「とまぁ、派手にやってくれたようじゃが…超くん。これは本当かね。」
場面は変わり
学園長は超の心変わりにすっかり驚いていたが、超の情報を提供されて納得した。
妖怪たちの大規模決起が迫っている。
大樹をめぐる戦いが始まろうとしているし、別の厄介ごとも同時に起ころうとしている。
「確認するまでもないか。」
学園長は警備から次々と上がる妖怪たちの侵入の報告で理解していた。
「水面下で全部解決するしかないだろう。幸い、大樹はこっちに来ているし、彼女のつての援軍もそのうち来る。」
「そうじゃの…。」
学園長はちらりとエヴァの尻の下で合気道の技を決められている大樹のことは見えないことにした。その場の先生たちもだ。
「いたいいたいいたい!!!ちょっと!まだにもやってない!?」
「うるさい!未来の話でも不意打ちで私を無力化するなんてムカつく!!からだ!!」
「理不尽!!いったぁああい!?なんか!?ミシミシ言ってる!?ひぃいいい。」
余談なので詳細は省くが、前の世界でのエヴァンジェリンは大樹の不意打ちによって不覚を取り、フェムトファイバーで拘束されていた。それを聞いたエヴァは不機嫌となり、八つ当たり気味に大樹に合気道の技をかけていた。
「各所からの報告をまとめたものですが、グレムリンや来客に紛れた下級の吸血鬼の存在が報告されています。」
皆がタカミチらがまとめてきた報告書に目を通した。
「おそらく、学園祭で行動を起こすのは西洋妖怪だろうな。」
「ただし、外環部に集まっている他の妖怪たちは西洋妖怪有利と見れば、こちらに仕掛けてくるでしょうね。あの妖怪たちがぬらりひょんの息が掛かっているか。まではわかりませんが。」
エヴァの言葉にかぶせるように技から抜け出した大樹が続き、重い口を開く。彼女独自の情報網から入手した情報であった。
「それと、かつての私の配下陰神刑部狸率いる軍が日本の領域内にいるようです。」
「部下なら、変なことしないように大樹先生が言えばいいんじゃ。」
明日奈の言葉に大樹は申し訳なさそうに答える。
「昔はそれができたでしょうが、今となってはかつての部下たちはそれぞれ勝手に動いていて私の影響力はほぼ皆無ですよ。近衛さんの知っている護国会議はかつての残照の一部を寄せ集めたものです。私が関与しているのは事実ですが関与しているだけです。」
話題に上がった近衛木乃香と彼女に近しい桜咲刹那に一瞬視線が集まるが近衛近衛門の咳払いで脱線せずに話を進める。
「陰神刑部狸はこの国の現状に強い不満を覚えているようです。西洋妖怪の動きによっては彼らも動くでしょう。それと、西洋妖怪のいくらかがゲゲゲの森を襲撃したそうです。西洋妖怪は思った以上に大規模な動きをしています。」
「超が計画を中止するというのだから直近の危機は西洋妖怪だろう。まずは奴らを倒すべきだ。妖怪ってやつは超の様に緻密に過ぎる策を弄さない分、幾分はましだよ。」
「じゃが、奴らが何をしようとしているのかはわからん。西洋妖怪の大集団が米国艦隊と太平洋上で接敵したとの話も聞いているのじゃ。警備要員の諸君、ネギ君たちも最初から後手に回るが奴らの動きに逐次対処していくしかない。よろしく頼むぞ。」
学園長の締めの言葉を合図に退室していった。
学園長室で今後の方針が大体決められた後で、大樹はエヴァンジェリンに半ば連行されるような形で彼女のログハウスに連れていかれた。
ログハウスにはエヴァと超鈴音の姿もあった。
「以前よりゲゲゲの鬼太郎と交友があり、旧貴族系の議員には差異はあれど影響力を持っており、最近では国内の退魔組織を統括する名誉職にある。それに近衛のような魔法使いの良識派ともつながりを持っている。あと幻想郷ともだったな。それが私の把握しているものなわけだが…。それだけじゃないだろ。超の話では世界大戦を主導する体制を築き上げた。大樹、他に誰と関係を持っている。正直に言え…。私も今お前が人類に見切りをつけて世界を大分断させる大戦争を引き起こそうとしているとは考えていない。」
「…。」
