星の詩 - De stella absicht -   作:津梨つな

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RebuildingAstraea

 

 

 

「まさかご招待頂けるとはね。…今度は何を企んでいるのかな?」

 

 

 

 僕の問いかけに、ふふふと上品に笑う金糸のような髪の少女。

 …今日はPoppin'Partyとハロー、ハッピーワールド!、初めての合同練習日。いつも通り家を出て行こうとする香澄を見送るつもりだったのだが、突如かかってきた電話により同行せざるを得なくなってしまったのだ。

 

『誠司!今日の練習、あなたと例の件についてお話ししたいの!』

 

 …例の件、とやらが何を指すのか見当が付かないほど馬鹿な僕ではない。Michelleの頼みもあるし、向こうが作ろうとしている接点は受け入れていくしかないものだと思っていた。

 

 

 

「企みなんか無いわ。…あたしはただ、誠司とお喋りがしてみたかったの。…深いところまであなたを知りたくて、ね?」

 

「…それは奇遇だね。僕も君についてもっと知りたいと思っていたんだ。」

 

「あら。それは光栄な事ね…!」

 

 

 

 相変わらず何を考えているのか読み取れない深淵のような瞳で真っ直ぐに見つめてくる。よく「疚しいことを秘めている人間は他人の目を見つめられない」というが…その理論で行くと、この弦巻こころと言う少女はただの純粋無垢な無実の少女と言うことになる。若しくは、自らの行いを何ら疑問も罪悪感すら抱かずに行動しているか…。

 まぁ、現状何が起きているか、何をしているか…全て僕は知ってすらいないのだが。

 

 

 

「お兄さんお兄さん。」

 

「…どした香澄。」

 

「あのね、練習だってわかってるけど、初めて他のバンドとも一緒に練習ってなって、私、凄くドキドキしてる!」

 

 

 

 息せき切って駆け寄ってくる最愛の娘。まるで太陽が咲いたような満面の笑みに、思わずこちらまで頬が緩んでくる。頭をよしよしと撫でてやると、一瞬ふやけたように破顔した後に少し赤い顔で「い、今は外だから恥ずかしいよ…」と続けた。

 その様子を見ていたこころがとてとてと歩み寄ってくる。

 

 

 

「香澄!如何かしら?この練習場所は。」

 

「あ、こころん!…なんかね、すーっごくピリッとしてて、ぎゅーん!って感じ!」

 

「ふふふっ、気に入ってもらえたようでよかったわ!…そういえば、さっきりみがあなたを呼んでいたわよ?」

 

「えっ、ほんと!?…じゃあお兄さん、また行ってくるね!」

 

「お?うん。楽しんでやっといで。」

 

 

 

 大層この場所が気に入ったらしい香澄は終始落ち着きが無く、またしても走ってメンバーの元へと向かっていった。

 先程名前が挙がった「りみ」だが、恐らくPoppin'Partyのベース担当をしている牛込(うしごめ)……じゃない、降魔(ごうま)りみの事だろう。どうやら最近、親御さんの再婚により苗字が厳めしくなったと香澄から聞かされては居たが…見て聞く度にギャップのある苗字だこと。

 本人は至って普通の、ふわふわとした女の子である。…何故かこころちゃんによく弄られているところを見かけるらしいが、多分その苗字が影響していると思われる。南無。

 

 

 

「…さて、と。」

 

「……さっきより距離が近いね?こころちゃん。」

 

「ええ、くっつきたくなったの。」

 

「そういうのは、気軽に異性にやっていいことじゃないよ?」

 

 

 

 いつの間にか隣迄擦り寄ってきて、僕の太腿に手を這わせているこころちゃんを言葉で制する。ニヤケ半分、何かを探るような表情のこころちゃんは数秒言葉を選んだあと、「やり方を間違えたかしら。」と手を引っ込める。

 

 

 

「全く、それも僕を引き入れる為の策略かね?」

 

「それもあるけど…あたしは純粋に興味があるのよね。あなたに…誠司に。」

 

「僕に興味…か。はははっ、只のしがない物書きだよ、僕は。」

 

「それは()()()()誠司の話でしょう?」

 

「…!」

 

 

 

 すーっと冷たいものが背中を走る感覚だった。いや待て、もしかしたらそのことだって、Michelleに聞いただけ…と言うことだってあるじゃないか。ここは冷静を装って…

 

 

 

「あら、ビンゴってお顔ね。ふふっ、誠司って可愛いわね。」

 

