直近の問題としては地獄の侵略を開始したさとり達。
今は五官王たちが防戦しており、しばし余裕があるみたい。
今回の戦いにも姿は見せたが大規模な行動を起こしていない旧軍の妖怪たち。
西洋妖怪軍団の先鋒集団として姿として姿を見せた南方妖怪。南方妖怪は西洋妖怪や旧軍妖怪に組したという事か。
日本から撤収したとはいえ西洋妖怪軍団の本軍も損害は小さい、いつまた手を出してくるかわからない。
今回は介入してこなかったがぬらりひょんも気になる。介入してこなかったという事は戦力を温存したという事で、奴は中国妖怪や魔法世界の完全なる世界と同盟関係。直轄戦力ではないが敵対勢力としては最大規模だ。それに奴はベアード以上に溝が深い。
この前の戦いでは友軍扱いをしたが在日米軍は国内の妖怪たちを警戒しての側面もある敵ではないが見方とは言えない。自衛隊や警察だって友軍であって自軍ではない。
そう考えると麻帆良学園の魔法使いだって学園長の近衛近右衛門が懇意的であるから結構
融通が利くけど自軍じゃなくて友軍だ。
護国会議だって聖の直轄以外はやはり友軍ですし、その友軍の統制で聖直轄の戦力で自由が利く戦力は極僅か。
こうして、考えると私が自由にできる戦力は極端に少ない。
「大樹様。空中庭園でのお茶会の招待状が来ていますが?」
図書館島の私の領域における執務室にいると側近の水楢が招待状をもってやってきた。
「お茶会?その程度なら直接言うか電話ですればいいのに?」
「図書館島最下層部のイマ様ならびにマクダウェル様の連名です。それと堅苦しい話をし
たいので正装で来るようにとのことです。」
正装ねぇ、大樹先生じゃなくて大樹野椎水御神として話をしたいってことかしら。
エヴァンジェリンは魔法にも妖怪にも精通するけど・・・、アルビレオ・イマが居るってことは魔法関係よね。何か進展があったのかしら。
「行くと伝えてちょうだい。正装には支度が掛かるので午後2時以降と伝えてちょうだいな。」
「はい。」
私たちが支度を整え空中庭園に着くと、そこにはネギ君たちが居た。
私の事を多少知っている子もいるとはいえ、この姿を晒させるとは少し不快です。まだ見せたくはなかったのですけど。
「っち!」
思わず舌打ちが…いけませんね。おほほほほ
「手下を連れてゾロゾロと悪の大首領様のご到着ですね。」
アルビレオ・イマ…本心ではないのだろうけど。
人を茶化す性格は面倒ですね。
「無礼な!」
私に同行していたぐわごぜが錫杖を突き出す。
「やめなさい!子供たちが見ています。」
「申し訳りません!!大樹様!!」
「ごめんなさいね。私の部下が…ですが、イマ殿もお人が悪い。火星の方は私を目の敵にされる方が多い、あれの真似事はやめてほしいですね。」
やれやれ、生徒たちの前ではこういった謀略者の側面はあまり見せたくないんですけどね。
「まぁ、話はある程度聞こえてましたから…英雄の息子の師匠に悪人というのは悪くはないでしょう。中世の勇者ではないのですから、世の中の正しい面だけを見ていればいいわけではありません。嫌でも政治にかかわらなくてはならないのなら世の中の汚い面を知る悪に師事を受けるのは悪い事ではないでしょう。考えなしにイギリスへ行ってきますってのもないとは思いますが…。」
ちらりとネギくんの方を見ると少し恥ずかしそうに顔をしかめた。
アルビレオ・イマとは変ななれ合いはしたくないので自分で椅子を引いて勝手にお茶を入れる。
側廻りの妖精がお茶請けの菓子を運んでくる。
「本当にその格好でこいつらの前に出たって事は…覚悟を決めたって事だな。」
伝統的な巫女装束として白い小袖(白衣)に緋袴、黄櫨染と黄丹の刺繍が施されている。その上に神文の文様が施された千早を羽織っている。ティアラ状になった天冠を頭につけている。
「悪の大首領が本格的に動くとなれば魔法世界も旧世界も慌ただしくなるでしょうね。旧世界で魔法世界の深くに食い込んだ完全なる世界を張り倒せるのは貴女だけでしょうからね。」
エヴァンジェリンが妖しく嗤い、アルビレオが茶化しながら言う。
しかし、アルビレオ…フライドチキンチェーンのパクり名を偽名に使うのはふざけ過ぎでは?
