ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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作者「男モレー実装か……テンプル騎士団…テンブロ騎士団…露天風呂騎士団……」

アラヤ君「やめて!!!」


王が慢心するわけないだろ!王☆腹筋☆大☆激☆痛!!

 スノーフィールド『クリスタル・ヒル』最上階。ロイヤルスイートは光り輝いていた。そりゃ、最上級で最高級の一室なのだから、豪華絢爛で装飾華美なのだろう。あるいはパリピが開くダンスパーティーやナイトプールの如く、サイケデリックな光の中で享楽に耽っているのだろうか。

 

 否である。

 それは人を光源とした光であった。文字通り、人が光っているのだ。

 

 かつて例のサーヴァントのマスターであった者たちは予想したことだろう。『なんだギルガメッシュ(いつものやつ)か』と。

 

『またキャストオフしたのか英雄王。月でもゼロでもプリヤでもキャストオフして照明班を困らせて……メガネの刑に処す』

 

 自称クラスで三番目の美少女が月から電波を飛ばしてきているが、自称クラスで三番目の男がそれを制した。おい、枝を超えるのはやめろ。君らはこっちの世界線ではただの日本の学生だろうが。ダメだ!未来が変わってしまう!タイムパラドックスだ!助けてNP100%礼装の人!

 

 金ピカといったらギルガメッシュ。ギルガメッシュといえば金ピカ。彼はそんなイメージがミダス王よりも定着している。もう部屋の照明も要らないほどの公害レベルの光具合。別世界線のカルデアスタッフの視力がちょっと心配になってきた。

 

『ならばこのメガネをお掛け……』

 

 おかえりください、月の王よ。

 

 現在進行系で王のご威光に目をやられているであろう新米マスターを、歴代のマスターたちは憐憫の眼差しを向ける。しかし、今回の件にはギルガメッシュはなんら関わりがなかった。

 

 光の発生源は──ティーネ・チェルクである。

 

「ティ、ティーネ様!?」

 

 ティーネの部下である黒服の女性は、その光に目がくらみつつも、なんとか主人である少女へと視線を向けようとしていた。

 ティーネはまるで黄金の光を身に纏うが如く発光している。あるいはそれは、穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士の姿であった。はちゃめちゃが押し寄せてくる前に集英社に謝罪に行きなさい。

 

「体に力が溢れている……こんな感覚は初めて。もう、なにも怖くない」

 

 何やら盛大な死亡フラグが立った。

 ええい、新作映画に戻れ虚淵。これは成田良悟原作なんだ。

 

「フハハハハハ!見事な死亡フラグだ、ティーネよ!」

 

「王!」

 

 現れたのは黄金の鎧に身を包んだ英雄王ギルガメッシュ。ただでさえ眩しいのに、さらに眩しい存在が増えて目も開けられないほどの状況になった。もし開けたら本当の目玉焼きが出来上がることだろう。

 

「ウオオオ!すごい力がみなぎってくる!王よ!これは一体……」

 

「知らん。何だそれは……怖…」

 

 てっきり英雄王の宝具による現象かと思ったが、原初の王ですら理解できない怪現象に一同は困惑する。だが、英雄王もまったく心当たりがないわけでもなかった。この世の全てを見通す『千里眼』は、はるか下を見据えていた。

 

「おそらく、活性化した地脈の影響を受けたのだろう。複数もサーヴァントを呼び出したというのに、凄まじいマナの猛り。まるで神代と見まごうほどの稠密さよ」

 

 ティーネの部族は1千年前からスノーフィールドの土地と共生し、土地の霊脈と深い関わりを持った存在だった。その総代であるティーネは、この地を簒奪した魔術師たちに復讐するべく作り出された存在でもある。土地の領域内であれば抜きん出た実力を発揮し、無音にまで圧縮された高密度詠唱と高度な魔術を瞬時に行使することができるのだ。

