大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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170 平成 星蓮船の変

「大樹様が、この京にいらっしゃいます。この機を逃す手はない。今こそ白蓮を救い出す時です!」

 

信貴山の命蓮寺の跡地。

旗下の妖怪たちに号令を出しているのは毘沙門天の代理を称する虎の妖怪、寅丸星。

 

彼女の両脇には、妖怪鼠のナズーリン。舟幽霊の村紗水蜜、妖怪入道の雲山がいた。

この世界線において、彼女たちの味方は少なくなく。南紀を領する大樹恩顧の大妖狐白蔵主、さらには真言宗の諸派をまとめ上げた尼僧雲居一輪の姿もあった。

 

この雲居一輪は聖白蓮の弟子であり白蓮同様に魔法の術によって老いから逃れた存在であり、終戦時の真言宗がGHQを中心とする敵対者から守り抜いた権威であった。

 

そして、号令の演説は寅丸星から雲居一輪に引き継がれる。

 

「大樹様が抑され、心ある者たちの力が失われた今のような末法の時代。聖白蓮のような誠に清廉なる者が必要なのだ。今こそ、われら真言宗の総力を結集し、聖人復活を成し遂げるのです!!」

 

「「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

南紀の妖怪と真言宗僧兵の連合軍はついに決起したのだ。

 

裏世界において京都事変と並んで有名な星蓮船の変の始まりである。

 

 

南紀州、現在の和歌山県は畿内において安土大阪時代より大樹の権威が非常に強い土地柄であった。この地域には大樹野槌水御神とつながりが深い秋比売神姉妹を祀る秋大社があり、熊野三山を例に神社衆は軒並み大樹礼賛であった。戦後の大樹否定の時代においても隠れて礼賛を続けるほどであった。

 

そんな大樹と縁の深い聖白蓮の復活に神社衆は協力を惜しまず。形骸化しつつある兵力ではあった数少ない巫術師たちを提供した。

さらに天台宗攻めにはもう一つの武力組織が参戦した。

紀州織田家、この世界において明治維新による討幕が起きなかった副産物であり現代においてすっかりその勢いは失われていたが、それでも今に残る士族たちであった。彼らは丁髷を結っているわけでもないし、和装でもなく洋服やスーツの上に鎧を着ており、専業の武士ではなく、リーマンや自営業者の兼業者ではあったが滅私奉公の精神で今も大名家に仕える現代の武士たちであった。

 

ここで、現在の武士の立ち位置を解説する。現在の武士は名誉職の一種で、消防団の警察バージョンのような存在だ。とは言え、彼らも銃刀法の影響下にあり帯刀などしていないし、日本刀を所有している割合もそう多くない竹光侍の集団に成り下がっている。武士の年俸も侍大将ですら10万いかない程度であり、酷いところだとお米券なんて家もある。ちなみに上杉家はいまだにお米の現物支給だ。それゆえに士族を離脱するものは少なくなく年々減少傾向にある。世間一般からも田舎の金持ちの私兵と言う印象が強く、滅びゆく存在であった。

 

この日の和歌山県は戦国時代もかくやの状態であった。

県議会は紀州織田家の影響下議員が与党第一党の独裁状態にあり、県より県警及び所轄へ尋常ではない圧力が加えられ開店休業状態だったし、一般人も紀州織田家を第一党にするあたり信心深さが伺えるだろう。家から一歩も出ないし、商店街はシャッターを下ろしたままだ。

 

善福寺や長保寺には連合軍の僧兵や士族らが丸太の破城槌で山門を破壊しようと殺到していた。天台宗寺院への襲撃の傍らで、信貴山の寅丸星たちは聖白蓮の復活の儀式を進めていた。

 

 

「白蓮大僧正の復活と同時に奈良へ!!そして京都へ!!上洛を果たすのです!!魔法使いの傀儡どもを引きずり下ろし、畿内の清浄を取り戻すのです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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