大樹野槌水御神宣下にて大樹大社妖怪陸軍の編成と討夷大臣就任を仰せつかった隠神刑部狸は大臣として国内における妖怪密集地である幻想郷で徴兵演説を行った。
「大樹恩顧の同胞諸君!!妖怪同胞諸君!!大樹野槌水御神様が慈愛による庇護の下、我ら日ノ本の国は夷敵に侵されたことは一度としてなく、敗北したこともない!!先の大戦においてもそれは変わらない!!だが、勝てもしなかった・・・。いいか!!お前たち!!今が正念場なのだ!!日ノ本の妖怪が一致団結して戦わねばならん時が来ているのだ!!古き妖怪たちよ。元寇の戦いを思い出せ!!今こそ、大樹野槌水御神様の名の下に日ノ本妖怪の全精力を結集し夷敵を討ち果たすのだ。大樹野槌水御神様の王配総見院信長公の仰った天下布武を成し遂げる!!それこそが真に目指す世界なのだ!!妖怪同胞諸君!!大義の為に大樹様の軍勢に加わるのだぁあ!!」
菊花紋章と大樹紋の描かれた大樹大社大馬印を横に隠神刑部狸は演説を行い、周りには天下布武の将旗や皇国陸軍御国旗、大樹紋の旗指物が立てられていた。
大樹大社大馬印は妖怪社会における錦の御旗であり、戦国期や安土大阪期、日清日露戦争、先の大戦に参加した国内大樹恩顧の妖怪のそのほとんどが集結した。
「「「「「大樹野槌水御神様!!万歳!!万歳!!万々歳!!!」」」」」
隠神刑部狸に続いてたんたん坊も声を上げる。
「怨敵米英仏を夷滅せよ!!大義は我らに!!」
「「「「「夷滅せよ!!夷滅せよ!!夷滅せよ!!大義は我らに!!」」」」」
幻想郷での騒動の翌年1937年2月の大樹大社朝議にて皇国の兵役法の解釈を妖怪にも広げると言う案が西国鎮台長官白蔵主より提案され、これが可決された。原則として皇国妖怪・妖精の全てに兵役の義務を課すものであった。表立った反対意見は無かったが兵役逃れをする妖怪も少なくなく自治の認められた幻想郷やその他隠れ里への逃亡が見受けられた。
また、同年4月には関東鎮台が解体され、徴兵された妖怪と混成され妖怪陸軍として再編成された(極少数はぐわごぜの護衛兵となる)。岩魚坊主や泥田坊、畑怨霊などの雑多な妖怪たちも多く組み込まれた。河童や山童、天狗と言ったメジャーな者たちは航空銃翼兵(天狗)や山童の山岳猟兵、河童による砲兵、銃火器を装備した妖狸の近代化歩兵と符術の兵装化による妖狐の妖術兵と大樹妖怪軍古参集団の近代化が進んでいた。妖怪陸軍の兵も銃装備が進められ歩兵化しつつあった。
妖怪の山の麓に立ち並ぶ工廠群。
河城家を筆頭とした河童の氏族たちと協力して皇国の学者や技術者たちが妖怪軍の兵器群を開発生産して行く。
西国鎮台と御料兵は濃紺色の軍服を採用している。
大礼服を身に着けた討夷大臣隠神刑部狸を筆頭に御料兵団団長梅林、同副団長水楢、西国鎮台の将校である二ツ岩マミゾウや団三郎狸、金長狸、六右衛門狸、屋島禿狸と言った妖怪達が続く。
コンベア式の最新機械を導入した工廠では多くの武器兵器が作り出されていた。
試験場に案内された彼らは河童の兵士が三十八式歩兵銃の改良型妖力銃の試射を行う。
銃弾が標的を貫く。
「大変結構。自動小銃はあるのか?」
刑部が頷いてから次を促した。それに応じたのはこの当時は珍しい女性の研究者である朝倉理香子と機械技師の里香だ。
「もちろんなのです。自動小銃に騎兵銃、狙撃銃と派生型は多く用意しているなのです。」
「うむ、我が西国鎮台や彼女たち御料兵団に充足させることはできるな。」
「えぇ、半年中には…。」
刑部狸から銃を渡された梅林は銃底部に使われている木が桃木であることに気が付く。
「桃木ですか?」
「大樹様の軍ですから神聖な桃木を使うべきかと。」
「良い心掛けです。」
その横にいた二ツ岩マミゾウが奥の方で作られているものに気が付き、それに機械技師の里香が答える。
「あれは…?」
「それは本工廠の切札、華型中戦車とそれを小型化した華型豆戦車なのです。」
第二次世界大戦期において『フラワー戦車』と呼ばれ、ブラッドフラワーなどと忌み嫌われた妖力戦車であった。