大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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208 平成 政戦② 新たなる社会運動

 

 

途中でネギくんと合流し成田までご一緒します。

 

「大樹先生はイギリスには来ないんですか?」

「ごめんなさいね。イギリスにも行く予定はあるのですが先にベルギーで済ませたい用事がありまして…、ネギくんを見送るのは難しんですよ。」

「そうなんですか。残念です。」

 

ネギくんと軽く話してからお互いの飛行機の搭乗窓口に向かう。

そこには数人の議員が待機していた。

 

「自由民政党の麻田です。お待ちしていました。」

「ご苦労様です。」

 

この麻田やここにいない安倍川は皇族の遠縁であり、私の息が予め掛かっていた自由民政党の大物議員である。

 

「政権の目もあります。大丈夫なのですか?」

「民政党の力が弱っていますので、こういったことも可能なのです。」

 

私は窓の外の特別機に視線を向ける。

 

「民政党の瓦解も始まっているようで、実のところ政府専用機を使っても大丈夫そうな空気はありましたのでご安心を。」

「そうですか。勝ち筋が見えているようでなにより・・・。」

 

「あ、そうなんです。先日、妖怪たちとの協力体制の構築についての会合で、一部の妖怪が独自に人間たちと交友関係を持っていまして、その中で利用価値の高いものがいくつかありました。そこで先方に連絡を入れたところ何件かと連絡がつきまして協力が得られました。」

「あら、そうなんですか?」

 

私たちは機内へ移動する道すがらで話をする。

 

「現役のアイドルや大物Utuberだったりと有用な人物もいました。それに過去に鬼太郎氏が助けた人物の中にも秘密裏に協力を打診しています。」

「正直、発信力がものをいうこの時代、マスメディアが信用できない以上独自ルートの開拓は必須ですね。」

 

特別機が離陸する。

 

大樹は機内で陰神刑部狸の最期を看取った二ツ岩マミゾウを呼び出して問い詰めた時のことを思い出した。

 

「大樹様!刑部は最期まで貴女に忠を尽くしたことをご理解ください。彼の名誉のために仔細は話せませんが、彼は死してなお貴女に忠を誓っていました。なにとぞ、誤解なきようにご理解いただきたく…伏してお願い申し上げます…!」

 

刑部、なぜ貴方は死を選んだのか。

生きて、私を補佐してもらいたかった。

 

 

 

ベルギーに到着した私たちはとある組織との会合を持つ予定であった。

グローバルブルー、通称青の党世界連合。

世界各地に点在する環境政党の総本山である。

エコロジーとか人種差別撤廃、脱物質主義、多文化主義といった理想論を掲げる集団であるが、国会に議席を持っていたり、連立与党にいたりと馬鹿にできない理想論者の集団である。

 

夢見がちな理想論者であり、実現不可能なことを宣う集団だが、彼らの理想を実現可能なものにするために私が知恵を授けるわけで、実行力を得た理想論者ほど強いものはなく。強力な協力者たり得るだろう。

 

こういったグループは日本では昭和後期に現れ始めたが、この頃は左翼色が強すぎてこちらとの関係構築は困難を極めたが時が進むにつれて、環境政党として先鋭化していき農村部で密教的に匿われていた妖精たちと合流する者たちが現れていた。

私の与り知らぬところで末端同士が絡み合いつながりが出来ていたのだ。

 

ただ、こういった者たちは環境過激派に傾倒しつつあったが先日のクーデター騒ぎで末端の再統制の名のもので行われた調査で発覚したものだ。

渡りに船であったが、使えるものは使う。正しい行為である。

 

とにかく、近年勃興した国際的な環境政党グループと私というアニムズムを統合したような存在が合流しようとしている事実は世界に衝撃をもたらすであろうし、その先の結果も世界の命運を左右するものであろう。

 