 そしてルシウスの到来によってスノーフィールドは今までにないほどの活性化をしている。その影響が土地守であるティーネに波及したのだ。具体的には、ダブルキャストリアシステム&黒聖杯くらいのバフをもらっていた。

 

「第四次聖杯戦争でも同じ現象が観測されています。王よ、何か心当たりは……」

 

「おいおい、その問い掛けは(おれ)でなければ成立せぬものだぞ」

 

 英霊の座には未来や過去の概念はない。かつての第四次聖杯戦争の記録を蒐集してはいるが、時間も空間も確定せず、時空を超越して膨大な情報を集積する以上、現世に召喚されるサーヴァントに記憶が残っていると知識の矛盾が生じる。

 一部の例外を除き、召喚されるサーヴァントは記憶をアジャストするのだ。世界に矛盾を生じさせないための、座の苦肉の策なのだろう。

 

「しかし、我の千里眼の前では無駄な足掻きよ。異なる位相の未来から過去を類推するなど容易いことだ」

 

 そう言って、英雄王は視線を向けて位相のずれた己の姿を見据える。正史であれば、例の『泥』に視界を遮られたために、この観測は失敗に終わった。

 

「…………」

 

「お、王よ……どうされたのですか?」

 

 しかし、この世界線では泥は”晴れていた”のだ。

 第四次聖杯戦争で起きた全ての出来事を見終えた英雄王は──。

 

 

 

 

「フハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 抱腹絶倒の大爆笑をかました。

 

 腹を抱えて笑い狂っている英雄王を前に、ティーネと彼女の部下たちは絶句する。件のランサーが召喚されてからの英雄王はご機嫌だった。しかし、こうまで大声を張り上げて笑っている姿を見たことがない。

 そこには愉悦も、嘲りもなく、ただ純粋に喜びをさらけ出して笑う一人の男がいた。まるで少年のように、彼は純朴な微笑みを湛えていた。

 

「ハアッ……なるほど、得心がいったわ。なぜ我たちが揃って召喚されたのか疑問だったが、お前が呼び水であったのだな」

 

 笑い終えた英雄王はビルの外に黄金の翼を持った宝具を出現させる。

 

 英雄王が有する小型の空中戦艦。宝具『ヴィマーナ』。

 空中を自由自在に飛行し、搭乗者を守るため数十の迎撃宝具が搭載されている。これひとつで、並みのサーヴァントの宝具を凌駕する性能を持つが、英雄王が持つ数多の宝具の内の1つに過ぎない。

 

 英雄王ギルガメッシュを象徴する宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』。

 

 かつて地上全ての財宝をかき集め、それらを収める宝物庫を建造した。そして、その蔵には、古今東西ありとあらゆる伝説の原点となる宝具も収められている。故に、『この世の全ては我のもの』という最古のジャイアニズムを持った宝具と化していた。

 人類が生み出したものであれば、遥か未来の時間軸に存在するものですら財宝として蔵に収められる。しかし、蔵の中には『ある男』にまつわる宝物だけがなかった。宝物として認識していないのか、あるいは王の財宝が腹を壊しそうなので食わず嫌いを起こしているのか。多分、両方だろう。

 

「未だに我のものになることを拒み続けるか。手に入らぬからこそ美しいものもあるだろうが、さすがに三度もお預けを食らっては我慢の限界だな……付いて参れ、ティーネよ」

 

「どこへ向かわれるのですか?」

 

 まるで童心に戻ったような笑みを湛え、英雄王は振り返る。

 

「宝探しだ」

 

 英雄王は行き先を指し示す。その場所は、ちょうどフランチェスカの大魔術が解けた警察署だった。

 

 

 

 

 

 

 

 全ての財宝は、王の財宝に帰属する。

 ならばこそ、その男との出会いは必然であった。

 

「異邦人?」

 

「はい。異国の言葉しか喋れないようで、捕まえた守衛も難儀しているそうです」

 

「門番ではなく、都市内の守衛が捕まえたのかい?」

 

「市民からの目撃情報では、なんでも浴場に突如現れたと」

 

