大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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150 平成 鬼界ヶ島の紅い霧

2003年現在、ぬらりひょん含め日本妖怪の組織的な紛争あるいは暴動は発生していない。

昭和の末に皇宮襲撃まで行ったぬらりひょんの勢力も、今はちまちまと社会の混乱を誘発させるだけであった。

 

また、三種の神器事件という大失態をしてしまった関東魔法協会と関西呪術協会に対してこの勢力の仲違いを日本政府のテコ入れで無理矢理に表面上は成し遂げて、国内の不穏な妖怪たちに向けさせることに成功したことも挙げられる。

 

今なお、日本政府は公式には妖怪の存在を否定しているが現場の自衛隊や警察にとって、その存在は暗黙の了解だ。

 

もちろん妖怪の融和派穏健派の鬼太郎たちゲゲゲの森の妖怪たちの存在も大きい。

逆に大樹は政治的な介入をすることが全くなくなり、国内での彼女の権威は形骸化しつつあった。ただし、刑部狸などの大樹恩顧の妖怪たちにとってはいまだに彼女は奉じ奉る存在であった。

 

また、幻想郷も危ういバランスの上で成り立っていた。

戦後、八雲紫は外の世界との関係を完全に断ち切る気でいたが幻想郷内の大派閥である天狗の派閥が外の世界への未練を断ち切れずに外の世界につながる道を維持し続け、八雲紫もそれを容認した。また、思いのほか博麗大結界の穴も多く自身や式神の蘭で日夜継ぎ接ぎ修理をしている状態であった。

 

そういった隙もあってか魔界や夢幻界の介入を許し、2003年下半期には西洋妖怪の幹部の一人であるレミリア・スカーレットに霧の泉の一部を割譲し別荘地を構えさせることにもなってしまっている。ただ、西洋妖怪の前線基地になるのは八雲紫の許容外でもあったので本当に別荘地として使用している様だ。

 

 

さらにその年の、西洋妖怪軍団による鬼界ヶ島攻めは熾烈を極めた。

 

西洋妖怪の吸血鬼派閥ナンバー2を巡る内部争いが発生し、紆余曲折を経て先代ナンバー2の娘であるレミリアに内定したのだが、その実績作りとしていくつかの功績づくりが行われ鬼界ヶ島攻めが企画されたのだ。ちなみに幻想郷での一件も実績作りである。

 

 

 

 

レミリア・スカーレットは今回の鬼界ヶ島攻めの司令官に就任、妹フランドールの面倒があるのでパチュリー・ノーレッジと十六夜咲夜を幻想郷に残し、紅美鈴と小悪魔そして、ゴブリンどもやメイド妖精たちを直掩戦力とした。

 

また、自身の軍師参謀役でもあったパチュリーを連れて来れず小悪魔では少し心もとなかったこともあり、軍師参謀役に西洋妖怪軍団からカミーラを充てると、人間の従者を連れている共通性からそれなりに親しいラ・セーヌや元西洋妖怪軍団駐日大使のエリートにを招聘したようだった。

 

「この度は侯爵位継承おめでとうございます。」

「あぁ、そういうのはいい。本題を進めてくれるかしら?」

 

レミリアは尊大な態度とともにカミーラを促した。

 

「そうですか。では、早速ですがこれを・・・ベアード様よりですわ。」

 

レミリアはカミーラから受け取ったベアードからの手紙を一読。

 

「ブリガドーンか。100年くらい前に概念実証をして、それきりだったが完成したのか。」

「魔女たちの一子相伝の魔術の情報はなかなか出回らないので詳しいことはわかりませんが、完成したと聞いています。」

 

あまり、はっきりとしてない返事にレミリアは少し嫌そうにして応じる。

 

「プロトタイプとかの実証実験に付き合わされるのは嫌なのだが?」

 

レミリアは幹部陣の列にいるアルカナ家の魔女に視線を向ける。

 

「ご心配には及びません。ブリガドーンは確実に機能しますので…。」

 

全く、自分が死ぬというのに眉ひとつ動かさんとは肝が据わっているな。

レミリアは感心してか。「期待している。」とだけ返した。

 

自身のゴブリンやメイド妖精に加え下級吸血鬼、下級人狼に吸血蝙蝠、魔犬、デュラハン等、着々と西洋妖怪の集団が集結しつつある中で、視界の脇に写る艦船を目で指し示す。

 

