大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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100 近世 第一次世界大戦 大攻勢

 

 1915年の春、国家総力戦はその全貌を明らかにしようとしていた。また日本、ドイツ、オーストリアを中心とした勢力を中央同盟国。イギリス、フランス、ロシアを中心とした勢力を連合国と呼ぶようになったのも、この時期である。

 

 ヨーロッパの片田舎にあったイーペルという村では、喜びの春にあって不気味な静けさの中に、数千の死体を積み上げていた。

 

西洋妖怪の首領バックベアード。黒い球体に巨大な一つ目と枯れ枝のような多数の触手を備えた姿をさらしていた。

 

「愚かなる人間どもよ。惨たらしく苦しんで死んでいくがよい。」

 

ベアードの体からガスが発生する。無論そのガスは人体に有害な毒ガスであった。

ガスマスクを持っていなかったフランス軍は数千人が10数分のうちに死亡した。

 

フランスの若者たちは、目には見えない恐怖と戦うことになった。ガス雲の中を無我夢中で走り、窒息し、苦しみのたうち回って死んだ。積み上げられた膨大な数の死体は、恐ろしい死に顔を晒していた。清浄な空気は汚染され、金属の味がした。

 

 戦線を不気味な沈黙が覆い尽くした。

 

「うわぁああああああ!!」「に、逃げろ!!」「こんなバケモン相手に出来るか!?」

 

 

沈黙を破ったのはフランスの第87師団と第45アルジェ師団。

恐慌を起こして一目散に逃げだし始める。

 

「全軍、追撃。」

 

ベアードの号令で西洋妖怪たちが追撃を始める。

 

四天王のこうもり猫の体内に飼われている吸血小妖怪ウーストレルやポルターガイストが解き放たれる。

 

「おまえらぁ!やっちまえ!」

 

「いやだぁ!?」「助けてくれ!!」「死にたくない!」

 

ウーストレルに纏わりつかれたフランス軍兵士が一瞬でミイラのように干からびて絶命する。ポルターガイストに空高くまで浮かび上がらされた兵士が無慈悲に地面に落とされ赤い肉シミを地面に作る。

 

西部戦線は地獄のような光景が支配した。

 

 

 

 

 この時、ドイツ軍の主力は、ロシア戦線にあって大規模な攻勢作戦を計画していた。

 

 東部戦線では前年のタンネンベルクの戦いで、ロシア軍の1個軍団が壊滅しており、ドイツ帝国とオーストリア=ハンガリー二重帝国の連合軍が全般的な優勢を確保した戦場だった。

 

 タンネンベルクの戦いの要諦は、鉄道網を駆使するドイツ軍の機動力の高さにある。

 

 ドイツは、優勢な西部戦線と異なり膠着状態に入った東部戦線を早々に片付けた後に満を持して西部戦線に全力を傾ける方針をとった。

 

 こうした方針が採用されたのは、シベリアから西進する連合帝国軍の存在が大きい。

 

 1915年5月、いよいよシベリア戦線でツングース藩を軸にした連合帝国軍の攻勢を発起。国境を越えて、バイカル湖西に街を広げるイルクーツクへと殺到した。

 

 既に前年の宣戦布告から半年以上が経過しており、極東ロシア軍は塹壕を掘って日本軍を待ち構えていたので日本軍の攻勢は防ぎ止められることになった。

 

 とはいえ、彼我戦力差からして突破されるのは目に見えていた。

 

 ロシア軍は主力を対ドイツ戦に投じており、シベリア防衛に20個師団が投入された。

ロシア軍は、広大なシベリアの大地そのものを利用し、ナポレオンを破った後退戦略で連合帝国軍に対抗しようとしていた。しかしこれは、連合帝国軍には有効ではなかった。ツングース藩は冬将軍ことレティ・ホワイトロックが率いるイエティの軍勢がおり、本国妖怪軍北国鎮台より雪女郎の軍勢が加わっていた。