「悪の大首領って言うのはやめてほしいわ。」
「魔法世界の人間から見れば貴女は悪の大首領でしょう。旧世界の約半数の国家と妖怪たちを率いて残りの半数の国家と魔法世界を相手に二度の大戦争を起こした貴女は。」
「それはイデオロギーの対立からくるもの。自由主義と社会主義然り、あの頃はこれにファシズムなんかもありましたか。まぁ、他所から見ればあの頃の日本は歪に見えたのでしょう。日本は大成功を収めた神権政治国家…そういわれていましたね。『王権は神から付与されたものであり、王は神に対してのみ責任を負い、また王権は人民はもとよりローマ教皇や神聖ローマ皇帝も含めた神以外の何人によっても拘束されることがなく、国王のなすことに対しては人民はなんら反抗できない』だったかしら、王様のやりたい放題でしょう。こんな政治じゃあ、フランスあたりで民衆革命もあって当然ですね。」
ここにきて歴史談義、生徒たちも一応聞いているようですね。綾瀬さんなんかは歴史好きということもあって食いつき気味ですね。
「日本はそうでもなかったようですが?」
「そうでしょうとも、居ますから王権を付与し監督する神様が…。」
大樹はそのまま続ける。
「今の現状に至るまでの経緯、小さな島国であった日本が何故ここまでの有力国になったのか。お話ししましょう。生粋の魔法使いの方々は少々思うところがあるかもしれませんが取りあえずはすべて話させてくださいね。とはいえ、口伝いにお話しするのも大変でしょう。多少端折るつもりですが長いな話には変わりありませんし、場所を変えましょう。図書館島の深部歴史書庫へ…、あそこなら映像記録もあるでしょうし解りやすいでしょう。」
エヴァの機転もあって転移魔法でさっと移動しました。
さて、話す前にちょっと周りを見てみましょう。
エヴァと茶々丸は旧知の仲とその従者。わかっていたので反応は薄い。
アルビレオ・イマは知ってって当然ですが性格が悪いのでうっすらとニヤニヤしてますね。そういう人ですからね彼は…。
側近のぐわごぜや側回りの妖精たちはいつも通り静かに控えています。
さて、ここからはネギくんたちですね。
まずはネギくん、私のことなど知らないのでしょうけど神妙な面持ちでこちらを見ています。生真面目な子ですからね。
小太郎くんは関西の術士でしたし、最近は何度か鬼太郎くん関係の妖怪の諸問題を手伝わせていましたし、何かは感じているのでしょう。結構真剣な感じがしますね。
幽霊の相坂さんは夫の将門から何かしら聞いてるんでしょうけど。いつも通りのぽやんとした感じですね。幻想郷の西行寺さんもそんなところありますし幽霊ってそういった性格の方が多いんでしょうね。
朝倉さんはジャーナリストを目指しているだけあってカメラやレコーダーを持ってスタンバってます。さすがに公表厳禁ですので、後で回収させてもらいましょう。
夕映さんは歴史好きでかなり詳しいですし、私の衣装で何かしらは察したのでしょう。強張ってますね。
神楽坂さん、古菲さん、長谷川さん、のどかさんは完全な一般人ですし、いつも通りの明るく元気な感じでキョロキョロしてます。
近衛さんは知ってるはずなんだけどなぁ。それを感じさせない雰囲気、将来は大人物になりそうです。従者の桜咲さんはガッチガチなのに…。長瀬さんもかなり緊張していますね。あー甲賀忍者の元締めは滝川家でその上司は織田家、その上は私ですからね。形式的な知識でしょうけど正体を察しましたね。
そういえば、あのカモミールって言うオコジョ妖精は知ってたなぁ。広義の同族だからかな。
