ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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前回活動報告であんなこと言ったけど直後に停電が直るというね。この作品のギャグが現実世界にまで侵食してるんじゃないのかな()

今回は驚くほどギャグが消えてます。違う作品をクリックしたわけではないので勘違いしないでください。


最終章なわけないだろ!型月ブラザーズ大乱闘じゃねえか!!
ルシウスがいなくなるわけないだろ!……ねえ、ないって言って?


 まだ鶏がうつらうつらとする夜明け前、二人の人間がテーブルについて食事をしていた。

 

 一人はココシャネル風の黒衣のドレスに身を包んだ女性。皿には肌つやに良い野菜中心の料理が芸術品のように盛り付けられている。食事でも美容に気を使っている事が窺えるだけあって、その肌や髪はまるで女神の絵画のように芸術的である。

 

「それにしても、貴方は相変わらずよく食べるわね。前に会った時よりも太ったんじゃなくて?栄養バランスに気をつければそうはならないものよ」

 

 女性の名は我々がよく知る人物であるアグリッピナ。ルシウスとの出会いにより今までの権勢欲が消えた彼女は、王妃の地位を捨て女性の化粧品会社を起業。ファッションデザイナーとしても成功者となり世界初のキャリアウーマンとなった。

 

 向かいに座る太った男は血の滴り落ちるステーキを口に入れ、生々しくくちゃくちゃと音を立てながら喋り始める。

 

「知らないのか?デブは一食抜いただけで餓死するんだ。この私が言うんだから間違いないぞ」

 

 男はまるで魔界の軍団長のような笑みを浮かべて肉を美味そうに頬張った。

 

 その男には名前はない。昔はあったかもしれないが、どこかに置いて来てしまった名無し(ネームレス)だ。彼らのような存在はどの時代にも存在し、いつの間にか政治の裏側で暗躍してはいつの間にか消えて行く。かつてはこの男も軍の政略班として活躍し戦争を自由に操って来た。しかしその行為は段々と狂気じみた物へと変化し、行き過ぎた作戦から上官に疎まれて地の果てへと流刑にされる。部下も地位も栄光も奪われ、馬車馬の如く働かされ、食事はボソボソのパンと濁った水のみ。丸々と蓄えられた脂肪はなくなり、まるで骨と皮だけになった抜け殻だった。

 

 何もかも失った男の前に、ある日一人の奴隷が現れてこう言った。

 

『頭のいい奴を探している。あんたが一番賢いらしいな』

 

 男はこう返す。

 

『まあ、そうだな。それで君は私に何を望む?知略か?策略か?それとも暗躍か?』

 

 すると奴隷は手を差し伸べながらこう答えた。

 

『風呂の設計図を書ける奴が欲しいんだ。名前は……ないんだっけか?昔は軍のお偉いさんだったらしいから”少佐”って呼んでいい?』

 

 男はしばらく呆けた後に大笑いし、奴隷の手を取った。そんな昔話があったらしい。

 

 それから男の呼び名は少佐となった。ルシウスの古弟子であり主に浴場や発明品の製図を担当。HUROHAIRITE部隊特殊政略担当官も務めている。彼が動くとルシウスにちょっかい出した敵国が内戦となり数日で滅びるという割とやばい奴であった。政治犯仲間のアグリッピナとはわりとうまが合うらしい。

 

「それで状況は?」

 

 アグリッピナはナプキンで口を拭うと先ほどまでの会話を再開する。この二人は今ローマで起きている異変に気付き、こうして集まったのだ。

 

「臭う。色んな場所、色んな者たち、色んな思惑がここへ集まってきている。特に最近は元老院の動きが変だね」

 

 アグリッピナの頭の中に鰻の蒲焼きを頬張りオタ芸を踊る老人たちの姿があった。

 

「あの老害どもに彼がどうこうされるとは思えないけど。でも貴方がそういうのなら近いうちに戦争になるわね」

 

「戦争はいつだって彼が起こしているさ。彼の仕事だって立派な侵略行為。一人の人間の”世界”への孤独な戦争行動……私の好みとは少し違うが見ていて飽きないね」

 

「すっかりご執心みたいね。このじゃじゃ馬をうまく乗りこなしているようで安心したわ」

 

 アグリッピナはこうして語り合うまでは冷や汗をかいていた。言ってみればこの少佐は核弾頭だ。持っているだけで圧力を持ち、扱いを誤れば多くの人間が死ぬ。反面、飼い慣らされてから丸くなったと心配したが逆だ。少佐はより戦争の歓喜を無限に味わうためにルシウスを選んだのだ。ある意味ではもっともいい組み合わせだったかもしれない。

 

「彼に死んでもらうのは困るさ。私の楽しみがなくなってしまうし、何よりこうしてうまい飯が食えなくなってしまうじゃないか」

 