 ウルクの祭祀長から伝えられた報告に、少年は目をぱちくりとさせた。

 

 まだ幼童であったギルガメッシュは、その齢にして、すでにウルクを治める王であった。青年の頃の傍若無人な態度はどこへやら、この時代のギルガメッシュは礼儀正しく謙虚な性格であり、人々が期待していた名君として慕われていたのだ。

 

「じゃあ、僕が話してみるよ」

 

 ギルガメッシュは手に持った石版を置いて玉座を降りる。休憩もかねて、散歩ついでに異邦人の元へと向かった。

 それは好奇心からの行動ではあったものの、なんら期待感はなかった。

 

 メソポタミアの都市ウルクは世界最大の城塞都市。最大の文明と最高の文化が花咲く国であり、当時の人類圏ではこの場所こそが世界の中心地であった。だからこそ、異国というものにそこまで大きな興味は抱けなかった。

 

(この国の言語を話せないとは……どんな未開の土地からやって来た野人だろうか)

 

 どんなショボくれた人なんだろう。

 どんな惨めな顔をしているのだろう。

 

 そんな落胆にも似た好奇心で向かった先で、ギルガメッシュは出会った。

 

 

 

 

 温泉を掘っている謎の男に。

 

 

 

 

『一ヶ月不眠不休で温泉を掘っていたらここについたのだ』

 

「なんて?」

 

 知恵の女神と人間の王との間で造られた神造の王がギルガメッシュである。故に、彼の知性は全てを見通す。彼にとっては未知の言語であるラテン語すらも、おおよその理解はできた。だが、言葉が理解できても理解できないものがあることを今知った。

 

「君、どこから来たの?」

 

『何も思い出せん……浴場で滑って頭を打ったせいだろう』

 

「記憶喪失かぁ……名前も思い出せないのかい?」

 

『名前……ル、ル、ル……ルールル、ルルル、ルールル、ルルル』

 

「何かのテーマソングになったねぇ」

 

 今日の素敵なゲストは記憶喪失のローマ人さんです。どうやら仕事の多忙さから、ストレスで記憶が抜けたらしいですね。ちなみに毛根は丈夫なのでハゲにはならなかったようです。

 

 これにはギルガメッシュでも打つ術がない。全知の知性であっても、相手に記憶がないのであれば見通すものも見通せない。完全にお手上げだった。

 

 ギルガメッシュはこの記憶喪失の男を保護することにした。別に助けるような義理もないが、雑種とも呼べないほどミジンコレベルの貧弱さを見かねて憐憫を抱いたのだ。きっとウルクの子供や老人相手にすら負けるだろう。

 

「ごめんね『ルー』。うちにはもうペットがたくさんいるから君は家には置いとけないんだ。この急ごしらえの小屋でよければ、ここで羽を休めておくれ」

 

『……なんだこの犬小屋』

 

 男の呼び名は、彼が連呼していた言葉から取って『ルー』と命名した。偶然にもそれは古代シュメールで『人』や『男』を指す言葉であり、名無しの男にはぴったりの名前だ。まあ、男の待遇は人間以下の扱いだったが。

 ちなみに別の案として漂流者を意味する『マミューダパオ』、略して『マダオ』という名前もあったのだが却下された。『カ・コニ・メエル・ヲ・オクール』くらいメジャーなシュメール語なのに、男は激しく拒否するのだ。

 

 結局、ルーは近くにあった酒場に預けられることになった。無論、宿賃はこの店での労働によって支払われる。シュメール語を話せないルーは裏で食器洗いに従事した。結局、いつも通り転移先でも馬車馬の如く働かされていたのだった。

 

『おのれ!世界の共通言語であるラテン語すら話せないとは!ここはド田舎か!』

 

「彼、酔ってる?」

 

「いいえ。ミルクしか飲んでいませんよ」

 

 店のカウンターで牛乳を呷るルーを見て、ギルガメッシュと酒場の娘シドゥリは、彼を哀れに思った。

 

