大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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175 平成 京都修学旅行⑩

 

 

 夕映は枝を振り払いながら山を走っていた。

 

 カードゲームをしていたら数分前、夕映たちは白髪の少年に襲われた。部屋の入り口から入ってきた少年が何か呟いたと思うと、いきなり白煙が出てきてそれを浴びたハルナが固まり、のどかすら石となった。全員が石と化す前に朝倉が機転を利かせて夕映だけは逃がされた。言葉でまとめてみても、理性がそれを否定する。そんな事有り得ないと。しかし実際にはそんな馬鹿げた行為が起きている。

 

 朝倉のお蔭で逃げられた夕映は、とにかく石にされた彼女たちを助けたかった。

 

 どうすればいい。いくら麻帆良での異常事態に慣れているといえ、こんな事を話したとしても警察が本気にするはずがないと分かる。考えに考えた結果、携帯電話で彼女はある人物へと連絡を取った。

 

 その電話を取ったのは、長瀬楓だ。

 

 

 

「おや? バカリーダー? 落ち着くでござるよ。ふむふむ。ほう……なるほど。つまり助けが必要でござるな。拙者たちも今そっちに向かってるところでござるよ。」

 

 

 

 

さらに、その電話の向こうでは

 

「アイヤ~、カラスで空を飛んだり、布に乗って空を飛ぶなんて思ってもみなかったよ。」

「コットン100%のおいどんをただの布なんて呼ばんでくんしゃい。おいどんは一反木綿って言うばい!」

「ゴメン、アルよ。」

 

「・・・・・・。(大樹先生も裏の人間と聞いていたが、そっち方面だったか。)」

 

古菲と一反木綿は普通に言葉を交わす。その横で龍宮真名は大樹について思案していた。

 

「鬼太郎殿!!少し急ぐでござるよ!!」

 

「わかった!一反木綿!みんな!急ぐぞ!」

 

「コットン承知!!」「「「カー!!」」」

 

 

 

 

 

 それと同じく全く別の場所でも電話が鳴る。麻帆良学園の学園長室で、囲碁を打っていた。

 

「何じゃと!? 西の本山が……! 婿殿までが!? 助っ人か。し、しかしタカミチは今海外じゃ。大樹先生と電話がつながらないとなると、いますぐそちらへ行け戦力となる人材は・・・あ!」

 

 そこまで言い、近右衛門は気が付いた。目の前にいるのが魔法使いの中でも最強であるエヴァンジェリンであることを。さらに彼女は昔京都に住んでいたこともあり、そっちの古い事情にも詳しい適任者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネギ、明日菜、刹那の三人の後ろの空中に突如少年が現れる。微妙に変わった風の動きに、刹那は背後に何者かがいることを悟った。さらに少年が攻撃をする直前だということも。

 

 振り向きざまの攻撃を繰り出した刹那だが、その腕は少年によって軽くいなされ、逆に強化された反撃の一撃を喰らい吹き飛ばされる。床と壁に何度もぶつかって跳ね返り、もう一度壁に叩きつけられた。さらにその壁に亀裂が入り、刹那はようやく止まる。

 

 温かい湯気の中に、刹那の苦痛の息が漏れだす。

 

「っくぅう。」

 

「刹那さん!! ま、まさか君が!!こ、このかさんをどこにやったんですか?」

 

ようやく敵に気が付き、その姿を見たネギは眉根を寄せ叫ぶ。

白髪の少年は表情ひとつ変えることなくネギたちを見ている。

 

「みんなを石にして、刹那さんを殴ってこのかさんをさらい、先生として・・・・・・友達として・・・・・・僕は許さないぞ!!」

 

 

怒気をみせるネギだったが、それでも少年はなにも変わらずにいる。力の差は歴然、一々そういった有象無象を相手にするのは馬鹿馬鹿しく、付き合っていられないものだ。

 

 

「ネギ・スプリングフィールド。やめた方が良い。君程度で僕は倒せない」

「あっ待て!!」

 

