星の詩 - De stella absicht -   作:津梨つな

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福音を齎す

 僕の心配を他所に、特にこれと言った変動や問題にぶつかることなく、あれから半年以上が経過している。…あぁそうそう、特筆すべき点が一つあったね。その出来事により、特に香澄の周囲は大きく動き出した。それも、とてもいい方向にだ。具体的にどういったことがあったかと言うと―――

 

 

 

コンコン

「お兄さ~ん!」

 

「…ん。お入り。」

 

「失礼します!……うぉぉ…」

 

「何だね、変な声を出して…。」

 

 

 

 僕の回想を遮る様に、相変わらず元気いっぱいの愛娘が入室してくる。おかしなリアクションをお供に。

 どうやら彼女曰く、僕の部屋――僕は書斎と呼んでいる――があまり得意ではないらしく、入る度に変な声が出そうになるのだとか。…一体何が香澄をそこまで怖がらせているのか、色々調べはしたが全くわからない。よって、香澄が僕に用事を持ち掛けてくるときは決まって、

 

 

 

「やっぱり苦手だよ……この部屋。なんかモワッとするんだもん。」

 

「臭いって事?」

 

「ううん、こう…雰囲気って言うか、空気がモワッ!って。…私もわかんない!」

 

「はははは…じゃあいつも通り、リビングに行こうかね。」

 

「うん!…じゃなかった、今日は私の部屋に来てほしいなっ?」

 

 

 

 こういう時は決まってリビングに連行されるのだが、この日は違ったらしい。小首を傾げ、小さく「お願い」のポーズをとる香澄に返事をするでもなく頭をぽんぽん叩く。

 「へへへ…」と蕩ける様に笑う娘の跡を付いて行き、部屋の扉を開けると……

 

 

 

「ん。手入れ中だったのかな?」

 

「そうだよ~。さっき弦の張替えが終わったところなのです!」

 

「ほほう、もう一人でできるようになったのか。…偉いね、香澄。」

 

「ふっふーん。私も日々成長してるんだよ~。」

 

 

 

 部屋の中央、ベッドの脇に設けられた作業用の長机。そこに広げられているのは、真っ赤な星形のギターと工具やら部品やら…。香澄曰く「ランダムスター」という名を持つこのギターこそが、香澄の相棒であり変化の証である。

 ――こころちゃんと出逢ったあの日から、香澄の周囲は動き出したようで。その後程なくして、同じ学校でできた友達とバンドを組んだらしい。詳しくは踏み込んでいない問題なので分からないが、全部で五人構成であることと、「Poppin'Party」というバンド名であることは香澄の口から聞いた。

 僕と過ごす時間が減ってしまうのは本当に寂しいことだけれど、その分香澄が大きくなっていくのを感じられるのは何よりもの歓びなんだ。

 

 

 

「……ところで、僕をこの部屋に呼んだ理由は?」

 

「あっ!……じゃーん!!!」

 

 

 

 自信満々に香澄が取り出したのは連絡用にと渡している携帯用情報端末。手のひらサイズの画面と言うと伝わりやすいだろうか。昔携帯電話と呼ばれていたそれは、今や多数の機能を搭載した統合型の端末へと進化した。現代人は、よりスマートでスタイリッシュに進化したそれを「スマホ」と呼び親しんでいる。

 取り出したスマホを、ついっついっと指で操作する。普段はこうして指やペンで直に画面をなぞり操作するのだが、特定のデバイスに接続することで"仮想現実"のような使い方をすることもできる。僕はそっちのパターンで、画面を見ることはほぼ無く、視界に薄く浮かび上がった情報をヘッドジェスチャーや音声・手振りなどで操作している。両手もフリーになるし、常に情報と共に行動できるため便利なのだ。

 

 

 

「んっ。」

 

「…つけろって?」

 

 

 

 差し出されたプラグを自分のスマホに接続する。と同時に脳に直接響いてくる音楽。……ふむ、音楽は詳しくないが、それぞれの楽器が協調することで生まれるハーモニー。そして、仮歌段階ではあるが気持ち程度に乗っている香澄の声。…中々にいい。

 キャッチーなメロディに、不思議と惹き付けられる真っ直ぐな歌詞。きっと昨今の若者に受けるんだろう。僕も嫌いじゃない。

 

 

 

「…新曲?」

 

「うん!有咲ちゃんが曲を書いて、私とたえちゃんで歌詞を考えたんだよっ!!」

 

