太平洋の翼   作:島田イスケ

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  お元気ですか?

 

  わたしは今、南の島に来ています!

 

  青い海がとっても素敵。

 

  これで僚ちゃんが一緒でなけりゃ、

 

  もう最高なんだけど!

 

  仕事だなんて、ツイてないです。

 

  それでは日本で会いましょう。

 

  お土産たのしみにしてください。

 

 

 

   *

 

 

 

「こらあ、キノ! 呑気(のんき)に絵ハガキなんか書いてんじゃねえ! 遊びに来たんじゃないんだからな!」

 

おれは助手の木下(きのした)の手から絵ハガキをひったくった。

 

「何? なんだ、これは! おれが一緒で悪かったな。ええ? ひとりに重い荷物持たせやがって。三脚(アシ)くらい持て! 働け。おれは――」

 

――疲れた。三脚(さんきゃく)(かつ)いで、撮影機材のトランク引いて長い坂を上ってきたのだ。きつかった。眩暈(めまい)がした。本気で倒れるかと思った。陽射しが強い。南洋の楽園。パラダイス。けれどしがないカメラマンには、重労働の3Kツアーだ。若いのに腰痛起こして入院したやつを何人も知ってる。だがその前に、このぶんじゃ、この仕事が終わるまでにおれは日射病で倒れるな。

 

「ちょっと休む」

 

「だらしないの」

 

パラソルと椰子の木陰のデッキチェアに、おれは這い上がるようにして座った。政府観光局の男が、わざとらしく時計を見る。クライアントのお目付け役だ。額に一滴の汗もない。

 

「すみません、ちょっとよろしいでしょうか」

 

ステンレスのポットからキノが注いでくれたお茶を飲んでると、声がした。日本語だ。

 

珍しくない。世界には、日本人観光客があふれてる。うっかり機材など見られると、『シャッター押してください』なんて、自分のカメラを押し付けてくるやつもいる。カワイイ女のコでもなければお断りだ。

 

女の声だった。

 

黒川(くろかわ)(りょう)さんでいらっしゃいますよね」少し日本語の発音がおかしい。

 

「はい」

 

とおれは言って振り返った。そのとき、声が、記憶のものと重なった。

 

しまった。

 

「わたくし、ディナ・バリスと申します。きのうお電話で「あ、博物館の――」

 

おれは慌てて、彼女の言葉を(さえぎ)って言った。

 

彼女は(うなず)く。そうだった。すっかり約束を忘れていたのだ。

 

「いや、あの――」

 

おれはお目付け役を見た。この暑いのに、日陰に入ろうともしないで、立ったままじっとおれを見ている。視線が合うと、また男は、おれに見せつけるようにして時間を気にする素振りをした。

 

おれはまた彼女を向く。

 

「すみません、ええと……」いま仕事中なんです、とは言えまい。「今、時間が取れないんです。もしできたら、話は後にしていただけないでしょうか。本当にすみません。お詫びします。もし、今夜でよろしければ――」

 

「わかりました。お仕事中にすみません」

 

アクセントはぎごちないが、おれのあやしげな敬語より、よほどしっかりとした口調。こんな日本的言葉遣いが、この国にいてどうして覚えられるんだろう。

 

「いつならお時間が空きますか?」

 

「そうですね――九時頃なら」

 

「わかりました」

 

場所を約束して彼女は去っていった。なんて名前だったかな。おれには思い出せなかった。昨夜も聞いたはずなのだが。

 

彼女の姿は、それでも忘れようがなかった。陽に灼けた肌。強い瞳。飾り気のない白いシャツ。襟の形がこの辺りの島に独特のものだ。背を伸ばして立つ姿は、この潮の香りの中で()に写し取りたい気がした。

 

おれはつまらない考えを払って、立ち上がる。

 

キノが言う。「誰? あの人」

 

「後で教えるよ。ほら、仕事を始めるぞ」おれは言った。「遊びに来てんじゃないんだからな」

 

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