 ネギの声にほとんど反応せず、少年はそのまま水を媒介にした瞬間移動を行う。

 

 カモはその魔法を使った少年に泡を食っている。彼が知る限り、なにかしらを媒介にしてでも瞬間移動を行える魔法使いは数少ない。あそこまで簡単に扱える、それだけでどれだけの力があるか分かる。弱者ゆえに知恵をつけているカモゆえの反応だ。

 

 ネギもまた魔法使いとして格の違いを見せつけられ、顔を歪ませる事しか出来ない。

 

 

 

「だ、大丈夫ですか明日菜さん……」

「う、うん。刹那さんこそ」

 

 刹那が腹を抑え、ふら付きながらも立ち上がった。

 腰の引けたその体になにかが掛けられた。

 

「えっ?」

 

 それはネギが念力で運んできたタオルだ。正直、女の子を裸に剝くクシャミのせいで忘れられがちだが、彼はいい意味で英国紳士だ。

 裸を見ないようそっぽを向き、しかし今までにないほど強い意志を持ってネギは言う。

 

 

「このかさんは必ず取り戻します」

「う、うん」

 

 少しどもった明日菜は胸の鼓動を強めネギの横顔を見ている。

 

「と、とにかく追いましょうネギ先生! 気をたどれば……ぐっ」

 

 殴られた箇所が痛み、刹那は横腹を抑えずにはいられなかった。ネギはそれを見てすぐに治療魔法を行うことを提案したが、刹那はそれを拒否して無理に動こうとする。そんな時間があるならばお嬢様を、と。結局理詰めで無理やり丸め込み、ネギは傷を治療していく。そのわずかな時間でも有効に使うために、カモが提案をした。

 

「だけどよ、どうする兄貴たち。このまま無謀に突っ込んでいっても、勝てねぇぜ」

「重要なのはお嬢様です。お嬢様さえ取り返せれば、後は逃げ続けるだけで他の地域からの応援が来るでしょう」

「そうか。だとしても、どうやって木乃香のお嬢ちゃんを取り返す?」

 

せめて戦力がもっとあれば。そう口にして、カモは気が付いた。戦力を手っ取り早く簡単に増やせるであろう方法を。

 

 

 

「そうか、これなら!」

「なにか策でも思いついたんですか!!」

 

 

 

 それに真っ先に喰らい付いたのは刹那だった。身を乗り出して、詳しく聞き出そうとしている。

 

 

 

「簡単なことさ。刹那の姉さんと兄貴が仮契約をすればいい。そしたら気と兄貴の魔力で戦力は上がるって算段さ!」

 

 胸を張っているカモに、しかし刹那は顔を紅くするだけで、なにも答えない。カモは刹那が年相応感情を抱いていることを察して訴える。

 

「部の悪い賭けだけど。今はこれに掛けるっきゃねぇぜ!妖怪どもは姐さんと刹那の姉さんが引き付けておく。兄貴は一撃離脱でこのか姉さんを助ける!あとは戦略的離脱ってやつでさ!」

 

刹那も裏の人間だ。ある程度は踏ん切りがついた様だ。

ネギと刹那は緊急事態と言うことで仮契約を行う。

 

「っ・・・行きましょう。皆さん。」

 

後ろの光景を振り切り、刹那は先を急ごうとする。あわててネギもその後を追いかけた。

 

 

 

 

 森の中に湖がある。揺蕩う水音とかすかに香る杉の香りが漂う湖面の上に月詠はいた。夜空に登る月の輝きを反射する刀に、その顔が映る。 

 

「ああ、来たようですねぇ」

 

刹那が木々の奥から飛びだし鋭いまなざしを月詠へ向ける。

ネギと明日菜も息を切らしながらであるが、刹那に追いつく。

 

 

「さて、では殺り合いましょう。あはははははは!!」

 

月詠が地面を蹴り駆け出す。

 

 

「ネギ先生、先に行ってください」

 