 やさぐれているルーを見かねて、ギルガメッシュは彼をウルク見物へと連れ出す。世界の最先端であるこの国を見れば、男の心も晴れるだろうと思ったのだ。

 どんな驚嘆の表情が浮かぶだろうか。そんな予想とは反して、男の反応は静かなものだった。

 

 男は建造物や水路を食い入るように見つめている。時折、懐から水平器を取り出し、建造物の水平具合を測っていた。

 

『ふむ、中々の建築技術であるな。ド田舎と言ったのは訂正しよう』

 

「当然でしょう。僕の治める国ですからね」

 

 ルーからの賞賛に、ギルガメッシュは特に喜びもせず返事を返した。ギルガメッシュにとって、ウルクが最高の国であることは至極当然のことであったからだ。

 

 

『しかし、この国には決定的に足りないものがある』

 

 

 だからこそ、この言葉に黙ってはいられなかった。

 

「へぇ、何が足りないんだい?」

 

 先ほどまで穏やかな笑みを浮かべていた表情が、一切の温かみを喪失していく。

 

 所詮は外の国から来たミジンコの如き野人。その言葉に一々反応するのもバカらしいが、返答次第では首を跳ね飛ばしてやるくらいの癇癪がギルガメッシュに沸き起こった。

 

 神性を湛える真紅の双眸が、ルーを見据える。しかし、直感マイナスEXレベルのルーはその怒気にも気が付かない。そもそも、目の前にいる少年がこの国の王であることすら気付いてはいないのだ。

 

 辞世の句になるかもしれないというのに、ルーは呑気に口を開いた。

 

『テルマエだ』

 

 謎の単語にギルガメッシュは一瞬だけ首を傾げる。意味は理解できるのだが、故に不可解な言葉であったのだ。

 

「……浴場のことかい?それならすでにいくつかあるじゃないか」

 

『あれでは足りん!もっとデカく!もっと素晴らしいものが必要なのだ!!』

 

 風呂の起源は紀元前4000年のメソポタミアにまで遡り、紀元前2000頃になると薪の火を活用した温水浴場が誕生する。しかし、それは一部の個人が所有するものや、神殿周辺に作られた儀礼的で小規模のものであった。

 公衆浴場の起源は紀元前2000年頃のインダス文明が神殿と共に建造したものが最古である。しかし、やはり最盛期は古代ローマであったのだ。

 

『少年よ!お前にテルマエ・ロマエ(ローマの風呂)を見せてやる!!』

 

 ルーは地面に落ちている木の枝を拾うと、地面に精密な図面を書き上げた。その速筆ぶりは、ウルクの城塞都市建設にも携わったギルガメッシュが息を飲むほど素早い。何より、当時の人間がおよそ考えもしない発想に満ちたデザイン案だった。

 

「この構造は……なるほど、水路をこうすることによって人工的な波が立つのか。そしてこの斜めの建造物は……そうか!滑って遊ぶためのものか!」

 

 見たこともない設計図にギルガメッシュは心を躍らせた。それはまるで、巨大な浴場施設に海と大地が共存する常夏の楽園だったのだ。

 まあ、ぶっちゃけるとサーマでランドな某施設からのもろパクリだったのだが、ルシウスの潜在意識が書き上げたものなので意識したパクリではない。

 

「建造物に関してはなんとかなるでしょう。しかし、問題があります。これほどの水量をどうやって確保するんですか?」

 

 ルーの書いた設計図は理論上可能なものではあるが、現実的ではなかった。

 

 ご存知の通り、ウルクはユーフラテス川付近で栄えた都市である。しかし、だからと言って利用できる水量は技術的に限られている。生活用水はもちろんのこと、農業にも利用するものだ。たかが、1つの建造物にこれほどのリソースを費やすのは現実的ではない。

 

『ならば温泉を掘ればいいだろう!』

 

 何を言ってるんだこいつは。

 

 ルーはスコップのような道具を農家から借りて、最初に出会った場所で地面を掘り出した。

 

