大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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171 平成 京都修学旅行⑥

和歌山の事態は関西呪術協会にも伝わってはいたが、和歌山の支部は壊滅し、周辺県も寺社衆諸派の実働部隊が各自展開しており、下手に関西呪術協会が動けば偶発的な交戦もあり得る。それが西日本全体に飛び火しかねないこともあり、関西呪術協会は動けずにいた。また京都の総本山自体も天ヶ崎千草の行動によって鈍化していたことも挙げられた。

また、妖怪たちも陵墓襲撃や和歌山の事態のこともあって気が立っていた。

 

 

修学旅行3日目。完全自由行動日。

大樹はネギが明日菜と関西呪術協会の総本山へ親書を届けに行ったことを知って、ひとまずは安心と思い。一教諭としての各所の見回りの建前の下、独自の行動を起こすのであった。

 

大樹は観光地の一つである太秦シネマ村で合流することにした。

時代劇のセットのようなテーマパークなので、彼らと合流するのしても市内の繁華街で待ち合わせるようなバカげた悪目立ちはしないはずだ。

 

代官所の前で待っていると声を掛けられる。

 

「大樹様、お待たせ致しました。大天狗様より遣いで参りました烏天狗の黒鴉と申します。」

「今来たところです。黒鴉、この度はよろしく頼みます。」

 

「っは、天狗ポリスの総力を持って大樹様のお力になるよう努力させていただきます。」

「うむ、よしなに頼みます。他の者たちは?」

「代官所の中で、すでに待機させています。ささっ、中へ。」

 

天狗ポリス・・・、昭和の時は天狗警保局を名乗ってたのに急に現代的な名称を使うようになったわね。

黒鴉に案内されて代官所へ入っていくと大勢の烏天狗や白狼天狗たちが待機していた。

 

「彼らが、大樹様の下へ派遣された者たちの第一波です。第二派、第三派も逐次合流予定です。」

「わかりました。」

 

黒鴉ら指揮官級の天狗たちと打ち合わせをしていると、下っ端の白狼天狗が報告を上げてくる。

 

「報告します!この先の日本橋エリアにて件の襲撃者の一人と麻帆良の旅行生2人が接触!後続の旅行生らは一般人の模様!またそれ以外の一般人も野次馬に集まっています!」

 

「な、なんですと!?」

 

大樹は少しだけ考えてから黒鴉に指示を出す。

 

「何か衣装はあるかしら?」

「い、衣装ですか?でしたら代官の衣装がこちらに。」

 

青染の武家装束を差し出される。

あ、これってあの有名な奴かしら?

 

「大樹様、タトゥーシール貼りますので手を出してください。」

「こうですか?」

 

差し出された衣装を着て、その他支度をしてから大樹は代官所を飛び出す。

 

「貴方達、私に続きなさい!」

「「「っは!」」」

 

 

 

 日本橋の橋の中央、30分前に果たし状を渡し、刹那が来るまで月詠は相変わらず人形じみた笑みが顔面に張り付け、可愛らしいその顔立ちは逆光によって影が作り出され、不気味さを際立てさせていた。

 

 

「ああ、来てくれはったんですね。楽しいひと時になりそうです。ほな、始めましょう? 先輩。それと助っ人の皆さん」

 

 

 刹那は何も語らずに一歩踏み出す。

 前へ進んでいく刹那へ何か語ろうとした木乃香であったが、刹那がそれを押しとどめる。

 

「大丈夫です。木乃香お嬢様」

「せっちゃん……! うん!!」

 

 

不安だらけだった木乃香の顔に、笑みが取り戻された。

刹那は気持ちを整えて、月詠と向かい合う。

そこへ乱入者がらわれる。黒鴉ら天狗ポリスの面々であった。

 

「御用だ!!御用だ!!京町奉行所の者だ!!」

「京町奉行所だ!!神妙にせぃ!!」

 

