アメリカ海軍が保有する弩級戦艦、超弩級戦艦は約20隻。
巡洋艦や駆逐艦、旧式砲艦、水雷艇主体の北米諸藩艦隊や南天防護艦隊の戦力で対抗できる相手ではなかった。
日本海軍が全力で当たらなければならない強敵である。
しかし、二度に渡るイギリス艦隊との戦いは日本海軍を疲弊させていた。
ドイツ海軍の大洋艦隊はイギリス海軍の大艦隊が封じ込めているので、アメリカ海軍は20隻の戦艦を全てをパナマ周辺に集めて、日本海軍を牽制した。
日本海軍が太平洋に回すことができたのは、超弩級戦艦6隻、弩級戦艦4隻、準弩級戦艦2隻、弩級巡洋戦艦2隻、超弩級巡洋戦艦4隻、合計18隻だった。
しかし、ロシア・バルチック艦隊を打ち破り、2度もイギリス艦隊を制した日本艦隊との決戦を躊躇したアメリカ海軍は日本海軍との直接的な決戦を避けた。一方の日本海軍も2度に渡るイギリスとの艦隊決戦に勝利したが辛勝であり、その傷は癒えておらず水棲妖怪たちも旧来の蛤軍船では今の軍艦に太刀打ちできないことは日本海海戦で証明されており、最大戦力のお化け鯨は先のイギリス艦隊との戦いの傷を癒すために戦列を離れており、半魚人や人魚、河童などでは戦艦並みの火力は期待できず。抱え魚雷や刺突機雷による奇襲で航路破壊を行うと言った海上におけるゲリラ攻撃を主体の戦術に切り替え始めていた。
つまり、日本海軍もアメリカ海軍との決戦を望まなかった。
日米の海での戦いは互いの通商破壊に終始していた。
通称破壊戦は小回りが利き隠密性の高い水棲妖怪による特別強襲隊が絶大な強さを誇り、水棲妖怪優位は一応の対策が出来た平成令和の現代でも変わらない程であった。
日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、何れの大海軍国も主力艦隊は睨み合って港に逼塞し、海軍ではこの戦争を終わらせることができないことが明らかになった。
戦争行く末は陸の戦いに委ねられることになったのである。
それも、イギリス、フランス、ドイツが直接対峙する、西部戦線が鍵を握っていた。
日本、連合帝国は本国妖怪軍より東国、北国の2鎮台を動員しレティ・ホワイトロック率いるロシア系妖怪のツングース藩軍を支えシベリア戦線で快進撃を続けていたが、ドイツはロシアと相対する東部戦線では今だにロシア軍が頑強に粘っていた。同盟国のオーストリア=ハンガリー二重帝国は期待以上の働きはしなかったうえに、後出しで参戦して来たくせにロシアにもイギリスにも返り討ちにあったオスマントルコ帝国は足を引っ張るだけの存在で肉壁にでもなってくれとしか言えないくらいの役立たずで、瀕死の病人と言うか死体で二人羽織しているような惨状だ。むしろ、義勇軍派遣や外交的に連合国と敵対してくれたバーラクザイ朝アフガニスタン首長国の方がいい仕事をしていた。
東部戦線が泥沼では西部戦線でも決定的な攻勢を発起できないでいた。西洋の中央同盟国ではベアードの西洋妖怪軍団が圧倒的猛威を振るっていたがそれ以外が完全に先細っていた。
シベリア戦線を突破したツングース藩軍や東国北国鎮台軍、秋山日蒙騎馬軍団、他本国援軍部隊(以後は連合帝国西進軍)はエカテリングブルクまで進撃することになった。ヨーロッパとアジアの境にある街である。
連合帝国西進軍は3年かけてシベリア踏破を成し遂げたのである。
軍団長にはレティ・ホワイトロック、副団長に秋山好古元帥を据えて、連合帝国西進軍はアジアとヨーロッパを分かつウラル山脈を越えようとしていた。
騎兵主体の軍隊が、これほどまでの長距離侵攻を成し遂げたのは、チンギス・ハーン以来の快挙である。侵攻速度を考えれば、チンギス・ハーン以上であった。
「大樹様は、このレティ・ホワイトロックに命じられた!!…もはや我が腕により正義の鉄槌を下すため西進すると!!我々は戻ってきた!ある者はたどり着いた!!ここから始まるのだ!!白き世界の栄光が!!皆、我が戦線に続け!!我らが連合帝国西進軍は、既にして橋頭保を欧州方面に構築し、西方を平らげるべく進軍しつつあり!!」
北方ユーラシアにおける伝説的な妖怪であるレティ・ホワイトロックについてきたモンゴル人達は感激し、今度こそモンゴルは地果て、海尽きる場所へたどり着くとしてレティ・ホワイトロックやその上にいる大樹野槌水御神への忠誠を新たにし、戦意を高揚させていた。雪や霜と言った氷系の妖精達に彩られてたレティ・ホワイトロックは幻想的でありその演説に酔い痴れた。
兵達はいつまでも終わらない行軍に疲れを見せていた。
日本兵以上に疲れていたのはロシア兵達だった。
