Fate/Grand Order たっちゃんがグランドオーダーに挑むようです   作:這い寄る影

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私は思い出にはならないさ


FF7ACより抜粋。


七節 「黄金牢Ⅰ」

達哉は目を覚ました。

 

「ここは・・・」

 

周囲を見渡す、そこは母校の七姉妹学園だった。

かつて自分が所属していた教室である。

 

「・・・何が起こって・・・」

「情人、どったの?」

「リサ・・・」

 

目の前にはリサがいた。

ありえない光景である。

だって彼女は、もう自分の事を忘れているはずだから。

 

―そんなことはない、自分はあの事態}jhjfghmcンbdjmbj、hjmjgk-

 

達哉の脳内にあふれ出す、ありえない記憶。

ペルソナ使いなのだ。外部介入は手に取る様に分かるゆえにそれを跳ね除ける。

 

「栄吉が待ってるよ、バンドの練習するんでしょ?」

「・・・」

 

ああ確かに神社で舞耶を閉じ込めるという愚行を止めることが出来ていれば。

あの時、ロンギヌスの一撃をよけていれば、或いは忘れていれば。

趣味で栄吉のバンドに参加していたかもしれない。

涙が出そうになる、だがありえないのだ。

この光景ももうない、自分自身で選択して壊したのだからありえないのだ。

 

「悪い・・・リサ、少し一人にさせてくれ」

「情人・・・。さっきからおかしいよ?」

「ああ、色々、あってなうん、ガードレールにバイクをこすりつけてな」

「情人が? 珍しいこともあるもんだね」

「動物が出てくればそうなる・・・、だからちょっとな、栄吉にも言っておいてくれ」

「うんわかった、私もダンスレッスンあるから、じゃね」

 

そういって去っていくリサをしり目に達哉は動いた。

急いで駐輪場に向かって、バイクを走らせる。

行く先は全ての元凶のあの神社だ。

こればかりは感である。状況的に都合のいい夢に放り込まれていることくらいは。

ペルソナによるレジスト以外にも、右腕を見ればわかる。

何故なら奴の刻印がべっとりと刻み込まれているからだ。

故に自分は失敗し、罰の物語、向こう側で孤独に過ごした日々、カルデアに来て未だなお世界の危機に挑んでいる方が夢ではなく本物だと気づけたのだ。

都合のいい奇跡は無いとニャルラトホテプに散々教え込まれたのも聞いている。

きっと皆は外で戦っているはずだ。

自分も夢から覚めなければならないと、その手段を模索する。

その時だった。

 

『所長!! マシュ!! 達哉君!! みんな!! 誰でもいいから応答してくれ!!』

 

不思議なことに外部からの連絡が届いたのである。

 

「ロマニさん?! 状況は?!」

『達哉君!? 良かった・・・ローマ市に入ると同時に存在証明以外の追跡手段と通信手段が途切れたんだ・・・こちらからでは状況を掴めていない何があったんだ!?』

「俺も分からない・・・、いま故郷にいる」

『珠閒瑠市にかい!?』

「・・・多分偽物だ。リサも栄吉もみんないる、そんなことありえないのに・・・」

『・・・仮想体験って奴か・・・』

「おそらく、しかも洗脳のオマケ付きだ。自覚無しだったらヤバかった・・・」

 

自分自身の黄金期のアレンジ再生。しかも精神操作付きだと達哉は推論を述べる。

自覚があれば即座にレジストくらいはできるが。出方が分からない。

それでも十分に拙い、自覚がない場合問答無用で脱出不可能な甘い甘い夢だ。

 

「こっちは脱出手段を模索している、俺の事はいい。こうして繋がっているんだ。皆への呼びかけを行ってくれ・・・所長やマシュが拙い」

 

達哉は決めている、もう目を背けないと誓った自分にも罪と罰にも。

だから自覚は出来た。

だがオルガマリーやマシュには効果覿面のトラップだ。

まだ人生半ばの彼女たちにこれをレジスト出来るかと問われれば疑問符と心配が先行する。

 