「こっちの?っていうのはよく分からないけど、僕はずっとただの小説家を……ッ!?」

 

 

 

 背中に押し当てられる物々しい金属の感触。…そうか、映画や小説なんかではよく見る光景ではあったが、実際に経験できる機会があるとはなぁ…。

 成程成程、目の前の少女の少女らしからぬ妖艶でミステリアスな雰囲気につい目を奪われてしまっていたが、見渡せば厳つい黒服の連中に囲まれているでは無いか。水流巻お抱えのSPか何かだとは思うが、その明確な敵意が自分に向けられたとき、人はこうも震える物なのかと思うくらいの緊張に包まれた。

 

 

 

「……あたしね、隠し事とか嘘って大嫌いなのね?でも、誠司は大好きなの。…これって、困っちゃうわよね。」

 

「おや、てっきり二人きりで素敵なお喋りが出来ると思っていたんだがね。…これじゃあムードも趣もあったもんじゃないなぁ。」

 

「ふふっ、誠司のそういうユーモアなところ、あたしはとても気に入っているわ。…だから、できるならば誠司には生きていてほしいのよ。ずっとね。」

 

「………僕の事を、調べたのかい?」

 

「…最初から素直にお喋りしてくれたらそれでいいのよ。」

 

 

 

 こころちゃんがチラと黒服の一人に目線をやると、まるで壁の様に僕らを隔離していた漆黒は嘘であったかのように消え失せた。…一体どういうイリュージョンを見せられているのかと思いもしたが、同時に自分がどのような状況に誘い込まれてしまったのかも理解せざるを得なかった。

 あまりにも、迂闊だったのかもしれない。相手がこれ程の大物なわけだし、もっと準備して然るべきだった。

 

 

 

「あら、そんなに固くならなくても大丈夫よ。よっぽどの事じゃない限り、誠司を手に掛けるようなことはしないわ。」

 

「…さすがは水流巻の黒服。洗練された動きだったね。」

 

「ええ、精鋭中の精鋭だもの。」

 

「そっか……ところで、一つ気になっていたんだけど。」

 

「なあに?」

 

「…今日、練習と言う名目で集まったわけだよね?」

 

「そうよ?」

 

「こころちゃんも練習したほうが、違和感無いんじゃないのかね。」

 

 

 

 正直なところ、先程からPoppin'Partyの視線が刺さる様に感じられるのだ。そりゃそうだ。合同練習と聞いていたもう一つのグループが音一つ出さずに佇んでいる上、バンドメンバーの父親が少女に絡まれているのだ。滑稽な事この上ない。

 

 

 

「誠司。」

 

「ん。」

 

「あたし、その呼び方好きじゃないわ。」

 

「こころ…ちゃん?」

 

「それ、()()()()()の誠司の呼び方でしょう?…普通に呼び捨てがいいわ。」

 

 

 

 そこまで分かりやすい人間だったろうか僕は。確かに、香澄の手前友達を呼び捨てにするのもどうかと思いちゃん付けで呼んではいたが…。

 お気に召さないならやめておこう。呼び方一つで存在が消されるかもしれない相手なのだ。長いものには巻かれ、絶対的な権力には屈するしかないのが僕と言う存在なのだ。

 

 

 

「わかった。…で、こころ。練習は?」

 

「そうね……。正直、あたしに練習何て要らないのよね。だからもう少し、誠司と一緒に居たいのだけれど。」

 

「僕としては少し肩の力を抜く時間が欲しいのだけども?」

 

「あら?…ならあたしにも娘だと()()()接してくれていいのよ?」

 

 

 

 こころは、僕の事をどこまで調べ上げているのだろうか。今の言い回し一つとっても、何かを知った上で揶揄っているのか唯一つの提案として何気なく口にしているのか図りかねる。

 この少女は、結局のところ何処まで行っても謎なのだ。

 

 

 

「娘…ね。」

 

「香澄と同じように接してくれたらそれでいいの。簡単でしょう?」

 

「……それは、何か目的があって言ってることなのかい?」

 

「嫌ね、何でも勘繰り過ぎるのは良くない癖よ、誠司。」

 

「君が相手ならいくら疑っても足りないくらいだと思うがね。」

 

「……あたしね、お父様の顔を知らないのよ。」

 

「………何だって?」

 

 

 

