おれ達には、まだ仕事が残っていた。写真の選定だ。
で本番だ。現像が上がるのをジリジリして待つ。ディナにはああ言ったけれど、おれにはてんで自信がなかった。
出来上がったポジを、キノが6コマずつの
キノが言う。「まず、こっちのはダメだね」
「ああ」
片方のコマは、ルーペで覗いて見るまでもなくブレていた。
「こっちのやつも、像が端に寄っちゃってる」
「うん、でも露出は合ってるだろ。ちょっと見てくれないか」
「OK」キノは四倍のルーペを当てて、「うん、ピントもちゃんときてる……よく写ってるよ……ちょっとアンダー気味かもだけど」
「どれ、見せて」おれは写真を覗いた。
見て、はっとした。これは、と思う。
いや、構図はしくじった。レリーフ像が右に寄り、左の空間が意味もなく空いてる。だからそのぶん、トリミングして、左をカットすればいけなくもないが、たぶん窮屈になり過ぎる。まあ
問題は、露出。キノの言う通り、少し暗いか。だが、悪くない。岩の陰影がよく出ている。明るくすればそれだけ粒子も目立つだろう。感度を無理に上げているため、やはり多少のザラつきはある。
化石のレリーフ。おれがはっとさせられたのはその肝心の被写体だった。まるでこの怪物が、命を持ってそこから這い出してきそうに見えた。綾をなす青い光にいろどられ、妖しく、荒ぶれる意識を秘めて――エルマリート改造レンズとかいうのも、あながち風呂敷じゃないかもしれない。
「うん、いい」と言った。「これでいい」
希望が持ててきた。
だが、いきなり、最初のスリーブは全滅した。6コマのうち、2コマがブレ。他の4コマは他の失敗――まるでグチャグチャな有り様だった。確かに、特に最初のうちは、まるでコツがつかめなくてうまくいかなかった覚えはあった。
次のスリーブに移る。キノが、ひとコマひとコマルーペで覗き込んでいく。
「うーんと、これはブレじゃなくて、レンズに水がかかったのかな? 一部分がぼやけちゃってる」
「次だ」
「これは、ちょっと、アンダー過ぎ……帆が動いたんだね、きっと」
「なんかして、救えるかもしれないぞ。写りはどうだ」
「ダメ、ブレてる」
「それを先に言え。次だ」
「これは真っ黒になっちゃってる」
「次」
「ブレ過ぎてて、なんにも見えない」
「次は」
「いけないや。あたしの手が写ってる」
「なんだと? このバカ野郎」
三番目のスリーブ。
「これは、下にズレてるな……上の方が切れちゃってる」
「次」
「これも、ちょっと、ズレてるかなあ。うーん、けど……」
「どれ、見せて――ダメだ、次」
「これは、少し、ブレ、てる、かな? いや、だけど……」
「いい、飛ばせ」
「あ。これにはあたしの顔が」
「はいはい。次だ」
「これはまるきり横向いちゃってる」
「次だ」
「何が写ってるか、わからない」
「次ーっ!」
さらに、次のスリーブ。
「これは僚ちゃん、よろけたのかな……なんか傾いて写ってる」
「どれ、見せて――こら、その前にブレてるじゃねえか。ダメだ」
「これは、オーバー。真っ白だ……なんでだろ……」
「知るか。次」
「僚ちゃんの指が写ってる」
「うっ、くくく……」
そのスリーブも全滅に終わった。さらにその次のスリーブも。おれは胃が締めつけられるのを感じた。
最後のスリーブの途中で、キノの手が止まった。ルーペを高倍率のものに替えて、細かく点検していく。
「どうだ?」とおれは言った。