1日24時間って少ないですよね。
もうちょっと増やすべきだと思う。
「あなたは何をしているのですか」
「予想外の事が起きてな。だから、お前のつてを頼らせて貰う」
時間経過は意外と早い。
昼休みが終わってから授業を聞いていると、気付いたら放課後になっていた。
何をやっても時間が経過することには変わりないのに、集中して何かをすると時間が普段より早く進んでいるように感じる。
もっとも、授業が楽しいという訳では無い。
授業はツマラナイ。高校1年生程度で学ぶことなど全て記憶している。
だが他人が完璧に理解できるようにするにはどう教えたら良いか、どのように効率良く教えるか、さらに発展して今後どこでその学んだことを生かせるかと考えていると思ったより早く時間が経っていた。
そして現在は放課後。
僕は放課後の勉強会をするために、再び図書館へ行こうとした。
しかし今、龍園くんに連行されている。
「先輩方からヒントを貰おうと監視カメラ外のとこに連れて行こうとしたら逃げられた。あれは同じ事をやられてなきゃあんな素早くは対応できねえ」
放課後の勉強会を椎名さんに任せてまで、龍園くんが僕を連れてきた理由。
それは早い話、宛があると言っていたこの試験の突破方法探しにこの男が失敗したのだ。
彼はゲーム感覚で物事を捉え、その適当さに起因する油断から失敗しているのでしょう。
失敗から這い上がり、同じミスをしないように復習することは彼の真骨頂とも言えるので、これからに期待ですか。
「どうやら俺は先輩方に多少顔を知られているらしい。全く臆病なヤツらだぜ。お前もそう思うだろう?」
「ツマラナイ人間かどうかを見極めればそのような結果にはなりません」
「クク、手厳しいな」
彼が失敗したので仕方なく僕の宛を使うことにする。
現在、僕たちはとある人物に会うため廊下を歩いている
僕にとっては今後頼りになるであろう人物。その親密度を上げるためのイベントだが、龍園くんにはその趣旨を伝えていない。
しかし、ここで1つ問題がある。視線が痛いのだ。
なぜなら────
「龍園くん。あなたと仲良く歩くなんて思ってもいませんでしたよ」
「ああ、そいつは違いねぇ」
そう、僕は龍園くんと並んで歩いている。
道行く生徒、特に1年生と思われる生徒からは奇妙な視線を向けられる。
一之瀬さんに吐いた適当な嘘が、まさか数時間後に現実になるとは。少しだけ予想外でオモシロイと感じ取れる。
「で、どこに行くつもりなんだ? 本当に宛があるんだろうな」
「ええ、もう着きましたよ」
目的地に到着したので、僕は1つの教室を指差す。
ブローカーの才能くらい持っている。
失敗した彼のため、名誉挽回の機会を渡す。交渉の実力を見させてもらおう。
「ここは……生徒会の」
到着場所は生徒会室。この場所は他の教室と造りが多少違うためか、他の教室よりも近寄り難い雰囲気がある。
しかし、ここに目的の人物がいる可能性が非常に高い。近寄り難くても待ってもらうしかない。
もっとも、幸運の才能は持っているので、そこまで待つ時間は長くない。
「生徒会の奴らから、テストの問題でも聞き出すってか?」
龍園くんの答えは残念ながら不十分。
しかし、それも学校側が求めている答えの1つかも知れない。
「いいえ、君がやろうとしていたことと同じです。過去問の交渉ですよ」
この学校の生徒会の権力はかなり大きい。
1年の中間試験の問題を知っているかもしれない。
そしてそれを聞き出すことが出来れば、緊急事態は乗り切れる。学校側がそういう手段を用意する可能性は0ではない。
「クク、流石と言っておくぜ。さっき脅した3年共には逃げられたが、奴らは間抜けでな。
俺が何も言ってもいねえのに過去問に関することを多少漏らしてくれた。予想通り、過去問には何かがあるみてえだ」