 

「ところであれは?日本の海軍か?」

 

「あれは、日本の沿岸警備隊の船です。鬼界ヶ島の我々の戦いを時折遠巻きに見ているだけの取るに足らない存在ですわ。」

「正確には海上保安庁と言いまして、装備は機銃程度ですのでカミーラ様がおっしゃるように気にする必要はないでしょう。過去の例を見ましても彼らやその上の自衛隊が介入した例はありませんので…。」

 

カミーラの回答に被せて補足を加えたのは吸血鬼エリート。第二次世界大戦までは同盟関係にあった大樹勢力に対する駐日大使として日本に長く住んでいたこともあり説明は詳しい。大樹勢力の瓦解により正式な同盟関係は失われたが、旧大樹派残党勢力と話を詰めて彼らの鬼界ヶ島に対する介入がないのはエリートの功績だったりする。そのエリートも長らく日本から離れていたが平成に入って日本でのロビー活動を再開させたという。

 

「人間ごときが私を脅かすとでも?」

「し、失礼しました。そのような意味では!?」

 

レミリアが不機嫌になったのを察したエリートは慌てて謝罪する。

 

「まぁ良い。お前は、この場を離れて外交活動を継続しとくといい。」

「は、はい。」

 

エリートはそそくさと戦列から離れていく。

 

日本(幻想郷)に拠点を置くレミリアと同じ方向に去っていくところから、エリートは日本でのロビー活動を行っているのがレミリアには理解できた。

 

「さて、私も場を整えるとしようか。」

 

レミリアはパチュリーから預かった魔法の込めてある小瓶を開き空に撒くと眼前に見える鬼界ヶ島に指をやり掻き回すような仕草をする。すると、紅い霧が発生しだし鬼界ヶ島を包み込み始めた。

 

 

 

「では、私はブリガドーンの発動をさせるように魔女の方に指示を出してきます。」

 

カミーラはその場を後にする。

 

紅い霧の向こうで紫雲が発生し鬼界ヶ島のみならず周辺の島々をも飲み込んだ。

 

「ほぅ…すごいな。ブリガドーン、これはなかなか・・・。」

 

西洋妖怪軍団を監視していた海上保安庁の巡視船が舵を失いふらふらと航行している。

 

鬼界ヶ島や周辺群島では元の住人たちが奴隷妖怪になってしまった。

鬼界ヶ島では元人間の奴隷妖怪がアマミ一族を襲撃していた。

 

「おや、これは私が手を出さずとも勝ってしまうのでは?」

「そろそろです。お嬢様。」

 

レミリアの横に控えた紅美鈴が声をかける。

美鈴の指示した先にはいくつもの筏で鬼界ヶ島に上陸していく日本妖怪たち。鬼太郎たちだった。

 

 

 

 

「な、こ、これは。」

「酷い。」

 

そこに住んでいた人間たちは妖怪奴隷へと姿を変えていた。

鬼太郎たちは、その惨状に衝撃を受けた。

 

「アマミ一族の皆はまだ無事のはず。せめて彼らだけでも助けてやらねば。」

 

目玉おやじの言葉に頷いて、鬼界ヶ島のアマミ一族の里を目指すのでした。

 

 

 

 

鬼太郎たちを見つけたレミリアは面白いものを見つけたと哂ってラ・セーヌに指示を出す。

 

「霊夢みたいに、面白そうな奴がいるじゃないか。おい、ラ・セーヌ。兵隊をけしかけてみろ。」

「っは。ゾンビとグールどもを前に!蝙蝠どももけしかけさせろ!」

 

 

西洋妖怪軍団の雑兵たちの襲撃を凌ぎつつアマミ一族の里を目指す。

 

 

「鬼太郎!こっちは任せろ!」

「蒼兄さん!わかりました!」

 

 

鬼太郎たちはゾンビやグールを蹴散らして見せる。

それに続く人狼軍団やほかの妖怪たちも蹴散らす。

 

「これだけの人間どもをあの世にやったんだ、功績としては十分だろう。ラ・セーヌ、この場の指揮はお前がやれ。ブリガドーンも十分な成果が出ただろう鬼界ヶ島以外の奴隷妖怪を回収すればじゅうぶんだろう。カミーラ、貴様もそこから先を求めてはいないのだろう?」

「えぇ、まぁ。」

 

レミリアの問いにカミーラは困り顔をして返す。

 