革命の混乱で、もはや何のために戦っているのか分からなくなったロシア軍の兵士達は、冬将軍の軍団に次々と投降して自分自身の戦争を終わらせた。
あまりにも捕虜の数が多すぎた。
1917年末までに連合帝国西進軍が得たロシア軍捕虜は150万人を越えている。
ロシア各地の農村から徴兵されて連れてこられた捕虜達はシベリアの農地開発に充てられた。秋の収穫は、全て連合帝国軍の買い上げとなったが、膨大な売上金が捕虜達の手元に残った。重税や貴族の搾取に喘いでいた農村出身者は、まともな値段で農産物が売れたことに、驚き、呆れ、最後に秋山、レティ、大樹を崇拝した。
シベリア鉄道の沿線に、自活のために多くの捕虜村が作られたが、そのまま居付いてしまった捕虜は多く、シベリアに親日家が多いのはこの為である。
捕虜の開拓村やシベリア鉄道で得た補給をもとに西進を継続する連合帝国西進軍。
モンゴル人達は家畜に草を食べさせる牧草地さえあれば、特に補給の問題はない。
妖怪たちも自給自足が可能なものが多かった。
1917年12月、日本軍はロシア皇帝ニコライ2世を捕虜にしてしまう。
ロシアはレーニン主導の10月革命で2月革命による臨時政府が倒れ、ボルシェビキ政権が成立していた。このとき臨時政府はエカテリンブルク郊外に皇帝一家を幽閉していたのだが、臨時政府崩壊でこの処遇について混乱が生じて移送と言う事になる。
日本軍の手に渡さないように皇帝一家の身柄を別の場所に移そうとしたところ、日本軍の騎兵に見つかって捕虜になったと言うのが事実である。
報告受けた大樹はレティ・ホワイトロックにこういった内容の文面で返信した。
「ラスプーチンをやってみてはいかがか?」
レティ・ホワイトロックはこの誘惑に乗った。
人生に絶望し、疲れ果て、抜け殻のようになった皇帝だった老人を入れこませるにはそう時間はかからなかった。
レティ・ホワイトロックの協力が得られる理解したニコライ二世は現金にも元気になってしまった。
「冬の将軍の軍勢がついておる!」
などと、興奮してまくし立てるので、周りの人間も徐々に本気になってしまったのだ。
レティ・ホワイトロックは秋山元帥を抱き込み、ロシア帝国を傀儡にと画策し始める。
幕閣や政府要人たちはこれを奇貨としてシベリア戦線の強引な幕引きを画策する。
北米戦線がいよいよ厳しさを増しており、幕府及び帝国政府はロシアとの戦争は早期終結を計ったのだ。
さっさとニコライ二世が復位させて、皇太子のアレクセイ・ニコラエヴィチを次期皇帝に内定させてエカテリンブルク帝国再興を宣言させた。
再興宣言時の写真で皇帝ニコライ二世と皇太子アレクセイを挟みレティ・ホワイトロックと秋山好古元帥が並ぶ姿はロシア帝国が対外的に傀儡になったことを宣言するようなものであった。
そして皇帝の最初の仕事は日本と講和条約を結ぶことで、実質的な白紙講和を結んだあとは、日本の支援を得た新ロシア帝国軍がウラル山脈に沿って、ボルシェビキ政権と対峙することになる。開拓村などを中心に以外にも新ロシア帝国の支持者は少なくなかった。
連合帝国西進軍は解散され、その兵力は3年かけて西進してきたシベリアを鉄道で逆戻りして、船に乗って北米大陸に向かった。
なお、秋山元帥やレティ・ホワイトロックは軍事顧問や影の宰相としてロシアに残った。
レティ・ホワイトロック、以外に子供好きだったのかアレクセイ他の皇太子や皇女に何かと頼りにされ、そのままエカテリンブルクに居付いてしまった。彼女の周りには氷系統の妖精達も多く寄り添っていた。
また、遠征したモンゴル人もまたモンゴル高原に帰らず、そのままエカテリンブルクに住み着いている。
また、レティ・ホワイトロックは史上初の共産主義国家、ソビエト連邦を間近で見聞きし、その他に例のない残虐性に最初に気付いた有力妖怪となった。
ボルシェビキ政権は権力を確立すると反革命の名のもとに、ロシア帝国の皇族や貴族、ブルジョワを超法規的に処刑し、戦時共産主義の名のもとに経済テロルが横行してヨーロッパ・ロシアでは数百万人が餓死した。また、徹底的な宗教否定の名のもとに魔法文化を巻き込んで妖怪も何もかもの神秘を全否定するソビエトをレティ・ホワイトロックは終始敵視していた。
もともとツングース藩を東方共和国として独立させる案はあったが、その案を拡大してロシア帝国を傀儡化させるとはだれも予想できなかっただろう。
とにかく、ロシアは2つの国家に分裂して第一次世界大戦を終える。
ヨーロッパ・ロシアのソビエト社会主義共和国連邦とウラル山脈から東に広がるシベリアで再出発した新ロシア帝国(実質的な連合帝国傘下)である。
第一次世界大戦は後3話くらいで終わらせる予定。