信憑性はなかったのだろう。
だが、テスト範囲の急遽変更が何を求めてのものなのかを察していた龍園くんは疑うことが可能なもの全てを疑った。
そこで導き出した答えの1つが過去問の入手であり、先程ほぼ確信したようだ。
「学校側は緊急事態の対応を求めている。過去問の入手は解答の1つ。問題の出題傾向、出題方式、設問の数、時間の使い方などを予め予測出来ればテストで赤点は有り得ない」
「それには多少の前提知識が必要になりますよ」
「はっ、そんなもん3日あれば何とかなる」
龍園くんはバカじゃない。真面目に勉強をすればそれなりの成績を残せるのでしょう。
彼からすればテストなんてどうでもいい。「暴力」を信じている彼にとって、勉学の結果である数字は指標だけで、実力の一欠けらでしかない。
「で、いい加減教えやがれ。誰に会うつもりなんだ」
これ以上勿体ぶる必要もありません。
まあ彼も薄々察しているでしょうし、答え合わせをしますか。
僕は龍園くんに目的の人物の事を教えようとした。
しかし、それは途切れることになる。
生徒会室の扉が開いたからだ。
「おい、ここで何をしている」
1人の男子生徒が生徒会の部屋の扉から出てくるとこちらに話しかけてきた。
綺麗に整った顔立ちをしている金髪の男子生徒は、やや細身ながらもしっかりとした体付きをしている。身長は龍園くんと同じくらいだろう。
生徒会室前での私語を注意するために出てきたかと思ったが、どうやら違うらしい。
彼は扉を開けた時、扉付近に人がいたことに一瞬驚いていた。よって、偶然だろう。
「あなたには関係がありません」
「お前ら見ない顔だな。てことは1年、まさか生徒会入部希望者か? でもわざわざテスト期間に来る必要なんてないよな。何が目的だ?」
自信に満ちた表情と口調でありながら疑い深い男だ。
己の言い分を終えれば、訝しみながらも高貴な視線を向けてくる。
「ある人に用があるため、こちらに出向きました」
「ある人だ? それは生徒会の人物か」
「はい。しかし、あなたの手を煩わせる気はありません。そろそろ、出てくるでしょうから」
「……可愛くねえ後輩だな、お前。俺が今手を貸してやれば、時間を無駄にしねえ可能性が高くなるんだぞ」
「必要ありません。いずれ来るでしょうから」
「……ちっ、期待外れかよ。つまらねえな」
後ろから龍園くんの笑い声が聞こえる。大方僕の口癖のような言葉を逆に言われた事が愉快なのでしょう。
「そっちのお前は……おっと1年の有名人、龍園 翔くんじゃねえか」
「あっ?」
龍園くんはすぐに笑いを止め、金髪の男を威嚇するように視線を向ける。
「噂になってるぜお前。見た目通り、危なっかしい奴だ」
彼の言っていた有名というのも嘘ではないようだ。彼のやり方は悪い意味で目立つ。
1ヶ月の間でこの学校に慣れている上級生たちには知られてしまったようだ。
もっとも知られたところで何かが変わる訳ではない。
「クク、この世で暴力以上に信じられる力はねえだろう?」
「なるほど。とち狂った野郎だが、それ相応の実力があるようだ。そっちの昆布はお前の駒か」
「ああ、使い勝手の良い駒だ」
昆布とは僕のことに違いない。捻りがもう少し欲しい所だ。
「お前には期待してるぜ、暴君様よ」
「はっ、くだらねえな。お前みたいな雑魚の期待なんか何の価値もねえ」
雑魚。金髪の男子生徒はその言葉に反応する。どうやら、彼の沸点は少し低いようだ。
加えて、プライドも高い。
「俺を雑魚か。ボス猿かと思えば蛙だったか? 名前負けも甚だしいぜ」
「井の中の蛙ねぇ……クク、違いねえ。だが、お前のような雑魚に言われるのは心外だぜ」
突如始まった煽り合いだったが、龍園くんは目の前の男ではなく、僕を見て告げる。