そして、私自身も把握している最中であったが世界の妖精や妖怪の一部は第二次大戦後、継戦派と隠棲派に分かれていたが継戦派のうち、ベアードや刑部といった大勢力に流れなかった者たちがグルンビーンズやマリンドックと言った環境過激派グループに入り込み人間社会への嫌がらせをしていたことが発覚したわけで、これらをふるいに掛けて取りまとめて大樹の影響下に入れ、過激思想の穏健派としてグローバルブルーと接触する運びとなった。

 

ベルギー、ブリュッセルの空港では現地の妖精たちと合流して先んじて会合の席が設けられる。大樹はそこでいくつか語っている。

 

「二回の世界大戦を経て時代は人間の時代に移り変わったと言っても良い。時代によっては神であったり、妖怪であったり、はたまた妖精であったり、時代の主導者はコロコロ変わっている。人間の番が来たのは道理ではある。ただ、人間は少々早熟過ぎた様で諸所に問題が見れる。大戦以前は私たち妖精や妖怪を敵視し、戦争を経て我々を追いやったわけです。先ほども話したようにそれはいずれあるだろうとは思ってはいました。ただ、やはり思うのです。少々早すぎた。時代の過渡期として混ざり合う時代というものが必要だったのではと…。」

 

妖怪の中にはこれは笑って一蹴する者もいるだろう。

だが、人間という生き物は少々狂暴だ。我々という外敵がいなくなった後、その前からあった様な気がするが、より激しく人間同士で争うようになった。

肌の色だったり、文化の違いだったりで…。

 

「強者がはっきりしているうちはまだ良かった。表面上落ち着いて見える。しかしながら昨今は多民族国家内では差別する側の者たちが眉を顰めるレベルで被差別者側に手を差し伸べる程度には倫理観を持ったようで米国は亀裂が入っている。同情心だけで受け入れた難民に手を焼いている欧州。弱者を叩き潰す世の中を肯定はしません。世界の変化は良いことです。故に私たちが付け入る隙も出来たということです。」

 

妖精たちも理解力のある何人かが頷いている。

 

「先の大戦は世界の主導者に君臨しようとした私たち妖精妖怪、その支持者である東洋人と妖精妖怪が主導権を握ることで権益を失う西洋人と当時妖怪妖精といった亜人種を奴隷化し見下していた魔法世界人による争いでした。私たちは衰退しましたが、東洋社会の経済や国力は上昇し、西洋社会は衰退し亀裂が入っている。魔法世界も自世界内のテロリズムが少々活発化しているように見えます。図らずも人間社会が私たちにとって都合の良い状況になってきている。このような千載一遇の好機はもうないでしょう。私はこの好機にすべてを掛け、再び表舞台に立つつもりでいます。おそらく、これまでで最大の介入・・・いえ、直接手を…姿をさらすこととなるでしょう。そのためには妖精諸氏の協力が必要なのです。」

 

先遣的に行った妖精たちとの会合ののち彼女たちの伝手で作った欧州青の党連合の議会上で演説を行う手筈であった。無論、私のような超常的存在は一般の理解を超えるので非公開非公式のものでした。

 

「人類による物質的豊かさを求める時代は頭打ちで終焉が近いことは皆様方理解を頂けるでしょう。次は妖怪による精神の豊かさを追求する時代です。勿論、その世界には人類の活躍する機会は多くあります。」

 

大樹は欧州青の党連合の議会での演説ではねずみ男にまとめさせた日本での事業を説明していく。

 

「妖怪の文明は元来変化に乏しく、停滞性の強い文明です。これらの事例は人類の発展性の強い物質文明と妖怪の精神文明の融合例であり妖怪と人類の共存の道であると確信しています!であるからして   以下略。」

 

この演説はこの環境政党を通じて世界中に広がりを見せることになるだろう。

理想という種子は撒いた。実利という肥料を与えた。

 

あとは、大輪の花を咲かせるのを待つのみ。

 

 

 


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