ロンドン講和会議が暗礁に乗り出している頃・・・
スンアド(オリンピック)山脈、大樹御料兵と先住民のクイルラユー族に守られて大樹野槌水御神は足を踏み入れた。彼女の周りには先住民諸族のシャーマンたち、そして大樹の補佐をするリリーホワイトやリリーブラックと言った高位妖精たちが追従していた。そしてその様子を見ようと北米諸藩の藩主たちも見守っていた。
シャーマンたちの指示を受け先住民たちが木々を並べて護摩焚きの支度を始めていた。
妖精巫女の一人が藩主たちに説明する。
「この度の儀式は諸尊・善神を召し集めるための鉤召法を用います。」
また、諸部族から捧げられた供物の彩りとして彼岸花が大量に添えられた。
彼岸花は別名雷花とも呼ばれる植物だ。
大樹はアイヌの雷に纏わる宝刀クトネシリカを依り代にして神楽舞を奉納する。
大樹を中心に、ネイティブ系や本国系、アイヌ系と様々な妖精巫女たちが集まり踊り、シャーマンたちが円を描くように座り、楽器を奏で始める。
大樹が謡うのに続いて、妖精巫女と先住民のシャーマンたちが謡う。
『永遠の生命 ワキンヤンよ』
「「「「「「永遠の生命 ワキンヤンよ」」」」」」
大樹を中心に暖かい空気が流れる。
『我が祈りに応えて 今こそ 蘇れ』
「「「「「「悲しき下僕の祈りに応えて 今こそ 蘇れ」」」」」」
大樹の言葉に他の者たちが続いて、謡い続ける。
神事を執り行っている者たちは一種のトランス状態に入っているのが解った。
『ワキンヤンよ 力強き生命を得て 彼らを守れ 平和を守れ』
「「「「「「ワキンヤンよ 力強き生命を得て 我らを守れ 平和を守れ」」」」」」
オーブ状の光が漂い始め、力の弱い精霊たちが引き寄せられてくる。
空気は暖かいを越して熱いほどだ。
北米諸藩藩主の一人羽柴秀紀は不思議と高揚しているのを感じた。それは他の者たちも同様だろう。
『平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である』
「「「「「「平和こそは 永遠に続く 繁栄の道である」」」」」」
大樹の祈りに応えてそれは姿を現した。
「キェエエエエエエエエエエン!!!」
ワキンヤン、巨大な嘴をもち、目は火のように燃え滾っている。羽の色は雷のようであり、当たりに雷鳴が轟いている。
「ワキンヤン!!」
「「「ワキンヤン!!」」」
「「「「「ワキンヤン!!!」」」」」
先住民たちが興奮して歓喜の叫びをあげる。
大樹はつぶやく。
「雷を司りし大精霊ワキンヤン・・・。私に力を御貸しなさい。」
飛び立っていくワキンヤンを見送る大樹はの瞳には強い意志が宿っていた。
舞台はロンドンに戻って、講和会議の場に戻る。
「我が国はこれ以上の譲歩は出来ない。」
全権の織田信邦が憮然とした表情で言い放つ。
「話にならない。戦争再開だな。」
アメリカ代表のロバート・ランシング国務長官は信邦ら日本交渉団を睨みつけた。
イギリス代表のアーサー・バルフォア外相は綱渡り状態で双方の利害を調整しギリギリまで譲歩した。ここまで頑なな日本交渉団に対して不穏な気配を感じていたのだ。
バルフォアの耳に部下から耳打ちが入る。
バルフォアは思わず、日本交渉団を二度見してしまう。この国は何枚切札を持っているんだ。
ランシングにもバルフォアの耳に入った情報が届いた様だ。
「これは先制攻撃か何かかね?」
ランシングの言葉を受けた信邦は鼻で笑って応える。
「我が国は別に貴国に砲弾どころか銃弾一つは放っていないはずだが?」
「ふざけるな!あんなものを見せつけて!!あんなものを見せびらかすのは貴国ぐらいだろう!!」
「ははははは!!合衆国は高々でかい鳥にここまで落ち着きを失くすのか!?だが、これだけは言える。我が国は戦闘を継続する余力が十分にある。」
ニューヨークを旋回する巨大な大鷲の姿。
落ちた雷がニューヨーク・ワールド・ビルディングに直撃し、半壊させた。
大日本合藩連合帝国の背後にいる大樹野槌水御神の力を見せつける形で、講和条約を結んだ。
しかし、米英仏も力尽くには抵抗を見せる。脅しではあったが英仏も戦闘継続の素振りを見せたことで日本交渉団も始めて妥協した。
ロンドン講和条約は締結され以下のようになった。
イギリスは領土賠償として、スマトラ島西半分、ボルネオ北部を得た。また、南天大陸諸藩はオーストラリアと名を変えてイギリスの保護国になった。
アメリカ合衆国は領土賠償として、ハワイ諸島と太平洋中部の島嶼も得た。
フランス、南太平洋の島嶼及び大南島を得た。
結果、パプアニューギニア(大南島)と名を変えた。
また、日本をなだめる為かドイツアジア植民地が譲渡された。
中国疎開領土関係に関して、大日本合藩連合帝国は米英仏との領土は戦前へ戻すものとし、大日本合藩連合帝国の諸藩や連合加盟国は全て独立となった。
大日本合藩連合帝国の実質的解体、有力な海外藩は全て独立した。
呂宋藩は独立して呂宋共和国となった。北米大陸諸藩も各個に独立したが、独立藩同士の連合体である北米阿列藩同盟に改変された。
他に琉球王国・台湾王国・ブルネイ王国・アチェ王国・マギンダナオ王国、スールー王国、阮朝が連合帝国庇護を外れて独立。日本の協力国であるラオス・ルアンパバーン王朝及びチャンパーサック王朝、カンボジア王国、タイ・トンブリー王朝、ビルマ・コンバウン王朝も独立の維持は認められた。大戦中に決起したハワイは鎮圧されているが日本の宗主もしくは準宗主としての維持は見せた形だ。
しかし、合藩連合帝国でなくなった日本は皇国を名乗るようになる。
大日本皇国と呼ばれる国となった。