 確かにあれほど大きく成長してしまった企業の頭ともなれば、肉親と過ごす時間が無いというのも頷ける話ではある。だが、全く以て知らないということはあり得るのだろうか?故人でもあるまいし。

 

 

 

「だから父親の愛情ってものに興味があるの。…これを教えてくれたのは香澄だし、あの子には感謝しないとなのだけど。」

 

「だからって、他人の父親にそれをもとめてもどうなるものでもないだろう?…それは仮初に過ぎないじゃないか。」

 

「あら、あなたがそれを言うのね。」

 

「……。」

 

 

 

 確信を得た。この子は、水流巻は僕について確実に情報を抑えている。それが誰の手によってどう齎されたものかは分からないが、きっとどこかで調べ上げているのだろう。国の管理システムを構築したのがそもそも水流巻財閥なのだ。今更何を驚こうか。

 

 

 

「…何が望みだ?」

 

「頭をね…撫でてほしいの。」

 

「頭?…何でまた。」

 

「さっきの香澄が…羨ましく見えたのよ。」

 

「………それだけ?」

 

「それだけよ。」

 

「うーん…。」

 

 

 

 その他にも何かしら狙いはありそうなんだよな。それに、先程迄の強引さが何であったのか分からなくなるほどの懇願。今のこころからは「させる」という気が全く伝わって来ず、「してほしい」という純粋な想いが見える。

 

 

 

「ね、いいでしょう?撫でてくれたらちゃんと練習もするし、何ならもっといい子になるわ!」

 

「…ふふっ。」

 

「な、なにがおかしいの!」

 

「いい子になる、か…。本当になるんなら喜んで撫でるがね?」

 

「……おねだりする時は、そういう物だって…神無子が。」

 

「横澤さん、かぁ…。」

 

 

 

 あの人は一体何を吹き込んでいるんだ。

 

 

 

「いいでしょ?……して。」

 

「おねだりは別にいいんだけど、タダでする訳にはなぁ…。」

 

「……いくら払えばしてくれるの?」

 

「ああいや、お金が欲しいわけじゃないんだが……そうだな。それなら、この機会(チャンス)交渉(ネゴシエーション)の場として使わせてもらおうかな。」

 

「…ふーん?一応、話は聞いてあげるけど…あまり大層な事は求めない方がいいわよ?」

 

 

 

 身に余る望みは捨てろという事だろうか。或いは、身の程を知れと。

 とは言え、僕が望むことは至ってシンプルで。

 

 

 

「僕を勧誘したり調べ上げたりするのは良い。…でも、香澄は関係ないだろう?香澄は何も知らない子供なんだ。」

 

「それで?」

 

「香澄は、君のやっている活動や思想に巻き込まないでほしい。」

 

「……そう。」

 

 

 

 先程一瞬見せた年相応の少女としての表情はまた影を潜め、如何にも自信に満ちた"活動家"としての顔つきに。そのまま目を閉じ何やら考えているようだ。

 

 

 

「誠司。あなたは幾つか見落としているのよ。」

 

「見落とし?」

 

「ええ、見落としているのか故意に目を逸らしているのか…それは誠司にしかわからないことだけれど、香澄は普通の、何も知らない子供なんかじゃない。そうでしょ?」

 

 

 

 香澄の、僕の娘のことも調べ上げたというのか。……まぁ、こと香澄に関してはペラペラと自分で話してしまっている可能性も否定はできないが。

 あれはお喋りさんだから。

 

 

 

「彼女もまた、星の声が聞こえるのよね?」

 

「…ああ。」

 

「それも、誠司とは違う声が聞こえるのよ。…勿論、あたしとも違う。」

 

「…そうなのか?」

 

「あら、余計な事を言ってしまったかしら。」

 

 

 

 僕とは違う声が聞こえている…だって?きっとこころの口振りからして、僕とこころは同じものを聞いている可能性が高い。

 Michelleという共通の存在も居ることだし、案外僕とこころは似た性質の生き物なのかもしれない。考え方は全く似ちゃいないが。

 

 

 

「だとしても、だ。香澄は僕の娘なんだから、彼女を安全に、立派に育て上げる義務が僕にはある。父親だからね。」

 

「……何だか、面白みのない回答ね。興醒めだわ。」

 

「まあ待つんだ。これは交渉だと言っただろう?話はまだ終わっちゃいない。」

 

「どんな素敵な提案があるのかしら?」

 

「……僕はある人から、君の事を頼まれていてね。救ってほしいと。」

 

「救う…?」

 