 ギルガメッシュはそれをただ傍観する。彼の全てを見通す目は、そこを掘っても源泉は見つからないと結論付けていた。実際、メソポタミアは地理的にも温泉の少ない国だった。

 

 

 しかし、ルーは源泉を掘り当てたのだ。

 

 

 戦闘力を犠牲に、全て能力値を温泉に特化させた温泉ギフテッド。神の権能でも、精霊種の能力でもない異能の力は、ギルガメッシュの叡智をもってしても理解できない外来の力であった。そもそも分かっていたらアラヤ君もあそこまで血反吐を吐かなかっただろう。

 

『こんな量ではまだ足りん!少年も手伝え!』

 

「……やれやれ、仕方ないですね」

 

 渡された道具を手にとって、ギルガメッシュはルーと共に泥だらけになりながら掘り続けた。それはルーにとっては労働だったのかもしれないが、ギルガメッシュにとっては新鮮な経験だった。まるで子供が公園の砂場で穴を掘るような、そんな衝動的な遊びの楽しさを感じていた。

 

 詰まる所、人間は根源的に何かを作ったり、掘ったりするのが大好きなのだ。海に来ても砂で遊んだりするし、ゲームの中ですら穴掘りに興じる。世界で最も売れたマインでクラフトなゲームがそれを証明しているだろう。

 

 ギルガメッシュは童心というものに戻り、このでかい子供のような大人と遊んだのだ。いや、初めて童心というものを得たのかもしれない。王として生まれた時から完成された存在であった彼には、それは本来不必要なものだった。

 ゲームを禁止された子供が、大人になってゲームにどハマりするように、ギルガメッシュはこの馬鹿げたテルマエ造りに熱中した。それ以降、ギルガメッシュは王としての公務もそこそこに、公衆浴場を完成させるべく奔走を続ける。

 

 無論、それをよく思わなかった者たちがいた。

 天空神アヌと風神エンリルを筆頭とするメソポタミアの神々である。

 

 全ての神々の代弁者として、アヌ神はギルガメッシュの父であるルガルバンダ王に神託を与えた。

 

『あの人間……人間?人間……だと思われる存在をウルクから遠ざけなさい。ギルガメッシュの教育に悪いから』

 

 ぐうの音も出ないほどの正論だった。

 

 翌日、ルーはシャマシュ神ことウトゥ神が守護する都市へと送られた。正義と道徳の神である彼ならば、正しくルーを御すことができるとルガルバンダ王は信じていたのだ。

 

『浴場?不要です。沐浴で良いではありませんか。過ぎたる欲望は悪です』

 

 ウトゥ神が守護する都市シッパルでも、ルーはあいも変わらずに温泉掘りに勤しんでいた。そんな彼を、ウトゥ神は穏やかに諌めた。流石は正義の神だとシッパル市民たちはウトゥ神を褒め称える。

 

『文句を言う前に、一度体験して見てください。同じ口が聞けますかね』

 

 まるで料理の審査試験のような口ぶり。そんなに自信があるならばいいでしょうとウトゥ神は勝負に応えた。そして数日中にウトゥ神の神殿に源泉掛け流しの浴室を建造する。

 

『浴場?必要です。もっとたくさん造りなさい。風呂上がりの後のフルーツ牛乳は正義です』

 

 なんと脆い正義だろうか。風呂という賄賂を前にウトゥ神は屈した。ついでに自分の法典の中に『風呂上がりの後のフルーツ牛乳は正義』と付け加えるが、後にこの法典を授かるハンムラビ王は誤字だと思って削除している。

 

 これを機に神々は自分の神殿にも同じものを作らせた。あのウトゥ神が許可したのだからきっと合法だろうとこぞって押し寄せる。疫病を司るネルガル神ですら自分の神殿に風呂を作らせるほど、神々の間では風呂ブームが巻き起こったのだ。

 

『なんという恐ろしい人間だ……』

 