「ほほう…。相変わらずの分担だね。」

 

 

 

 今挙がった名前は、Poppin'Partyのメンバーのものだ。

 それぞれ簡単に説明すると、まず最初に挙がった"有咲ちゃん"。…この子は、確かキーボードを担当している子で、金髪のツインテールが印象的だった。大人し目な雰囲気で、お兄ちゃん子だと香澄から聞いている。大体の作曲を担当するのが、この有咲ちゃんらしい。

 続いて挙がった"たえちゃん"。…僕が直接面識のある数少ない子。凄くしっかりした雰囲気の子だったと思うけど…。香澄が言うには少し不思議な子らしい。どこが、とまでは教えてもらえなかったけど。

 その他にも後二人メンバーは居るんだけど、そこは追々紹介して行く事としよう。そもそも僕もまともに会ったことが無いから、紹介するほどの情報を持ち合わせちゃいないんだよね。

 

 

 

「曲名はもう決まってるのかい?」

 

「んっとね、まだ決まってないんだけど、いくつか候補はあるよ!」

 

「ほう。どんな感じ?」

 

「『丸揚げ』と『迷子の海月』、それから『つまりそういうこと』に『ピンクのくま』…あと、『Money is Power!!』。」

 

「ええっと…これはメンバー全員で一つずつ提案したって感じかな…?」

 

「うん!」

 

 

 

 どこからツッコんでいいやら…。まず、聞いている曲や見ている歌詞が同じなのにここまでバラバラの感性が発揮できるものなのだろうか。このままだと、方向性の違いにより解散、なんてオチがそう遠くない未来に待っている気がしてならないのだが…果たして。

 

 

 

「うん、まあ…喧嘩しないように頑張って、ね?」

 

「うん!皆仲良しだもん、大丈夫っ!!」

 

 

 

 香澄がそう言うならそれでいいや。

 …とまあ、こういった具合で、香澄は音楽を…学校生活を満喫しているようだった。因みに()()こころちゃんとは偶におしゃべりする程度で、特に深い交流はないとの事。気にしていてもしょうがない事ではあるが、相手は大きな組織なのだ。Michelleもああ言っている以上、用心しておくに越したことはないと思う。

 

 …後日、新曲のタイトルは『スタート!』になったと報告を受けた。何があったんだ。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 どうやら今現在、この日本という国に於いて「ガールズバンドブーム」なるものが来ているらしい。その名の通り、女の子達のバンドが流行っていると言う訳なのだが、香澄達もそれに触発されてバンド結成に至ったのだろうか。その経緯は察せる所ではないが、実際問題としてこの街にも多くのガールズバンドが存在しているらしいのだ。

 …僕は今、「その"流行"を是非この目で見に行こう」という横澤さんの誘いを受け、とあるライブハウスを訪れている。ライブハウス「COSMO's(コスモス)」。この街で音楽を始める人間が、一先ずの目標として定めるらしいこの場所は、今やロックの聖地として連日賑わいを見せているらしい。生半可な演奏を是としない厳格なオーナーが経営しているため、演奏する権利を掛けたオーディションでは無数の心が折られたとか…。

 

 

 

「…やけに詳しいね?」

 

「好きなんだよね~バンドとか!」

 

「…横澤さんはやらないのかい?楽器とかは。」

 

「私は……。…うん、ほら社会人ってさ、忙しいじゃない?」

 

「大企業は大変そうだもんな…。」

 

 

 

 その大企業に有給休暇を申請して迄誘ってくれたというのだから来ざるを得なかったわけだが…ううむ、如何せん人混みと言うのは苦手だ。隣に横澤さんが居てくれるおかげで平常心を保っている()()は出来ているが、もしもこの状況に独りだと仮定してみたら…あ、だめだ、泣きそうだ。

 

 

 

「と、ところで横澤さん。今日の催しだが、そんなに有名な人が来るのかい?」

 

「???しらなーい。」

 

「……何も知らないで来たのか。」

 

「まあね。音楽ってだけで楽しそうじゃん。」

 

「限りある休暇はもう少し計画的に使うべきであると提案したい気分だがね。」

 

「はははっ、誠司君お父さんみたい~!」

 

 

 

 お父さん、か。父親であることに間違いはないんだが、君みたいな大きな子供を持ったつもりはないよ、横澤さん。

 

 

 

「ロビーも混んできたし、もう中入っちゃおうか!」

 

「あ?…あぁ、そうしようか。」

 

 

 

 開始時刻ももうすぐだし、と付け加え、僕の手を引く横澤さん。連れられて踏み入れたホール部分では、まだ開始まで少し時間があるというのにびっちりと蠢く人の波…。嘘だろ?ここにあのロビーの人数が加えられるのか??

