大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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168 平成 京都修学旅行④

修学旅行2日目。

生徒たちは各々で計画した京都の名所で観光を楽しんでいた。

 

綾瀬夕映の5班もその中の一つであった。

5班はネギが合流することになった。本当はこれに親友の宮崎のどかのネギ先生への好意を応援してくれると言った大樹先生を誘って協力してもらうつもりだったのだが、彼女は私用で別行動をとることになっていた。

 

夕映は残念に思いながらも気持ちを切り替え、班の仲間たちと京都の名所を回ったのだった。

 

そんな時であった。

 

大徳寺の境内で喪服姿の大樹先生を見つけたのは・・・。

他の班員と別れてトイレに立ち寄った彼女は大樹先生を見つけた。

声をかけても良かったのだが、彼女の服装と悲し気な雰囲気を感じて思わず隠れてしまう。

 

夕映は、こっそりと付いていこうとしたがその途中の総見院前で、「今はここには入れませんよ。」と僧侶に阻まれてしまうのでした。

 

夕映はどうしてか引っかかる思いを感じ、メールで他の班員に後から合流する旨を伝えて、総見院の前で大樹先生を待ち伏せることに。

 

しばらくして、門から出てくる大樹先生を見つけた夕映は声をかけたのだが・・・。

 

「水御先生っ・・・・・・?な、泣いているですか?」

 

急に声をかけられた大樹は取り乱しつつも、それに応じた。

 

「え、あっ綾瀬さん!?」

 

大樹は動揺しつつも、夕映と近くのベンチに座った。

 

「なんだか恥ずかしいですね。家族の菩提で泣いている姿を見られるなんて…。」

 

居心地悪そうにしている夕映に気を使ったつもりであったが大樹は失言をしてしまう。

 

「いけませんね。まだ孫たちは生きてるのに…。」

 

夕映はバカレンジャーのブラックと呼ばれているが、実は頭が非常に切れる才女である。

ゆえに彼女は大樹の言葉の裏にあるものに気が付いてしまう。

 

孫は生きている。

つまり、自己紹介の時に話していた夫や3人の子供たちはもう・・・。

夕映が自身の失言を機敏に察したことに気が付いた大樹は機転を利かせ言葉を紡いだ。

 

「夫も子供たちも死んでしまいましたが、私は幸せなんですよ。孫たちも優しいいい子ですし、今は皆さんのような可愛い生徒たちもいます。悲しんでなんていられませんよね。」

 

夕映ともぎこちないながらも会話する程度には立て直し、タクシーを拾って奈良公園で5班のメンバーと合流した。大樹は奈良公園で夕映を下ろすとそのままタクシーで別の場所へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

夕映と別れた大樹は伏見稲荷大社でタクシーを降りた。

 

降りた先には旧中央鎮台の長官である大妖狐白蔵主と上位の妖狐たちが神官服を着て出迎えた。

 

大樹は黙って歩を進めると、妖狐たちもそれに続いた。

稲荷山中腹の千本鳥居を歩きながら、やっと大樹は口を開いた。

 

「白蔵主・・・久しいですね。」

「はい、大樹様。」

 

「さすがは洛外洛中と言ったところでしょうか。ずいぶんと騒がしい・・・」。

「異界の夷人どもが、派手に乱してくれてますので。」

 

「あなた方が何をしようと私は一度身を引いたのです。口出しはしませんが・・・。」

「大樹様が安土にいた頃が懐かしいですなぁ。あの頃に戻れたらと・・・今でも思います。そう思う者たちは少なくない。いや、多いのではないでしょうか。」

 

白蔵主は千本鳥居の間から差し込む陽光を見て、眩しそうにしながら続ける。

 

「鎌倉の源頼朝に北条時宗、安土に幕府を開いた織田信長。常に世の中を動かしてきたのは、一握りの敬虔な、妖怪と人の橋渡しを出来る者たちでした。今の世はどうでしょう。」

 

白蔵主はバカ騒ぎをしている修学旅行生や観光客たちを冷ややかに見つめる。

 

「愚者で溢れかえっている。凡人であればまだよかった。平凡あらば純真だ。愚者ではだめです。こちらの足を引っ張り、おのれの欲望に忠実で際限なく、この国を・・・現世(ううつよ)を食い尽くす。」

 

「人間の中にその橋渡し役が・・・導き手が現れない以上。人も妖怪も、より良く導かれねばならんと思うのです。指導する絶対者が必要だ。例えば大樹様・・・貴女のような・・・。」

「白蔵主、冗談はよしなさい。」

 

大樹はそのようにあしらったが、白蔵主が冗談で言っていないことは解っていた。

 

「400年前、闇の住人だった我々を日の当たる世界に引き上げてくださったのは貴女ですよ。大樹様・・・、我々にはあの世界は実に甘美なものでした。あの戦争に敗れ失って、初めて思い知らされましたよ。我々はあの世界に戻りたい・・・。ぬらりひょんが何やらよからぬことを企んでいるのは把握しています。ですが・・・」

 

大樹は白蔵主から憂いや悲しみの感情を感じた。そして、その感情が次の言葉と同時に怒りと憎しみに変わったのも感じた。

 

「だからこそ、異世界人とそれに迎合した連中を・・・、我々をあの暗く冷たい世界に押し込めようとするあいつ等を許すことはできない。」

「白蔵主?」

 

 

「・・・あの暖かい世界に戻る。・・・我々がそれを望み、行動する。当然のこと、何もおかしいことはありゃあしない。ですので、これから先の事は大樹様には預かり知らぬ事。・・・申し訳ございません。」

 

そう言って白蔵主たちがなんの幻術か知らないが霧の様に掻き消えてしまった。

大樹は慌てて、白蔵主を捕えようとしたが伏見稲荷大社は妖狐たちのテリトリー。

白蔵主を中心とした妖狐たちは一斉に掻き消えるのだった。

 

「いったい何をするつもりなの・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

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