かつて、人間の勢力が増して幻想郷の社会のバランスが崩れることを憂いた妖怪の賢者・八雲紫は「幻と実体の境界」を張り、妖怪の勢力を他から取り込むことでバランスを保った。
やがて明治時代になると、近代文明の発展とともに非科学的な事象は「迷信」として世の中から排除され始めたのだが、大樹勢力が神秘性の維持もしくは排除行動の減速に成功した為、ずるずると幻想郷と現世の開通状態を維持してしまった。
第一次世界大戦終結後の大樹は再戦に向けて、影響下の妖精妖怪に軍拡を指示し幻想郷にもその御触れが出ていた。しかしながら、先の大戦での妖怪側の犠牲を鑑みた八雲紫は大樹の再戦への意向に反発し、幻想郷と現世を強力な結界(博麗大結界)で完全に切り離し、次の大戦からの足抜けを計った。
この事は幻想郷の一部重鎮しか知りえなかったが、その一人である天魔天狗の配下の大天狗衆の側近天狗から漏れ、大樹の耳に届いたことで発覚。
妖怪軍近代武装工廠を幻想郷に置いていた大樹は八雲紫の実質的な裏切り行為に激怒。
関東大樹大社に幻想郷のもう一人の賢者である秘神摩多羅隠岐奈を呼び出し、摩多羅隠岐奈の関東大樹大社到着と同時に本土に駐留していた西国・中央、東国の3鎮台に動員をかけた。
「大樹様、摩多羅隠岐奈様がご到着しました。」
「鎮台軍に博麗大結界を越えるように命じなさい。それと、風見幽香・伊吹萃香・星熊勇儀と言った有力者は丁重に扱いなさい。」
妖精巫女に次なる命令を託して、隠岐奈を通すように命じる。
「随分と、物々しいな?大樹よ・・・。」
「そうですね。少しばかり切迫していましたのでね。」
大樹は調度品の影に隠していた草薙剣を引き抜いて切先を隠岐奈に向ける。
それと同時に御料兵の妖精たちが乱入して銃口を向ける。
「鎮台の工廠は幻想郷の妖怪の山に置いていることを理解しての行動なのでしょう。こうなることぐらいわかると思うのですが?」
隠岐奈は何も答えなかった。
「何も答えませんか。いいでしょう・・・外のものたちの上位指揮官は?」
「野中四郎大尉です。」
「では、その野中に隠岐奈を引き渡しなさい。あまり意味はないでしょうが足止めにはなるでしょうから、適当に封はしておきなさい。」
「わかりました。」
隠岐奈を一瞥した大樹は妖精巫女に外の兵の指揮官を呼ぶように命じた。
関東大樹大社の敷地内外には陸軍士官が指揮下の兵達が警戒に当たっている。
たなびく旗には『尊神討奸』と書かれていた。
「野中大尉であります!!」
「ご苦労様です。彼女を手近な牢に繋いでおいてください。」
「了解しました!!引っ立て!!」
「大樹・・・そううまくいくかな?」
陸軍兵士達に連行され用としている隠岐奈は吐き捨てる。
「すべてが予定通りとはいかないのは理解しています。ですが、物事には時機と言うものがあるのです。貴女方はその時機を誤った。」
1936年2月26日、妖怪の山において航空銃翼兵である青年天狗たちが決起。
決起当初は大天狗ら主流派によって鎮圧されると考えられていたが、妖怪の山が保有する大結界の穴を決起天狗たちが占拠したことで状況は一変する。
決起天狗たちが占拠した穴より鎮台軍が侵入を果たす。
侵入した鎮台軍は玄武の沢に妖怪城を据え鎮台総軍指令所とした。
玄武の沢や大蝦蟇の池と言った妖怪の山各地は一気に制圧され、最重要目標の工廠地域や河童の支配領域も制圧下に入った。
「たんたん坊様。こちらです・・・」
「おぅ!」
決起天狗に案内されたたんたん坊は天魔天狗に接見する。
「こうして会うのは弘安の役以来か。」
「・・・そうだな。」
「天魔よ。妖怪が現世に留まるには大樹様の下、一つにまとまる必要がある。八雲に付いて逃げに回るなど。天狗の誇りはどうしたと言うのだ。」
「たんたん坊・・・その敵する人間たちは日に日に力を増している。負けるつもりはないが、それで犠牲を出して、その犠牲を持って得たそれは・・・そこまでの価値があるのか?別に八雲の仮初の楽園とて十分ではないか?無意味に犠牲を払う必要があるか?」
「何を腑抜けたことを言う!」
「連中の武器を見たであろう!?否、人間たちの武器を見たであろう!先の月での戦いで玉兎共が使っていたそれにそっくりではないか!!妖怪がいずれ追い抜かれる時代が来るぞ!!仮に今勝てたとしてその次は!?それ又次は!?勝てる保証は無いのだぞ。天狗たちやそれに連なる者たちを預かる身として軽はずみなことは出来ん。」
「天魔・・・腰抜けめ。君側の奸め!!カマイタチ!!天魔を連れて行け!!」
「わかりました!たんたん坊様!」
配下のカマイタチが天魔を連れて行くのを見送りながらたんたん坊は、二口女に指示を出した。
「大樹様を我ら臣下がお支えせねばならぬ時に、あの様な勝手な振る舞いは許されん。八雲の口車に乗った者たちは捕らえて牢に入れよ!沙汰は大樹様のご到着を待て!」
「っは。」
東国鎮台が妖怪の山を制圧し防御を固めたのを機に、西国・中央鎮台軍が周辺へ進出。
中央鎮台は霧の泉を制圧し、魔法の森にも手を伸ばした。
西国鎮台は魔法の森近くの廃洋館を接収し、人里を包囲した。
そして、博麗神社にも天導派の陸軍将校の部隊が突入した。
相沢三郎中佐が率いる天導派士官で構成された一個連隊は博麗神社を制圧し、当代博麗の巫女を拘束した。
「あななたち・・・こんなことをして。」
「大樹様の討勅だ!!反抗は許されん!!」
「待て、安藤君!!大樹様の命令は拘束だ。」
「っは!申し訳ありませんでした!!」
安藤輝三大尉が拳銃を突き付けるのを相沢は制止する。
「八雲を交渉の席に着かせるのに必要と大樹様は仰られている。もうすぐ荒木大将が大樹様をお連れする。皇国軍人として恥ずかしい行いは厳に慎め!」
「っは!」
また、人里を包囲している西国鎮台に橋本欣五郎大佐が率いる部隊が合流した。
「刑部殿!!人里は早期に掌握すべきです。兵を進めましょう!!」
「うむ、人里事態に脅威はないであろう。隊列を組み人里の正面から行進して人里の上役衆に脅しを掛ける!」
人里を包囲していた西国鎮台軍は天導派橋本隊と合流。
武力を見せつける形で人里を無血占領した。
その頃
「例の話、大樹様のお耳に入りましたかな。それは結構な話です。日本妖怪としては当然のことをしたまでです。」
電話の受話器を下ろすぬらりひょんの横で邪骨婆が嗤う。
「計画通りか?ぬらりひょん?しゃしゃしゃ。」
仮想戦記が続きます。日常系に期待してた人はごめんなさい。
ただ、会話シーンは増やして行くつもりです。
第二次世界大戦は短くするつもりです。