 ザワザワガヤガヤと最早声なのか音なのか判別も難しいものに埋め尽くされた会場内は、僕にとっては新鮮なもので…

 

 

 

「……すっ……げぇ…。」

 

 

 

 思わず声が漏れてしまうのも仕方がないことだと思った。隣でニヤリと口角を吊り上げる横澤さんに気付き、少し気恥ずかしさを覚える……あまり、見ないでほしいものだ。

 

 

 

「楽しめそう?」

 

「…ん、まあね。」

 

「クールぶっちゃって…。」

 

 

 

 少し楽しみになっている自分を、バレないようにしているだけさ。

 やがて全体の証明が落ち、ピンスポットで抜かれるステージ中央のマイク。そこに一人、背の高い緑髪の女性が歩いてきた時、会場内のボルテージが上がる。最早怒号にも近い歓声の中、その女性は顔面を覆うような長い前髪を左手で搔き上げ一言。

 

 

 

「お前ら……最初からクライマックスだ!!!」

 

 

 

 瞬刻遅れて会場を揺らすかのような熱気が、声となり、音となり、突き上げる腕となりステージへぶつけられる。思わずゾクリと身を震わせてしまうようなその衝撃に、胸の辺りが苦しくなる。…これが興奮、か。

 その一瞬で火が付いた来場客(オーディエンス)に満足が行ったのか、ステージ上の件の女性はニヤリとほくそ笑み…会場を指さす。その指は心なしか自分に向けられている気がして…

 

 

 

「お前らを…いや、お前を虜にして見せる。」

 

 

 

 静かに熱く残した言葉と共に、糸が切れたかのような暗闇に呑まれる会場。直後、色とりどりのライトがステージを輝かしく照らし、そこには各々の楽器を抱えた集団が既に立っていて―――

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「………。」

 

「おーい。大丈夫ー?」

 

「……あ"っ。……あれ?ここは…」

 

 

 

 ライブが終わり、恥ずかしながら少々の時間放心状態だったようだ。横澤さんの必死の呼びかけにて、やっとコッチに戻って来れた。目の前にはいつの間にか置かれていたアイスコーヒーのカップ……ここはどうやらライブハウスに併設されているカフェコーナーらしい。

 アイスコーヒーの苦みに心を落ち着かされ、顔を上げて改めて横澤さんに御礼を……

 

 

 

「全く誠司ったら、ライブが終わってもぜーんぜん動かないんだもの。壊れちゃったのかと思ったわ!」

 

「君、は……」

 

 

 

 目の前で楽しそうにニコニコと話す金髪の少女。その笑顔と対照的に、僕の顔はきっと酷く強張っていたことだろう。…弦巻こころが、どうしてここに?どのタイミングから合流していた?

 勿論、僕が我を忘れている間に合流した可能性は十二分にあり得る。だがしかし、あまりにも()()()()()。その自然さが、却ってこの不自然さを感じさせているのか。…いやそれだけじゃない。

 

 

 

「あたしはこころよ!!って、前にも自己紹介したわよね。…ふふ、誠司は忘れっぽいのね。」

 

「い、いや、名前は憶えてるとも…。…ええと、今訊きたいことが多すぎてだね。」

 

「ゆっくりでいいわ。あたしがぜーんぶ教えてあげるっ。」

 

 

 

 笑顔を全く崩すことなく会話を続ける弦巻こころ。いつ合流したのか、はこの際どうでもいい。どうでもよくなってしまうようなことに、一つ気付いてしまったからだ。

 

 

 

「こころ。そちらの方々は、一体…?」

 

「??そちらって?」

 

「多分、僕はまだ初対面だと思う人たちが、三人ほど見えるんだがね。…できれば紹介とか、してくれないかな。」

 

「あ!花音達の事ね!」

 

 

 

 かのん――かのん、その名前は、恐らく隣で思い思いに過ごしている三人の少女…の誰かの名前だろう。そして名前が分かり紹介もできるということは、この子達も水流巻財閥の関係者と言うこと…か?

