ヒーローとは一種の狂人である   作:科葉諸友

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強固性マン

ーこの調子なら行けそうだな。

 

自分の足下でから聞こえる機械が壊れる独特な音に手応えを感じながら、そんなことを考える。

 

今日は雄英高校入試当日だ。

 

空は晴れ、風も無く、実技をやるには調度いい日だ。

身体のコンディションも完璧。

プレゼントマイクがいきなりスタート合図を出したのには反応できなかったものの、周りの奴らとは結構な差を付けて行動ができている。

 

あ、挨拶遅れてすいません。俺は神出 鬼火都(かみで きびと)。ヒーロー名までもう決めてあるくらいに将来ヒーローになると決めているヒーローの卵だ。

 

そのためにはまずはここ雄英高校に受からなければ。

 

「うひょー。皆やってるなあ」

 

近くのビルの上に転移(・・)して、そう呟く。

これが俺の個性。全くもってそのまんまで、名づけ親の医者のセンスを疑う個性名。「ワープ」だ。

ありがちな強個性ランキング上位に入るこの個性だが、俺のは普通のとちょっと違う。

 

まず、個性発動条件は無いが、転移できる場所は1度行ったことのある場所か、その時自分の目に映っている場所に限られる。

まあこれは普通と言って良いだろう。

 

…ビルの屋上にある手すりに足をかける。

 

次に、個性によって移動できるのは自分の身体だけ。ただし7日以上身につけているものは自分の身体と認識できる。

まあこれも普通と言って良い。というか弱点だ。

だが、これだけの個性で雄英高校ヒーロー科に受かる自信がある訳では無い。もちろん、普通の転移系個性と違う点がある。

 

…そして俺は、大きく屈伸をして…跳んだ。

 

最後だ。この個性、どうやら律儀にも物理法則を守ってくれるらしい。物を作る系の個性のお陰で質量保存の法則が涙目の個性社会では珍しい。

理科のテストで質量保存の法則関連の問題が出た時、「※ただし個性は考えないものとする」なんて注意書きがあるくらいだ。

その点俺の個性はきっちりと慣性の法則が適応される。

 

…つまり、こんな感じでビルから自由落下して、地面につく直前で個性を発動して、機械敵の真横に転移すれば。

 

「俺式ライダーキーック!!」

 

速度を保ったまま敵を蹴れる。

この個性、転移する際に運動の向きを変えられる。棒立ちの状態でビルから落ちて、転移する際に身体の向きを90度動かせば、地面と水平方向に落ちる(・・・)ことができるのだ。

 

重力の加速度は9.8m/s^2。1秒で約10m/s加速できる。

1秒で10m進めるわけだから、1秒落ちるだけでもう既にボルト並。

まあ要は凄い強い力を得られるってことだ。

 

本当ならたとえ運動の向きを変えた所で機械敵ごと俺まで大怪我をする、どころか赤い花を咲かせちゃうところだが、落下系のダメージに耐性がついているからへっちゃらだ。

 

これはなんとも不思議だが、炎を出す個性が自然と熱耐性を持つように、俺も自然と落下耐性を持っているのだと考察している。…どうでもいいか。それより今は入試だ。

 

3p敵だったからか他の敵よりしぶとく、破壊しきれなかった機械敵にトドメを刺すべくもう一度転移を発動し、自分の身体の頭から足の向きにかかっている力が無くならないうちにもう一度ライダーキックをかます。

 

因みに上からじゃなくて横からなのは自分の身体にかかる負担を少しでも減らすためだ。

落下耐性があるにしても完全に平気なわけではないのだ。

 

で、更に視界に入った別の敵に転移し、ライダーキックし、壊す。

速度が失われたらそこら辺の空に転移してまた加速をする。

そう。別にビルから落ちる意味なんてない。目に入るところならどこでも良いんだから。

もうちょっと早く気づけば良かった。そこら辺も合否に関わるんだろうか。「判断力」みたいに。

 

ん?ちょっとまて。もし「判断力」が診断されるなら他にも色々評価されるんじゃないか?

…まあやめとこう。変に勘繰って落ちたらたまったもんじゃない。

 

それからもずっとこの調子でノンストップで動き回る。

動き回るっていっても俺はただ棒立ちしてるだけだけどねッ!

 

…だんだん敵減ってきたな。そこそこ移動を挟まないと敵を見つけられなくなってきた。

まあ俺の個性なら移動時間ほぼ0だけど。

いやぁー転移個性はやっぱり勝ち組だわー。父さん母さんありがとう。

 

というかマジで楽勝やな。乱獲とはこのことか。

あれれー?良いんですかー?敵p俺が全部取っちゃいますよー?