そういえば、ここにいるメンバー以外で私のこと知ってそう。もしくは知ることができそうなのは未来人の超さんは知ってて当然として、彼女の協力者の葉加瀬さんはどこまで知ってるのでしょうか?龍宮さんは裏の魔法傭兵的にも表の神職的にも結構正体に近いものを知ってそう。春日さんは魔法生徒だけど正体は知らないし察してないでしょう。カトリック教徒なわけで私の正体知れば何かアクションを起こしそうな気もするけど。素の性格的に気が付いても見て見ぬふりしそう。何とかこちらに引きずり込んで妖怪関係の仕事の手伝いをさせたいな。あと、ザジさんも絶対知ってるよなぁ。魔界神の神綺様の送り込んだ工作員かなっと思ってるんだけどアクションが全くないんだよね。あと雪広さんも社会的地位的にはかなり無理をすれば辿り着けそうではあるけど。そういえば彼女、ネギくんのお父さんのことを調べてましたね。やっぱりある程度魔法世界とかの知識はあるんでしょうか。
なんて考えていたら準備ができましたね。
焚書されてて普通にはまず見つからないけど、図書館島なら割と簡単に見つけられますね。
さて、久しぶりに見ますね尋常小学校3年の国史の教科書。
「さて、教科書を開いてください。とりあえず何ページか捲ってください。えっと豊玉毘売命の出産の当たりですね。豊玉姫様がネグレクトしてしまったのでその場にいた国津神が生まれた子を育てましたって話です。その後も鸕鶿草葺不合尊(うがやふきあわせずのみこと)、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)と言うよりも神武天皇と言えばわかる人もいるのではないでしょうか。」
何人かは頷いている。お馬鹿さんな子もいるのでまちまちですが…
「。この後も国譲りや乙巳の変とか壬申の乱といろいろ続きますが、この要所要所で摂政として朝廷に助言をしている神様がいますね。大樹野椎水御神、これですね。戦前生まれならみんな知ってる存在なんですが今の子たちは知らないですよね。はい!これ!私です!」
「「「「「「「「ふぁ!?」」」」」」」」
「じょ、冗談でしょ!?」とは神楽坂さん。
「冗談じゃあ、ないんですよね。」
そういって妖精の羽なんぞを晒してみる。以前見た人もいるけど驚いてる人は驚いてるなぁ。
「あ、あの神武東征の外伝的立ち位置にある大樹西征に関してなのですが…?」
夕映さんが質問してきますが
「ごめんなさい。そこは省きますので次の機会にお話ししますね。」
さて源平合戦や蒙古襲来は飛ばして、織田幕府あたりからかな。
「とまあ、織田幕府が開闢しました。その頃に西洋妖怪と同盟関係になりました。この関係は皆さんがよく知る第二次世界大戦終結まで続いてます。ここまでで質問は?」
夕映さんが恐る恐る手を上げます。
「あの、先生の旦那さんって…」
「織田信長です。」
えぇー!とかすごいとかの反応がありますね。
「あ、あの先生の娘さんやお孫さんの子孫って…。」
おや?何か、調べたことでもあるのかな。
「まぁ、分からない子もいますし近代や近世は映像資料もありますし、それを使いましょう。」
サラエボ事件、第一次世界大戦勃発。
ワシントン講和会議後、織田三樹介大樹織田家当主過労にて死亡。断絶。
「先生…」
今のはのどかさん辺りかな。長男の家系が断絶したのに衝撃を受けたのでしょうか。私自身は折り合いをつけてるんですが、私も人に寄り添っていますがそういった所がズレているのかもしれませんね。
日露戦争あたりから妖怪が近代戦に参加している映像資料がちらほらと。
日露戦争…この戦争での勝利が妖怪たちを本格的に戦争の時代へと引きずり込んだ。旅順攻略後ロシアが降伏して、水師営でロシアのステッセリ将軍と乃木将軍の会談が行われた。乃木将軍の横には日本妖怪のたんたん坊や刑部狸も並んでおり、ロシア将兵がおびえている様子が映っていた。
映像が変わる。
これは第一次世界大戦あたりか。フランスの レイモン・ポアンカレ大統領の回顧録だ。
