ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!! 作:オールドファッション
ルシウス・クイントゥス・モデストゥスは絶望していた。
時は遡るどころか、間欠泉のごとく噴射して2000年代初頭にジャンプ。『本編の執筆から逃げるなぁ!』と、どこかの長男が叫んでいるが、こんな頭が鬼舞辻無惨よりも悪くなりそうな作品をいきなり書いたら常人は爆発四散するのだ。理由は1つ、この作品の作者が異常者だからだという遠回しの自己紹介。そもそもお前らは年代的に存在してはいけない作品なんだよ。失せろ(ギロッ)
「ま、まさか。ここで遊戯王の熱いタイトル回収……ふぐっ……ひんっ!!」
この時代、少年ジャンプは暗黒期から復活の兆しを見せ、掲載作品に近代の伝説的な作品が出始めた頃であった。日本中のコンビニの本棚を覗けば、表紙の『ナルト』や『ブリーチ』とよく顔を合わせるような時代である。
「しかし、やはりこち亀はいつの時代も安定感があるな。どんな暗黒期でもこち亀とワンピースがあればジャンプは大丈夫だろう」
こち亀が連載終了することを忘れたルシウスは呑気に立ち読みをしながらそう呟く。ついでに、好きだった『笑っていいとも』も2014年に放送終了することを忘れていた。
2000年も経てば、転生前の記憶なんてほぼほぼ忘れてしまう。思い出すのは、妹が作る暴力的な不味さの八宝菜くらいのものだ。おかげで中華屋の前ではパブロフの犬である。
「ルシウス〜。暇だよぉ……もう、サンデーもマガジンもチャンピオンも読み終わっちゃったよぉ」
「じゃあ、コミックボンボンでも読んでなさい」
「ボンボンは付録のせいで紐かけしてあるんだよぉ」
人間形態のオルトに背中からのし掛かられるが、ルシウスは媚びぬ引かぬ省みぬで突き通す。国家浴場技師に逃走は無いのだ。
「やー!遊んでー!」
「ぎゃー!分かった!分かったから離して!胴体が千切れる!!」
即逃げに走った。イチゴ味よりも甘々な決意にターバンのガキもニヤリッ。聖帝十字陵をここに建てよう。
人間形態とはいえ、地球最強の生物の抱擁に体が悲鳴を上げた。アルテミット・ワンに死の概念は存在しないが、ルシウスの体は未だに人間時代の耐久力なので破壊されたら活動は停止するだろう。
まあ、そもそもだ。どこぞの真祖と、その姉が健在な時点でONEという称号が正しいかと言われると難しいところである。
「まさか保養のために温泉街に来て、そこで仕事をさせられるとはなぁ」
何年か前に何でも願いを叶えられる聖杯とやらを”再び”求めて冬木に訪れたものの、結局自身の願いは叶わなかった。それどころか冬木の地でも『わくわくざぶーん』なるレジャー施設の建設を手伝わされる始末。無駄骨を折って手に入ったのは優待券だけであった。
戦いの疲れを癒すために草津に訪れてみれば、ルシウスの到来で地脈があやとりを編むが如く乱れに乱れ、源泉掛け流しどころかスプラッシュマウンテン状態になってしまった。こんなになったのは行基や空海と旅をした時以来である。
流石に罪悪感を感じて全地域の温泉施設の故障を直して回ったが、宿を取り忘れてコンビニで夜を明かす始末。このジャンプもすでに10回くらい読み直している。店員の視線が痛いので、時々出来立ての肉まんを買わされていた。
「私は薄々分かっていたけどな。温泉の少ない千葉にでも行けばよかったんだ……夢の国とやらに行きたかった」
「ハハハッ!フォウフォウ!」(ネズミボイス)
「やだよ。夢の国が温泉まみれになっちゃうだろ。訴訟されたら夢も希望もない金額を請求されるぞ」
隣でピザマンを頬張る伯爵と、彼女の影の中でチキンを骨ごとバリボリと砕くフォウくんをなだめながらルシウスはコンビニから出た。もう夜が明けて朝日が差し込んでいる。太陽だけはローマも日本も変わらないらしい。
「しかし、この数千年間ずっと一緒に旅をしてきて思ったことだが……貴様は運がないな」
「毎回面倒ごとを引き起こすよねぇ」
共にルシウスへの興味からずっと付き従ってきた2人だが、ルシウスの起こす面倒事には呆れ果てている。ローマでの騒動以降も、この男が向かう土地では似たような珍事が繰り返されるのだ。
どちらかと言えばガイア側の関係者だが、今ならアラヤの苦労が少しだけ分かる気がした。
「ぐぬぬ……私がトラブル気質なのは否定はせんが、運が無いのとは別だろう。……む?」
『トラブル気質と運の無さは同義語なのでは?』と思いながら国語辞書を捲り出す2人を尻目に、ルシウスは商店街で行われていた福引会場に視線を奪われる。明け方というのに、町内会の人々が早起きで準備を始めていた。
