ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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※真バーサーカーの真名ネタバレあり。まあ、勘のいいマスターくんたちはとっくに気が付いているだろうけど。


駄女神が放っておくわけないだろ!私のバーサーカーは最強なんだから!!

 スノーフィールドに複数存在する火力発電所の地下。黒魔術専門の魔術師であるハルリ・ボルザークは困惑していた。

 

 英霊召喚には成功したものの、バーサーカーとして顕現した『少女型』機械人形の狂化レベルはDランクという低さ。ハルリの目的からすれば、理性の利かないAランクでも良かった。だが、やはりバーサーカーなのか、召喚早々に非論理的な言葉を口にしたのだ。

 

『おふろ……はいりたい』

 

 昔見た日本の国民的アニメのヒロイン並みに綺麗好きなバーサーカーだなとハルリは思った。

 仕方がなく、転がっていた大きなドラム缶を改造して簡易的なドラム缶風呂を作成。雑誌を丸めて作った筒で空気を送り、火加減を調節する。

 

『へいへいほー♪へいへいほー♪』

 

 気持ち良さそうに風呂に浸かりながら、バーサーカーは古代ローマ帝国の国歌を口ずさんだ。ローマの英霊なのかと思って質問してみたが、どうも違うらしい。英霊は召喚される際に聖杯から現代の知識をインストールされるというが、その影響なのだろうか……いや、だとしても、なんで歌が聖杯の知識情報に組み込まれてるんだ。

 

「バーサーカー、貴方は戦うの好き?」

 

『……きらい』

 

「そっか」

 

 穏やかに湯船に浸かる少女を見て、ハルリは何とも言えない気持ちに陥った。

 

 ハルリの願いはただ1つ。

 両親を異端と断じて殺し、一族から全てを奪った魔術社会に対する復讐である。

 

 キャスターの召喚権をフランチェスカに譲り、バーサーカーという扱いの難しい英霊を召喚したのも、どうせ魔術社会を壊すのなら盛大に暴れてくれる存在が欲しかったからだ。魔術としては異端である科学と工業の技術の象徴である『発明王』を呼び出そうとしたのも、魔術そのものに対する反意からである。

 しかし、召喚された英霊は機械の体ではあるものの、女性と思わしき姿をしていた。それも、ハルリと同程度か、あるいはそれよりも幼さを感じさせる少女。こうして意思疎通はできるが、真名に関してはなぜだか口が重い。

 

 令呪による強制は可能だろう。しかし、それではかつて自分達から何もかも奪っていった魔術師たちと同じやり口だ。

 

 ドラム缶の下で揺らめく炎を眺め、ある種の現実逃避をしていると、上からバーサーカーがハルリを見下ろす。

 

『でもいいよ。たたかってあげる』

 

「本当?いいの?」

 

『うん。わたしは王さまをぼこぼこにできるくらいつよいから、マスターにせいはいをあげるね』

 

 生前、バーサーカーが守護する森で、あの金ピカな王と友人が訪れたことがあった。ちょうど、温泉に浸かっていたので、『きゃー!おうさまのえっち!』と棒読みで骨川さんをひっぱたいたら、数キロ先まで飛んで行ったのだ。羞恥心という感情はプログラムされていなかったが、あの星の息吹のような彼が言うにはそれがお約束というものらしい。結果的に、それがあの王のトラウマになったそうだ。

 

「私は……貴方が暴れてくれるなら聖杯は別にいらないの」

 

 魔術世界は神秘の隠匿を旨とする。それは魔術というものがある種の源泉であり、多くの大衆に知れることは、個人が利用できる水量を減少させることにつながるからだ。『根元の渦』を最終目標とする魔術師たちにとって、目的地をさらに遠ざけることに等しい。

 

 ハルリも魔術世界に属する魔術師ではあるが、彼女の目的は魔術社会への復讐。ないしは破壊である。ならばこそ、今回の聖杯戦争で召喚した英霊の活躍こそが、望んでいた願いでもあった。

 

「バーサーカー、貴方自身の願いは?」

 

 自身の能力や采配で聖杯が手に入れば、魔術そのものの消失を望んだかもしれないが、ハルリは自分の程度というものは弁えている。仮に聖杯を手に入れたとすれば、それはバーサーカーの働きによるものだ。バーサーカーにこそ願いを叶える権利がある。

 

 それを聞いて、バーサーカーは首を傾げた。

 

『わたしも、ねがいはないよ』

 

「え?」

 

 英霊は基本的に聖杯を欲する願いがあるからこそ、召喚に応じてマスターに付き従う。聖杯戦争そのものを願いとする者も稀にいるが、大抵は叶えたい願いのために召喚されるのだ。