『わかった・・・・っと所長が脱出したみたいだ』

「所長が? こっちに通信繋げられるか?」

『余裕がない!?』

「ならいい!! こっちで何とかする。・・・まてよ、所長は脱出したんだよな?」

『そうだけれども・・・』

「なら令呪が使えるはずだ。ダメ元で一人一画を使って自覚を促すなり引き摺り出すことは可能なんじゃないか?」

『その手があったか!』

「無論、安全地帯に移動が大前提だ。そっちは所長のサポートを重点的にお願いする」

『わかったよ! 所長もニャルラトホテプの手で一杯一杯だからお言葉に甘えるけどいいね!?』

「それでいい!」

 

オルガマリーは無事に脱出した。

バイクのハンドルを切りつつ達哉はオルガマリーに関しては心配する必要性はあまりないと割り切りつつ。

自分も急ぐ。

装備や備品はカルデアで揃えているため、そのまま直行する。

愛車に跨るのは大よそ一年ぶりだった。

ライフラインが寸断され燃料ですら希少だった故に乗っていなかったからである。

IFを再構築したがゆえに悪戯されていると言う事もなく。達哉のバイクは機嫌よさげに快調に飛ばしていくが。

心は沈殿していくだけだった。

神社の前に到着する。

自覚症状が出て来たのか、達哉の衣類はカルデアの野戦服に変わり、腰の剣帯には鞘に収まった自身の愛刀である孫六が収まっている。

神社の階段脇にバイクを止めてヘルメットを乱雑に脱ぎ去りつつ装備チェック。

問題なし、続けて装備チェック、問題なし。

 

「ハァー・・・・ハァー・・・・」

 

だが動悸は激しい。

まるで自分自身の口内に銃を突っ込んで引き金を引かんとする自殺者のそれだ。

嘗ての理想郷か今の地獄か。

どっちにも大事な物はあってそれを選ばなければならないのだ。

普通なら人は前者を選択するだろう。

だが達哉は違った。誓ったのだ。もう自分自身にも犯した罪にも背を向けないと。

今あるがままにあの世界で生きるのだと決めていた。

だがそれでもキツい物が在る。

幾ら覚悟していたところで、キツい物はキツい、痛いものは痛いのだ。

これを痛みとして感じないのはよほど過去に執着がないか、元から人格が破たんし過去を観ない光の奴隷くらいな物だろう。

だが達哉は凡夫だ。

剣の腕は事前に鍛えていたからものになっているだけであって実際は平凡。

幾ら覚悟を決めていたからと言って痛みを感じないほど彼の感性はどこぞの英雄のように破綻しておらず、故に平凡だ。

魔術回路なんてものもない、レイシフト敵性もマスター適性もペルソナと言う外付け回路があるからできているだけで魔術師としてみれば適性以前の問題である。

彼は何処までいっても凡人なのだ。

されど揺れ行く流れの中で抗うさまはある意味超人と言っても過言ではない。

人理の婿、人理の花嫁なんて主人候補生も夢のまた夢であり、そんなものないゆえにすべての英雄と心交わすなんて不可能だ。

だがしかし、現に見たくも無いもの、流れに身を任せる局面でも懸命に足掻いている。

故に心が軋み、自然に涙が流れようとも、彼はそれを拭って人間のままに歩みを進める。

その姿は、どんな補正や肩書きよりも眩しく見える超人のような生き様だろう。

そうそれこそ、蝶や影の求める物なのだ。

補正の無い人間が超人足り得るかどうかという実験に置いて、特権を持たぬ周防達哉を選んだのにはそれこそ理由なのである。

故にある意味、そういった意味で達哉は神社に誰がいるのかを想定できてしまった。

初恋の呪いは呪縛と言って過言ではない。

ああ彼女は自分と分かたれた。今頃、幸せになっているだろう。

だがそれとは別の慙愧が湧き出てくるのは当たり前。

此処はそういった慙愧ですら黄金に変える牢獄だ。

故に――――――

 

「久しぶりね、達哉君」

「だろうなとは思っていた・・・・」

 

現れるのはどうしようもないもの。

つまり天野舞耶であった。

 

「ねぇ達哉君、此処の何が気に入らないの? もう君を傷つける人はいない、影は無いんだよ? 仮面党も新世塾もラストバタリオンもなにも」

「ああ、何もない、なにも無いんだよ」

「?」

「こんなもの現実逃避の産物だ。自分の慙愧の意識が生み出した疑似体験空間だ。無様な自慰行為でしかない。そんなことしている間にも現実は動いているんだ。だから此処には何もないんだよ・・・・」