「あぁ。…最初は、まだ子供の君が危ない目に遭わないように面倒を見てくれと言う意味かと思っていたが…どうやら違うんだと最近気づいてさ。」

 

 

 

 Michelleはこころを()()救ってほしいとは明言しなかった。彼ほどの存在が、結末も正解も分からない訳がないのに。…ということは、何かを知っていてそれを敢えて隠す…若しくはそこから目を逸らしていたのかもしれない。

 

 

 

「あたし、別になーんにも困ってないわよ?」

 

「その、自覚がないところも含めて危なっかしいんだよ、君は。」

 

「それじゃあ、あたしを助けてくれる…っていうのが、香澄を巻き込まないための条件かしら?」

 

「ああ。…何分、これは友の頼みでもあるんでね。一度請け負った以上、絶対に君を救って見せる。……だから、香澄だけは裏の事情について何も知らないまま生きさせてやってくれないか。」

 

「………そう。…ホント、憎らしいほど愛されているわね。香澄。」

 

 

 

 そう零すこころの目はどこか遠く、とても十代の娘には浮かべられないような擦れ切った哀愁を纏わせていた。視線の先には、相も変わらず楽しそうに楽器を弄るPoppin'Partyの姿が映っているのだろうか。ありのままに今を楽しむ、彼女らの姿が。

 やがて「ふふ」と小さく笑うと、観念した様に肩をすくめて言った。

 

 

 

「ええ、その条件で行きましょう。あたしは香澄に手を出さない。勿論Hello,HappyWorldの事も知られないように、一人の女子高校生として接するわ。」

 

「…本当かね?」

 

「本当よ。…あたしだって、あんなに眩しい程無邪気な子に出逢ったのは初めてだもの。できることなら、一時だけでも、純粋な友達として同じ時を過ごしたいわ。」

 

「………こころ、君は」

 

「今はまだ駄目よ。…誠司が知りたいことは、誠司があたしのモノになってから教えてあげる。……どうせ今はまだ、Hello,HappyWorldには交わらないんでしょう?」

 

 

 

 気味が悪いほど見透かされているな。確かにこころの言う様に、僕は現状Hello,HappyWorldに与する気は無い。そもそも実態の掴めない団体ではあるし、所属迄至ってしまえば動くに動けない状況さえ作られて仕舞い兼ねないからだ。

 香澄を護りこころを救うために協力するというのにその両方を反故にしてしまうようなことでは本末転倒もいいところであるし、何よりも僕のポリシーに反する。きっとこの子達を救うことが、僕が今ここに生きる理由だと思うから。

 

 

 

「君のモノになるかどうかはまだわからないが……一応、これからも親子共々宜しく、でいいのかな?こころ。」

 

「ふふふっ、やっぱり誠司は面白いわね!…あたし、本当にあなたが好きよ。」

 

「大人を揶揄うない…。」

 

「それじゃあ、約束の…」

 

 

 

 もう我慢できないと言った様子で、頭頂部を差し出してくる。暫く撫でないでいると不思議そうに上目遣いで見て来……目が合うと微笑んでまた頭を差し出し…を二度程繰り返した。

 その光景に、もう我慢できないのはこちらも同じで。

 

 

 

「ぷっ…」

 

「???」

 

「あっはははは!!!」

 

「え?えっ??…な、何か可笑しいことをしたかしら??」

 

 

 

 堪え切れず噴き出してしまった。いやはや、ここ迄素直な笑いが込み上げてきたのは何時振りだったか。

 

 

 

「いやいや参ったよ…。君ときたらそう言うところはまるで子供なんだからさ!!」

 

「…??だ、だって、頭なんか撫でてもらったこと無いんだもの!…どう待てばいいか分からないのよ!」

 

「ははっ…いいんだよ、されるがままで。…何でもかんでも自分から行動(アクション)を起こす必要はないんだ。…黙っていれば降ってくる幸せもある…ってことが、きっと解る筈だよ。君にも家族が居ればね。」

 

「ぅ…??…わぷっ。」

 

 

 

 言いながら彼女の頭頂部に左の掌を乗せる。驚いたのか、空間を潰したような間抜けな声が漏れたが、心地よさが勝ったようで…大人しく僕の胸に寄りかかりリラックスした表情を浮かべている。

 ふわりと甘い香りが漂うその金糸を梳くように撫でてやれば、うっとりとしたような彼女の声が聞こえてくるのだ。

 

 

 