 

『わたしのねがいはね……彼らがかなえてくれたから』

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は遥か遠き過去を思い返す。

 

 まだ人類が誕生して間もない神代。そこには一切の人工物もなく、天まで届くような大樹で覆われた森があった。

 自身はその場所を守護するために育まれた『完全なる人間』らしい。少なくとも、一部の例外を除き、ほぼ全ての神がそれが完全な人間だと認識していたのだ。

 

 神によって数多の魂をこねくり合わせて作られた神造の生命が彼女である。そのようなあり方に普通の魂が耐えられるはずがなく、正気を喪失した魂たちは、世界の全てを憎む怨嗟の声を上げ続けた。それは生物というにはあまりにも禍々しく、厄災の具現であっただろう。

 唯一、少女の魂が正気を保っていたものの、他の魂たちのように狂うのは時間の問題であった。

 

 ある日、厄災は水たまりを見つけた。

 最近、森に現れた人間が何やらせっせと掘っていた場所のはずだが、気づけばこのようなものが出来上がっていたのだ。それは露天風呂と呼ばれるものであったが、厄災にとってはそれこそ水たまりほどのサイズでしかない。

 

 気まぐれに触れてみると、水にしては温かく、奇妙な心地のものであった。しかし、厄災が全身浸かるには小さかったらしく、露天風呂は壊れてしまう。

 厄災は残念に思った。そして、それを作った人間はちょっと泣いていた。

 

 翌日、修復された露天風呂は厄災が入っても湯が溢れてないほど大きく、頑丈なものであった。

 人間や森の動物たちを真似て、厄災は全身を湯に浸けてみる。

 

 ──心地良い。

 

 地の底より噴き出した泉は温かく、それは星の息吹のような濃密なマナの塊だった。生命体を母体とせず、神によって一から造られた厄災にとっては、それはまるで母の羊水のようであり、発狂した魂たちも眠りについていく。純粋な個としての少女の自我だけが、穏やかに湯浴みを楽しんでいた。

 

 人類にとっての厄災であった彼女は、この時よりその機能を喪失したのだ。

 

 正史において、ギルガメッシュ王とエルキドゥに討伐された彼女は、ウトゥ神とエルキドゥによってプログラムを解体された。それは生命体にとっては事実上の死という活動停止。だが、彼女はむしろ感謝を抱いた。自分という存在には過ぎた結末だったからだ。

 

『最後に言い残すことはないのかい』

 

 友人であり、我が子のような泥の子が、切なげな表情を浮かべている。随分と人間に影響されたようだ。

 

 後悔などあるはずもない。自分の末路としては、これは最上の結果だ。

 それでも、あえて考えるならば……1つだけあった。

 

 結局、『ルー』と呼ばれた人間の男と会ったことはなかった。自分の姿を見れば怖がるだろうと思い、レバノン杉の陰から見つめるだけで、会話したこともない。彼の言葉とその人柄も、エルキドゥから伝え聞いたものだった。

 

『ありがとう』

 

 感謝の言葉は目の前の友人と、生みの親であるウトゥ神に対するもの。そして、その時代から消えてしまったルーへの言葉でもあったのだ。

 

 

『そうか……お休み──フワワ』

 

 

 そして、フワワは全ての機能を停止させた。

 

 

 

 

 

 

 

 回想を終えて、フワワは思案する。

 これが自身の聖杯に望む願いなのだろうか……いや、わざわざ聖杯に願うほどのものでもないと一蹴する。

 

 元々、人としての欲望というプログラムはあったが、人と時を過ごしたエルキドゥとは違い、それを育む機会がなかった彼女にとっては希薄なものであった。聖杯戦争に召喚される程度には願望そのものは存在するが、どこかの神父並みに、欲の形というものを自覚したことがない。

 

 サーヴァントとして現界したのならば、生前では叶えられなかった守護者としての役目を全うすべく、マスターであるハルリを守ろう。そう結論付けようとしたところだった。

 

「全く!欲のない子たちね!!」

 

 妙に高飛車な声音が地下空間に木霊する。

 唐突な来訪者にハルリは驚き、フワワは見覚えのあるその『神気』に眉をひそめた。

 

 扉を開き現れた人物は高所から二人を見下ろしている。

 

「アインツベルンのホムン……クルス?」

 

 特徴的なアルビノの容姿に、ハルリはすぐにその正体に思い至る。

 街に突如として現れたアインツベルンからの来訪者。マスターの座を狙う外来の魔術師は珍しくなく、そのホムンクルスもマスター内で警戒されていた。

 