「私も偽物だって断言するの?」

「するな、何度もいうが此処は俺の慙愧の空想上の産物だ。だからアンタも偽物なんだよ」

 

そう全ては偽物。

この黄金牢は本人が過ごしていたかった最全期をアレンジし無限に再生する黄金の牢獄だ。

逆に言えば閉じ込められた本人の空想上の産物でしかない。

それがないオルガマリーは即座に脱出できたのがそれを証明している。

所詮は虚しいものでしかないのだと。

第一に達哉は誓っている、もう自分にも犯した罪にも背を向けないと。

だからこの黄金牢に留まるということはその誓いを汚す行為でしかない。

だが正しい事は痛い事なのだ。

人間、気合や根性で慙愧を拭えれば苦労しない。

幾ら誓っていても完全に切り離すことは不可能とも言ってい良いのだ。

だから。

 

「でも本当は出たくないと思っている」

「ッ」

「幾ら言葉にしても分かるわよ、ずっと本当は此処にいたいって思っているでしょ?」

「それはそうさ。あの日俺たちが目指したのはこの結果だから」

「なら―――――」

「だが、そうはならなかった。ならなかったんだよ! 舞耶姉ぇ!!」

 

叫び拒絶する。

ああ普通ならそうはなっただろう。

だがそうはならなかった。

舞耶は槍に刺されて死んだ。自分たちは忘却と言う都合のいい選択肢選びながら、自分自身は拒んだのだ。

過去には戻れない故に今がある。それを否定するということは、自分の罪から逃げることだから。

だからそうはならかったのだと引きはがすほかない。たとえどれほど望もうとも自分自身で台無しにしたのだから。

 

だから―――――――――――

 

「そこをどいてくれ、舞耶姉ぇ・・・」

「無理よ、だってアナタは十分苦しんだじゃない、だから見捨てられない」

 

刃を向け、そう告げるが、切り離せない以上。

戦って切り離すしかない。

 

「そうだよ、情人は苦しんだよ。もう良いんだよ、頑張らなくたって」

「リサ・・・」

「銀子の言う通りだぜ、たっちゃん、十分じゃねぇか」

「栄吉」

「無理しなくていいんだよ」

「淳」

 

物陰から現れるのはリサと栄吉に淳だ。

だが先ほども言った通り、これは達哉の諦めたいという気持ちその物の具象化である。

 

「それでも、大事な物がまた出来たんだ」

 

だが失ったがゆえに得たものがあった。

それを守りたいという気持ち、この困難を乗り越えて笑い合いたいという気持ちに嘘はない。

 

「だからその代わりに私達を切り捨てるの? 達哉君?」

 

舞耶がと言う、新しく出来た物の為に古いものは切り捨てるのかと。

だが何処までも達哉の視線は真直ぐに彼女たちを見据えて、こう宣言する。

 

「切り捨てもしなければ、忘れる物か。全部背負っていく!! だから―――――思い出の中でじっとしていてくれ」

 

切り捨てる事なんて出来る物か。忘れる事なんて出来る物か。

故に背負っていく、この重さを背負って罪と罰を抱きしめて歩いていくのだと宣言し。

故に思い出の中でじっとしていてくれと言う物の。

 

「「「「嫌だよ」」」」

 

ギチギチと牢獄が駆動音を流す。

達哉の覚悟によって今、切り捨てながらも受け入れるという矛盾を成したことによって達哉は黄金牢から脱出しかけていた。

だが逃がさぬとばかりに黄金牢は駆動する。

オルガマリーの時とは違い彼の後悔の念は大きいゆえに明確な脅威として具現化する。

四人の形が溶け合い歪に融合していく。

それは四人が組み合わさった黄金色の人型だった。

嘗てのニャルラトホテプの化身、グレートファーザーに酷似している。

元が達哉のシャドウだからかご丁寧に黄金色のメタル化使用だ。

さしずめグレートメタルフレンズとでも言うべきか。

物理攻撃は無効だろう。

 

 

「―――――――」

 

