翌日、私は碧奧蘭蒂の上に立って大樹野椎水御神としての威を見せつけるため。わざと堂々と茅野より諏訪へ向けて進みだす。
八坂刀売神率いる大和朝廷軍は多大な損害を出しながらも塩尻峠を越え諏訪湖外苑部に至り、諏訪子を挟み撃ちにする動きを取っている。
大和朝廷軍も大樹の軍勢も質より量と言わんばかりの兵力を洩矢の国に差し向けていた。
大和朝廷軍と洩矢の国の兵力差は10倍以上、大樹の国も単純な兵力差はそれ以上であった。
大和・大樹の連合軍を合わせれば30倍近い兵力差となる。
これだけの差があってこれほどの時間を掛けたのは、洩矢方の地の利のみならずミシャグジたちの容貌魁偉にして、常人を遥かに超える膂力、戦闘技能にあった。
そんな彼らでも流石に30倍の兵力は退ける力は無かった。
時間が経つにつれ連合軍は洩矢の軍勢を湖畔の際まで追い詰めていた。
私はバトンを振り下ろし最後の総攻めを命じようとしていた。
その時、合流した大和側の長である八坂刀売神より、ある申し出を受ける。
「洩矢の民に極力被害が出ない様に、一騎打ちで片を付けたい。」
・・・そう・・・ですか・・・では、私が・・・
「いえ、摂政たる大樹野椎水御神が・・・そのようなことをするべきではありません。この軍神である八坂刀売神にお任せいただければ。」
豊穣神である自分が行くよりは、良いのでしょうが・・・。
「ケジメとでもお考えですか?自分のお立場を御理解頂ければ誰が一騎討ちに打って出れば良いかお判りでしょう。貴殿はこの後も大和の摂政として、やって頂かなければならぬことがございます。お立場をお判りいただけますでしょう。」
ままならぬものですね。
わかりました・・・八坂刀売神・・・、大和の為・・・諏訪子を、いえ洩矢諏訪ノ神を・・・討ちなさい。
諏訪湖の上空で洩矢諏訪子と八坂刀売神は戦った。
諏訪子は鉄の輪を両手に持ち、次々と八坂刀売神へと投擲するが、それを何処からか取り出した御柱を振り回して弾くと、諏訪子に向けて全力で投げつけた。
「なかなかやるね、八坂神奈子!」
「まだまだ、こんなものじゃないよ!」
私がそこにいられた未来もあったと言うのに・・・
今の自分の立場を考えれば、親しい相手でも略名は使えない。
諏訪子が御柱を回避したところに八坂刀売神は御柱を何本も投げつける。それを諏訪子は柔軟な体の捻りで回避すると鉄の輪を持って一気に接近するとそのまま振りかぶり、切り付ける。これが若さか・・・
「あまい!」
八坂刀売神は御柱で防ぐと左手を諏訪子の持つ鉄の輪に向ける。すると、みるみる鉄の輪は錆び付き、崩れ落ちてしまった。
「…チッ!」
諏訪子はすぐにその場を離れて新しい鉄の輪を作りだした。
力は互角、しかし若干諏訪子が不利なようである。
「はんっ!口ほどにもないねぇ…小さいからって逃げてるだけかい!?」
「そっちこそ、やたらとデカイ柱ばかり振り回してるけど全然当てられないじゃないか!」
言葉による挑発で相手を刺激してミスを誘う。これも戦いにおける戦略の一つなのだが…
「ふ…ふふ…言ってくれるじゃないか、この幼女が!」
「ふふ…その幼女より年下のくせに随分と老けて見えるけどねぇ?」
挑発の内容が段々と幼稚になっている気がするが・・・まぁ、それは置いておくとして・・・
諏訪子は八坂刀売神の振り回した御柱の直撃を受けてノックアウト……
諏訪大戦は大和朝廷の勝利で終わったわけである。
その後は原作通りに表向きは神奈子だが本当の祭神は諏訪子であるという形になり、和解した私達は夜中に三人で酒をのんでいる。
しかしながら、私は諏訪子への引け目から話しかけることが出来なかった。
諏訪子は私の耳を両方とも引っ張ってきた。
「な~に、しみったれた顔してんの!」
どうして・・・。
「あ~もう!あんたってやつは!自分の子供のためにやったんでしょう!だいたい、あんた!わたしにも洩矢の血を継ぐ巫女がいる事を忘れちゃいないかね?」
あ、たしかに・・・いや、でも・・・
スッ・・・スパぁ・・・鉄輪が私の方を掠る。
「わたしがいいって言ってんだから・・・イインダヨ・・・ワカッタ?」
はっはひぃいいいい!!
「あははははは!!仲がいいね!あんたたち!!あと、私の事は神奈子でいいからね。」
さすが祟り神の諏訪子だよ~こわい~。
それと八坂刀売神・・・じゃなくて神奈子、諏訪子と仲が良いのは認めるけど。これを見てそう思うのはどうなんだろう?
まぁ、今は和解できたことを喜ばないとね。
よーし!飲むぞ~!