眼中にないことを仕草で伝えれば、金髪の男の声量が増す。
「本当にそう思うのならば、期待外れだぞ龍園 翔。ははは! お前もそう思わないか、昆布野郎」
金髪の男は視線だけをこちらに向け、同意を求める。自信の持ち方が龍園くんの比ではない。
傲慢な発言に見合った実力は確かにあるが、それにしてもしつこい。
暇を持て余しているのだろう。テスト週間にもかかわらず、呑気な事だ。
そう思考しながら、彼の質問に返事をしなければと思うと────
「小物には用はないって」
龍園くんが余計な言葉を告げる。
手間が省けた。僕はこんな男に用がある訳ではない。
確かに、彼もこの学校内では逸材中の逸材と言える。
だが、僕からすればツマラナイ。
何より彼は────「希望」たり得ない。
余裕そうに背を預けていた金髪の男には、少しだけ怒りの感情が表情に出ている。
まだ何か喋りそうな勢いをしているが、もうその時間はない。
────なぜなら目的の人物がやってきたからだ。
「南雲、何をやっている。笑い声が廊下にまで響いているぞ……なるほど、お前か」
目的の人物は廊下から生徒会室に向かって歩いてくる。
相変わらず生徒会の仕事に追われていたようだ。
目的の人物は僕を見るとある程度の状況を察っする。
「あなたを使いに来て上げました」
「ふっ、良いだろう。話を聞こうか。南雲すまないが……」
「……へいへい、邪魔者は消えますよっと」
金髪の男子生徒はこの場に現れた4人目の生徒───生徒会長、堀北 学の言葉に従い、この場を後にする。
去り際にこちらを見ていたが、生徒会長がいるためか特に何かを言うこともなく足早に去っていった。
「お前と生徒会長に面識があるとはな」
「ええ、ポイントの確認をするために活用しました」
僕と彼には面識がある。
なぜ面識があるのか、そこを説明必要があります。
─────────────────
入学式2日目。伊吹さんのお誘いを断ってでも進めた僕の目的の1つは、ある生徒との接触だった。
先生方への質問はあまり期待していない。彼らの質問に対する受け答えは徹底している。
早い話、口が硬すぎて情報をあまり取れない。
だが、情報を整理するにはどうしても僕よりもこの学校に詳しい人間に話を聞かなければならない。
学校側のデータに侵入して調べた方が手っ取り早いが、手持ちのポイントでは機材購入によって、誰かに大きな借りを作り、極貧生活を余儀なくされる。
カメラ1台や携帯端末に侵入するなら、そこまでのポイントを払う必要はないが、相手は学校という1つのデータベース。国が運営している上に秘匿主義のこの学校をクラッキングするのはやや難易度が高いと見て良いでしょう。
ポイントの価値観も分からない状態でやる作戦にしてはリスクが高い。
よって、僕自身が足を運び、直接情報を集めていく必要がある。
そこで、情報を集めるために接触したのが先輩だ。もちろん、誰でも良い訳では無い。
2年生ではなく、3年生で非常に優秀な生徒に会う事に意味がある。
今回の目的のもう1つはここにある。この学校の優秀な生徒がどれくらいのポイントを所持しているかだ。
以前、無料食事コーナーの山菜定食などを食べている先輩方は今にも絶望しそうな顔をしていた。
だがそれも一部の人だけ。普通に食事をとっている人もいれば、娯楽にある程度のポイントを費やしている人もいた。むしろこっちの方が多いだろう。
以前推測した通り、今後は何らかのポイント変動が起こるのでしょう。その変動によって彼らのポイントはなくなった。しかし、減った者がいるということは当然……増えた者もいる。
この世のほぼ全ての事柄は二項対立的な秩序が存在する。この現象も当然これに則ると考えていい。