だが達哉が臆することはない、もう乗り越えた物だ。

後は夢の奥底にしまい込むだけである。

孫六を鞘から抜いて担ぐように上段に。

何時もとは違い一撃重視の構え。

呼び出すのは最も攻撃力の高い。

 

「来い、サタン!!」

 

サタンなのは道理だろう。

射出される光子砲、それと共に射出されるグレートメタルフレンズの攻撃。

各々が得意にしていた属性の本流だ。

それと光子砲が衝突し拡散、周囲をなぎ飛ばす。

次手既に達哉は選択していた。

衝撃波に抗いながら全力疾走。グレートメタルフレンズに肉薄。

 

即するわ、即ち魔剣・兜割り―――――――とはいかなくともアマラであった悪魔召喚師に伝授された技がある故だ。

 

即ち合体スキルならぬ合体剣。

一定以上の歴史がある剣であるならばできるだろうとのことだった。

悪魔召喚師とは違い、わざわざ悪魔と連携を図らなくとも、ペルソナで十分である。

ただし連続しては使えぬ。

刀が持たぬであろうことは明らかだが。

だがペルソナパワーを最大限に活用できる。

ペルソナをアポロにシフト、グレートメタルフレンズは次射の体制であるが。

 

「ノヴァサイザー!!」

 

ノヴァサイザーによる時間停止5秒が起動。

同時にコンセレイト乗せたマハラギダインが孫六に宿る。

それでもと、炎を身に纏いながら振り下ろされる孫六の峰をワザとアポロのゴットハンドで殴らせ加速。

ある意味全部自分がやっていることなどで、本来は複数人が神がかり的連携でやることを一人でこなし切る。

振り下ろされる刃は断頭刃の如く垂直に、グレートメタルフレンズの鋼の如き体を溶断して炸裂した。

 

『―――――――――――』

 

真っ二つにされたグレートメタルフレンズは唖然とした。

そのまま黒く染まってグレートメタルフレンズは掻き消える。

達哉としても過剰な対応を取ってしまったと思うほどのあっけなさだ。

元々達哉が覚悟を決めて受け入れていたというのもあるのだろう。

これならアポロでボコり倒す方がよかったかと思うほどだ。

達哉の心に入り込み黄金牢を形成していた中核であるグレートメタルフレンズが倒されたことからか、達哉の黄金牢が砕けていく。

それと同時に、目が覚めれば案の定、オルガマリーと同じくタールに溺れかけながら目が覚めて。

棺からたたき出される。

タールを吐き出しながらも、アポロを維持し、襲撃に備える。

 

『達哉君。無事かい?』

「ええ何とか・・・ところでダヴィンチちゃん、所長は? 後彼女が誰に令呪使って起こそうとしたのかも知りたい、無駄撃ちはしたくないからな」

『何とか・・・中央に移動は完了したよ。あと令呪の件だけども、所長は戦力優先にしてクーフーリン、ブリュンヒルデ、シグルドに使ってたって、あ・・・』

「あってなんです、問題が?!」

『その問題が起きたんだ!、所長のすぐそばに強力なシャドウ反応を検知、なんだこれ!? クーフーリンクラスの霊基測定なんだけども!?』

「急いで所長につなげ、状況を知りたい!」

 

自分の黄金期の次は所長の危機だ。思わず達哉も敬語をかなぐり捨てる。

 

『ちょっとなに!? 今自分の事で忙しいんだけども!?』

「俺だ達哉だ。今すぐそっちに向かう、耐えられそうか!?」

『タツヤ? 目が覚めたのね! 遅滞戦術はしているけれど、くぅ!?』

「ダヴィンチちゃん!! 最短ルートを寄越せ!!」

『でもね、達哉君、最短ルートは敵がごった返していて・・・「やり様は幾らでもある、早く出してくれ!!」分かった』

 

オルガマリーの様子から状況は拙いと達哉は判断し、最短ルートをダヴィンチに要求。

無論最短ルートは敵によって埋め尽くされているが。

身体能力をフルに使えば最小の殺傷で抜けられるであろうことを算出し。

躊躇なく走りつつ、マシュ、宗矩 書文の三人に令呪を切って起きるように仕向ける。

令呪の残弾がある以上、戦力として成り立つ存在を優先するのは当たり前の話しだった。

長可は地力で即座に起きれると達哉は信頼していた為、此処はあえて確実に宗矩と書文を起こしておきたかったゆえである。

故に達哉は走る、今度こそ取りこぼさないように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてシグルドの話を語ろう。

