ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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みんな大好きアラヤと月姫組と意外な一匹登場。ごめんなソロモン、これFGO世界線なんだわ。
あと蛇足かもしれんが執事も登場。外伝でやる妻の話で重要な伏線なんですわ。


アラヤが負けるわけないだろ!アサシンにはアサシンをぶつけるんだよ!!

 ルシウスの百鬼夜行が市内の魔術師勢力を制圧し終えて、落陽は空をどす黒く染め、地には赤い地平線を刻む。ローマが夕日で赤く染まる光景を別邸の窓から眺める男がいた。片手には芳醇なワインを、肴には戦争の愉悦。此度の戦争はとても甘く、味わい深い味がする。どこぞの愉悦神父もワインが進んでいる頃だろう。

 

 男の背後から液体が飛び散る音と机を叩く鈍い音が聞こえた。生臭い鉄の香りがする。テーブル一面が少年の吐血した血液で染まっていた。

 

「ばかな……ばかな!ばかな!ばかな!ばかな!」

 

 作戦は完璧だったはずだ。なぜなら抑止力という強力なバックアップがあっての姦計。成功率という問題以前に本来ならただそういう結末へと収斂する。絶対的な運命の収束が起こるはずだった。ガイアさえルシウスに味方しなければの話だったがな。まあ、ガイアなしでもルシウスだったら引き分けくらいには持ち越せた。

 

「なぜだ!なぜ裏切った少佐!」

 

「なぜ?なぜねぇ……」

 

 少佐はグラスに残ったワインを飲み干すと心底つまらなそうな顔を向けて振り返る。およそ、戦争を引き起こすために手を組んだ相手とは思えない侮蔑を含んだ表情だ。彼の手引きがあれば戦争は多くの犠牲者を生んだだろう。元々そういう戦争がしたいと言って来たから計画に組み込んだ駒のはず。

 

 パンと手を鳴らすと、少佐は手を広げて悪魔の笑いを見せる。

 

「私は初めから賭けていたのだよ。ただの男が抑止力などという馬鹿げた相手に喧嘩を売った戦争に、私はルシウスに賭けた。星の触覚が彼に懐く以前から、ずっと、ずーっとね」

 

「そんな負けの見えた勝負に!」

 

「だが現に血を吐いているのは君だ。アラヤという存在が無様ではないかね」

 

 少年はさらに吐血した。テーブルが元々赤いペンキで塗られていたのではないかというほど赤くなっていく。

 

 思い起こせば、ルシウスがこの世界に生まれて来てから全ての歯車が狂ってしまった。これが抑止力の存在を知るものなら、歴史改変にもある程度抑えが効いただろう。しかしルシウスはこの世界がテルマエ・ロマエだと思い込んだ。奴隷時代からわりと無茶苦茶してたが、歴史に表立った改変はローマに現代日本の建築様式を取り入れるという常軌を逸したもの。それがネロ帝が即位してから迷走していき、歴史の修正力など考えない蛮行を繰り広げていく。

 

 本来抑止力とは星や人間の本能。無意識の集合体である。それに個人的な感情が存在するわけもなく、思惑を持って動くはずもない。だが、ある時彼の破天荒ぶりにアラヤは痛みを感じた。それはある種の精神攻撃による胃痛。アラヤは初めてストレスというものを感じたのだ。ありえないバグを前にアラヤはそれを切り離し扱いやすい駒とした。それがこの”二人”である。

 

「やりたい放題ぶりにイラついたか。自分通りに行かずに我慢ならなかったのか。憤怒を獲得した君はもはやただの人だな」

 

「そういうお前は暴食か?醜く肥え太った豚にしか見えない……がはっ!」

 

 少佐は少年に駆け寄ると拳を振りかぶった。小さな体が宙に浮き、壁に衝突する。

 

「デブのパンチは重いだろう?私の計画では彼に手を出すのはまだまだ先だった……まあ、もともと手を出す気も無かったがね。私利私欲で私を裏切ったのは君ではないか」

 

「じゃあ、僕を殴り殺すのか?いいよ、やれ……胃に穴が開くよりはマシだ」

 

「それもいいが、君にはこっちの方が効きそうだ」

 

 少佐は懐からあるものを取り出す。物作りが得意な執事に頼んで作らせた特注品。後世においてはルガーP08と呼ばれる黒い拳銃を構え、彼は全弾装填済みの弾を全て弾いた。硝煙が立ち、咲いた無数の火花と共に弾丸は少年の体すれすれの部分を縫い付けるように壁に穴を開ける。

 

「ダメだな。やはり私に拳銃の才能はないらしい」

 

「拳銃って、古代ローマで拳銃を作りやがったのか!げぼっ!」

 

「当たってないのに辛そうだな」

 

 血を吐き続ける少年を見下ろしながら悪魔の笑みを浮かべる少佐。最高の肴を目の前に新しいボトルに手をかけ始める。少佐はグラスを新しく取り出すと、いつの間にか部屋の角で立つ少女に注いだグラスを手渡した。少女はそれを飲み干すと、グラスを後ろへと放る。薄暗い影の中にグラスは沈んでいき、割れる音ではなく何かがガラスを貪り食うようなゴリゴリとした音がなった。