『これ以上、奴の影響が人類や我々に及ぶのはまずい。杉の森に追放してしまおう』

 

 アヌ神とエンリル神は風呂に浸かりながら、どこか既視感を感じさせる黒幕ムーブをカマしていた。そのうち『おのれルー!』とか言いそうだ。

 

 たしかに、ルーはこの時代の獣を倒せるほどの力はなかった。むしろ戯れに触れられただけでも木っ端微塵となる。神代の獣相手なのだから十分にありえることだ。

 しかも、今回に限っては件の吸血種は付いて来ていない。まさに絶対絶命のピンチに落ちいっていたのだ。さあ、どうなるルー!

 

 

 

 

「さあ、どこを掘り進めようか」

 

『ふむ、この辺りから温泉の気配を感じる』

 

 

 

 

 レバノン杉の森で出会ったエルキドゥと聖娼シャムハトに保護され、森の動物たちと温泉を満喫していた。動物たちは、さながら、温泉に浸かる猿やカピバラと化す。

 金太郎並みに動物と相性が良いのが温泉。ならば、すでに勝敗は決していたのだ。時折現れるレバノン杉の守護者ですらも、温泉に浸かっている時は狂気が和らいでいる。

 

 それなりに多忙ではあるものの、ローマでの暮らしと比べたら、ルーは穏やかな時間を過ごしていた。

 

 だが、それが逆にギルガメッシュの逆鱗に触れた!

 天に向かって鉄球を投げつけるような勢いで怒っていたのだ。

 

 教育に悪いからと取り上げられたおもちゃを、取り上げた張本人たちで楽しんでいるのだから当然激怒する。

 かつてのそよ風のような穏やかさが一変。なんと言うことでしょう……星5の姿に劇的ビフォーアフター再臨。反抗期と言う名の暴君に突入した。

 

 神々が想定していたシチュエーションとは違ったが、ギルガメッシュを罰するために神々に造られたエルキドゥは、自らの役目を全うするべく怒髪天を衝く暴君の元へと駆ける。ルーはネルガルの神殿で仕事をしてから風邪気味だったので留守番していた。

 

「貴様が、俺を諌めると?野獣如きが……ルーを解放するのならば、その言葉を許そう」

 

「彼……僕と一緒にいる時の方が楽しそうだったよ」

 

「土塊如きが!あやつと並び立つと思うてか!!」

 

 エルキドゥなりの言葉で説得を試みたものの、斧の如き切れ味の言葉はギルガメッシュを逆なでするだけであった。言った当人はまったく悪意がないのだから恐ろしい。

 

 ギルガメッシュは財宝を惜しみなく投入し、エルキドゥはルーの影響で大地が活性化したために力を増していた。二人の戦いは正史以上の苛烈さを極め、およそ人間の戦いと思えない天変地異が数日に渡って繰り広げられる。天界にすらその戦いの余波が及んだ……まあ、実際は、ウルクに被害を出さないように空で戦っていたせいなのだが。

 

 さすがにまずいとアヌ神が二人を止めようとしたところ。

 

 

 滝の如き間欠泉が二人の間を裂いたのだ。

 犯人は当然、ルーであった。

 

 

 実は彼はシュメル熱に罹ってぽっくり仮死状態になっていた。しかし、冥界でも温泉を掘り当ててしまい、エレシュキガル神の発熱神殿と合わさってアースインパクト並みの噴射を伴って地上にまで吹き上げた。

 これでも当人たちは冥界を温めようと色々工夫していた最中だったのだが、メソポタミア随一のうっかりと、ローマ随一のうっかりエフェクトが超融合し、遠坂家を超える国際的なうっかりを発生。まさしく勝負に水……いや、湯を差す結果となる。

 

 戦い疲れたギルガメッシュたちは温泉に浸かりながら一息ついた。ちなみにルーはギルガメッシュの財宝の中にあった薬でなんとか復活。ネルガル神の神殿に風呂を造ったことによって疫病の権能が一時的に弱まったことも幸いしていた。