結果を言えば彼は令呪の効力を受けながらも目覚められなかった。

なにせ二度も失敗しており、その慙愧の大きい差は達哉ほどではないにしろ大きい。

加えて、事前にブリュンヒルデとカルデアで再会してしまった事も大きく目覚めを妨げる要因となってしまった。

人は一度、甘く美味な物を味わうと癖になると言ったように。

カルデアでの再会が最悪の悪手となって眠りから起きることを妨げてしまったのである。

それほど奇跡的なのだ。愛する者との再会と言う類は、まして彼等は主要時間軸でのカルデアでの生活を忘れている。

それも一押しになってしまっている。

愛する者との再会と日常はそれほどまでに甘く麻薬的だ。

抜け出す困難が補強されまくって。

ニャルラトホテプが主要時間軸で聞いていたシグルドの三回目は間違わないという言葉受けてか。

シグルドはブリュンヒルデと共に黄金牢に閉じ込められ前述の要素も相まって抜け出せないでいるし。

そも自覚すらしていなかった。

ある意味で達哉とシグルドの境遇は似ている。

彼もまた孤独だった。ブリュンヒルデと出会うまでは。

彼女と出会ったからこそ彼の世界は開けたと言っても過言ではない。

達哉が神社で彼等と出会ったように。

シグルドもまた。あの燃え盛る館で彼女と出会ったがゆえに世界が開け。

そして両者ともに世界は喪失を強要したのだ。

今、シグルドが立たされているのは忘却を選ぶか否かと言う達哉と同じ状況だ。

幻想の幸せを棄却し、事が終わればまた離れ離れになるという選択肢を取るか否かと言う状況なのだ。

だが、それゆえに、シグルドは無自覚気味に幻想を選んでしまった。

先も言った通り。その都合のいい幻想に抗えるほど人は強くはない。

なぜ現実を選ばなかったと非難している奴はそういう選択肢にあったこともない無知蒙昧だろう。

話しがズレたので修正させてもらう。

それほどまでに。彼にとって取り戻したい物だったということに尽きる。

あの時の黄金期を取り戻したいと切に切に願っていたのだから。

それが此処にある、故ソレを取らぬ理由がないのだ。

だから三度目の挑戦にも失敗した。

今度はニャルラトホテプがネロを介しての直々のデザインだ。

脱出できるのは本当に受け入れて猶も足掻く者だけなのである。

それだけでも難度は知ってしかるべきだ。

故にシグルドという大英雄も神格に匹敵するブリュンヒルデも影の手にからめとられて脱出が出来なくなってしまっているのである。

ここはそういう過去の黄金期への思いを抉り出し牢獄とする。万人が欲す永遠が此処にあったるのだ。

では現在二人がどのような状況下に置かれているのか語ろうではないか。

 

――――――――――

 

声、声がしたような気がして起きた。

生まれたままの姿。要するに全裸状態のシグルドはベットから半身を起こす。

 

「・・・誰かに呼ばれ様な気がしたのだが」

 

声は幻聴か或いは気のせいかと修正され。

ああ気のせいであるとシグルドは思った。

朝はまだ肌寒く昨夜の熱気は消え失せている。

さっさと普段着に着替えて、シグルドは寝室から出て館の食堂へと向かう。

嘗て炎上していた屋敷は炎がなくなり、今はシグルドとブリュンヒルデの二人で過ごしていた。

余りにも広すぎて使用人が欲しい所なのだが、今はまだ二人での時間が欲しいということで。

館の住人はシグルドとブリュンヒルデのみとなっている。

苦はあるが辛くはなかった。

そして食堂に降りるとすでにブリュンヒルデが朝食の準備を終えて。

食事の乗った皿と具入りのスープの入ったお椀に葡萄酒の入ったグラスをセットしている所だった。

 

「おはようございます、シグルド」

「ああおはよう、我が愛よ・・・、ところでそれは?」

 