「……あぁ。存外、素敵なものだわ。暖かくって、優しくって…まるで醒めることのない夢に、酔ってしまいそうになる程に。」

 

「……それは夢なんかじゃないんだこころ。君が望むのなら、僕は出来る限りの愛情を君に注ごう。…父親のように、家族の様に。」

 

「ふふっ、あまり大きく出ない方がいいわ。……この体は、とても貪欲に作られているもの。」

 

 

 

 本来幼い頃より受ける筈だった家族としての愛情を一切知ることなく育った少女。その体が一度甘味を知ってしまえば、その後の貪欲さは想像に難くない。

 それでも、僕は君を救うと決めたんだからね。それでも、僕は君を―――

 

 

 

「あぁぁーーー!!お兄さんが、こころんと仲良くしてるぅーー!!!」

 

 

 

 とても安らかな気持ちになった矢先、僕の実の…いや、この言い方には語弊があるな。僕の最も愛する娘の劈く様な声が上がった。

 驚きそちらを見やれば震える指先でしかとこちらを指差す香澄の姿が。余程の衝撃だったのか、顎が外れそうな程開けられた口からは可愛らしい八重歯迄もが見えている。

 その声に周囲も何事かと視線を動かし、一度香澄を経由する様にして僕達に辿り着く。……わっ、と二バンドに囲まれ、"なでなで"をせがまれるまで、そう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「如何致しましょう、総帥。」

 

「あら、()()()じゃない。…どうしたの?こんな夜更けに。」

 

 

 

 余程夜目が利く者で無ければ見過ごしてしまうような暗がりで、二人の少女は言葉を交わす。

 互いに相手を直視することは無く、触れ合っている背中で存在を確認するのみである。

 

 

 

「いえ…高宮誠司と距離を縮めたまでは良いのですが、この後どう引き込んで行くのか、差し支えなければ方針を伺いたいと思いまして。」

 

「…そうね、正直何も考えてないのよ。」

 

「…左様でございますか。」

 

「お前達は何も気にしなくていいわ。…今はただ、一刻も早く演奏技術の習熟と人格の定着だけを目指すべきよ。」

 

「はっ。」

 

 

 

 かのん、と呼ばれた少女は酷く俊敏な動作で傅く。背を向けている状態であるとは言え、二人がどのような関係にあるかは一目瞭然。その主従関係に、乱れが生じることは有り得ないのだ。

 

 

 

「……こういうとき、()()ならどう言うかしらね。」

 

 

 

 言うや否や、恐らく主であろう少女がパチンと指を鳴らす。傅いていた少女はその音にビクリと体を震わせ――

 

 

 

「……ふ、ふえぇ…こころちゃん、私、がんばってドラム練習するね…?」

 

 

 

 ――顔を上げ振り返りし時には()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「…………頑張りなさい。」

 

「う、うん!…それじゃぁ、おやすみ…だよ。」

 

「ええ。」

 

 

 

 暗闇の、更に深い所へと消えていく"花音"。その姿を見送ってか、一歩また一歩と唯一の明かりが差し込む窓辺へ歩を進める主の少女。

 彼女が小さな出窓の前に差し掛かった刹那、やや青みを帯びた月光にその金糸の様な艶髪と信念と哀しみを湛えた相貌が照らされ、浮かび上がる。

 

 

 

「……もう、すっかり分からなくなってしまったわね。…何もかも。」

 

『やぁ、こころ。…何だか酷く高揚しているようだけど?』

 

「Michelleね。…いえね、あなたの言う通り、とっても面白い人だったから。」

 

『そうだろう?何せ、"移ろいの星乙女"が選んだ人間だからね。』

 

「あたしや誠司とは違う存在、"移ろいの星乙女"…か。RebuildingAstraeaとも言ったかしらね。」

 

『あぁ、水流巻の一族が"アストレア"と呼ぶ、彼女さ。』

 

「ふふっ、これからどうなるのかしら。…あたしの願い、神様にも届くと良いのだけれど。」

 

 

 

 

 

 弦巻こころ。十代半ばにして類稀なる人望と行動力・勘の良さに豪運を兼ね備えた少女。

 革新結社「Hello,HappyWorld」の総帥にして、唯一無二の狂人である。

 

 

 

 




長らく間が開いてしまい申し訳ありません。
不定期とはなりましたが、投稿に関しての報告等はTwitterでも行っておりますので、そちらを参照頂けたらと思います。

まだ、続きます。
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