ネロ帝が女のわけないだろ!いい加減にしてくださいお願いしますから!!   作:オールドファッション

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ーー水怪クライシスーー

「我が名はダゴン!歪神ダゴンなり!ただでは死なぬ。この身の汚れをもってしてこの世の水を毒にかえて……」

「……あれ、もしかしてメソポタミアのダゴン?なんか外見変わった?」

「!?」

「うー、シルシル。体が茹だりそうなのだぁ」

「なあ、何で私だけつゆだく牛丼みたいな名前なんだ?せめてルシルシにしてくれ」



フェイクコラボイベント決定!?唆るぜ……これは!!

『君よ、君よ。よく聞きなさい、同胞の子よ』

 

『君達が打ち滅ぼすべきものは、我々から何かを奪おうとする者たちです』

 

『君の両親も、外から来た人間に奪われました』

 

『君の父親『達』は外の穢れに満ちた侵略者達に殺されました』

 

『君の母親も外から来た恐ろしい悪魔に拐かされました』

 

『君よ、だから打ち滅ぼしなさい。我々から奪おうとするものを』

 

『君よ、だから戦いなさい。いつか君の母親を我々の手に取り戻せるように』

 

『君よ、戦いなさい。山の翁よりも古き暗殺者──『■■の■■』のように』

 

 

 

 

 

 

 

 いつから自分が兵士となったか、少年は覚えていなかった。物心ついた頃から少年兵としての心構えを叩き込まれ、過酷な訓練と魔術による実験で心身ともに鍛え抜かれていた。

 とある国の独裁政権が造り上げた魔術的な軍事作戦を行うための魔術部隊。魔術回路を持った子供をかき集め、同じように魔術師としての適正を持った母体と交配させて生まれたのが、少年だった。

 

 そうして生まれてきた子供たちの中から、実用性のある24名の者たちが選抜され、コードネームとしてギリシア文字が与えられる。少年は十八番目の『シグマ』を与えられた。

 

 神秘の隠匿など関係なく、ただ異質な力によって敵を圧するためだけに作り出された部隊は、当然、時計塔を初めとする魔術勢力によって、当時の独裁政権ごと滅ぼされることになる。

 

『君達のことを『君、君』って五月蝿く言ってた魔術使い達はみんな死んじゃったよ?』

 

 終わりを告げに来たのは、戦場にはまったく似つかわしくない格好をした少年だった。シグマよりいくらか身長の高い白髪の少年は、拳銃を向けられても笑みを絶やさずにシグマに近づいてくる。

 魔術使い程度の能力しか持たないシグマだったが、すぐに悟った。この状況下で圧倒的に優位性を保っているのは、目の前に立つ非武装であるはずの少年だ。冷静に、無感情にそのことを理解する。

 

『ああ、あとね。君のお母さんだけど……ふふっ』

 

 白髪の少年は、シグマとは対照的であった。笑いを押し殺すように、手で口元を塞いだ少年だったが、耐えきれず声が漏れている。それはいつもの嘲るような笑いではなく、思い出し笑いを我慢している子供のようだった。

 

『冬木って街で──』

 

 かつて日本で行われた第四次聖杯戦争。シグマの母親である久宇舞弥は、『魔術師殺し』の悪名を轟かす衛宮切嗣と共に参戦した。

 正史において、バーサーカーの襲撃に遭って命を落とした彼女であったが、この世界線のバーサーカー陣営は英霊召喚をして早々に『敗退』していた。

 

 彼女は無事だったかと問われると、返答にも行き詰まるものがある。直接の死因が排除されたところで、この世界線の第四次聖杯戦争が危険地帯であることは変わらない。危険のベクトルは変化したが、危険度はむしろ大幅に上がっていただろう。

 

 命よりも大切な尊厳を、乱入者が持ち込んだ『魔術礼装』によって奪われたのだから……。

 

 

 

 

『温泉で不倫相手の奥さんとイチャイチャしたり、細身のわりにスイーツバイキングでアルトちゃん並に食べまくったり、ぷぷっ……ま、『魔法少女』に変身してたよ……いや、少女と言うには年齢がかなりオーバーしてるけどね!あはは!!!』

 

 

 

 

 腹を抱えて大笑いしているフランソワ・プレラーティを前に、シグマは初めて隙だらけになりながら、思考停止状態に陥ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 スノーフィールド市東部。点在する湖沼地帯を抜け、レジャー用に開発された別荘地帯を超えると、狂信者のアサシンが召喚された巨大な別荘が見えてくる。