増えたポイントがどの程度なのかを知れればポイントの価値観が分かる。
ポイントは何にでも使えるという坂上先生の言葉の真意にも近づけるだろう。
ではどうやってポイントを持っている生徒を見分け、接触するか。
問題ない。まず間違いなくポイントを持っている生徒を1年生全員は見ている。
生徒会長だ。入学式にこの学校の生徒代表として答辞を行っていたことを僕は記憶している。
この学校の長を任せられるほどの人物ならば、多くのポイントを持っているに違いない。
つまり、今回の目的とは生徒会長と接触し、できるだけ情報を抜き取ることだ。
だがもう1人、僕は先輩を覚えている。
そして情報に信憑性を持たせるためには1人の接触では足りない。だから生徒会長の前にその生徒から情報を教えて貰いましょう。
もう1人の生徒は既に見つけている。ここから5mくらいの所を歩いている。
都合良くこちらに近づいてきてくるこの状況も、幸運となるとツマラナイですね。
「すみません、先輩ですよね?」
僕はその生徒に接触する。演劇部、詐欺師、心理学者、交渉人などの才能を用いて話を友好的に進めていく。
話しかけた人物は入学式に生徒会長のサポートをしていた女子生徒。
紫色の髪を左右対称にお団子結びをした、非常に優しそうな小柄の3年生。
彼女は僕の声に気付き、こちらを振り返る。
「俺は1年の日向創って言います。ちょっと聞きたいことがあるんですが、お時間はよろしいでしょうか?」
「あっ、はい! 少しだけならば大丈夫ですよ! 私は3年の橘 茜です。日向くんでしたよね? それで何を聞きたいのですか?」
入り方は完璧。橘茜に不信感を抱かせることなく接触に成功した。
やはり、カムクライズルよりも日向創の方が初対面に与える印象を良くできる。
僕の容貌を見て気にはなっているが、警戒心は薄い。
「この学校のポイントについて、答えられる範囲で教えて欲しいんです」
橘さんは渋い顔を浮かべる。
非常にわかりやすい変化。やはり、この人は当たりだ。
「ポイントについてですか? 学校側から説明はしっかりしていると思うのですが……」
「高校生に月10万円って多すぎると思いません?」
彼女が言い切る前に次の言葉を挟む。彼女に僕がどこまで知っているかを伝えれば、余計な問答は切れると考えたからだ。
「……君は私が思っているよりも賢いのですね。でも、そんなことはないですよ。君たちはこの学校に入学した。それだけで10万円以上の価値があると見なされているのです」
坂上先生とほぼ同じ解答。予め用意したもの。
学校側が上級生に、下級生からの質問に答えてはいけないなどと言われていると考えられる。
「なるほど。じゃあ、もう2つだけお願いします。先輩って今、何ポイント持っているんですか?」
「……そうですね。それは秘密です」
口元に手を持っていき、人差し指を立てる。
小柄な身体と穏やかな雰囲気にあったその仕草は母性本能をくすぐらせ、会話の一瞬の間を気付かせなかっただろう。
しかし、僕がその手の感情を受容することはない。
その間から推測するに、こちらもストップがかけられていると見ていい。
「え? それって誰かに教えちゃダメって決まりなんですか!?」
「ふふふ、それも秘密です! でも貴方みたいに優秀な生徒ならばいずれ分かるはずです! ……ではもう1つとは?」
ニコニコと笑ってそう言う彼女は嬉しそうに、楽しそうに話している。
ツマラナイ。こうも簡単に情報を抜き出せると拍子抜けだ。
まぁ、今回は僕にとって必要なのでツマラナイ事でもやらざるを得ない。
もう1つ。それはこの女の端末を覗くこと。一瞬で良い。それだけで彼女の所有ポイントが表示される画面を見れば良い。
彼女の警戒心が薄いため、会話をしながら少しずつ距離を縮める事が出来た。