 そう言って丸々と太った腹が揺れる。ああ、この腹の理由はルシウスだったかとアグリッピナは呆れたような視線を送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元老院議員たちの別邸の中庭では朝早くから法被と鉢巻を装備した老人たちが年甲斐もなく踊りの練習をしていた。もうこいつらルシウス暗殺する気がないだろと言いたくなるが、これでもまだルシウス暗殺を企んでいる。そこに大理石の床を走る音が近づき、一人の元老議員が中庭に現れた。

 

「皆、朗報だ!新たなメンバーが到着した!」

 

「何?また新しいファンクラブ会員か!」

 

「暗殺の方だ!」

 

 などとボケていると一人の少年を先頭とするローブの集団が中庭に入ってくる。猫のような愛くるしい笑顔をした少年だが後続の者たちの纏う雰囲気はどこか物々しい。

 

「お、おい暗殺チームにこんな子供を加えるのはちょっと。いったいどこの子だ?」

 

「ほれ、前にルシウスに暗殺者をけしかけてた奴がおっただろう。そのあと事故でそいつが死に、残った親族はどこからか暗殺計画が漏れて一族郎党皆殺し……その生き残りだよ」

 

 少年の目が開き、猛禽類のような眼が元老議員たちを睨めつける。政界で活躍して来た彼らもその異様な圧力に一瞬気圧された。

 

「まだ赤子だった僕を乳母が逃がしてくれたのです。僕もみなさんと同じくルシウスに恨みを持つ者ですのでそのような心配はご無用」

 

「そ、そうか、大変だったのう。それで後ろの連中は?」

 

「ギリシャから呼び出した魔術師共です。金食い虫の彼らは快く依頼を受けてくれましたよ」

 

「そうかそうか!よし!では皆で歓迎の踊りを」

 

「あ、そういうのはいいのでお構いなく。今日は顔見せだけなので僕らは帰ります」

 

 どこか残念そうにしている元老議員たちを置いて少年は足早にその場を去った。元老議員たちの姿が見えなくなると少年はその瞳を光らせ、大理石の床に唾を吐き出す。愛玩動物のような愛くるしさは消失し、まるでずる賢い狐が猛獣たちを引き連れ歩いているような様子だった。

 

「あれはダメだね。口では暗殺だなんだと言ってるが、すっかりルシウスに毒されてやがる」

 

「始末しますか?」

 

「いや、あれはあれで使い道がある。切り捨てるのは最後になってからでいいだろう。まったく、お爺様もあんな奴らと手を組むから失敗するんだ。僕は違う。必ずあいつを殺してやるぞ」

 

 復讐に燃える獣たちは散り散りにローマの街に身を隠していった。元老議員たちとは違いまどろっこしいことはしない。狙うはジョーカーの首筋ただ一つ。彼らは今までその牙を静かに研ぎ続けていた。

 

 平穏だったローマが少しづつ変わり始めている。賢い者たちはそのことに気づくが当のジョーカーはつゆ知らず。あらゆる者たちの思惑が交差し、それは大きな波となって近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 元凶であるルシウスといえば昼間からネロの呼び出しを受けて絶望していた。今日は珍しく仕事がなくのんびり昼寝でもできるのではないかと淡い希望を抱いていたらしい。その希望を抱いて溺死しろということかネロよ。

 

「まったくローマは人使いが荒いな……おっと」

 

 曲がり角で唐突に人とぶつかる。相手は褐色の肌をした伊達男であり、珍しい白髪の持ち主だった。体を鍛えているのか恰幅がよく、肩がぶつかった瞬間まるで鉄の塊にでもぶつかったのではないかと錯覚するほどの硬さだ。

 

 男は軽く会釈を済ませると曲がり角へ消えていき、そこで待っていた仲間と落ち合う。全員このローマに似つかわしくない肌色と格好であった。

 

 白い軍服を着た優男が口を開く。

 

「どうだい奴さんの具合は?こんな大人数で戦うだけのものなのかな?」

 

「どうもこうも、普通の人間にしか見えんな。どうして我々が駆り出されたのか理解に苦しむよ」

 

「匂いからしてあいつ弱そうだぞ。早く始末して何か食おう」

 

「はいはい、まだ慌てないでね」

 

 白軍服の男の周りを煙のように漂う女が蛇のように鋭い歯をチラつかせて言う。白軍服の男は軍手をつけた手でどうどうと女を制した。まるで大型動物でも相手にするかのような仕草に思える。

 

 すると軍服をくいくいと褐色の女が引っ張った。まるで褐色の男と兄妹のように似ている。赤い首巻を風に靡かせ、身の丈にあまる大太刀を片手に持っていた。

 