 しかし、そのホムンクルスのあまりにも場違いな姿に、ハルリは無防備にも放心状態に陥る。

 

 ホムンクルスの女は、白いビキニの上にピンク色のパーカーを羽織っていた。それは奇しく別の世界線の彼女と酷似している。『私は駄目な女神です』と書かれた石版とか似合いそうだ。

 

「なぜ……水着を?」

 

「この時代の温水プールというものがどんなものか体験したくてね。まあ、私の神殿にあったものや、あいつの作ったわくわくざぶーんには劣るだろうけど」

 

 傲慢な王と泥人形が、再びこの星で出会うようなことがあれば起動するように施した祝福。しかし、久しぶりに目覚めた女神の残滓は、フワワと同様に湯浴みがしたくて体が疼いていたのだ。

 正義と道徳を司る兄ですら虜にした風呂という概念は、メソポタミアの神々をめちゃめちゃに精神汚染したのである。

 

「さあ、私が導いてあげるわ!ついてらっしゃい!」

 

 美の女神『イシュタル』は虚空を指差す。それはこの都市最大の温水プール施設のある場所を指し示していた。しかし、運命のイタズラか、鏡面的存在である姉のうっかりエフェクトが発動したのだろうか。その通過点にはちょうど警察署があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 双子の兄であるウトゥ神を虜にした温かい風呂の噂は、神々の間ですぐに広まった。

 

 『ケッ!俺は神だよ……!『風呂』なんて有機生命体の概念、チャンチャラおかしくて……』と丁寧な前ぶりをしていた神々も、入った瞬間から『あれは……いいものだ!』とダブスタをかます始末。父であるアヌ神ですら、『あれはいいものだ。私がそう判断した』とダブスタ親父を演じた。

 

 そんな噂を聞いて、あのイシュタル神が黙っているはずがない。

 

「私の神殿に風呂とやらを作る栄光を与えるわ!感謝なさい!」

 

『見下ろしすぎて、逆に見上げている……』

 

 メソポタミア界隈随一の我儘で知られるイシュタル神。無論のこと、他の神々よりも素晴らしい風呂を建造させるべくルーに無理難題の注文を色々と押し付ける。

 やれ、宝石をあしらった豪華絢爛な浴槽を作れだの。やれ、金運の上がる猫の像を置けだの。やれ、美しい小鳥のさえずりを奏でろだの。やれ、ネオ☆イシュタル神殿に改名しろだの。

 

 まだシュメール語を覚え始めている時期であったルーでも、とんでもない注文をされていることはわかった。それでも彼は毅然として首を横に振る。

 イシュタル神の恐ろしい逸話を知らない彼は、職人としての矜持を優先したのだ。知っていたら媚びへつらっていただろうが、こともあろうに、あのイシュタル神相手に『素人は黙っとれ』と一喝。新任の祭祀であるシドゥリは泡を吹いた。

 

 額に青筋を立てたイシュタル神だったが、珍しいことにいつもの癇癪を押さえ込んだ。殺してしまっては、肝心の風呂を作らせることができない。なので、作り終えたら殺そうと決意したのだ。

 

 設計図の段階から何度もイシュタル神からダメ出しをくらい、素材集めに奔走する日々を重ね、一年という歳月を掛けて、ついにイシュタル神殿に念願の浴場が完成した。

 

 浴場自体の造りはシンプルなローマ式のテルマエであったものの、神殿の高台に建てられた場所からはウルクの美しい都市が一望できる。この都市の守護神であるイシュタルにはぴったりのロケーションだった。

 一見すれば吹き抜けのような空間も、天空からの月明かりが差し込むとガラリと雰囲気が変わった。影と光のコントラストがより月光を際立たせ、浴槽の下に埋め込まれたモザイク柄のタイルが光を反射して宝石のように輝いている。

 多くのものをそぎ落とし、唯一のものを際立たせる美がそこにはあった。

 

 時々忘れそうになるが、この男はことテルマエ造りにおいては歴史上でも最上の技術を持っている。

 初めて見る引き算の美学と、至高の職人の技術。イシュタルはかつての殺意も忘れて感銘を受けたのだ。

 

「すごいわ貴方!天才よ!」

 

『うむ。当然だな』

 

 真っ裸で湯浴みをしているイシュタル神に、目を瞑った状態のルーはさも当然の態度で返事を返した。そのような褒め言葉はすでに聞き飽きている。

 美の女神の裸体を前に、平常心を貫く男の姿はイシュタルには珍しかった。だが、ルーの方はいわゆる『見るな』のタブーというものを理解している。古今東西、女神の裸を見た者は恐ろしい神罰が下るのでクマ。