シグルドがさらに乗った朝食を見た瞬間ノイズが走る。

ノイズは気のせいかと思いながら、皿の上に乗った食事は黒パンを広めに切った物に刻んだ干し肉を乗せて焼いて。

細かく刻んだチーズがたっぷり乗った物だった。

確かに見たこともあるし食ったこともあるような気がして。

 

―修正、そんな事実はありません―

 

またもやノイズが入るが気にもならない程度だったので気のせいだったかと思い至る。

 

「私の創作料理です、昨日いい干し肉とチーズが手に入ったので」

「そうか、それは楽しみだな」

 

愛する妻の手料理だ。

刻んだチーズも焼かれたパンと干し肉の熱に当てられてトロトロに解けている。

クロックムッシュと言うれっきとした未来の料理でありオルガマリーがブリュンヒルデに教えた物なのだが。

そういった事実でさえ捻じ曲げられていしまっており気づけない。

 

トロトロのチーズと程よく焼かれた干し肉とパンの組み合わせはバッチグーだ。

さすがだと褒めるとブリュンヒルデは小恥ずかしそうにしていていた。

そんなところも愛らしいとシグルドは思う。

 

「そう言えば今日の予定は」

「ふむ、森の方に魔熊が出たそうでな、その討伐依頼位だ。うまくいけば昼過ぎくらいには帰ってこれるとおもう」

「・・・では、昼餉は向うで食べますか?」

「いいや戻って来てから食べようと思う、手間を掛けさせるが許してくれ。我が愛よ」

「気にしてませんよシグルド」

 

こう言った感じで彼らの日常は続いていた。

彼等が一度得て、いまだに求める黄金期。

失ったにもかかわらず取り戻せると思い夢に耽る姿は滑稽かなと言う物であろう。

そして現実では。

 

 

「ハァーハァー・・・・」

 

オルガマリーは何とか敵陣を突破し宮殿へとたどり着いた。

宮殿と言うよりも階段が天高い玉座までに続く大階段が存在するだけで宮殿と言っていいかは疑問である。

そのすべてが黄金で構築されている。

まるで天に上る為の階段だと思った。

シャドウの連中は宮殿の一定範囲に近づけないのか、或いはオルガマリーを見失ったからか、ニャルラトホテプの采配故か。

宮殿周辺にはシャドウはいない。

もっとも階段の先の天上の杯の近くには巨大な反応があるという。

神霊、シャドウ、英雄の反応がごちゃ混ぜになって判別不可能と言う事だった。

だから一旦、オルガマリーはボロボロになったコートを脱ぎ捨て。

銃弾を使い切った。或いは防御やら殴打武器として使用し使い物にならなくなったマシンピストルやアサルトライフル、ショットガンを無造作に捨てる。

残るのは愛銃のリペアラーのみとなった。

マガジン数に余裕はあるし、接近戦も想定した作りになっているため、此処まで耐えれたのはリペアラーの二丁だけだ。

此処からはこの拳銃を二丁使ったガン=カタとでもいうべきアマネやエミヤと共に練り上げた武術が物を言う段階へと入っていく。

そして―――――――――

 

殺気

 

嫌な予感がして頭を下げて姿勢を低くしつつ真横に飛ぶ。

刹那の前に自分の首があった場所を光の刃が通り抜けつつ壁を抉り。

さらに返す刃でオルガマリーの居た位置に光の刃が振り下ろされて地面に食い込む。

対応が遅れれば、自分の首は跳ね飛ばされていたか、或いは首狩りを回避しても返す刃で縦一閃に引き裂かれていたかのどちらかであろう。

回避行動終了と同時に強襲者へと二丁の銃口を向けて銃弾を放つ。

発砲音と同時に金属音。

振り回された光の刃が.357マグナム弾を切り落とす。

そして相手を正しく認識してオルガマリーは驚愕した。

襲ってきたのは自らのペルソナである「ラプラス」だったからだ。

黄金牢を脱出して移行、罅割れた全身の傷が広がりタールの様な漆黒の液体を傷々から垂れ流している。

 

「なんで・・・」

 

当然んの疑問を口にする。

それと同時に脳裏からラプラスの反応が消える。

完全に制御が外れていた。

 

