大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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120 連合国占領下 大樹体制の崩壊

8月15日、 日本国民へ玉音放送。

 

『朕は時運のおもむくところ、堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び、もって万世のために太平を開かんと欲す。』

 

「妾たちは北国の雪国へ戻ろうとしよう。」

 

雪女郎は疲れたように呟いた。

北国鎮台は武装解除を行い鎮台軍を解体した。

雪女たちの派閥は軍組織としての機能は失ったが、コミュニティとしてのノウハウを維持し北国の一隠れ里として存続することとなる。

 

北国鎮台の援助を受けていたロシア帝国のレティ・ホワイトロックの勢力も後退し、レティ・ホワイトロックはロシア妖怪の強権的な盟主の座を降り大樹経由で主に冬季は幻想郷へ拠点を移すことにした。これは今後予想される妖怪への当たりを考慮し魔法世界人などの排斥主義者を刺激しないための措置でもあった。ただロシア帝国政府は帝国内に留まる様に願ったための折衷案であった。

 

 

「辛い時代が来るぞ。身の振り方を考えねばな。」

 

ぐわごぜは天を仰いだ。

大樹と言う後ろ盾の失墜が見えたことで自身の権威も自動的に失墜することになるだろうことが理解できた。大樹の妖怪社会における政治有力者であったが今後は狙われる側となる。自身の子供を守るためにも暫し身を隠し新たな強い主に付かねばならぬと思い姿を消した。

 

 

 

『朕はここに、国体を護持しえて、忠良なる汝臣民の赤誠に信倚し、常に汝臣民と共にあり、もしそれ情の激するところ、みだりに事端をしげくし、あるいは同胞排擠、互いに時局を乱り、ために大道を誤り、信義を世界に失うがごときは、朕もっともこれを戒む。』

 

東北の山奥ではたんたん坊が石の演台に上って配下の妖怪たちに告げる。

 

「真に気にくわないが、今は耐えるのだ。各々、故郷へ戻り次の機会が巡るまで待つのだ。」

 

「そ、そんな!」「負けたってのか!?」「俺たちはまだ戦える!」「「「そうだそうだ!」」」

 

配下たちから不満の声が上がるがたんたん坊は大声で黙らせる。

 

「黙れぃ!大樹様の言葉だ!!機を待て!機を待つのだ!!時が過ぎるのを待ち世の中が不穏になった時。その時こそ、我々が再び世に出る時だ!!その時まで待つのだ!!」

 

こうして、妖怪たちの多くは不満を抱えたままではあるが夜の世界へ戻るのだった。

織田幕府開闢より四百年、大日本合藩連合帝国、大日本皇国と続いて光りある世界に飛び出た彼らは再び闇の世界に押し戻された。

 

西洋妖怪軍団は新大陸に主な拠点を移し、勢力の回復まで身をひそめることとした。

逆に勢力の回復の兆しが見え始めた中国妖怪は大陸掌握に暗躍し始める。南方妖怪たちはインドネシアやベトナムなどの諸国の独立派と繋がって連合国と争いつつも南方妖怪の存続を模索し始めた。

 

 

 

『よろしく挙国一家、子孫、相伝え、よく神州の不滅を信じ、任重くして道遠きをおもい、総力を将来の建設に傾け、道義を篤(あつ)くし、志操を固くし、誓って国体の精華を発揚し、世界の進運におくれざらんことを期すべし。汝臣民、それよく朕が意を体せよ。』

 

 

「隠神刑部、白蔵主、たんたん坊、雪女郎、ぐわごぜ。軍及び鎮台の解体、ご苦労様でした。」

 

「「「「「っは」」」」」

 

鎮台長官及び同等扱いの五妖怪は恭しく首を垂れる。

 

「皆の者、これまでの忠勤大義でした。此度の戦いに敗れ、妖怪の皆には苦難を招く結果となり誠に申し訳ありませんでした。」

 

首を垂れた彼らの方からすすり泣くような声が聞こえた。

 

「この国を守護する者の長として防人として励んでくれた下々の妖怪たちを守る。これを私の最期の仕事としたく思います。」

 

「「「「「はい。」」」」」

 

大樹より五妖怪に恩寵の品が下賜され、儀礼的な者が進行して行った。

 

 

ロシアより復員船に便乗し日本本土に戻ってきた旧北国鎮台の冷凍妖怪たち、中にはロシア妖怪も紛れていた。

東南アジアや南洋諸国からも復員船に乗って妖怪たちが戻ってきていた。

彼らは暗い面持ちで自分たちの隠れ里に戻っていった。隠蔽性の無い里の妖怪は隠蔽性のある里へ身を隠したりした。中には変化の力を使って人間社会に溶け込もうとした者たちもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

1945年8月30日、幻想郷における最後の大規模幻想入りが行われる。日本本土にいた妖怪の約半分と言われ、その数は千を超えるとも言われているが詳細は不明だ。

幻想郷における正門である博麗神社は境界の中から外に続く大行列であった。

列に並ぶ妖怪妖精たちは一様に顔を伏し、表情は暗かった。

 

そんな彼らを上空から見つめるのは幻想郷最強妖怪とも噂される大妖怪風見幽香であった。

幽香に突く様な言い方で話しかけた八雲紫だったが、彼女の分かりやすい挑発には乗らずに幽香は答えた。

 

「貴女が彼女に付き従えばまた違った結果になったかもしれないわね。」

「私が外で戦ったら、そりゃ大虐殺でしょう。でも、戦争は1対1の指しの勝負ではなくなったわ。私が勝っても、他の幾つもが負けたらそれは負けなのが今の戦争よ。私が戦っても意味がないわ。」

 

紫が少しだけ目を広げて驚いて見せ、今度は目を細めて一言。

 

「風見幽香、貴女・・・丸くなったわね。」

「そう・・・かもしれないわね。それに今そこにいる妖怪や妖精たちはあの子が守ったものなのよ。植物を司る大妖怪として、彼女の意は汲み取ってあげたいのよ。」

 

彼女たちの視界には博麗神社から幻想郷内の各地に散らばっていく妖怪や妖精たちが映っていた。彼らの一部はこちらに気が付いて頭を下げてくるもの達もいた。

 

「大妖怪風見幽香が後見である彼らを表立って負け犬と誹るバカはいないでしょう。」

「そうね。」

 

 

 

 

 

 

霧の湖では大妖精たちが新たにやってきた妖精の同胞たちを歓迎していた。

 

「つらかったね。よく頑張ったね。もう大丈夫だよ。ここはいいところだよ。」

「「「大妖精様・・・うわぁあああん!!」」」「私たち大樹様を・・・大樹様を・・・。」「逃げてしまいました。」

 

氷の剣を振り回しながらチルノが妖精たちに笑って話しかけると、妖精たちはようやく笑顔を見せた。

「悪い奴らは皆、あたいがやっつけてやるよ!!だから皆は安心しな!!」

 

 

 

 

 

「刑部様・・・。」

「構わん、やれ。」

 

敗戦となり大樹野槌水御神の権威に陰りが見え始めていた。

連合国の占領下に入れば大樹野槌水御神の処刑も現実になる可能性もあった。

 

 

妖怪たちの多くは夜の闇や幻想の中に身を隠すことを選んだ。

しかし、大樹恩顧の隠神刑部狸や白蔵主と言った妖怪たちは戦い続けることを選んだ者たちも少なくなかった。本土妖怪の中には日本本土に戻らず南洋諸島や東南アジア諸国に残留する残留妖怪軍が存在したのだった。

 

 

 

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