 建物内にいるシグマは、壁を背にして窓際近くに立つ。ウォッチャーと名乗るサーヴァントたち(・・)と共に外の景色を眺めた。景色とうまく同化しているようだが、ファルデウスが送り込んだと思われる迷彩服の兵士たちが、別荘の周りを包囲しつつある。

 

「どうしてこうなった……」

 

「そりゃあ、お前さんの失言さ。よりにもよって、なんであいつの名前なんぞ出すかね」

 

 狙撃の危険性があるにも関わらずに堂々と窓の前に立つ義足の老人は、蓄えた立派なあごひげを撫でながらマスターであるシグマを睨めつけた。自らが召喚したサーヴァントに言い含められて、シグマはバツの悪そうな顔を浮かべる。

 

 ルシウスの乱入により、シグマの英霊召喚は予定よりも早められることになった。本来ならば英霊召喚には目当ての英霊を引き寄せるための聖遺物を必要とするのだが、フランチェスカの好奇心から闇鍋ピックアップ召喚をすることになったのだ。

 

『ルシウス君が呼び水になって彼と縁がある子が召喚されるかもね……まあ、交友関係広すぎて闇鍋になるのは変わらないけど!』

 

 別れ際に、菓子をつまみながら雇い主が放った言葉。別の個体ではあるものの、一時期はシグマの保護者代わりとなっていたものと同じ存在であるらしい。

 シグマはその浴場技師の名前から、短い共同生活での出来事を思い起こす。

 

 ルシウス・クイントゥス・モデストゥス。

 

 どちらのプレラーティも、事あるごとにその名前を口にしていた。兵士として高い記憶能力を持っていたシグマでさえ、彼らが何度その名前を口にしたか覚えてはいない。それでも、印象的な場面は強く記憶に焼き付いている。

 

『その映画……面白い?』

 

『多分、面白いんじゃないか』

 

『えー、その割には全く表情が動いてないじゃん』

 

 ある日、自室で白黒映画を観ていると、後ろからフランソワがもたれ掛かってきた。画面では付け髭をしたチャップリンが、大勢の人間の前で演説をしている。それをシグマは静かに見つめていた。

 喜劇映画が好きかと問われたら、シグマは好きだと答えるだろう。物語に引き込まれることもあるし、役者の演技に感心することもある。しかし、心の底から笑ったことはなかった。

 

『ふ、ふーん。そうかそうか……』

 

 フランソワは、何やらそわそわとし出した。もたれ掛かりながら動いているので、はっきり言って邪魔だ。

 

『あのね……とっておきの映画があるんだけどね。他人に話しちゃダメだよ……異端審問官が来るから』

 

 何やら物騒なことを口走っていたが、気づけばブラウン管テレビの画面は移り変わり、一人の『ローマ人』が映し出される。その映像は、かつてプレラーティが目にした光景の再現だった。

 

『ねえ!面白いでしょ!!』

 

『……』

 

 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ完全版を超える超大作を見せられて、極度の眼精疲労に見舞われているシグマ。そんな彼をよそにフランソワは元気いっぱいにはしゃぎ回る。かつての友人ジル・ド・レェも時計仕掛けのオレンジの拷問のようにこの映像を見せ続けられたので、結果としてあのギョロ目になったらしい。

 

 そんなプレラーティたちの刷り込み洗脳教育が、最悪の形で影響することになる。

 

 

 

 

『ルシウスです。ランサーのルシウス・クイントゥス・モデストゥス技師です』

 

『ふぁ!?』

 

 

 

 

 英霊召喚後の事後報告で、シグマはファルデウスにそう虚偽の報告した。

 

 ファルデウスは現在の上司ではあるものの、互いを信頼しているわけではない。それに、ただの傭兵である自分が捨て石にされることは初めから理解していた。

 この聖杯戦争を生き残る上で、彼らとの協力関係は一時保留することを考え、自身が召喚したサーヴァントの情報も隠匿するまでは良かった。だが、偽りのサーヴァントとして最初に浮かんだのルシウスだったのだ。

 

 当然ファルデウスはフランチェスカに確認を入れたのだが……。

 

『えー、無理無理。英霊の座にはいないし……いや、もしかしてあれか?それともあれかな!?もー!忙しすぎて脳みそと脳髄が沸騰しそうだよー!!』

 