この距離間ならば彼女の端末を覗くことが出来る。
彼女は生徒会に選ばれるくらいの生徒。
となれば、それなりに優秀。ポイントも一般生徒以上には持っていると見ていい。
「もう1つは……そ、そのポイントの移し方なんですけど……」
「移し方? 教えますよ!」
僕は携帯端末を片手に彼女へもう一歩近付く。お互いの肩がぶつかりそうなほどの距離感を保つ。
それにしても、この女子生徒は穏やかな性格をしている。悪意に対して鈍く、笑みに対して笑みを返せる人間……純粋と言っていい。
しかし、ツマラナイ。本当に警戒心がない。
人が良い事は美徳ですが、無警戒というのは愚かなだけだ。
さて次は─────
「おい橘、そこで何を……ん? その生徒は……」
────運が良い。彼の登場で、僕はもう1つの目的を達成できなくなった。
「か、会長!? すみません! 時間忘れちゃってました!」
黒い髪に黒縁のメガネ。制服を着こなし、ネクタイも真っ直ぐ整っている。まさに優等生と言っていい姿をした男子生徒、生徒会長がこの場にやって来る。
この男、なかなか良い才能を持っている。
超高校級の生徒会長、そう言ってもいいほどの才能かもしれない。
身体運びから見ても非常に高い水準で武術を嗜んでいるため、他の面でも悪くない才能がありそうだ。
「す、すみません! 橘先輩、彼氏との待ち合わせ中でしたか……申し訳ないです!」
「か、彼氏!? 堀北くんが私の!?」
「えっ? 違うんですか?」
頬は紅くなり、慌てふためく橘茜。
わかりやすい。超分析力がなくとも、生徒会長に好意を抱いていると一目瞭然だ。
「俺と橘はそういう関係ではない」
橘茜は肩をおとし、気落ちした態度を露骨にみせる。
鈍感。コミックの主人公のような特性を持っていることに周囲は溜め息をついているに違いない。
「あっ、そうなんですか……でも時間を取らせてしまって本当に申し訳ありません」
「構わない。それにしても何故こんな時間まで学校にいる。キミは一年生だろう?」
「はい、俺は1年です! 実は先生と先輩に聞きたいことがあったんです! 先に先生方に聞いたら、予想以上に時間取られちゃって……そしたら殆どの先輩が帰宅してて、やっと見つけたのが橘先輩だったんです!」
適当な嘘ではない。事実と嘘を半分ずつ入れながら話すことで真実味を帯びさせる。
超高校級の詐欺師の才能を使えばこの程度造作もない。
「会長、彼は賢いです。ポイントの事を聞いてきました」
「ほう、それは大したものだ。……お前の名は?」
「俺は日向創って言います。えっと……間違いじゃなきゃ入学式で話していた生徒会長ですよね?」
さて彼からも抜き取れるだけ情報を貰いましょうか。
「そうだ。俺はこの学校の生徒会長、堀北 学だ」
順調だった。
生徒会長の次の言葉を聞くまで。
「さて、今度はこちらから質問しようか。なぜ名前を偽っている────カムクライズル」
鋭い目付きが僕の表情を射抜く。感情の変化を見逃さないために、一瞬たりとも視界から外さない。
あぁ、中々に予想外だ。
しかし、この程度では僕の表情に変化は起きない。
「か、カムクラ? 誰ですか?」
「惚けなくて良い。俺は今年の優秀な1年の顔と名前は覚えている。カムクライズル、その長い髪は特徴的すぎるぞ」
指で髪を指差しながら、堀北学は断言する。
表情にこそ出さないが、僕は少しだけ驚いていた。
未知の襲来。その事に少しだけ興奮しながらも詐欺師の才能を使い続ける。
「だ、だから誰の事を言ってるんですか?」
「お前は入学試験を満点で合格し、身体能力もずば抜けていた非常に優秀な生徒。個人としての能力はこの学校始まって以来最高と評価されているほどにな」
「か、会長? 何を言って?」