 

広大なシベリアの寒冷地帯は氷雪の妖怪たちには障害として機能しなかったのであった。

氷雪妖怪たちにシベリア戦線を食い破られ暴れまわられることになり、連合帝国軍の本格攻勢が始まる頃にはシベリア戦線はすでに崩壊状態であった。

 

そんな、シベリア戦線に止めを刺したのはバイカル湖南の広大なモンゴル高原を支配する辛亥革命で清朝から独立したばかりのモンゴル国であった。

連合帝国政府の誘いに乗ったモンゴル国は連合帝国に無害通行権を与え、陸軍6個騎兵師団を通過させた。さらに、陸軍の支払う高給に惹かれて多くのモンゴル人が家族や一族総出でこの遠征に参加している。巧みな馬術で馬を操るモンゴル人達は羊やヤギを連れてゲルで生活しながら軍需物資を運びつつ日本軍の後に続いた。半ば日蒙連合軍と化したその雑多な集団は、蘇ったチンギス・ハーンの軍勢そのものだった。

 

さらに、この軍勢には妖精の騎兵団が参加していた。この妖精騎兵が乗るのは馬ではなく犬であるクー・シーと呼ばれる犬妖精は全身に長い暗緑色の毛を生やし、丸まった長い尾を持つ牛並みに大きな犬で全く音をたてず、滑るようにして移動する。元々はアイルランドの妖精たちであったが、妖怪妖精の排斥が進む欧州から日本に亡命してきた移民軍であった。

欧州の妖精たちはクロムレック(環状列石)に拠点を築き抗戦していたが1708年のストンヘンジの戦いで欧州妖精勢力の組織的な抵抗が終了してからはベアードか大樹の勢力へ合流する流れになっている。

そんな、妖精勢力の一つである彼女たち妖精騎士団は郷土奪還を願い西洋勢力との戦争に積極的に参加している。

 

青々とした若草が茂る広大なユーラシアの大地を、騎馬の大軍が銅鑼とチャルメラと馬蹄を打ち鳴らしながら西へ西へと進んでいった。

 

なお、日本人とモンゴル人は顔立ちがよく似ているので、遠くから見ても、近づいて見ても殆ど区別がつかない。

 

「モンゴル人が攻めてきたぞ!」

 

と言う叫びはロシア全土を震撼させた。

 

ロシアをタタールのくびきにおいたモンゴル軍ほど恐ろしいものは、ロシア人にはなかったのだ。

 

チンギス・ハーンが蘇りモンゴルが攻めてきたという噂はサンクトペテルブルクのニコライ2世の舌にまで登ったという。

 

 ちなみに、騎兵軍団総司令官の秋山好古大将であり当たり前だがチンギス・ハーンではない。

 

騎兵軍団はシベリアの大地でツングース藩軍と合流しシベリア戦線を完全に崩壊させた。

その後は、残敵掃討が主任務となった連合帝国陸軍本隊が悠々と西へ西へと進んでいくのであった。連合帝国軍西進の先鋒として秋山騎兵軍団とツングース藩軍は大活躍したのだった。

 

なお、ロシア軍はシベリア鉄道の鉄橋やトンネルを爆破して日本軍の侵攻を阻止しようとしたが、騎兵主体で馬に乗って進む遊牧民の軍団にとっては大した痛手ではなかった

 

 また、橋を爆破しても、日本海軍海兵隊の河川艦隊が軍需物資を運搬したので日本軍の進撃は止まらなかった。

 

崩壊したシベリア戦線のロシア兵は降伏し捕虜となった。

捕虜たちには破壊した橋の修復やインフラ整備の労働を課した。強制労働が自国のインフラ整備であり地元が潤う訳で素直に連合帝国に従ったのであった。

 

シベリア戦線を崩壊させた連合帝国軍はさらに西へと進撃を始めるのだった。

 

 

 

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