ローマ時代、イケニ族の集落の温泉街で同じ催しをやったことを思い出してほっこり。そして同時に、他国から来た転売ヤーを思い出して憤慨した。未来の日本は分からないが、ローマの法律では転売ヤーは死刑である。
「おっ!あの外国人の兄ちゃんじゃないか!」
「むっ。若女将ではない方の女将ではないか」
「若くなくてごめんねぇ!おばさんでぇ!」
「す、すまない。知り合いに幼女くらいの若女将がいたもので……」
着物姿の妙齢のご婦人がルシウスに声を掛けてくる。見れば、温泉街で湯もみショーを仕切っていた女性であった。
ご婦人からすれば、親日家の外国人観光客がこの草津の温泉街を救ったように見えただろう。まあ、実際はルシウスが作った大きな損失を、少しの損失に戻しただけのことである。そのせいでルシウスは修理費も工賃も請求していない。仮に請求していたら違う面倒ごとになって逮捕されていた可能性があった。
「今、温泉街がこんなことになっているから、福引でもして盛り上げようとしてるのさ」
「うむ。くじは人種問わず大好きだからな。かのローマ帝国でも1人の男のフィギュアを巡ってガラガラを回しまくったそうだ」
「ローマにもガラガラ抽選機あったのかい?」
「すべての事象はローマに通じているのだ」
その事象を生み出した張本人は高らかに笑う。後ろの2人と1匹は冷めた目でルシウスを見ていた。
「そうだ、福引やって行きなよ。それなりに豪華な景品があるからさ」
「ふむ……なら、遠慮なく私の強運を発揮させてもらうぞ」
貰った福引券はちょうど三枚。それぞれが一枚の紙切れを持って決闘の構えを取る。さあ、ひゃみのゲームの始まりだ(東映版)
先手を取ったのはオルトちゃん。最強生物ゆえに精密的な動作が苦手な彼女は数々の道具を壊してきた。ダイヤモンドすらも簡単に砕くグレートな蜘蛛も、今は人間形態が板に付いてだいぶマシにはなっている。
「えいっ!」
壊さないように気合を乗せた第一声。しかし、圧倒的な余力でガラガラ抽選機は数十秒ほど高速回転を続けた。その光景に女将は呆気に取られていたが、ルシウスと伯爵は『不器用なあの子がこんなに成長して……』と保護者ムード。
ようやく速度が落ち着いて、ガラガラから出てきた玉は……紫色だった。残念賞が白色の玉で、六等が緑色だったはず。確か紫色は……。
「おめでとうございます!五等が出ました!」
「わーい!」
よく分からないまま喜ぶオルトちゃん。しかし、クジ引きで万年残念賞のポケットティッシュしか引いたことのないルシウスは内心動揺する。今の今まで、残念賞しか出ない物だと信じ込んでいたのだ。チョコボールでも銀のエンゼルすら引いたことのないクソラックの持ち主である。
「五等は温泉まんじゅうの詰め合わせでございます」
「アイエエエ!?ナンデ!?マンジュウナンデ!?」
いつぞやのイモータル・カオス・ブリゲイドまんじゅうのトラウマが蘇って泡を吹くオルトちゃん。
バレンタイン時期のカルデアにいなかったのが幸いであった。風魔組に加え、果心居士という饅頭を配るお婆ちゃんがいるのでトラウマ一直線だろう。
「次は私か」
二番手は伯爵。
残り物には福があるからと、ルシウスに順番を譲られたのだ。だが実際は、2人が残念賞を先に引けば分母が変わるというパチンカスのごとき打算があった。まあ、五等が引かれた時点で破綻したがな。
高速回転で少しガタガタになった抽選を軽く回すと……銀色の玉が出てきた。
「に、二等です!二等が出ました!!」
「な、何ぃ!?」
ルシウスが振り返って見てみると何やらしたり顔の伯爵。何とこの死徒二十七祖第九位は、たかが運試しで空想具現化を使い銀の玉を生成したのだ。ぶっちゃけただのズルである。
ルシウスもガイアからのバックアップで疑似的に空想具現化能力を開花させたが、基本的にこの男はお湯しか生成できない。人間時代と大差ないのでは?
「二等は人気アニメのDVDです!何と、原作者のサインも書かれているんですよ!」
「ふむ、何だろうな。ワンピースか?ドラゴンボールか?」
「えーとタイトルは……げ、英語ですね。何て読むんだろう」
英語がダメな女将はDVDのパッケージにデカデカと書かれたサインに目を向ける。サインといっても、普通の文字で名前が書かれているだけのものだった。
「原作者の名前は平野耕――」
名前を聞いた瞬間、伯爵はパチモンくさい色彩のDVDを地面に叩きつける。きっとまんだらけで安売りされていたに違いない。せめてOVA版を寄越せ。
大トリを任されたルシウスは平然とした態度を保ちつつも、背には大量の汗をかいていた。
(何でオレが……オレだけが…!)