カミーラは西洋妖怪軍団の吸血鬼派閥に属するのだが、初代ドラキュラ公爵を頂点とする派閥のピラミッドから外れ、バック・ベアードの側近衆に属する立場であった。

ちなみにレミリアは父ギュスターヴが初代ドラキュラ公の最側近と言うこともあって、初代ドラキュラ公爵の派閥の実質上のナンバー2だ。

 

「妹みたいな言いようではあるが、私はあれと遊んでみたいんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

紅い光の雨が降り注ぐ。

 

「うわぁ!?」

「避けろ鬼太郎!」

 

 

「お前がこいつらの親玉か?」

「正式にはベアード様だが…まぁ、似たようなものだ。それと貴様の相手は私の部下がお相手しよう。」

 

 

蒼坊主の問いにレミリアは応じるが本命は鬼太郎なのだ。

蒼坊主に美鈴が手首をくいとやって挑発する。

 

「お嬢様のご命令だ。相手になってやる。」

「おっと、そいつは光栄だね!俺は結構手ごわいぞ!」

 

 

 

 

 

 

「たいして月も紅くなし、軽く遊んであげるわよ。」

 

「鬼太郎!気を付けるんじゃ!奴は吸血鬼の貴族じゃぞ!」

「はい!父さん!」

 

鬼太郎たちを見て、嬉しそうにレミリアは哂う。

 

「ふふ、幻想郷では弾幕ごっこが主流だから、こうしてやり合うのも楽しいものよ。」

 

 

 

レミリアと鬼太郎の戦いは拮抗する。

レミリアの方が手加減している感はあるが…。

西洋妖怪軍団の雑兵の数が少なくなって来たのでレミリアは終いと言わんばかりに手をパンパンと打ち鳴らす。

 

「っく、強い!」

「あなた、なかなか見どころがあるわよ。」

「お前なんかに言われても…!!」

 

悲しいわ。と、までは言わないが連れないじゃないかとお道化て見せるレミリア。

 

「あー、一応言っておくがこの惨状の主犯は私じゃない。ベアード様だからな。お前みたいな見どころのある奴を殺すのは惜しいし、私と遊んでくれたお礼にここは引いてあげましょう。私もこの戦争の矢面に立つ気はないのよ。いい別荘を手に入れたし別荘を本宅にしたいのよ。」

 

レミリアとの空気と言うかノリの違いに鬼太郎は困惑する。

 

「殺伐とした世の中を生きるより、楽しい幻想世界を謳歌するのも悪くはないものよ。」

「は、はぁ…。」

 

困惑している鬼太郎に代わって目玉おやじが話しかける。

 

「では、スカーレット殿は儂らとは敵対しないのじゃな?」

「そう言うわけにはいかないでしょう?私も派閥の関係やビジネスライクな関係ってものがあるのよ。紅魔のお嬢様はファニーウォーがお望みよ。それと、さっさと行ってあげたら?アマミ一族ってあなたの近縁種なんでしょ?」

 

 

レミリアは一方的にそう言い放って西洋妖怪軍団の手勢の撤退を開始し始めた。

 

 

その帰りの道中。

 

「スカーレット侯爵、先ほどの物言いはベアード様に対する翻意とも取れますが?」

 

カミーラの言葉にレミリア、こともなげに返答する。

 

「ベアード様とて吸血鬼派閥の私が鬼界ヶ島を取るよりも子飼いの幹部かプリンセスの手柄にしたいでしょう?私はアシストに回るのよ。今回の戦いで日本妖怪もだいぶ参ったでしょうし、日本政府も手を叩かれてもっと静かになるんじゃないかしら?」

 

レミリアは座礁した巡視船に視線をやる。

破魔勢力は分らんが、腰砕けの日本政府は自分の耳目を塞ぐでしょう。

 

「ふふふ、幻想郷に拠点も作ったし、こうして仕事もしたのよ。ベアード様もご理解くださるわ。知ってる?幻想郷にも地獄につながる旧地獄ってのがあって、旧地獄ってのがプリンセスが領有してる地獄なのよ。姉友のプリンセスを手伝ってあげようっていう。麗しき友愛ってのをベアード様もご理解くださるわよ。」

 

レミリアを問い詰めるのを諦めたカミーラは黙って西洋妖怪軍団の本体を連れて去っていったのでした。

 

 

 


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