「ねえ、これがなんだって言うの?」
とキノが、おれが渡した物を手にして言った。ボロボロになった飛行機の部品だ。
「こいつの水平儀だよ」
おれは〈ヘルキャット〉の残骸を蹴飛ばして言った。
「中にジャイロが仕込んであって、機体がどんなに傾こうと、裏返しになろうとずっと水平を保つ。だから飛行機ブンまわし過ぎて、パイロットが上下もわかんなくなったとしても、こいつを睨んで機を操りゃあ、元の水平状態に戻せる。確かそういう計器だ」
「確か、ね」
「だから、
「映画と一緒にはできないよ。あれはひとコマひとコマは、ブレてたっていいんだから。目的が違うじゃん」
「とにかくさ。おれ達は普通の撮影とは違う考え方をしなきゃいけないわけだろう。三脚を使うのとはまったく逆の。〈流し撮り〉で動くものを止めるみたいに、カメラを安定させないことで逆に
〈流し撮り〉とは走るクルマや電車なんかを撮るカメラマンが使うテクニックで、シャッターを開けている間、進む被写体の動きに合わせてカメラを振り動かすというものだが、キノは、
「全然違うと思うけど」
「とにかく、独楽の要領だ。
〈一脚〉とは、三脚の脚を一本だけにしたようなものだ。
キノは言う。「独楽の要領ねえ。そんなの、うまくいくの?」
「わからない。やってみるしかない」
「一脚なんてないじゃない」
「一脚なら、あるさ、ここに」
とおれは言った。一脚なんて、おれはあまり使わない。だから持ってきていない。だが要するに一本の棒だ。
おれは〈ヘルキャット〉の翼から外板を引き剥がしてやった。相当にもろくなっていて、簡単に剥がれる。
「ほらな? こいつを使うんだ」
「うーん」
キノは、主翼に三挺並べて収められている真っ赤に錆びた12.7ミリ機銃をそれはそれは疑わしげに見つめたけれど、やがて言った。
「それで、光が足りない分はどうするのよ」
「それはな、ニーチェの言葉だよ」
「僚ちゃん、おかしくなったんじゃない?」
「もっと、光を!」
ディナが言った。「それは、ゲーテ」