2019年8月13日 欧州青の党連合 議会にて演説。
この日の夜。
「大樹様、秘密裏に交渉したいと…。」
「どこですか?」
大妖精が私文書の入った書簡を見せてくる。
「英国女王。」
「我が国の皇室経由で接触してきました。」
「まだ、日付も変わっていないと言うのにあの国の諜報機関は優秀すぎですね。まぁ、良いでしょう。では、内密にですか。」
「はい。」
翌日、英国側の用意したプライベート機でいくつかのダミーを経由したのち王室直轄領であるシリー諸島、セント・メアリーズ島にある御邸に案内された。向こうも相当内密に動きたいというのがわかる。大物が釣れたといった所かしら…
屋敷の門前では女王陛下とその側近少数名が出迎えに立っていた。
「お招きいただきうれしく思います。大樹様に代わり御礼申し上げます。」
大妖精が私に変わって挨拶を行う。
伝統を重視する国だ。異教であろうと神は神、人の上に立つ存在。軽々しく話すわけにはいかない。
ここで足元を見られるのは良くない。私は口を開かず大妖精たちに任せよう。
会食形式の話し合いだ。
ゆっくりとコース料理が振舞われ、途中途中でお酒も出る。
酔えば口も軽くなるということか。かの国の強かさも垣間見えたが人間以外にこの手法は通用しません。酒の強弱で言えば一部の例外を除けば人間は最弱ですし…。
彼らとの会話で分かったのはかの国の諜報機関の優秀さ、東洋の妖怪勢力の範図が確定しつつあり、私の主導権が強くなったこと。実質的に西洋妖怪軍団と停戦状態に入ったこと。
日本国内でも私が権威を取り戻しつつあることを把握している。
私の付き人である妖精が耳打ちしてくる。
イギリスの魔法世界へのポートが襲撃を受け運行不能状態。他のポートの大半も同様に襲撃を受けていた。
ん?
英国は私に探りを入れているのか。
私は魔法世界の英雄の息子であるネギくんと懇意にしている。
だが、状況はまるで完全なる世界とグルであるかのようにも見える。
実際、あれと繋がって居るのはぬらりひょん。だが、ぬらりひょんのことを英国が正確に把握しているかは、まだわからない。こちらからも探りを入れるか。
「貴国と魔法世界をつなぐポートが襲撃されたようで大樹様はとても危惧されています。幸い我が国のポートは小規模なものですがある程度の協力はできると思います。と大樹様はおっしゃっております。」
「我が国としてはまだ重大な問題にはなっていないと判断しています。むこうとこっちは時の流れに違いがありますのでしばらくすれば回復するでしょう。」
魔法世界関係は一応の警戒は緩められたでしょう。
話題は変わり内容は環境問題やエネルギー問題に。
これこそ、こっちの強力な手札です。
脱原子力によって代替エネルギー求めている世界に対して魔力や妖力を基にした火力・水力・風力・熱などのエネルギーを安定的に提示できる。かつてねずみ男がカミナリを利用して作った発電所。あれを応用すれば幅広い種類の電力供給が可能だ。
それに、魔法技術なんかも新技術として世界にお披露目できるはず。
もちろんこれは日本の独占技術。大方は公開するとして重要なものはこちらで握ればいい。
森林破壊や砂漠化が進む世界にとって緑化のカギとなる妖精たちは世界に対して強く出れるはず。またこれに起因する食糧問題も同様だ。
交渉は比較的スムーズに進んだ。さすがは英国とでも言えばいいのだろうか、日本が今後世界をけん引することは容認して二番手は自分たちと、腹黒ですね。
魔法世界と強いつながりを持つ英国だ。
今後日本を軸に自分が復権すれば、必ず魔法世界と対する時が来る。その時に極力平和的な解決を図るために魔法世界との交渉役として英国は申し分ない。
日英は新技術導入において秘密裏に協力し、利益を享受しあう関係となり世界を牽引し、魔法世界との折衝は英国が窓口となることで合意。
2019年8月15日 日英間で秘密協定が結ばれたのであった。
こちら側で多くのことが進展している一方で、問題も発生していた。
「我が国のゲートを残してすべてのゲートが破壊されたのですか?フランスやほかの国が管理するゲートも?」
「英国諜報機関からも同様の知らせが入っていますのでまず間違いないかと。」
大妖精が耳打ちをする。
「学園長はなんと?…守れるのかという意味です。」
「難しいですが何とかしてみるとのことです。」
私は麻田に視線を向ける。
「総選挙で結果が出るまでは、我々に自衛隊や警察を動かす正式な権限はありません。特に自衛隊は目立ちますので、秘密裏にというのも困難です。」
「では当面は警察を配置しなさい。」
「根拠はどうしますか?」
「…まぁ…あの学校は特殊ですから、恥ずかしながら学生闘争のようなものが起きそうとか何とか理由をつけてしまいましょう。」
「学生闘争・・・それなら何とか機動隊までは動かせそうです。」
麻田の回答を聞いて、大妖精に視線をもどす。
彼女が何か言いたそうにしていたからだ。
「さきほど、フランスのミクロン大統領から秘密裏の会談の申し込みがありました。どう対応しますか?」