「はぁ……私とお前の付き合いはかれこれ400年近いか。他の連中と違って友人としての付き合いだ。お前がそう思ってくれているかは分らんがな。」
「わ、わたしはエヴァのことを大切な友人だと思っています。」
「なら、正直に言ってほしい。お前の力になりたいんだ。」
付き合いの長い友人であるエヴァだからなのだろう。大樹の肩に手を置き優しく諭すように話しかける。
大樹は観念したように重い口を開く。
「刑部狸や南洋の妖怪たち…いわゆる皇国時代の妖怪軍、旧妖怪軍残党とは終戦時から細々とではありますが連絡を取りあっています。白蔵主とも京都のことで暴発するまでは似たような感じでした。それと天狗警保局…あぁ、今は天狗ポリスですね。あれに対する指揮権も多少持っていますよ。」
「それだけじゃ。世界大戦は引き起こせないと思うヨ。抱え込むのは良くないネ。」
「まだあるんじゃないか?私たちも知っておかないと今後の対策が立てられん。」
超の言葉とエヴァの追及にさらに口を開く。
大樹は少々目を泳がせる。
「ここからは私がどうこうできる内容ではないのですが……。」
「貴様の手が及ばない話か。目は届くようだが…。」
「えぇ…まぁ…西洋妖怪の中には私の親派がいるので行動を起こす前に情報を流してくるのですよ。巻き込みたくはないといったところなのでしょうけどね。………あと、稀にぬらりひょんが接触してきたこともありますね。あと、最近は減ってるけど八雲紫も…。そういえばロシアのレティがなにやら動いているとも…。」
エヴァのスマホが鳴り、それに応答する。
「大樹、悪いがお前の家に茶々丸たちを行かせてる。家探しさせた。」
「茶々丸が色々、見つけてるあるヨ。扇子。」
大樹は言葉を詰まらせる。
「つ、つ…月から接触がありました。」
「月?」「…。」
エヴァは大樹の言葉に疑問符を浮かべ、超は漠然と予想していたのか無反応だった。
「月は月夜見尊が作った都です。かの神の血族とそれに近しい神々が住まう地です。」
「大樹はどちらかと言えば天照大御神に近しい存在だったと記憶してるネ。」
「天照大御神様は高天原にお戻りになりこちらに声をかけることもほとんどありません。神代紀の保食神のくだりにもあるように天照大御神様は月夜見尊様とあまり仲が良くありません。私自身、月のことを知っているのは月に綿月の豊姫様と依姫様がいらっしゃるからです。」
超はこの月にかかわる内容が大樹の凶行の原因ではないかと考えた。
「その月に関してですが、第二次世界大戦以後地上に対して不快感を抱いています。アメリカのアポロ計画に始まり、中国の嫦娥計画に対してはかなりの不快感を示していました。私も当時はJAXAのセレーネ計画で分離投棄する衛星に親書を仕込んだこともありました。アメリカのアポロ計画への報復はJFKですからね。月の都に対して敵意がないことを示す必要がありました。なので航宙能力を有する艦艇を保有する魔法世界の地球進出は決定打だったのではないかと推察します。超さんの見せてくれた資料には月の介在があったと思われる私の手勢の強化が伺えました。超さんが魔法を公開しないのであれば月の過剰な介入は避けられるかと…。ただ、私と懇意にして頂いている綿月様はどちらかと言えば穏健派なのです。それが少々引っかかるところです。…そもそも、ぬらりひょんは月の情報をどうやって手に入れた。月の尖兵は幻想郷は置いておいて、こちらには60年代あたりに手を入れだしていた。だが、月の動きを知れるのは綿月様と縁のある私ゆえのはずだ。ベアードはおろか八雲とて知れるものではない。」
話し出してしまえば頭の回転も速い大樹である。考察も踏まえて多くを語りだした大樹であったが、そのまま思考の海に沈み始めた。そして、しばらくして顔を上げる。
「月に関しても探りを入れる必要がありそうです。ぬらりひょんの奴め…もしの未来とはいえ私にその様なことをさせるなんて…あいつは本当に嫌いだ。とはいえ、目下の課題をどうにかしなくてはなりませんね。」
大樹はおもむろに立ち上がると、二人に声をかける。
「さて、行きましょう。まずはベアードをどうにかしなくてなりませんよ。」