 仮死状態の魂だったとはいえ、ルーの復活は冥界の規約に抵触しうる行為なのだわと冥界の女主人は異議を申し立てる。だが彼の死後の魂の管轄は日本地獄なのでどのみち関係ないのでち。さしものエレシュキガルも、あの日本地獄の鬼神と争う勇気はなかった。

 

「ルーよ、我のものになれ。お前たちの在り方を理解できるのは我だけだ」

 

 脆弱の身でありながら神の子の隣に並び立とうとする愚かさ。

 神々の神威すらも恐れない身に余る傲岸さ。

 なぜかいつも温泉を掘り当てる珍妙さ。

 

 人の身でありながら人を越えようとするこの者たちの在り方は、ギルガメッシュの蔵に蓄える財の全てを比してなお、貴く眩いものだった。儚くも眩しき者たち。きっとその破滅すらも愛することができるだろう。

 

 病み上がりだというのに、ルーは温泉に浸かりながらギルガメッシュを見据えた。

 

「すまないな。それだけはできない」

 

 それは拙い発音ではあったものの、シュメール語であった。さすがに長く滞在していたので言葉くらいは覚えられる。転生したばかりの頃もラテン語を独学で学んだ。

 

「やはり、すでに仕える王がいたか……だが、我を超える王はいないだろうさ。転職を勧めるぞ」

 

「ふむ、確かに。ギルガメシュ王よ、そなたは比類なき王であろう。暴君となられたが、それでもなお完璧な王だった」

 

 一時は暴君となったが、ただ完全な治世だけが守護の本質ではない。時には北風を与えることも、生き物には必要な刺激なのだ。ルーにはそれが少なからず理解できた。

 一人の王に仕え、48人の女王をプロデュースし、大陸中の都市をテルマエ建設のために回った。王の性質と治世を、これほど長く見て来たものはいないだろう。

 

「我が王は比類なき者でも、ましてや完璧ではない。だが、我が王は──愛すべき王なのだよ」

 

 狂言でも、勘違いの言葉でもない。ただ純粋な言葉と意思で、彼はまっとうに返答した。

 それこそが、彼があの喝采の薔薇(オリンピア・プラウデーレ─)を最後まで見定めた末の言葉だった。

 

 気づけばルーは消えていた。

 気配探知に優れたエルキドゥすら察知できないほど、まるで湯けむりのようにどこかへ行ってしまったのだ。

 

「……本当の名前聞きそびれちゃったね」

 

「いいさ。神々は知らんが、我にとってあやつは(ルー)だった。……さて、行くぞエルキドゥ。ルーの代わりにとまでは言わんが、貴様もあやつと似たような芸当はできよう。肝心の建造物は出来上がったが、源泉がまったく足らん」

 

「僕でもあそこまで温泉には特化してないよ」

 

 星の抑止力の力から作られ、深く大地と結びついた神造の存在であるエルキドゥ。しかし、そんなエルキドゥから見ても、ルーの能力はちょっと引くレベルで温泉にアペンドスキル全振りしているらしい。ガイアも全力で同意した。

 

時空(とき)の果てまで、この世界は余さず我の庭だ。あやつがこの星を離れぬ限り、いずれは我の蔵に帰り着くだろうさ」

 

 結果はつまらぬ織物で終わるだろう。かつてギルガメッシュはあまねく全てを見通す瞳をもってして、そう結論づけた。しかし、彼の庭に突如として現れた変数によって、それはわずかだが変わったのかもしれない。

 

 遠い時空の果てを駆ける男の後ろ姿を見つめ、英雄王は高らかに笑う。

 その背中はあいも変わらず、温泉にまみれていた。




ーウルクー

「ええい!なぜ邪魔をするシドゥリ!まだ我が元祖わくわくざぶーん建設の章を書いている途中だろうが!」

「ダメです!ルーさん関係の情報を叙事詩に書き残すのは絶対ダメです!後世でホラ話に思われますよ!」

「おのれぇ!!!」
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