「あの国も長期政権ですから私の存在を察知していたのでしょう。私としては、このようなことが無ければいろいろテコ入れをしたかったのですが…。最低限バックベアードの所に顔を出してある程度話しておきたい。仏は帰国の際に空港の飛行機内から電話会談をしましょう。他のゲート所有国から会談申し込みがあった場合は帰国後に応対します。」
その日の夕方 西洋妖怪軍団 バックベアードとの会談
実質的な停戦状態であったが現状は敵対関係。
最悪の事態も想定されたが会談の空気は比較的穏やかであった。
形式としては培養液で養生中のベアードに対する親族としての見舞いという形がとられた。
「久しいですな。御大樹殿。」
「えぇ、ベアード。」
お互い立場があるため、下手な尊称や敬称は使えない。
しかしながら、お互いに歩み寄りの意思はあるということだ。
「さすがといった所か。欧州を丸め込もうとされておりますな。まさか、貴女が再び表舞台に立とうとは…。」
「私とて絶望に飲まれるつもりはありません。それに開けない夜はないのですから。」
ベアードは私と視線を合わせてその真意を察するとため息をついて応じる。
「よい。停戦には応じよう。いろいろな意味で時間は必要だ。それに、軍団内でも昔を懐古し日本妖怪との歩み寄りを訴える者たちも現れている。厭戦状態だな。しかしながら・・・。」
ベアードが話しきる前に私の口が動く。
「超,sファイルですか。あれのおかげで、西洋諸国を丸め込めています。」
「うむ。その超,sファイル・・・使いどころを間違えると大変なことになる。」
魔法世界と地球世界の星間戦争の預言書。
麻帆良学園祭のごたごたで流出したこの文書は、いくつかの情報機関の知るところとなり、これを入手したいくつかの国が慌ただしく動き出していた。英仏などはその典型と言って良かった。
「この文書通りなら地球人類の敗北は確定。各国の軍拡の動きは道理。」
「だからこそ、私を復権させて矢面に立たせようという英仏の思惑も理解できます。」
「西洋妖怪の長としては、魔法使いどもとの関係は地球規模で極度に悪化するリスクを踏まえても、貴女がかつて目指した理想が再び現実味を帯びてきたという点では私自身も喜ばしくは思っている。だが、やはり不安に思うところは多い。アメリカなどは人種差別問題で国内が分断している。これに妖怪と人間の種族問題が加わればさらに不安定になるだろう。それに中国だ。妖怪も人間も自意識過剰で協調性がまるでない。中国妖怪どもはぬらりひょんなぞとつるんで何をしでかすかわからん。人間たちとていくつかの国が急に軍拡を始めた為に回りも引っ張られている。それにロシアに関しても連邦と帝国の間が不穏だ。ホワイトロックからも支援要請が再三来ている。貴女の方はどうだ?」
「実はこちらにも何度かあった様です。」
「それと、何やら魔法使いどもの世界でも内戦とまではいかずとも騒乱の兆しをつかんでいる。おそらく、こちらにも火の粉が掛かろうて・・・。」
「私としてはそれは危惧するところです。嘗てのように東西の妖怪の連携をとれればと思っています。」
「うむ、矛を向けあったこともあったが、その前は同じ理想を目指した仲だ。また同じ夢を見ることはできるだろうか。」
「はい。私たちもそうであることを信じています。」
西洋妖怪軍団はトップからナンバー3までが養生中で、組織としては守りに入っているという裏事情もあってか対立する様子はなく。建設的な会話が続いた。そして、最後にバックベアードはこうも言っていたのであった。
「大樹さ、あ、いや大樹殿。あの、ぬらりひょんには気を付けた方がいい。あれは危険だ。私は超,sファイルをばらまいたのは奴ではないかと考えている。あ奴は地球と魔法世界を戦争に持ってこうとしているのか。あるいはさらに危険なことをしようとしているのかわからんが、とにかくとてつもなく恐ろしいことをやろうとしているのではと思う。貴女の勢力も息を吹き返したばかりだ。身辺には気を使った方がよい。」
その日の夜。
英国の仲介で主要各国の閣僚級もしくはそれ以上の要人たちが特使として可能な限り秘密裏に集まり会談を開きたいと提案があり、大樹はこれに了解した。
翌朝早朝
フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、オランダの要人たちが英国入りした。
遠方からはアメリカ、カナダ、トルコからも特使が向かっているとの事だった。
大樹の滞在するホテルのロビーで早めのブレックファーストの形式でフランス大統領と会談の席を設ける。
「このような形でお話しすることができて喜ばしいことです。プレジデントミクロン。」
「はじめまして、女神大樹。 以前は行き違いもありましたが、今のフランスは貴女の復権を歓迎します。」
そして、そこから離れてすぐの通り。
人通りは時間的にまだいないが、もうじき朝の通勤時間帯となり混雑するであろう。まばらだが早い出勤のビジネスマンがちらほらと歩いていた。
「我々は同盟者です。要請とあらばお受けしましょう。さて、皆さん・・・始めるとしましょう。」
「ふん、せいぜい派手にやってくれ。」
「そうですな。デュナメスさん、ではさっそく。」
そこに、ぬっと現れた小集団。
日本妖怪反体制派の首魁ぬらりひょんとその配下の妖怪。そして完全なる世界の幹部デュナメス。その横にはフェイトから借りて来たのか月詠の姿もあった。