強運なんかじゃなくていいっ…!奇跡もいらないっ…!平運っ…!起こってくれよっ…!オレにごく普通の現象…確率!
そんな福本作品めいた思考を見透かした女将は内心でほくそ笑む。
基本的にくじ引きというのは序盤に大きな当たりを出さないことが肝要。ましてや一等を早々に引かれては客の関心はほとんど無くなる。かといって、いつまでも一等が出なければ不信感が生まれるのも必定。ゆえに、一等の玉は入っているが、玉の比重によって出にくくなっているのが鉄板の仕組みであった。ガラガラ内部の仕組みでさらに巧妙になっている場合もある。
(いきなり二等を当てられたのは痛手だが、何とかカバーはできる。さあ、早く残念賞を引くがいいさ!)
柔和な笑みの下に潜むヒルのような作意。その視線に見つめられたまま、ルシウスは運命の車輪を回す。
誰もが諦観していた。当のルシウスでさえも。
しかし、奇跡は起きたのだ。
「い、一等です!!一等が出ました!!!」
「な、何ぃぃいいい!?」
現れたのはまごうことなき黄金の玉。すなわち、一等の玉である。
伯爵が手心を加えて生成したものではない、正真正銘の一等をルシウスは引き当てたのだ。
「うおおおお!最悪の運命、最悪の境遇、ありとあらゆる障害、不平等、不正、不満、全て捩じ伏せて俺は勝つ!」
拳を上げて高らかにルシウスは勝利を宣言した。全てを乗り越えて純粋に一等を引き当てた男の姿を見て女将はうな垂れる。
――心の崩壊――
女将の悪に満ちた『心』は砕け散ったのであった。
まあ、実際はオルトちゃんがめちゃくちゃに回したせいでガラガラ内部が壊れ、玉がバラバラに混ざったことが原因だった。それでも数ある玉の中で一等を引き当てたのは純粋な幸運値によるものであるだろう。
「引いといて何だが、本当にもらっていいのか?目玉商品なんだろう?」
勝利の余韻に酔いしれているルシウスを他所に、女将に問う伯爵。元々運試しが目的であり、商品が目当てではない。ルシウスはもらう気満々だが、伯爵とオルトちゃんは返すつもりであった。
「遠慮しなくていいよ。あの兄ちゃんには色々と助けてもらったし、そのお礼代わりとして貰っておくれよ。そもそもあの一等も、アンタらと同じ外国人の観光客からただで貰ったものだったし」
「外国人?」
「うん。なんか変な帽子を被った男だったね」
「そんなことはどうでも良い!おい女将!それで一等は何なのだ!」
何やら重大な情報を聞きそびれたような気がしたが気のせいだろう。変な帽子を被った外国人なんて今時珍しくもない。バレンタインだし、きっとウィリー・ウォンカがお忍びで旅行に来たのかもしれない。金曜ロードショーで2週連続放送やってたもん。
「アメリカ旅行のチケットだね。ちょうど三人分」
「アメリカかぁ!ハワイか?イエローストーンか?カリフォルニアか?ワシントンか?」
「何で全部火山地帯なんだい?えーと、場所は確か……」
チケットに書かれていた名前はアメリカ合衆国西部の都市・スノーフィールド。
ルシウスの悪運によってこの一等が選ばれたのか。それとも何者かの作為によって仕組まれた必然だったのか。
ぶっちゃけ、その両方であろう。
「よし、行くぞ!スノーフィールド!」
3人と1匹は横一列に整列しながらバーーン!と効果音を立てる。フォウくんも行く気満々だが、ペットの持ち込みはNGなので影の中でお留守番しなさい。
向かうは偽りの聖杯戦争が始まろうとしているスノーフィールド。彼らを待ち受けるのは魔術師か、サーヴァントか、合衆国そのものか。
「すみませんお客様……他に身につけている金属はございませんか?それか体内にペースメーカーのような金属部品があったりは?」
「すまん。その子、全身クリスタルだから……」
「クリスタルボーイか何かで?」
空港の金属探知機であった。
ー12世紀ごろー
「やあやあ友よ!前に君に作って貰ったバイク!とても良かった!」
「げっ、来たな詐欺師め」
「冷たいことを言うな友よ。それはそうと、次は車とやらを作ってくれまいか」
「今何世紀だと思っているんだ……」
「作れないのかね?」
「できらぁ!温泉エンジン搭載!座席がぶっ飛ぶ仕様にしてやる!……ちょっとアル=ジャザリに手紙書くから待ってろ!」
「その意気だ!ナンバーはBMT 216Aに決まりだな!」