妖怪皇帝ぬらりひょんの野望は挫かれた。なお妖怪皇帝は自称である。
この蜂起に参加した妖怪の殆どはぬらりひょん派の過激派妖怪であったが、ぐわごぜの配下も加わっていた。それ故にこの蜂起は日本妖怪の最大派閥旧大樹派の一斉蜂起の可能性も秘めていた危険なものであった。
大樹は、これに際してぐわごぜの派閥の解散を命じてお茶を濁す形での幕引きを図った。
実際、主戦力はぬらりひょん派であった。悪魔姉妹と自身の関係には口をつぐんで、自衛隊も破魔組織も歯が立たなかった悪魔を撃退した功績を持ってして幕を引かせることとなった。
この様な形での幕引きが成されねば、旧大樹派の諸勢力は有形無形の弾圧を受けることとなり壊滅してしまう事は容易に想像できた。旧大樹派の一部は中堅国以上の戦力を保有している者たちも多く下手に弾圧すると暴発する恐れもあったのだ。
また、本来ならばこういった事象には魔法世界が介入してきそうなものであったが魔法世界における『大分烈戦争』が終戦して日が浅く、国内と言うよりも魔法世界全体の混乱のため地球世界に介入できなかったことも大きい。
ただ、この行為は旧大樹派においては比較的小派閥であったぐわごぜの派閥とは言え解体させられた事実は旧大樹派の中で衝撃を持って受け入れられた。
桃の園。太平洋某所、暗礁海域に存在する撃沈された戦艦等の残骸を中心に、暗礁海域に漂う様々なジャンクを曳航して建造されたインペリアル・タイジュの軍事拠点である。
「刑部様!!大樹様が!ぐわごぜの旧関東鎮台の解体命令を出しました!!こ、これは!?」
「これは策だ。大樹様の策だ。ぐわごぜの失策の被害が我らに及ばぬようにするためのな」。
動揺する団三郎狸に刑部狸は諫める様に言う。
「幻想郷に侵攻した際に入手した博麗大結界の技術の一部を流用し、人魚族の竜宮同様の隠匿拠点である桃の園。アメリカ・イギリスはおろか魔法使い共にも見つけられまい。」
刑部狸はぐわごぜの組織の解体にはさして興味を示さなかった。
「玄蕃狸、例の件はどうなのだ?かの御方らと接触できたのか?」
「はい。潜伏している先遣隊の一部と接触しています。彼らも警戒しているようであまり進展は・・・。」
玄蕃狸は刑部狸の問いに答えた。それを聞いた刑部狸は落ち着いた声色でなるほどと答えた。そして、刑部狸は少しだけ暗い表情を見せた。
「そうか。ゆっくりでも進んでいるのなら良い。事は慎重に進めねばならん。ところで南洋の連中はどうだ。傀儡政府がちょっかい出して無ければよいが、普段は大人しいがバルル島が関わると一気に火が付く。我々のような大樹様の臣下は足並みを揃えること必定よぉ。」
刑部狸は天井を仰ぎ見て呟く。
「皇軍の装備と艦艇を持ち出して継戦を掲げて40年ばかり・・・。時間が我らの敵になっている。忍耐の時ではあるがこのままでは何もしないで滅んでしまう。我らはそうはならん、40年前に勝利するその日まで武器は下ろさんと誓った。だが、その武器が錆び付き始めている。我々に・・・残された選択肢は少ない・・・。だが成し遂げてみせる。為さねばならぬのだ。」
インペリアル・タイジュの妖怪たちの戦意は未だに高く、非常に精錬された戦力のままであった。
日本国畿内南部某所、妖狐衆。
「旧鎮台の中でぐわごぜの組織が最も小さい。元々の勢力としてもぐわごぜの勢力は生粋の文治派だ。武断派や我らの様な両道派を残すための措置であろう。妖狐衆の幹部たちにもそう言って落ち着かせるように。」
「わかりました。臨時幹部会でそのように発しましょう。ところで、こちらの書類を・・・」
「ん?なになに・・・。」
白蔵主の言葉に宗旦狐はおちついた様子で応じ、妖狐衆の再編計画が書かれた書類を提出した。
中国某所
「首都の官庁街を占領し建国宣言、悪い手ではなかったが、惜しかったがね。首都占領して建国宣言は不確実だ。奴にしてはこじんまりとしている。やるならもっと大規模にやるべきだろう。そんなことより・・・」
ぬらりひょんたちの決起に中国妖怪の首領チーはそう評した。
そして、周りの部下たちを見回してから、今度は不機嫌さと苛立ちを隠そうともしないで正面の人物を睨みつけた。
その男の座る前の執務机には幾つもの生首が並んでいた。
「全く、この紅衛兵の残党はわたしの領地を荒らしまわってくれたぞ。腐って手足は完全に除去しないとこうやって本体の害になる。大体君は3回もそう言った恩情みたいない甘い態度で失脚したではないか。だから、こういったダメな連中は早々に始末しろと言ったはずだ。」
チーの怒りに触れ萎縮した男こそ中華人民共和国最高指導者鄧小平であった。
「も、申し訳ありません。チー様、早急に排除します。」
「それに、愚かな学生どもが言論の自由だ経済の自由化だなんだと騒いでいるがあれも何とかしてほしい。耳触りで喧しい。」