 

「私の主人が世話になったな。クソ餓鬼」

 

 全身白のコートを纏い、ふわふわなファー付きのフードを冠る少女の真紅の双眸は白にも闇にもよく映える。それはまるで朱い月を連想させた。

 

 『自然との調停者』『星の触覚』『真祖』『ブリュンスタッド』『死徒二十七祖』『血と契約の支配者』『黒血の月蝕姫』

 

 少女には色々な名がある。本来なら得られない空想具現化と影に見立てた虚数空間の操作を得た彼女は、ガイア側の暗殺者としてルシウスへと送り込まれた。初めてルシウスを見た時、少女は対象の脆弱さに呆れ果て、ただ死ぬ時まで傍観しようと決め込む。だが、悉く運命を塗り替える姿に少女は胸の何かが熱くなるのを感じた。

 

 ルシウスの妻が彼の元を去った頃だろうか。ある時、少女は影から出て男に尋ねた。

 

『どうして一人で戦い続ける?』

 

 男は初め、影から現れた少女に驚いたように後ずさったが、しばらく考え込んでからこう答える。

 

『どこかでここが自分の都合のいい世界だと願い、それがただの夢幻だと気づいていた。でも、路地裏で野良犬みたいに暮らしてた俺は、ただそれに縋ってがむしゃらに生きて来たんだ。故郷に帰れる願いに全てを賭けて挑んだ。今までも、これからも、それを嘘にはしたくないのかもしれない……まあ、帰れなくても別れた女房とよりを戻して永住も悪くはないのかもな』

 

 吹けば命が飛ぶような生命の言葉。その一生は自分の生命の百分の一にも満たない命の言葉がただ神々しく、この男に愛される女がただ羨ましかった。永遠に生きる者には決してない刹那の生命の輝きに少女は惚れ込んだのだ。人とはかくも素晴らしいものであると、涙を流す少女の背を男は無言で摩った。

 

 いつかこの男は運命という絶対的な力に屈服するかもしれない。それでも彼が夢見た最果ての未来を共に求め歩こうと少女は思った。今まで契約で他者を縛り付けていた少女は、男を契約者として手の平に唇を落とす。契約の儀式の途中に少女の名前を聞いた男は恥ずかしそうに笑った。

 

『アルトルージュ・ブりゅれ?……ごめんな、俺ばかだから長い名前覚えられないんだよ。吸血鬼だから『伯爵』って呼んでいいか?』

 

 そして少女はその名を得た。死徒二十七祖の席も、朱い月の後継者の権利も放棄して、ルシウスと共にあることを選ぶ。そして刹那の輝きを失う事になっても、共に永遠を歩むことをガイアへと願った。ガイアもルシウスを排斥するリソースを考えれば、自分の駒にする方が有益だと考えたのだろう。

 

 伯爵の提案を基に『タイプ・アース計画』は今もなお進んでいるのだ。

 

「お前、私の主人を傷つけたな。鬱陶しい暗殺者がいなければ全員細切れにしてやったものを。ただでこの屋敷から帰れると思うなよ」

 

 影の中で蠢く無数の獣たち。ガイアの怪物であるプライミッツ・マーダーの眼光が少年を貫く。

 

「む、無駄です。僕を殺しても第二第三の胃痛を患った僕が生まれるでしょう」

 

「ああ、だからお前は殺さない。犬のおもちゃだ」

 

「フォウ、フォーウ! ファッ!」(死なない程度に遊んでやるよ)

 

「え、うわっ!?なんかベトベトする!舐めるのやめ、やめろおおお!!!」

 

 ペロペロしていいのは、ペロペロされる覚悟のある奴だけだった。日が昇った頃、道の傍らで唾液まみれのアラヤくんが倒れてるのを見てアーチャーが回収したとか。別邸には空のボトルがたくさん転がってたらしい。愉悦部の大先輩に向けて未来の後輩は敬礼のポーズを取った。泰山の店員さんが困ってるからやめなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 ボッチのアサシンは鋼鉄の糸で縛られていた。別にやましいお店にいるわけじゃないので奥さんは落ち着いてください。

 

 アーチャーたちと別れた後、アサシンはルシウスの寝込みを襲おうと家に近づいた。だが、気配を察知していた伯爵と遭遇してしまい、わんちゃんと必死の追いかけっこを繰り広げる。戦えば勝ち目はないが、逃げるだけならアサシンクラスの彼は他愛なし。そのうち他の仲間も応援に来るだろうと信じて逃げて待っていたが、残念ながら彼らはローマを満喫していた。

 

『代わりましょう』

 

 疲労困憊で伯爵に追い詰められた時、執事服を着た老人が現れてそう言った。アサシンは内心ガッツポーズを決めたが、これが自分に似た戦法を取るやり難い相手で、糸を操り鉄や岩をバターみたいに切断するビックリ人間。そう、その老人は英霊や真祖と違いただ純粋な人だった。そんな人間と数ヶ月間も戦い通し、気づけば根負けして糸で雁字搦めにされてどこかの部屋に監禁状態。

