合い十分すぎる池はこの試験を楽しんでいるようにも見える。

 

「……池くん、隠密行動が最優先だからね」

 

「任せとけって!ほら、綾小路ももっと元気だせって!」

 

「……悪い池、少しトイレに行かせてくれ」

 

 オレはそう切り出し、ちょっと面倒くさいテンションの池から離れようと試みる。

 別に尿意はないが、少し1人になりたいしな。

 

「構わないぜ!でも早く戻って来ないと置いてっちゃうからな!」

 

「それは勘弁してくれ」

 

 池にそう返し、オレは3人から離れていった。

 よし、1人だ。これなら少しとはいえ、ゆっくりと考える事が出来る。

 

「……決行は明日からと見て良いな」

 

 ポツリと独り言を零す。

 本当なら今日から仕掛けてくると思っていたが、その予想は外れたようだ。

 

 オレの予想、それはAクラスの数を利用した監視だ。

 オレたちDクラスの残った生徒はたった4人。

 メリットは動きやすくなる、効率が良くなるといった事が挙げられるが、当然デメリットもある。

 そのデメリットとは、1人あたりの監視が増えることだ。

 例えばBクラスが40人でオレたちを監視したとすれば、オレたちへの監視は1人あたり10人も来れる。

 そんなに監視があればオレたちの行動はかなり制限されてしまう。

 

 そしてこの方法を出来るのは1クラスのみだ。オレたちと似た状況のCクラスならばこの可能性はない。Bクラスも友好関係を結んでいる。

 だからAクラスからの追撃を警戒していた。

 

 ───もっとも、それの対処方法は既に模索している。

 

 簡単だ。Bクラスの拠点に移ってしまえばいい。

 数には数を。

 協力関係を結んでいるBクラスと共同生活をしてしまえばこの問題は簡単に解決する。

 先生方には仮設トイレの移動などの迷惑をかけるがこれも勝つためだ。仕方ない。

 

 しかし今日は行わない。予め行動を取る事が最善だが、それでは行動を読んでいる者が残っている(・・・・・・・・・・・・・・・)と相手に伝えてしまう。

 オレは目立つ訳にはいかない。目立って狙われ、平穏を脅かされる訳にはいかない。

 そのためなら多少後手に回っても仕方ない。そうすればオレという首謀者の存在を隠せる。

 残った人間が計画したのか、リタイアした人間が託したのか。それを絞るための情報は残さない。

 そうすれば、次にも繋げられる。最後に勝つための道を築ける。

 

「おーい、綾小路〜。遅いぞ〜、本当に置いてっちゃうぞ!」

 

 間の抜けた声が聞こえてくる。どうやらこれ以上の思考は無理のようだ。

 

「今行く。少し待ってくれ」

 

 オレはそう言い、駆け足で池たちの方へ戻った。

 

 


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