「私はおでんが食べたいぞ。うまいおでんだ」

 

「うーん、ローマにはおでんはないかなぁ」

 

 口には出さないが女のぴょこんと伸びた白髪のアンテナが見る見るうちに萎びていく。消沈する褐色の女に褐色の男が悩ましそうに眉間を押さえながら答えた。

 

「あるぞ。和食、洋食、中華まであった」

 

「ほんとか!」

 

「あるの!?ローマだよねここ!?」

 

「じゃあカエルを出す店もあるな。終わったら食べに行こう」

 

 そう、これがローマである。久しぶりのまともな反応にアラヤはほろりと涙を流した。

 

「これだけのことを仕出かしているんだ。我々が駆り出されたのもそれが理由だろうな」

 

「なら急ぐことないかな。僕、ちょっとこの街散策してもいいかい?少し興味が湧いてきたよ」

 

「よし、ならうまいカエル料理の店を探すぞ」

 

「なら私はうまいおでん屋を探してきていいか?」

 

「……君たち、仕事に私情を持ち込むのはどうかと思うのだが」

 

「――くだらないな。僕は別行動させてもらおう」

 

 集団の輪からひとり離れた男が呟き、物陰の中へ消えていく。褐色の男はその姿を物悲しそうな顔をして見つめていた。物陰へ消えて行った男を初め、彼らはまるで幽霊のように消えていく。

 

 すれ違いに宮殿に向かったルシウスはというと、鯉みたくぱくぱくと口を開けて棒立ちしていた。ネロの言葉が信じられないのか、時々ほっぺをつねって夢か現か確認している。

 

「今なんて?」

 

「だから、しばらく休みをやると言っているのだ。最近のおまえは誰がどう見ても疲れ切っている。少し体を休めて英気を養え」

 

 休み?休みって何だっけ?

 

 【休み】の意味。

 ①休むこと。休息。②休む時間・日・期間。③欠勤・欠席すること。④寝ること。就寝。⑤蚕が、脱皮前しばらくの間、桑の葉を食べずに静止すること。眠り。眠。⑥ 斎宮の忌詞で病気をいう。国語辞典から引用。

 

 そういえば最近睡眠もろくにできてないなと白目を剥くルシウス。思考能力を奪われているせいで伝説に拍車がかかりアラヤも白目を剥いてるよ。

 

 ようやく停止した思考能力が働きルシウスはネロの柔らかい手を取ると涙をぼろぼろと流した。

 

「あ、あなたがハドリアヌス帝であったか……!」

 

「誰だそれ!?余はネロだよ!?」

 

 知らない人の名前を言われて混乱するネロだが、ルシウスと手が繋げて思わずによによと顔が崩れていく。

 

「ま、まあ休みの間は余とどこかへ旅行でもしよう。案ずるな、ちゃんと旅館の予約はとってある。なーぜーか部屋が埋まってるので余と相部屋になるがな!なーぜーか!異国の地で夜を共にした我らは服を脱ぎ捨て欲望のままに……『いや、初めては優しく!』『案ずるな、気持ちよくしてやる』的な話になってな!!えへへ……あ、でもルシウスが望むのなら別に激しくしても――」

 

「陛下」

 

「ぬ、何だセネカ!今妄想がいいところなのだから邪魔するな!!」

 

「ルシウス技師はとっくにお帰りになられております。具体的には『ま、まあ休みの間』の時点からです」

 

「え、ああ!?」

 

 見れば一人で処女的な妄想トリップでくねくねしているネロに、かつて教師であったセネカと守衛たちが生暖かい視線を送っていた。先ほどまでダダ漏れだった妄想の内容を思い返して、羞恥心に震えながらうずくまるネロ。ちょっと男子ー!ネロちゃん泣いてるじゃん!あ、やばいやばい!やばいっ!ネロやばい!!

 

「ま、まぁぁあ!別に明日ルシウス誘って有言実行すーるーしー!だからこれは痛い妄想とかそんなんじゃなくなるしー!!」

 

「そ、そうですよ陛下!別にこじらせちゃった面倒い処女臭くないし!」

 

「そのまま押し倒してレッツ卒業ですよ!もうばんばんやりまくりましょう!!」

 

 ローマ宮殿はセクハラが横行するアットホームな職場だった。

 

「処女って言うなー!貧乳と処女は希少価値でステータスなんだー!!」

 

 宮殿に悲しげなネロの声が鳴り響く。なんだいつものことかとみんな思った。どうせ明日もルシウスを誘えずにヘタれるだろうなとも思っている。だが、その日からルシウスはローマから忽然と消えた。まあ、ルシウスならきっと大丈夫だろうとみんなは彼の帰りを待ち続けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が死んだという知らせを聞くまでは。


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