 

俺がそんな風に調子に乗っていた時。アイツが現れた。

マリオで言うところのドッスン。

RPG系のゲームで言うところの遭遇した時点で駄目な「負けイベント」。

 

「おいおい嘘だろ。ドッスンて。おま、インフレし過ぎやろ」

 

運営なにやってんだよ。ドッスンは位置が固定されてるから動かんぞ。パワーバランス間違ってんだろ。

というかなんで結構近くに現れるんだよ。いや、アイツがデカすぎるから数十メートル距離があっても近くに感じるだけか。いや何考えてるんだもちつけ俺。いや、落ち着け。

 

まあここは落ち着いて対処をだな…。

というか転移するだけですねはい。別に目で転移する場所探さなくても最初の方に登った(転移した)ビルの屋上とかに転移すれば…。

 

はぁ、何焦ってんだか。転移個性だぞ。俺。

 

ーそこまで考えた所で目に入る。あのクソでかい0p敵に潰されそうな少女が。

 

「…っかー!クソ!マジで運営無能かよ!ちょっとは考えろよ0p敵が受験生殺しちゃう可能性くらい!」

 

そう叫びながら転移する。頭の中ではしっかりと俺だけでも逃げる用意をしながら。

ちょうど加速が切れた時だったので少女の隣りに転移しても素早く動けない。

 

「持つぞ!」

 

「え!?あ、はい!」

 

よく見ると結構可愛いな!これ終わったら付き合ってくんないかな!

そんなことを考えながら少女を横に抱く。お姫様抱っこって奴だ。本当ならおんぶが良かったけど、おんぶしにくい位置に転移しちゃったんだから仕方ない。

女子の柔らかい肉体に少し感動を覚えながら立ち上がったその瞬間。

 

俺の頭の上でそれはそれはヤバイ音がした。

音を字で表すなら「バギバギバギ!!」とか「バコーーーン!!」みたいな感じだ。

何事かと上を見上げれば、緑髪の受験生が0p敵を殴り飛ばしていた。

 

「…嘘やろ……」

 

この時ほど正気を疑った時はない。いや、この後の人生でこの記録は簡単に更新されるが、当時の俺にとっちゃ大事件だった。

開いた口が塞がらないとは正にこういうことなのだろう。

もはや感動までした。世の中には尋常ではない奴がいるんだなぁと。

 

「…って、アイツ平気か!?落ちて来るぞ!」

 

「っ!私をあの子に近づけてぇ!」

 

え?何?君を彼に近づければ良いの?

 

俺は取り敢えず彼女の関西弁に従った。

あそこまで必死に言うんだから何とかする宛があるのだろうと。

 

で、結果は大丈夫だった。彼女のビンタによって彼はふわっと落ちる速度が無くなり、無事に五体満足で…って、ふぁ!?

全身バッキバキに折れてますやん!?

 

「おい!大丈夫か!?生きてんのか!?」

 

怪我人を揺するのは良くないと思い、取り敢えず声だけをかけながら息があるか、心臓が動いているかを確認する。

…平気…なのか?

 

「せめて…1pだけでも…」

 

彼が呟く。

えぇ…(困惑)。1pも取れなかったんか…。あれ?もしかしてこれ俺がp乱獲しちゃったのが悪い?

確かによく考えたら入試の間1回も止まらずp取り続けてたけど。

 

…と、そこで試験終了のお知らせ。

ここまでが俺の雄英高校入試、そして彼、緑谷出久と麗日お茶子との出会いであった。

 

 

ーーーー

 

 

さて、皆。今から俺が超難問なクイズをする。

大丈夫。手軽にできるから。

 

さて問題だ。貴方が入った高校、入ろうとしている高校、入りたかった高校。

 

その高校の志望理由はなーんだ?

 

まあ答えなんざ人それぞれだが、大抵の人は面接で「進学率」とか「カリキュラムの充実」とか「設備の充実」とか応えたと思う。

 

そんでもって大抵の人はその理由とは違う理由で入学する。

大抵の人は自分の学力に合った、1番良い高校に行く。

 

で、俺も漏れなくその大抵の人に入るわけだ。

いけそうだからという理由で雄英高校入試を受け、強個性だから受かり、そのままなんとなく生きていく。

 

実に普通だ。

 

が、ここで思い出して欲しい。雄英高校がどんな高校なのか。

プルスウルトラが校訓で常に実力の120%を求めてくる。

入試のためだけに大量のロボットを使い捨てる。

あのクソでかい0p敵を入試に投入する高校だ。

 

普通?ほざけ。異常じゃボケ!

 

要するに、この学校は俺が普通でいることを許すほど温くないってことだ。

 

だがしかし。俺は確固たる夢がある。

それは、フリーのサイドキックになって好きな時だけ働いてそれ以外は遊んで暮らすことだ。

そのために雄英高校に入っただけだ。

俺は決して雄英高校なんかに染まらない。

プルスウルトラなんてかったるいことするもんか。

プルスウルトラしなくても勝てるくらいじゃないと駄目だろ。

というか実力以上のことをし続けたら身体がもたねぇよ。

へ?何?そこもプルスウルトラしろって?

そういうノリが嫌いなんだよなぁ。

 

「俺は自己犠牲なんざぁしねぇよ!」

 

だからこそ決意を。

 

これは、全くヒーロー精神がない個性が強くて胆力があるだけの一般人が雄英高校という輝かしい学校に染まらぬように頑張る話である。

 

 




Q「7日以上身に付けるって、ずっと同じ服で居続けるってこと?」

神出「違うそうじゃない。身に付けてた合計の日数が7日ってこと。
ついでに言っとくと身に付けるの定義は自分がその物体に触れているってことだから、合計時間で7日以上を越えて接触していれば生き物だろうが一緒に転移できるようになる」

オリキャラ追加について。

  • 許すまじ
  • マジ許す
  • 助言だけ残して去っていく謎キャラを出せ
  • 出すんだったらキチンと設定を練って欲しい
  • 適当な他原作から引っ張って来い

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