 理論的には不可能だと思っていても、ルシウスという可能性の獣のせいで専門家でも頭を悩ませる。父さん、母さん、ごめん……俺風呂入って来るよ。

 

「どうやら半信半疑ってところで監視を送ってきたんだろうな。まあ、確かにあいつなら理屈抜きに召喚されても不思議じゃないと思うよなぁ」

 

「知り合いなのか?」

 

 妙に親しそうな言い草に、シグマは義足の老人に疑問を投げかけた。だが、気づけば義足の老人の姿はなく、いつの間にか、狩人の如き屈強な偉丈夫がシグマの背後に立っている。

 

「正規のサーヴァントとして現界したならまだしも、俺たちは影法師だ。まあ、ここにいる連中は多かれ少なかれ由縁があるだろうよ。俺はアルテミスからよく昔話を聞かされたもんだぜ。まったく無関係なのは飛行機乗りの姉ちゃんくらいか?」

 

 偉丈夫の男が搔き消えて、別の場所に金髪の女性が現れる。

 

「多分会ったことはないんじゃない?彼、あの頃はロンドンに住んでたらしいから。でも、顔見知りなのは船長さんくらいじゃないかしら?」

 

 金髪の女性が搔き消え、再び義足の老人が現れる。

 

「俺なんかよりも、お前さんが喚んだ存在の方が繋がりが強いだろうよ」

 

 義足の老人はスノーフィールドの空を見上げ、なんとも言えない表情を浮かべた。

 上空では半透明の巨大なクジラが、温泉マーク柄の手ぬぐいのようなものを口にくわえながら浮遊している。まるで鼻歌でも奏でるように、クジラは鳴き声を上げていた。

 

 番人(ウォッチャー)

 英雄とも神魔ともつかない。あるいは現象と呼ぶべき存在。

 

 本来の聖杯戦争ではセイバー、アーチャー、ランサーの三騎士クラスがエクストラクラスに変化することない。仮に正規のエクストラクラスで召喚されたならば、ゲートキーパーと呼ばれるクラスが召喚されるらしい。

 ウォッチャーは強力な観測能力を有し、スノーフィールドで現在起きている状況を影法師たちを通してシグマに報告していた。ファルデウスの送り込んだ特殊部隊の存在にいち早く気が付けたのは、この観測能力によるところが大きい。

 

「ちなみに……あの二人は何をしていたんだ?」

 

 シグマは影法師の中でも、奇妙な二人を指して言った。

 

『何?ルシウスがいるだと?唆るぜ……これは!』

 

 一人目は、ローブを纏った骸骨に、キツめの関節技を掛けていた少年。何でも、冥界から抜け出してローマに向かおうとしたのを、冥府の主人に邪魔されたらしい。別に髪型はネギみたいに逆立ってはいないので悪しからず。

 

『うおー!聖地ローマ奪還!インノケンティウスこのやろー!!』

 

 二人目は、温泉マークの旗を振る少年。何とも間抜けな服装をしているが、実は歴史を変えかけた人物であったらしい。

 当時、聖地ローマを独占し、強権を振るってローマ教皇インノケンティウス3世を打倒すべく少年義勇軍を組織した風呂テスタントのリーダーであり、リチャード1世の弟『欠地王ジョン』と共に、彼らはローマ・カトリックを滅ぼす寸前まで暴れまくった。教皇は『とあるローマ人』の仲裁によってなんとか事なきを得るも、それを契機に教会の権力は衰退していったのだ。

 

 説明を聞き終えてもなお、常軌を逸した歴史の真実を理解しきれないシグマ。それを義足の老人が宥める。

 

「何が彼らをそうさせるんだ……」

 

「あの時代の空気感は、あの時代を生きてきた者にしかわからないだろうな。気になるなら本人に会いに行ってみるか?多分あいつなら、お前さんの母親が今どこで何をしているか知っているぞ」

 

 その言葉にシグマは目を見開く。

 影法師に言われるまで、その可能性にすら思い至らなかったのだ。

 

 自分たちを育てた魔術使いたちによって、シグマたち少年兵らは度重なる手術を受けている。それが影響しているのか、シグマには普通の欲求というものがなかった。初めてシグマと出会ったフランソワから見ても、彼は空っぽな状態だった。

 シグマの母親が参加した第四次聖杯戦争に、ルシウスもサーヴァントとして参戦したことはフランソワから伝え聞いていた。フランソワらが彼の母親の所在について今まで明かしたことはなかったが、その口ぶりからして、母親が生存している可能性はある。だが、彼はそれを知ろうとはしなかったのだ。

 

 無理やり生まされた子供に、自分の母親は会いたいだろうか?