今起こっている現状についていけていない橘さんは混乱状態だ。
「橘、こいつはお前から取れるだけの情報を抜き出そうとしていたという事だ」
「そ、そんな……せっかく良い後輩が早速出来たと思ったのに」
生徒会長はがっかりとした様子を見せる橘さんから視線を外し、僕へと戻す。
「で、どうなんだ? カムクライズル。その一流ハリウッドスターも驚く演技をまだ俺に見せてくれるのか?」
余裕綽々な笑みから、堀北学が僕の情報を持っていることは確定。
情報源がどこからかは気になるが、今はどうでもいい。
十分な未知だった。僕は満足したのでこの問答を終わらせる。
これ以上彼に疑われては円滑に目的を達成できなくなる。
僕はそう判断し、使用していた全ての才能を解除した。
「お見事ですね、生徒会長」
「やっと聞いていた通りの口調になったな。それで何が目的だ?」
「ポイントについて確認しようとしただけですよ」
嘘を言ってないかを確認しようと生徒会長は僕の表情、目の動きを凝視する。
「……ふむ。まだ学校が始まって2日目にもかかわらず、ポイントの存在に気付き、その上で行動を起こすか。その手段があまりにも自然な会話による情報奪取。どうやら、お前の実力は1年の中でも頭一つ抜き出ているようだな」
「分かりきった事をいちいち言うのは時間の無駄です」
「俺から情報を抜き取る時間を確保したいからか?」
「ただの事実です。そして、警戒しているあなたから情報を抜き出すことは面倒と判断しています」
お互いに視線を合わせ、対峙している。
視線の高さはほとんど同じでも、まだまだ見えてる視界は僕の方が広い。
「ふっ、お前のこれからの動き次第で、お前に投資してやっても良い。それこそ10万ポイント、いや場合によっては100万ポイント以上をな。……これでお前が求めていた答えを見つけられただろう」
確信を持った言葉とともに、眼鏡の奥にある瞳が揺らめいた。
どうやらこちらの目的にも気付いていた。やはり彼は侮ってはいけない。
「ええ。では僕はここで失礼します。あなた達も時間が迫っているでしょう?」
「待て。この学校のポイントにここまで早く、そして深く気付いた上で行動を起こしたのはお前が初めてだ。お前が良ければ生徒会の席を1つ与えてやってもいい」
「か、会長!? 何を言って!!」
生徒会。生徒会長や書記、会計、その他全ての役職の才能を持っている僕からすれば退屈でしかない。
なら答えは1つしかない。
「遠慮しておきます。ですが、僕個人としては貴方との関係を友好的にして欲しい」
「ふっ、そうか。ならばお前とは友好的に行こう。こちらもお前という男を見極めさせてもらおう」
「か、会長、そろそろお時間が……」
「そうだな……ではまた会おうカムクライズル」
そう言い終えると彼らはやや早歩きで立ち去っていった。
─────────────────
生徒会長が案内した部屋に入る。酷くこざっぱりとした客室のようだ。
3つの椅子と1つの机しかない。
「安心しろ、ここに監視カメラはない」
配慮が行き届いていて、手馴れている。
こういう交渉も初めてではないことが察せられる。
「それでお前達がこの時期に訪れるということは……」
「ええ、中間テストについてです」
「やはりな、それで何が望みだ?」
「テストの過去問、あなたが1年の時に行った中間試験を参考にしたい」
薄く笑い、生徒会長の表情に初めて変化が現れる。そしてポケットから端末を出し、操作し始める。
その数秒後、彼はある画像をこちらに見せてきた。
その画像には数学の問題が写っている。
「誰かしらこの可能性に辿り着くと踏んでいたんでな、予め用意しておいた。安心しろ、5教科全ての問題が揃っていて、今ここで渡せる。