『世界に人類の運命を決する大きな危機が近づいている。その最初の戦いは有色人種の日本人とわれら白色人種のロシア人との間での戦いだ。白色人種は不幸にも敗れた。日本人は怪物たちと手を組み、白人を憎んでいる。白人が悪魔を憎むように憎んでいる。思想の違いなのだろう。我らにとって日本そのものが危険なわけではない。統一されたアジアのリーダーに日本がなり、さらに全世界の化け物たちがこれに与することだ。これが我らにとって最も危険なことである。』
私自身も映像に目が行ってしまう。
『我が国とカナダに隣接する日本の衛星国群はアメリカ大陸に同化することができない。彼らは野蛮な先住民たちと同化しその勢力を広げようとしている。アメリカにとって危険な存在なのだ。非常に勤勉で低い生活水準に耐え楽しみに金をかけることもなく長時間働く。お互いに助け合い団結する姿は異常なほどである。日本人はアメリカ大陸に黄色人種を繁栄させようと決意している。そのためには化け物たちとすら団結して見せた。これは我が合衆国、そして隣国カナダにとって非常に危険なことである。』
これは北米列藩のことか。アメリカの日本人排斥運動の映像だ。第二次世界大戦後北米列藩は地図から完全に消滅した。そういえば、あの国はベアードのお気に入りの国だったな。
北米諸藩とアメリカ・カナダでの関係悪化と小競り合い。そして、日本本国と欧米列強の対立。そして始まるのが第二次世界大戦だ。
『今、宣戦の大詔を拝しまして、恐懼感激に堪えません。私、小なりといえども、一身を捧げて決死奉公、ただただ宸襟を安んじ奉らんとの念願のみであります!』
映像をほとんど戦場の映像やプロパガンダだ。
『国民諸君もまた、己が身を省みず、醜の御盾たるの光栄を同じくせらるるものと信ずるものであります!』
日本兵の中に交じって狸やら狐やら天狗やらと言った人ならざる者の姿が映り込んでいる。
『およそ勝利の要決は、必勝の信念を堅持することであります。建国二千六百年、我等は未だかつて戦いに敗れたことを知りません!』
第二次世界大戦時の首相東条英機の演説。
その東条英機の演説を小振りながらも立派な玉座に座り聞いている人物こそが私だ。
『大樹野椎水御神様!!万歳!万歳!!』
「とまあ、彼女は大悪党も大悪党。悪の大首領様だったわけですよ。」
「おい。さすがに口が過ぎるぞ。アル」
「これは失礼。ですが、連合国視点ならそういうことです。ですが皆さんも思っているのでしょうけど。所詮は人がやったことで善悪なんて後から勝った方が決めるんですよ。」
皆が皆考えさせられるような内容だった。
すぐに返事が返ってくることもなく沈黙が支配する。
やっぱり衝撃が大きすぎましたかね。
この子たちも私から離れてしまうのかな。
「まぁ、なんて言うかエヴァちゃんとは別の意味ですごい人ってことでしょ?」
神楽坂さんは場の空気を緩めようとしたのか。これが素なのかわからないけど事実場の空気が緩む発言をした。
「そういうこっちゃね~。」
「昔のことだな。」
「後で、歴史の裏側なんか教えてくれます?」
あれ、意外と反応が軽い。
「杞憂だったな。大樹、こいつらはこういうやつらだ。」
エヴァが私の肩に手を置いて笑いかける。
「大樹先生…すごい人だったんですね。」
魔法世界の住人であるネギくんも思った以上に軽く受け流しましたね。少し意外です。
「カモくんがかなり濁しながらですが大樹先生のこと話してくれたことがありましたし…。未来に行ったときにそれっぽいことがありましたし、心の準備とかはできてました。」
「俺たちもなんだかんだで想像できてたし…。」
小太郎君談。桜咲さんもコクコク頷いている。
あ、そうなの。私の考えすぎってことだったのね。
「そうでござった。大樹先生の話が終わったのでこれを…。上司から密書を預かっていたのでござる。」
長瀬さんがここで懐から書簡を出してくる。
丸に竪木瓜、滝川家の家紋。現在は公安部の上層に根を張っていたはず。
政権ではなく私に知らせるとは…。