 人体実験の影響で余命の少ない自分が、今になって会いに行く必要があるのか?

 

 そんな理路整然とした言い訳が思い浮かんでくる。

 

「……どのみち、この監視態勢を抜けられるとは思えないな」

 

 結果として、シグマは無難な言い訳を選んだ。

 

『そ、総員に告ぐ!すべての部隊、すべての兵士たちに告ぐ!』

 

 だが、シグマのつけたインカムにファルデウスの声が流れる。運命か必然か。別荘をとり囲んでいた特殊部隊と、その監視対象であったはずのシグマに同じ内容の緊急連絡が舞い込んだのだ。

 

 

 

 

 

 

 

『この聖杯戦争はもはや我々のコントロールできるものではなくなった!即刻退避せよ!』

 

 

『繰り返す!この都市が『消失』する前に、即刻退避せよ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 今までにないほど切迫したファルデウスの叫び声に、全ての兵士たちが理解する。それが誇張した表現ではなく、本当にこの都市が消失するほどの事態が今現在起きているのだ。

 気の利いたコメディアンならば『もしかしてアメリカお得意のアレ?爆発オチなんてサイテー!』というところだが、シグマは至極普通の疑問を口にする。

 

「何が起きているんだ!お前らには見えているんだろう!」

 

 シグマは影法師に向かって叫んだ。

 

「……何が起こってるのかしらね。あれは?」

 

 飛行士姿の金髪の女性はそう答えた。

 

「ひえー、トロイア戦争よりも過激だな。まあ、俺の時代にはなかった戦争なんで実物は見たことはないが」

 

 狩人の如き偉丈夫はそう答えた。

 

「あれは君を待ち受ける苦難だ。あるいは彼の傲慢さ(ヒュブリス)が招いた事態か」

 

 蝋でできた翼を持つ青年はそう答えた。

 

「君が僕らを召喚したことで呼び込んだ試練ではない。彼がもたらす試練さ」

 

「ぎゃー!死ぬ!私、冥界の主人なのに死んじゃう!助けてケルベロ……だめだ!エレシュキガルランドに行ってる!!」

 

 蛇の如きしつこさでもって骸骨にチョークスリーパーを掛ける少年はそう答えた。

 

「さながら、かつてヨハネが記した真の黙示録(ファンブック)。あれは今も第八秘蹟会の最奥にあるのだろうか……ちっ、あの時完全に滅ぼすべきだったか」

 

 温泉マークの旗を振るう少年はそう答えた。

 

「スポーツチャンバラ?星条旗ビキニ?誰の記憶だこれは……?」

 

 うどんを啜る老年の侍はそう答えた。

 

「会いに行ってみろ。あいつとの出会いは人生観が変わるぞ。それこそ、只人を英霊の格に押し上げるほどに」

 

 ラム酒の代わりにいちご牛乳を呷る義足の老人はそう答えた。

 

「フフ……へただなあ、シグマ君。へたっぴさ……!欲望の解放のさせ方がへた……!」

 

「誰だこのおっさん?」

 

「知らん」

 

 平たくて丸い顔の日本人はそう答えた。

 一応彼も主人公という偉業に挑んで敗れたタイプの人間なので、影法師の適性がないわけではないと作者は適当な言い訳する。

 

『ウォオオオオン』

 

 スノーフィールド上空を漂うウォッチャーは、眼下に広がる光景を観測しながら楽しそうに声を上げる。

 遥か『真上』から感じる気配を感じながら。




ーーどこかの漁港ーー

「どうするよ、彷徨えるローマ人。あれはもはやモカ・ディックなんて生易しいものじゃない。世界を水没させようとするリヴァイアサンの類だ……ノアの箱舟でも拵えようかねぇ」

「……なあ、船長。知ってるか?海底には火山があるんだ」

「あ?」

「言ってしまえば、海というやつは――1つのどデカイ天然温泉みたいなものとは思わないか?」

「何言って……」

「船長!海に巨大な魚影が……いや、あれは!潜水艦!?」

「……おいおい、あれはまさか『神秘の島』からやってきた船か?」

「次のタイトルはさしずめ――『海底温泉都市アトランティス』かな」
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