一部の天狗たちが一般人に「映画撮影の邪魔になるから」と離れるように言って野次馬を追い返す。ただ、麻帆良生は雪広あやからの3班であり、遠巻きにはなったが追い返すことはできなかった。

 

「京町奉行・大樹左衛門尉様、ご出座~!!」

 

黒鴉の呼び声とともに姿を見せる大樹。

 

「そこの異人の服を着た娘とその仲間、東海道新幹線への営業妨害。音羽山清水寺での迷惑行為、修学旅行生への嫌がらせ行為。京都におけるその他もろもろの不埒な悪行三昧!神妙にお縄につきなさい!!者ども!!引っ捕えよ!!」

 

 

「これは、また。お相手してくれてうれしいんやけど。今は時間がないんですわ~。私のかわいいペットに相手してもらいましょう『百鬼夜行』」

 

 

 

 現れたのは妖怪たちを象った式神だった。

 

「っち、あの様な式神を用いるとは…。我らを愚弄するか!者ども!紛い物に後れを取るな!行くぞ!」

「「「おぅ!」」」

 

 

 

黒鴉たちが式神たちを相手に激しい攻防を演じる。

3-Aの生徒達が心奪われるのも仕方がない。ほかにいた観客たちも、その妖怪たちをCGと思い込み、感心している。ここがシネマ村であるという事が秘匿という意味でプラスしていた。

さらに、映画撮影を装った大樹たちの機転も効果を発揮していた。

 

「桜咲さん!」

 

天狗たちに指示を飛ばす大樹の呼び声に刹那は目配せと頷きで応じて返した。

刹那自身、大樹の経緯は全く解っていなかったが以前から裏の住人であったことは知っており、敵ではないことは承知していた。

 

自分のクラスの副担任がたくさんの天狗たちを率いて助けに来たことには正直面くらっていたが、刹那自身裏の要因であるのでこの程度は臨機応変に対応できて当然と言えた。

 

 

「このかお嬢様、ここをから離れられないように」

 

 

刹那が木乃香のいる場所へ符術を使う。守りの符から膜状の結界が展開し木乃香を包む。

安心した刹那は愛刀である大きな野太刀「夕凪」の柄に手をかけて走り出す。それに呼応して、月詠も刹那との距離を急速に詰める。

 

「斬鉄閃」

 

 

 

大太刀を振るい、月詠を吹き飛ばし欄干へ自身もまた飛び乗る。刹那の刀は十分な間合いを持っている。しかし月詠が持つ二振りでは間合いが足りず、刹那と拮抗する。

 

日本橋の欄干から振るう太刀と下から掬いあがる小太刀。獲物こそ違うがそれは義経と弁慶の五条大橋での大立ち回りの様だった。

 

 月詠も不利を無くすために欄干へ移ろうとするのだが、それを刹那はさせない。橋の上を走りながら刀を振るい続ける二人。刃のかち合う音が続く。一瞬の隙が命を奪う殺し合い。

 

「ぐへへへ!こりゃめんこい娘じゃな。」

「おいおい、ぬらりひょん様からはこの娘を攫う様に言われてんだ。喰うなよ。」

「わかってる!わかってる!」

 

突如、姿を現した二体の鬼。

赤悪鬼と黒悪鬼は醜悪な哂いを浮かべる。

 

「お嬢様!?っく!うぁ!?」

「先輩、よそ見はいけませんよ~。」

 

一瞬の脇見を月詠は見逃さず刹那の野太刀を弾いてしまう。慌てて拾うが大きな隙を作ってしまう。

 

「先輩、おかくご~。」

 

月詠の小太刀が刹那を狙う。

しかし、間一髪のところで大樹が薙刀を振るいそれを阻む。

 

「大樹先生!?」

「桜咲さん!私の腰の刀を使ってください!それで、近衛さんを!!」

 

 

天狗たちが鬼の相手をしているが種族差は如何ともし難く、圧倒的に不利でじりじりと木乃香へ近づいていく。

 