 余りに急激に転がりだす展開に、些か訝しげな表情を取ってしまったのだろう。それまでニコニコと成り行きを見守っていた横澤さんが「顔、怖いよ?」とジェスチャーで伝えてきたので慌てて表情を崩したところ、頷きが返ってきた。その後立ち上がり何処かへ行ってしまう横澤さんだったが、誰も気にも留めない。トイレか何かだろう。

 

 

 

「じゃあまず花音から!!」

 

「ふぇ?…ええと…私は、松原(まつばら)花音(かのん)といいまして……こころちゃんと、仲良くさせてもらってるんですよぉ。」

 

「あ、あぁ。…ええと、僕は」

 

「誠司さん、ですよね?えとえとっ、こころちゃんから、ちょこっと聞いてたりしますぅ…。」

 

 

 

 妙におっとりと、それでいて落ち着きなく喋る水色のぼさぼさ髪の少女。ボサボサ、というのは失礼か。…あちこち、自由な方向に跳ねた癖毛、とでも言った方が適当かも知れない。

 どうやら僕の情報はある程度伝達をされているとの事。ならばこちらとしては彼女らの自己紹介を聞きに徹する方が良かろう。

 続いて勢いよく手を挙げたのは、背の低いオレンジ髪の子。

 

 

 

「はいっ!次ははぐみの番だよね!!」

 

「はぐみちゃん、か。」

 

「えぇっ!!この人凄いよこころん!はぐみの名前、当てられちゃった!!」

 

「……ツッコミ待ちかい?」

 

「落ち着いてはぐみ!あなた、一人称を「はぐみ」に設定したじゃないの。」

 

「あっ、そうだったそうだった…。」

 

 

 

 設定…?無理にキャラ作りをしているって事だろうか。

 

 

 

「はぐみはね、北沢(きたざわ)はぐみっていうんだ!」

 

「そっか。……無理してそのキャラクターを演じているのかい?」

 

「……そんなこと、ないよ。」

 

「いやだって、さっき設定って…」

 

「もう!細かい事を気にしていても仕方ないじゃない!…次は、薫の番よ!!」

 

 

 

 追求しようとしたらこころに阻まられてしまった。女の子が相手だし、あまり深掘りすべきことではないのかもしれない。誰にだって、知られたくない秘密や隠しておきたい事情があるものだ。それが大きかろうとそうでなかろうと、他人が容易く暴いては行けない物なのだ。

 次に、妙にキザったらしい長身の男。カオル、そう呼ばれていたか。

 

 

 

「ふふ、初めまして、誠司。…私は、瀬田(せた)(かおる)という、しがない一人の自由人さ。

 …もし呼びにくければ、"カオリン"とでも気軽に呼んでくれたまえ。」

 

「…宜しくお願いします。…カオリンさん?」

 

「はっはっは。君は実に素直な男性だね。…とても素敵だと思うよ。」

 

「これで紹介も終わったわね!みんなあたしの大切な仲間なの!!」

 

 

 

 仲間。その言葉に、先程迄熱狂の中で見つめていたガールズバンド達を思い出す。目の前の彼女らも、バンドマンの集まりなのだろうか。

 

 

 

「仲間っていうと、君たちもバンドを?」

 

「ばんど?」

 

「あ、いえ!私たちはバンドはやっていないんですぅ。誰一人、楽器は演奏できないので…。ふえぇ。」

 

「そっか。じゃあ違う何かで集まったとか、学校の友達とか、かな?」

 

 

 

 確かに、言われてみるとこの子達が音楽をやっている姿は想像に難いかもしれない。個人々々の個性が強すぎて、ある種のサーカスのような賑やかな物の方が合っているのかもしれない。

 

 

 

「まあそんなところだよねっ!」

 

「そう、私達は皆、"大いなる意志"の下に集った、言わば精鋭なのさ。」

 

「大いなる意志、ねぇ…。」

 

 

 

 まあ、要するに仲良しの集まりと言ったところなんだろう。僕も昔思い描いていたものだ。近所の歳の近い子供たちで集まって、世界の悪だとか宇宙からの侵略者に正義の鉄槌を下すため、日夜暗躍するのだ。…もちろん、ごっこ遊びのような微笑ましいものであるが…。

 

 

 

「誠司、あまり真剣に捉えてない顔をしているわね。」

 

「…崇高すぎて着いていけていないだけだよ。」

 

「じゃあそんな誠司にも分かりやすく教えてあげるわね。

 …あたしね。みんなが幸せに暮らせる世界を作りたいのよ。誰一人、悲しい思いをしない、そんな理想の世界を。」

 

「…ユートピア、か。」

 

 

 