「だってあなたが私を拒絶したんでしょう」

 

ラプラスがオルガマリーと同じ声色で喋る。

覚醒時に口上を述べた時とは明らかに違う反応だ。

ケタケタとラプラスが嗤っている。

そしてついに罅が結合の限度を迎えたのか剥がれて床に落ちた。

陶磁器が罅割れて、ラプラスが持つ大鎌以外が砕けて外装がはげ落ちていく。

ペルソナとはもう一人の自分である。その自己を成り立たされている要因から目を背けた時。

ペルソナはシャドウとなって己自身に牙をむくのは道理と言えよう。

オルガマリーの渇望それは「決まった楽な道を歩みたい」である。

故に覚醒したペルソナはラプラスなのだ。

ラプラスの悪魔という提唱された概念の悪魔の具現となっている。

だがあの黄金牢でそのチャンスを不意にした。

全ては糞だからとレッテルを張り付けて、まるで食わず嫌いのように拒絶し脱出した反動で。

自信の渇望から目をそらしてしまったがゆえに。ペルソナがシャドウに反転する。

あれこそお前の望んでいたものではないかと問いかけ断罪するためにである。

 

「都合のいい道がそこにあったのに」

 

外装が剝げ落ちて大鎌を持つのはもう一人のオルガマリーだ。

つまりオルガマリーシャドウだ。

もっとも頭部の右側面から円形状に伸びる主角、そこから王冠のように起立する支角を生やし。

両目の瞳は真紅に染まって、表情は皮肉気に歪んでいる。

そんな彼女は都合のいい道、あの黄金牢なら多少融通くらいは聞かせてくれるはずだろと言う事実を突きつける。

 

「それで閉じ込められて、都合のいい夢ばっか見て、今を手放せって? 自慰に耽って今を取り逃がす方が御免被るのよ!!」

「その都度に痛い目にあっても?」

「ッ・・・」

 

幾ら否定しようがどこかで求めていたことには変わりはない。

此処に来るまで散々味わったではないかとシャドウは告げる。

此処に来るまで数多くのシャドウを葬り聞きたくもない断末魔を聞いて踏みつぶした責任を背負うことになっているではないかと。

 

「けれど、それ選んだら。全部無駄になっちゃうじゃない」

 

カルデアでの責任、第一特異点での責任。ネロの慟哭と葛藤。

特にネロは友人だ止めてやらねばならないから。

 

「それで選びたくもない道を選んで。無様に傷ついてアナタはまた。タツヤやマシュにすがるの?」

 

オルガマリーシャドウは嘲笑いながら指摘した。

責任を取るだのなんだの言って。友人を助けるだのなんだの言って。

またそうやって親友二人に縋るのかと。

 

「今度は女でもフル活用してタツヤに押し付ける? 抱きしめるなんてカンフル剤じゃ足りないから。抱いてもらう? 出来るでしょうね彼なら」

「黙れ」

「嫌よ、本当は責任逃れしたくてたまらない癖に。抱いてもらって女であることを盾にタツヤに押し付けて気が楽になりたいかしら?」

「抱いて貰いたいなんて思った事なんかないわよ!!」

「嘘、男としてアイツを見てる癖してどの口が言うの? アイツ以外なかったわよね、自分を助けて引っ張り上げて心配してくれる男なんて。レフですら上っ面だけだったなわけだしね」

「違う、それは気の迷いで「本当に?」

 

オルガマリーの反論にもニヤニヤ笑ってオルガマリーシャドウは問い正す。

本当にかと、好意を持っていないことは本当か?と。

 

「マシュと遊んでいる達哉を見て嫉妬していたくせにねェ」

「それは、ち、違――――「とは言えないわよね? だってアナタは」」

 

違うとは言わないよなと。オルガマリーシャドウは指摘する。

何が何であれ、マシュに対し嫉妬していたことは事実なのだから。

 

「そして責任をいくらでも背負ってくれる都合のいい男が彼だもの、逃がしたくないわよねぇ」

「――――――」

 