「鬼の相手なんて・・・。」

 

刹那の弱気な発言を聞いた大樹は発破をかける。

 

「近衛さんを守るんでしょう!鬼から姫を守るのは童話の王道しょう!しっかりなさい!」

 

「!!・・・はい!!」

 

大樹は改めて月詠に向き合う。

 

「破魔の神鳴流の剣士が己が魔に魅入られたか。」

 

「あら、私より小さいお姉さんが相手ですか?先輩より弱そうですね。」

 

月詠の言葉に大樹は笑って返す。

 

「ふふ、まぁ武術は確かに素人に毛が生えた程度ですね。なのでね…自分が有利になるようにやらせてもらいますよ!」

 

大樹の言葉に合わせて黒鴉ら天狗たちが月詠を取り囲む。

 

「あの娘、かなりの手練れですよ。」

「時間を稼げれば構いません。」

 

黒鴉の忠告に無理はしなくていいと返す。

 

「掛かれ!」

 

「今度は殺陣ですか~?これも趣があって楽しいです~。」

 

大樹たちと月詠の戦闘が始まったころ。

 

 

 

 

刹那は気を張り詰めて赤悪鬼、黒悪鬼と相対した。

刹那は愛刀「夕凪」と大樹から借りた刀の二刀流で向き合う。

絶対的な不利を覚悟した刹那であったが、刹那の構えた刀を見た鬼たちはギョッとした顔をする。

 

「っげ!?お、おい!黒!?」

「こ、こいつ!!わかってる!!だが、ぬらりひょん様命令だ!やるぞ!」

「っち、ちくしょう!」

 

鬼たちは金棒を振り上げて迫る。

 

「「ぐおりゃあああ!!!」」

 

「二刀連撃斬鉄閃っ」

 

「「ぐぎゃあああああ!!!」」

 

鬼たちはその場に崩れ落ちた。

 

刹那は木乃香に駆け寄ろうと刀を鞘に収めようとする。

大樹から借りた刀の柄が割れ、刀の付け根に刻まれて銘が露になる。

 

『髭切』

 

なぜ、北野天満宮にある御神刀がここに?

だが、あの鬼を簡単に倒せたのも納得がいく。平家物語で鬼を倒した『髭切』ならば鬼相手に優位に立てたのも納得だ。

しかし、なぜ先生がこんな貴重なものを?刹那が疑問を抱いたその瞬間であった。

 

 

 

「せっちゃん!?」

 

刹那の胸に、一本の矢が突き刺さる。

木乃香の悲痛な声が響く。

 

血が刹那の服を染めていく。困惑した表情を浮かべ、それでも最後に木乃香を見て安堵した顔になり刹那は欄干から落ちていった。

 

「せっちゃん!!」

 

(あぁ、約束守れんでごめんね、このちゃん。でも、無事で良かった)

 

川に落ちそうになる刹那を木乃香は手を止めて防ごうとするが一緒に落ちてしまう。

 

「嫌や、せっちゃん!!」

 

莫大な魔力が指向性もなくただ暴れだす。行き場のないほど濃密な魔力は、刹那の体に流れ込み、刹那の傷はみるみる塞がっていった。

 

 

「お、……嬢様?」

 

「せっちゃん!」

 

 

 木乃香は刹那に抱き着いた。

 

「卑怯な手を使う。」

 

大樹はシネマ村にある城の上にいた天ヶ崎千草を睨む。

千草は辻神に乗って去ろうとするところであった。

一応、天狗たちに追うように命じたが恐らく撒かれるだろう。

 

一方の月詠も天狗たちを蹴散らしてその場から姿を消していた。

 

大樹はその場のごまかしの締めとして一言。

 

「これにて!一件落着!!」

 

そう言って、その場の全員を連れて代官所のバックヤードまで撤収した。

 

桜吹雪、見せ忘れた。

 

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