 誰もが一度は思い描く理想郷(ユートピア)―――確かに、こころの言うように「誰もが幸せ」で「誰一人悲しまない」、その二点が共存する世界と言うのは正に理想を具現化した世界だろう。だが、僕が思うに、誰かが誰かの理想を具現化させようと動く一方で、世界は確実に歪んでいく。局所的に株価を吊り上げた時にそれ以外が急激な暴落を見せる様に、ユートピアと対面する様にしてディストピアがそこに存在するのである。或いは光と影に准えてみるのも解り易いかもしれない。光が差せば影ができる。影ができるということは、負の影響を受ける部分が必ず出てくるというものだ。つまりその理想は紛い物であって、理想とは飽く迄理想に過ぎないのだ。

 

 

 

「確かに、そんな世界があるなら是非とも見て見たいものだね。…もしも存在できるとしたら、だが。」

 

「できるわよ。それを実現するだけの力があたし達にはあるもの。」

 

「…いくら水流巻財閥が大きくとも、それは無理な話だろう。」

 

「水流巻?…あぁ、お父様の会社の事ね。正直なところ、()()はあたしとは関係ないのよ。」

 

「こ、こころちゃん、そこまで喋っちゃって…いいの??」

 

 

 

 直接の繋がりが無いことは大体見当が付いていた。だが、この花音ちゃんの慌て様は何なんだ?こころは一体何を隠している?

 

 

 

「いいのよ花音。元より、この話をするためにここへ来たんだから。」

 

「……どういうことだ。」

 

「話が逸れちゃったわね。もう単刀直入に言うけど……誠司。」

 

「ん。」

 

「あたしたちに、力を貸して?」

 

「君達の、理想郷作りにか?」

 

「ええそうよ。まだ信じて貰えていないようだけれど、あたし達は必ずやり遂げる。その目的のためになら、あたし達は何だってやって見せる。」

 

「何だって?……じゃあ、やっぱりMichelleの言っていた…!!」

 

 

 

 『社会的にも人道的にも善くない事をしている』――犯罪に手を染めているかもしれない、そう彼は言っていたんだ。正直半信半疑だったその言葉も、ここまで言葉を交わした相手からなら読み取れる。恐らくこの子は、もう何かしら事を起こしているのだろう。

 ただ、目の前の少女は僕の発した言葉に興味を持ったようで。それまで真剣な表情を形作っていた口角をクイと上げ、

 

 

 

「Michelle、ね…ふふっ。」

 

 

 

 不敵に笑った。

 

 

 

「やっぱり、貴方も話せるのね?あれと。」

 

「……ああ。何なら、君の存在は彼から教えてもらったのだよ。」

 

「あらそう?それなら、最初にあなたと出逢った時から薄々は気付いていたんじゃないのかしら。いつかはこうして、邂逅を果たすことを。」

 

 

 

 ああ、何となくではあるがそんな気はしていたともさ。ただ、ここまでおかしな思想を真剣に掲げているとは思わなんだ。

 

 

 

「気付いていたからって、得体も知れない物においそれと関与することはできないがね。」

 

「いいえ、あなたはもう関わってしまっているの。…Michelleという、星の声を聴いてしまっているのだから。だからもう、あたし達の力になるしかないの。」

 

「解せんな。」

 

「………ふふふっ、…いいわ。返事はまだまだ待ってあげる。行きましょう、みんな。」

 

 

 

 こころの声に、他の三人も無表情で立ち上がる。その姿はどれも異質で、何か作り物のような違和感を纏っている。一体こいつらは何をしようとしている?…そこまでして追い求める理由って何なんだ…?

 

 

 

「あ!そうだわ!…将来の仲間である誠司には教えてあげないとねっ!」

 

「うんうん、それがいいよ!こころん!」

 

「そうね。…そんなに身構えなくてもいいわ、自己紹介をするだけよ。」

 

「……自己紹介?…それならさっき済んで」

 

「あたし達の、自己紹介よ。」

 

 

 

 それは、僕と香澄の漸く手に入れた日常が狂い出す、混沌の始まり。

 

 

 

 

 

「あたし達は、"Hello,HappyWorld(ハローハッピーワールド)"。世界に笑顔と福音を齎す為に或るの。」

 

 

 

「Hello…HappyWorld……?」

 

 

 

 

 




回想編ラストでした。
次回より現代編、第二部へと突入いたします。
ここより更に、独自設定が増えてきますので、ご注意くださいませ。
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