大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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166 平成 京都修学旅行②

 

 

「目が回る~」

「うぃ~ひっく~」

 

 

私やネギくんが異変に気付いたころには、3-Aのほとんどの生徒が前後不覚の状態で酔い潰れていた。 

 

「な、何が起きたの!?」

 

 

 何が起きたかわからずパニックになりかけたネギくんだが、後ろから慌てて走ってきた人物に声をかけられて、少しだけ冷静さを取り戻す事が出来た。

 

 

 

「ああ、ネギ先生に大樹先生丁度良いところに」

「あら新田先生、この状況はどういうことなのでしょうか?私たち、最後尾の引率で今追いついたところで・・・。」

 

 よほど急いでいたのだろう。後ろの方で生徒たちを見ていたはずの新田教諭が、額に汗を光らせ肩を震わせたまま立ち止まる。

 

「どうやら……お二人はまだお知りではないようですね。観光客に対する悪質な悪戯で、酒が滝に混ぜられていたと。それを生徒たちが誤って飲んでしまい、倒れてしまったそうです。大樹先生、私は事態を把握してから警察に……届け出をしますので、酒を誤飲してしまった生徒を旅館に連れて行き、休ませてあげてください」

 

「は、はい」

 

 新田教諭は私たちにそう告げて、呼吸が落ち着く間もなくふらふらと倒れた生徒たちの元へ走って行った。

 

 

私たちは酔った生徒たちをホテルまで連れて帰り介抱した。

幸い急性アルコール中毒などの重症者はおらず、少し休めば回復する程度だった。

 

関西呪術協会の妨害は正直大したものではない。新幹線にカエルをばらまく、音羽の滝に酒を混ぜるなどのDQNの悪戯程度のものだ。昭和には寝台特急をトレインジャックして爆弾を仕掛けた自衛隊のクーデター未遂事件や皇居敷地内で激しい戦闘をした事件を見聞きした身としては、その程度かと言ったところ。

 

子どもなネギくんにはちょうどいい試練なのかもしれない。

逆に関西呪術協会は融和派敵対派ともに大丈夫なのかと言いたくなるほどに拙い気がする。

音羽の滝を所管する清水寺は北法相宗に属するが、清水寺はその経緯が複雑で宗旨は、当初は法相宗で、平安時代中期からは真言宗を兼宗していた。明治時代初期に一時真言宗醍醐派に属するが、1885年に法相宗に復し、1965年に独立した。つまり清水寺は法相宗と真言宗に深いつながりを持っている。そんなところで関西呪術協会の人間が問題を起こせば法相宗と真言宗は間違いなく激怒する。表の意味合いでも観光名所での不祥事は京都府も不快感を示すだろう。特に真言宗は命蓮寺の件以来、関西呪術協会と天台宗にはいい感情を持っていないし、そのバックの妖狐衆も何かしらの動きをするだろう。京都と言う地域は魑魅魍魎跋扈する魔境と言われているが、政治的にも魔境なのだ。

 

そのあたり、今の関西呪術協会の政治力はお粗末なものに成り下がっているのが容易に想像できる。そうでなければ、政治下手な近衛詠春が長に等なれないだろう。

 

嵐山ホテルの窓から見える京都の街並みを見ていると、小さな影が見える。

 

「あれは・・・ゲゲゲの鬼太郎。」

 

何やら嫌な胸騒ぎを感じる大樹であった。

 

 

 

 


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