 

「貴方、気に入ったわ。私のものになりなさい」

 

『え?……ぐっ!?』

 

 ルーはローマ人的な偉丈夫ではあるものの、イシュタルの美的センスでいえば美しい顔とはいえない。だが、それでも自分のものにしたいと思ったのは、恋愛的なものではなく、純粋に価値のある人間だと判断したからだ。

 欲しいものは絶対に手に入れるのがイシュタルの流儀。そして、彼女はそれに好都合な力を持っている。

 

 魅了の魔術。それは魔貌のような視覚情報だけに依存するものではなく、声によっても魂に干渉し、強制的に支配下におく力である。

 美を司るイシュタル神が扱う魅了は権能の一部であり、それはまさしく美の顕現に等しい。神霊の扱う魅了は魔物や無機物、果ては物理法則にまで影響を及ぼす。元より魔術的な耐性が低いルーはあっさりと魅了に掛かった。

 

『うー、イシュタルさま……美しい……最高』

 

「あははは!そうよ!もっと褒め称えなさい!」

 

 虚ろな表情で賞賛の言葉を呟くルーを見て、イシュタルは邪神の如く高らかに笑った。少なからず、今までの意趣返しもあったようで、彼女の気分は一気に晴れていく。

 

「さあ、この誓約書に『私のものになる』とサインなさい!そうすれば貴方は永遠に私のものよ!」

 

 イシュタルが差し出した石版は、この時代における最古の自己強制証明(セルフギアス・スクロール)。神々ですらその制約は破れず、アヌ神であってもこの約定を反故にはできない。絶大な強制力を秘めている。

 

 ペンのような筆記用具を持たされたルーは、虚ろな顔のまま口を開いた。

 

 

 

 

『無理です』

 

 

 

 

 長い沈黙が浴場に木霊する。

 虚を突かれたイシュタルは自分の耳を疑った。水面に映る姿を見下ろし、耳がちゃんと付いているのか確認する。うん、美しい耳が二つある。どうやら聞き間違いではなかったらしい。

 

 目の前の人物はたしかに自分の魅了に掛かっている。しかし、その強制力を跳ね除けたのだ。

 

「どうして!?」

 

 再び全力の魅了を使い、男にサインを書かせようとするも、それを頑なに拒んでいる。思いもよらぬ状況にイシュタルはただ困惑していた。

 

 慌てふためく女神を前に、ルーは再び口を開く。

 

 

『すでに愛した人たちがいるのです。貴方のものにはなれません』

 

 

 イシュタルは息を飲んで驚嘆する。

 目の前の男は確かに自分の美しさに魅了され、今も強制下にある。それでも確固たる概念を軸に、今までの命令を跳ね除けていたのだ。

 自分のものにするという言葉を、ルーは恋人か愛人にすると解釈したのだろう。しかし、彼の価値観ではそれはイシュタルにとっても、元妻やかつての主君であるネロに対しても不義理であると考え、純粋な誠実さから拒んだのだ。

 

 イシュタルの美しさを肯定した上で、それでも『愛』を貫く男。愛を司る神として、それを自身が否定することはあってはならない。駄々をこねる少女の姿はなく、慈悲を宿した女神の面持ちで向かい合う。

 

「……貴方を許します。そしてどうか、私の非礼を許してほしい」

 

 イシュタルは、ただの人間を前に最大の敬意を払った。その珍事を天界から眺める神々は『今日は天から厄災でも降ってくるのか!?』と慌て出す。父であるアヌ神も地上での光景が信じられず、コロニー落としを警戒し始める始末。

 

 魅了から解放されたルーは一言だけ発した。

 

 

 

 

『いい加減……休みが欲しいです』

 

 

 

 

 その日、メソポタミアの神々は初めて罪悪感というものを理解したのだ。




ーメソポタミアの冥界ー

『むっ、風邪を引いたと思ったら……どこだここは?』

「な、なぜ!?この冥界で、なぜ私の権能が通用しないの!?」

『よく分からんが、私の管轄は日本地獄になっているからなぁ』

「うわーん!やっぱり私は冥界の女神に向いてないのだわ!ネルガルの時もドジしたし!花もちっとも咲かない!」

『しかし、ここは寒いな……おい!そこの女神!温泉を掘りに行くぞ!』

「お、温泉?そんなのここにはないわよ……」

『古来より温泉地は地獄の名を冠するものだ。ならば、きっとここにもある!お前に湯の花というものを見せてやるぞ!』
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