「っは!あぁ言った輩には徹底的に対処しますのでご安心を!」
「徹底的にとはどのような対処なんだ?」
鄧小平の返答に対してチーは疑いの視線を向けつつ問いただす。
「え、警察による徹底的な対応を・・・。」
「相当数のデモが予想されるようだが警察だけで大丈夫なのか?」
冷や汗を流す鄧小平。
「場合によっては、じ、人民解放軍を・・・ど、動員するつもりです。」
最後の方は尻つぼみな声ではあったがチーは納得した様であった。
「それなら安心だ。そうしてくれるならな。わたしも役立たずに甘い汁を吸わせてやるつもりはないのでな。」
チーは部下たちを連れて山西省の本拠に戻って行った。
鄧小平はすぐに受話器を取って各部署に連絡を入れ始める。
「学生たちへの弾圧は徹底的に、穏健派の趙紫陽は邪魔だ。時機に失脚するように仕立てるんだ。山西省の楽園にお住いの御方がそれを望んでいる。意味は・・・わかるな。」
その一方でチーは部下の妖怪に指示を出す。
「鄧小平もそろそろ終いだな。次を決めておくか。それとお前、妖怪反物用の丸薬を作りたいのだが、材料の健康な人間の臓器を集める手立てを用意してくれ。これは急ぎではないが抜かるなよ。」
1989年6月4日天安門の事件より1年程前の話であった。
人間の愚かしさを凝縮したような国、アメリカ合衆国は軍事・経済において世界第一位を誇る国家であった。
その実情は不安定でありケネディ大統領暗殺事件及びアポロ計画が齎した月の都との潜在的な敵対関係、海外大樹残党勢力との終わりのない戦闘。そして、ベトナム戦争以後表面化する厭戦論や人種問題。その後もイラン・イラク戦争と新たな戦争を行っている。
一見アグレッシブに見えるが勢いが止まらなくなっている。アメリカは裏の勢力が日々蔓延っていた。例えば、この西洋妖怪軍団の首領バック・ベアードなどは工業地帯のスモッグや発電所の電力を力に変えるすべを得て妖怪としての力をさらに増していたし、魔法世界特にメガロメセンブリアの勢力は既存の先住民系の裏勢力が戦後壊滅していることもあり魔法学校の創設や民兵組織を置くなど幅を利かせていた。また、裏深くまで掘り下げなくても右派左派カルトのミリシア(非正規軍)が存在する時点でカオスが伺える。
通信機を用いて隠神刑部狸と連絡を取るベアード。
「刑部殿、別に貴殿と争う気はない。鬼界ヶ島までの航路上の保証をしてくれればいい。さすがに超弩級戦艦と戦う気はない。」
通信機の向こう側では刑部が渋っているのが解る。
「もちろん、貴殿に損するようなことはない。さとりは我が娘で大樹様の孫娘、さとりを前妖怪の頂点に据えるのはおかしな話ではないだろう?無論、大樹様をお助けする際には貴殿らに兵を貸すつもりだし、陽動もしてやるつもりだ。」
交渉は難航してるが進んでいるようで少しは進展しているのが伺える。
「いや、鬼界ヶ島のあれに関しての危惧はわかるが、不適切な存在が手にしてしまうよりは我々の誰かが手にしてしまった方がいいに決まっているではないか。私やさとりが不適切とでもいうのかね。」
「ふむ、ははっ。そうか・・・それならよいのだ。この礼は何れ・・・。」
暫く交渉が続きベアードの満足いく結果が得られたようで通信が切れる。
「どうだったのです?ベアード様?」
ベアードの横で秘書官然として控えていたカミーラが尋ねる。
「ふむ、インペリアル・タイジュは黙認してくれるそうだ。ただ、彼らの互助関係勢力の南洋妖怪には手を出すなと言われたよ。それと、さとりの旧地獄管理者就任の祝いの言葉ももらった。とにかく、鬼界ヶ島への道すがらの邪魔者はいない。兵力を集めよ。」
ベアードは旧大樹勢力に一定の気遣いと警戒はしていたものの、鬼界ヶ島に眠る地獄の鍵を手に入れようと硬軟様々な手段を用いて行動を始めていた。(西洋妖怪軍団と旧大樹勢力は旧同盟勢力。大樹政権崩壊と共に同盟関係は事実上白紙化しているが、一定の交渉窓口を維持する程度には友好的。)また、ベアードは初代ドラキュラ公爵に密命を託し、地獄の門を開けようとしていた。また、その工作によって古明地さとりが地獄から切り離された旧地獄地域の管理者に着き、ベアードは着々と計画を進めていた。
旧大樹派の残党や海外の妖怪勢力の多くは冷静に受け止めて対処したが、一部の暴走は止められなかった。
暴走や瓦解が起こったのは旧東国鎮台たんたん坊の治める派閥であった。
血の気の多く、攻撃的な妖怪が多かった東国鎮台ではたんたん坊が抑止に動いたが、一部が暴発してしまう。
東国鎮台のたんたん坊が鎮台の精力を傾けて建設した妖怪城。その妖怪城の試作版ともいえる小妖怪城、あるいは妖怪砦を配下の一人であった目目連が乗っ取りそのまま、ぬらりひょんに寝返ったのだ。