 

「ああ、僕もスタミナ切れか。この姿、長として威厳がないから爺さんの格好してるのになぁ」

 

 自分の正面で椅子に腰掛けた子供が、紙巻タバコを蒸して喋っていた。なぜか自分も無性に吸いたくなり、それを察したのか少年はポケットから一本取り出すとアサシンに加えさせシガレットキッスをする。奥さんステイステイ。

 

「なあ、あんた娘はいるか?」

 

「唐突になんだ」

 

「じゃあ結婚は?その顔だとわりと誑しだと思うがね」

 

 ふと靄の混じった光景にある女性と彼女に抱かれる赤ん坊の姿があった。あったかもしれない可能性。なかったからこそ男は正義の味方へ突き進んだ。

 

 アサシンの無言に何かを察した少年は返答を待たずに口を開けた。

 

「僕には娘がいたよ。可愛い子でね、結婚してようやく幸せを掴もうって時……僕が”全て奪った”」

 

 アサシンの脳内に血まみれの二人が横たわる光景が浮かぶ。ひどく目眩と頭痛がした。それと共に目の前の相手に同族嫌悪が湧く。

 

「僕は組織のルールとかけじめなんかの為に娘の幸福を天秤にかけて、僕は自分の立場から組織を選んだ。あんたもただ一人のために世界を敵にするタイプには見えない。小を捨てて大に付く人間だったんじゃないか」

 

「だったらどうする。同じ穴の狢同士不幸話に花を咲かせるかい?」

 

「別に、ただ、老いてくると何かと話したくなるって話さ。それと娘との約束でね、あの男に死なれると僕も困る。あんたとは仲良くなれそうな気がしたが、まあこればかりはしょうがないよな」

 

 少年のわずかな殺気。糸に力が加わった瞬間、アサシンは肩の関節を外して糸から抜け出した。糸に絡まる閃光弾の置き土産が炸裂し、周囲が白んだタイミングでキャレコM950の連射が少年のいた場所へと撃ち込まれる。

 

「いいね。その武器、今度伯爵にも作ってあげようかな。いや、もっとパワーのあるやつが喜ぶか?」

 

 煙の立つ空間の中、悠々とそこにいる少年はタバコの灰を落とすことなく煙を蒸した。空中に揺蕩う糸を振るうと綺麗に半分になった弾丸の雨が散らばる。追いかけっこの最中も弾丸もナイフもこの少年には効かなかった。一瞬でも気を抜けば首を切られるほどの使い手。アサシンは確信する。この少年も自分たち守護者が召喚された要因であることに。

 

 少年は一片の隙もなく完璧な礼をすると、加えた短いタバコを空中に飛ばしミリ単位の細かさで切り刻んだ。

 

「ルシウス様の四番弟子『執事』。お相手仕る」

 

 名を言い終えて執事は狭い室内を駆けた。弾いたスーパーボールが壁を反射するような動きをアサシンは目で追う。追いきれなかった隙を突く糸の斬撃を彼は紙一重で避けていった。アサシンは宝具を使うか決めあぐねる。初動を見切られたらいくら時間流の加速によって高速攻撃や移動を行っても逃げられるだろう。

 

(お互い無傷では済まないだろう。だが、僕の命を使って仕留められるなら構わない)

 

 アサシンはいくつか隙を作り、執事の攻撃を誘導する。こちらが導いた箇所に攻撃が仕掛けられたら即座に宝具を使う準備は出来ていた。いくつかのフェイントは避けられ、最後の作り出した隙をついて自分の胸が深く切り裂かれた。それと同時にアサシンは『時のある間に薔薇を摘め』を発動する。かつて衛宮切嗣と呼ばれた男の固有時制御(タイムアルター)を基にして作られた宝具。高速移動で自身の起源である「切断」「結合」の二重属性の力が具現した武器で相手を切り刻み、魔術師ならば致命的なダメージを与える高速の連続攻撃。

 

『   』

 

 空中でゆっくりと動く執事は何かを口にしようとしていた。本来ならそんな言葉にはアサシンも耳を向けない。しかし、彼が装填済みのトンプソン・コンテンダーを構えるわずか2秒、現実世界の時間にして1秒も満たない時の中で紡がれた言葉にアサシンは動揺した。

 

「ばかな、なぜこの時代に……」

 

 11世紀ごろイスラム教の伝承に残る暗殺教団。彼らはハサン・サッバーハとして聖杯戦争においてアサシンのクラスを冠している。歴代当主は己の御技によって「山の翁」を受け継いできた。この時代における常識などもはやないにも等しかったが、その知識がアサシンの手をわずかに遅らせた。

 

 

 

 

■■■■(ザバーニーヤ)

 

 

 

 

 執事は半分に割れた面を被り、その秘術の名を口にする。




これにて最終章前半戦終了。あとは残った守護者組が頑張るようです。間に番外編みたいなのが入ってから再開。

読者ショックの回から3話分くらい省いたせいでOPの後にあなたが犯人ですね的な展開になってすみません。あと、基本シリアスぽい雰囲気感じても騙されないでください。それは高度に擬態したギャグという名の茶番です。

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