「で、でも」

「行ってください、お嬢様を頼みます。」

「わ、分かりました。明日菜さん、すみません」

 

ネギは明日菜をこの場に残すのを躊躇った。

 

「私の事なら安心しなさい。アンタはちゃっちゃと木乃香を取り返してきなさい」

 

 

 だからこそ、明日菜はネギを送るために胸を張った。ネギの顔を明るく、力強くなる。

 

 

「は、はい!」

 

「俺ッチと兄貴に任せてくれ!絶対に助け出すからよ!」

 

 箒で飛ぶネギたちを見もせず、月詠は刃を構える。

 

 

「お話は終わりましたかぁ~。では行きますよ。」

 

「さっさと貴様を倒させてもらうぞ」

 

 

 

 一歩刹那は踏み出し、刀を振りかぶり前へ進む。いくら大太刀でも離れすぎた間合いではなにも出来ない。だからその選択は間違いじゃない。神速にはおよそ届かないにしても、疾風と見間違うほどの踏込の速さだが、月詠もそれに難なく付いてくる余裕を見せる。

 

「え?」

「遅すぎます」

 

 振り下ろされる刀。とっさに前へ行こうとした体を無理やり横へと逸らす。

 

「お前――「話している余裕があるんどすか」っ!」

 

 刺突された二撃目を、刹那は夕凪で逸らしながらなんとか躱す。しかしこれでもう終わりだ。完全に体勢を崩しており、既にもう一度月詠が振りかぶっている刀で切り裂かれる。

 

「でやぁああああ!!」

 

 神楽坂明日菜がいなければ。

 

ハリセンが月詠の顔を横から風を起こしながら迫る。それを避けるために月詠はバックステップで刹那から離れて行った。

 

「2対1・・・そういうのも悪くないどす。」

 

 

 

 あれだけの馬鹿げた技量を見せながら遊びだと言う月詠に、刹那は化け物を見る目をした。そこには確かな怯えすらある。剣を知っているからこそ、刹那は目の前でたたずむ剣鬼を信じられず、恐ろしく思う。鍔迫り合いなどしようものならば、夕凪ごと斬り捨てられる。それを理解したがゆえの怖おそれだった。

 

 だがそれでも戦わなければならない。木乃香を取り戻すために。心が熱く燃え上がる。恐怖も何もかもを捨てて、刹那は前へ飛ぶ。

 

 

 

「ぉおおおおお!!」

 

「はは!そう言うのも楽しいですねぇ!先輩!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森を流れる水が辿り着く静かな湖畔の中央に、厳島神社の高舞台のように神楽舞を踊るための舞台がある。その前には巨大な岩があった。その岩は注連縄をされ、磐座いわくらのように扱われている。その舞台に、天ヶ崎千草と犬上小太郎、そしてフェイトがいた。

 

 

 

「なあ、姉ちゃん。俺ずっと気になってたんやけど、なんでさっきから補助術式ばかり幾十とかけてんの? そこの嬢ちゃんが持つそないな魔力ならば、いくら神と言われる存在でも御しきれるやん。」

 

 

 

 頭の後ろで腕を組み、小太郎はつまらなそうに作業を見つめながら千草へ尋ねた。

 

 確かに千草は木乃香を攫ってから一向に召喚の術を使わず、それどころか馬鹿みたいな量の術式を補助するために存在する補助術式を作動させ続けている。これだけの術式があれば、一人で地形を変えられる魔法を行使できるとまで思えるほどの量を。

 

 

 

「阿呆抜かせ。お前は、ああ、そうやな。仕方がない。あんさんみたいなやつならば、そう思うのも仕方がないか。今からやるのはな。東洋、殊更日本においては絶大な影響力を持った神の従神であり、諏訪大戦の神話と歴史上の京洛の戦いと言う幻と現の両方に名が記された神、華獣神碧奧蘭蒂(ビオランテ)・・・・・・。日本神話と歴史書の両方に載る大神や。操れるとは思うとらん。蘇って暴れりゃえぇ。」

 

 

 

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