最期の一刺しと言わんばかりに言うオルガマリーシャドウのその言葉だけは聞き捨てならなった。

達哉がいくらでも背負ってくれる都合のいい男とは思っていない、寄り添える相手の理想像としては認めてよう。

だがそんな都合のいいトラックの荷台なんかと同じように達哉をオルガマリーは見たことはない。

それだけは断言できるのだ。

そしてニャルラトホテプ影響下でのシャドウは悪意を持って歪めてくるのも学習済みである。

自分の思っていることをこうも悪意を持って歪めてくると逆に白けると言う物だ。

嗚呼、達哉に対する好意は認める、マシュに対する多少の嫉妬心もこの際認めよう。

故に。

オルガマリーはリペアラーの右手で持つ一丁の銃口を向けてトリガーを引く。

その放たれた銃弾をオルガマリーシャドウは大鎌で切って落とす。

 

「あは♪ ムカついたかしら本当の事を言われて?」

「ええ本当の事よ、けれどねぇ・・・あいつをそんな便利染みた男とは思ってもいないわ」

「へぇなぜ?」

「だって逆だもの、大事だから背負わせたくない!!」

 

そう大事だから背負わせたくないのだ。

責任の重さで縋りついたことさえ、彼女にとっては無様な行為でしかないというのに。

便利染みているから背負わせるなんて恥知らずに死んでもなりたくなかった。

背負わせたこと第一で自覚しているからこそである。

 

「だから今度こそ、自分の責任は真っ当したいのよ、今度こそあいつの背負う荷物も背負ってあげたいのよ!! だからそこを退けよ、弱い私!!」

「弱い?弱い? それはアナタでもでしょう。今の私はアナタより強い」

「ホザくな、私!! 大人しく私の中に帰れ!!」

「くぅ、この、まだ言うか私ィ!!」

 

オルガマリーとオルガマリーシャドウの構図が逆転する。

達哉の記憶映像で見たシャドウの在り様、第一での試練を通していたがゆえにその逆転劇が発生する。

そして何よりもそれらを通して見た大人たちの選択が、舞耶、克哉、うらら、パオフゥなどの生き様を見たからこそ。

自分の弱い部分だと認識し認めることが出来たがゆえに立場が逆転したと言っても過言ではない。

彼等の奮闘の記憶は無駄にならず、今オルガマリーに引き継がれて。弱い自分を受け入れて戦うという行動を起こさせることが出来たのだ。

大鎌が振られる。

だが長物である以上、間合いを詰めて張り付けば脅威ではないとオルガマリーは突撃した。

弱い己を受けいれて恐怖に立ち向かうように。

大鎌と二丁の拳銃のマズルスパイクが交差して火花を上げた。

 

 




気が付けば50話目になったですたい。
いったいなん話で完結するのだろうか(白目)

たっちゃん「でも、そうはならなかった。ならなかったんだよ。だからこの話は此処でお終いだ(血涙)」

たっちゃんメタルシャドウをシバキ倒して無事脱出。
たっちゃんが覚悟決めていたということもあってグレートメタルフレンズは火力はグレートファーザー級だがHP及び防御力は紙ですんで、ライドウが伝授した技術もあって容易く討伐出来ますた
夫妻はどっぷりなため脱出不可能。所長の令呪届かず。
さらに所長、自らのペルソナの成り立ちを否定したがためにラプラスがシャドウ化、交戦開始。

次回はクーフーリンの回想 森くんの回想で行きます文字数の関係上一人増えるか所長VSシャドウ所長入れるかも。

ニャル「大wwwww草wwwwww原wwwwwwww生えるwwwwwwwwww」

ニャルは全員の黄金期を嘲笑いつつ、統制神の縁に腰を下ろしてワイングビーしながら描写ないけどネロを虐めています。


と言う分けでこんな感じの回想回が続きます。
穏便にやれば夢は何もしない。
ただ無理やり剥がそうとすると。メタルシャドウが沸いてきます。
マシュの方はあれですネ、ちょっと酷い事になるかも知れません。
後眼鏡夫妻の活躍は期待しないでくさい、二人で棺に放り込まれているので余計に自覚したくない状況ですしね、夫妻の方は。
その代わり、第三と第四で活躍させますから許してください!!



あと次も遅くなります。
最初は週一で投稿が目標でしたが。今じゃ一ヶ月とか二週間に一回が限度です。
そこらへんはご了承ください。


ではまた―ノシ

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