だが、物事には対価交換が当たり前。そうだな……3万ポイントでなら交換してやっても良い」
彼のこの発言と用意周到なところから考えてもこれは正解らしい。
どうやら、過去問が裏技のようだ。しかし、タダで手に入る訳ではない。
当然と言えば当然。やや値段が高いのは相手の交渉術を見極めるためですか。
「らしいですよ龍園くん。どうするんですか?」
「ここで俺に振るんじゃねえ、昆布野郎」
「過去問が必要なのは君です。僕の場合、満点が確定していますのであなたが交渉するべきです」
龍園くんは舌打ち後、堀北学に向き合う。さて、彼はどのように値引きするのでしょうか。
「ちっ……てことで勝手ながら交渉人を変えさせて貰うが良いか? 生徒会長さんよぉ」
「構わないぞ龍園 翔。それでいくらに値引きして欲しい」
彼も龍園くんを知っているようだ。
先の金髪、南雲と呼ばれていた男も龍園くんを有名と言っていたことから彼の特性を知っているようだ。
「決まってんだろ───0ポイントだ!」
突如、龍園くんは生徒会長へと拳を放った。予想通り。
監視カメラがないならば奪ってしまえば良い。彼らしい考えだが、今回はしっかりと交渉した方が正しかった。
なぜなら、その攻撃は生徒会長に届かなかったのだから。
「……強奪か、お前らしい」
掌で龍園くんの拳を完璧に抑えていた。
博打には失敗だ。これで彼は3万ポイントからの値引きが非常に難しくなった。
攻撃を仕掛けてくる交渉人を値切りする訳ない。
「ちっ、ただの真面目ちゃんかと思ったが存外そうでも無いらしい。歴代最高の生徒会長ってのは伊達じゃねえか」
「見立てが甘かったな。では次はどうする?」
「……分かった。ポイントを払おう。だが3万払うんだ。1年の最初の小テストも付けてくれ」
少し考えた後、彼も了承する。そして、彼も気付いていた。
高校1年に出す問題にしては非常に難しいレベルと言える小テストの問題は、この過程での確認作業で使わせるため。
どんなに難しい問題でも答えさえ知っていれば解けてしまう。
仮に小テストと同じ問題がでるならば、中間試験の問題も同じである可能性は十分に有り得る。
ブラフである可能性も否定できないが、間違いなく参考にはなる。
「良いだろう、交渉成立だ」
龍園くんは携帯を取り出し、データを送るために連絡先を交換している。
「ククッ、あんたの連絡先を手に入れたと考えれば3万の支出も結果としては上出来だ」
「ふっ、お前の事は聞いている。やり方こそ褒められたものではないが、実力は申し分ない。今年の1年には期待できそうだ」
「ああ、期待しろ。いずれ俺のクラスがAクラスに上がるからよ。もっとも、その結果をあんたがいる間に見せれるか分からねえがな」
龍園くんは目的を達成したためか随分と上機嫌だ。
その後、僕も生徒会長と連絡先を交換した。
彼との関わりは今後起きる何かへの対処法としては十分すぎる収穫。
それこそ3万程度で済んだ結果は重畳でしょう。
「用は済んだ。俺達はここで失礼させて貰うぜ生徒会長」
「ああ、気を付けて帰れ」
龍園くんと僕はさっさと部屋を出て、そのまま寮へと直行した。
帰り道、再び龍園くんと仲良く歩く羽目になったが、正直もう慣れました。
何はともあれ、中間試験の対策はこれにて終わり。
ツマラナイ時間ももう少しの辛抱と考えれば、多少は楽に生活できるでしょう。
生徒会長と有意義な時間を過ごした!!
寮に帰った後すぐに、一之瀬さんから僕と龍園くんが並んで歩いている画像と「本当だったんだね(笑)」というメッセージが送られてきた。
少しだけ……ほんの少しだけ、仕返しをすべきか悩んだ。
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