大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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210 平成 ロンドン襲撃

 

2019年8月16日

 

「女神大樹、貴女の提示した魔法や妖力を軸にしたクリーンエネルギーは我が国にとって非常に魅力的です。現在、我が国の発電電力量に占める原子力の割合は7割を超えている。原子力過多な現状、それらの技術は我が国にとって非常に魅力的です。」

「フランスは、石油、天然ガスなどの化石燃料に恵まれず。原子力導入以前は主要な国内電源は石炭、水力のみであったと記憶しています。私たちは水力や風力、太陽光と言った技術においても改良の術を持っていますのでお役に立てるでしょう。ですが、フランスは魔法世界との関係が深いです。」

 

ミクロン大統領は大樹の言葉の含みを察して受け答える。

 

「それは心配には及ばないでしょう。多くの民衆は魔法使いなど知らないし、あれに肩入れしている連中の多くは魔法世界と関係を持つことで利益を得ていた者たちがほとんどだ。王国時代は思想的狂信があったと聞き及んでいますが、今のフランスは民衆の国です。御心配には及びません。」

「そうでしたか。それは「伏せて!!」kっ!?」

 

ミクロン大統領のSPが大統領に覆いかぶさって伏せる。

大樹の方の護衛役の妖精たちも同様に動いた。

ホテルの窓を激しく揺らす爆発音、そして1台の車がホテルの入り口に突っ込んでくる。

そしてその車は爆発した。

 

「大樹様こちらへ!!ここは危険です!!直ちに非難します!!」

 

大妖精と水楢が護衛役の妖精たちと私を守るように囲い込みながらその場を離れる。

フランスの警護員もミクロン大統領を同様に避難させようとしていた。

 

「いったい何が起こっているんだ!?」

「わかりません。ですが、周りを見るにかなり大規模な騒乱の様です。」

 

周囲ではそこかしこで煙が立ち上り、緊急車両のサイレンがけたたましくあちこちで鳴り響いていた。さらに、銃声や破壊音が聞こえていた。

 

 

事態は急転していた。

 

 

「シュタインメッツ首相が切られた!!ドイツの首相が切られたんだよ!!二刀流のガキに切られた!!ダメだ!頸動脈を切られている!!」

 

警護員が必死に傷口を塞いだが即死であった。

 

 

 

『カナダ、モルドー首相の乗った飛行機が大西洋上で消息を絶ったと先ほど情報が入りました。ロンドンで発生している同時多発テロとの関連が疑われます。』

ニュース速報。

 

 

シティ空港。

 

「マルコーニ大統領!!直ちに機内に戻ってください!!テロです!!」

「な、なんだと!?」

 

イタリア首相を乗せた専用機が武装したテロリストの集団に襲われる。

 

英仏海峡トンネルを抜けようとしていたスペイン首相を乗せた車列。

突如として崩れ落ちるトンネル。一般車を巻き込みトンネルが崩落する。

「うわあああああ!?」

 

『トルコ、エセンボーア国際空港にて爆弾テロ発生、ロンドン臨時会議に向かう予定であったエル・ドアト首相の安否不明。民間人にも被害が及んでいる模様。』

ニュース速報。

 

 

海峡を船で渡ったオランダ首相はロンドン港で事態を察知した。

 

「ルッツ首相。非難を・・・」

「緊急事態か?」

「ロンドンで同時多発テロです。」

「わかった。」

 

短い応答で会話を終えたルッツ首相は警備艇に守られながら海峡への脱出を図る。

 

「な、なんだあれは!?」

「あ、悪魔だ!!悪魔が空を飛んでいるぞ!!」

 

魔法陣からあふれ出す下級の悪魔たち。

 

 

 

 

 

 

 

 

上がってくる報告やニュース報道を聞いてデュナメスは動揺する。

「ぬ、ぬらりひょん!?確かに派手にやれとは言ったが、ここまでしろとは言っていないぞ!?」

 

デュナメスが振り返った先にはぬらりひょんの姿はすでになく。

声だけが響いた。

「命令の内容に誤りがあった様ですな。とは言えいつまでも隠れてばっかりの秘密結社じゃダメでしょう。せいぜい派手にやりましょう。はっはははははっはっはははは!!!」

 

 

 

 

 

 

 

ロンドン市内はロンドン市警と周辺警察の応援部隊、陸軍近衛師団の兵士たち、各国の警護員が完全なる世界のテロリストたちと市街戦を繰り広げていた。

 

「大樹様・・・。」

 

大妖精も判断に困った様で私に指示を仰いでくる。

 

「英国首相と連絡は取れますか?状況の確認を取ります。鎮圧の目途が立っているのなら、脱出を図りましょう。フランスの方々も同行されますか?」

 

ミクロン大統領らは肯定の意を示す。

 

すぐ近くの日本大使館へ向かうために仏大統領専用車に便乗させてもらう。

大樹の護衛である妖精たちと仏警護員らが車両を守りながら大使館へ移動する。

大使館側も臨時駐在武官として20程いた妖狐狸らが沿道まで出張っていた。

 

大使館内では日本大使と同行していたぐわごぜが出迎えた。

 

「大樹様、ご無事で何よりです。」

「状況を確認したい。敵は何者です?ほかの首脳たちは?英国政府は機能しているか?警察が対応しているようだが軍は?特別機のあるシティ空港までは行けそうか?・・・それと仏の御一行を丁重にもてなしてあげてください。お疲れの様です。」

「大使、ミクロン大統領閣下を奥の休憩室へご案内して差し上げなさい。」

 

ぐわごぜは大使に仏一行への対処を任せて、質問に答える。

 

「おそらく敵は各国のゲートを破壊した魔法使い側の勢力『完全なる世界』と思われます。各国首脳の状況ですが何らかの被害を受けているのは確実ですが情報が錯綜しており詳細は不明です。英国政府は機能しております。すでに周辺警察の応援部隊が続々と市内に入っております。次に軍ですが近衛師団が戦闘に加わっているのを確認しております。時期に周辺基地の部隊も加わるのではないかと。シティ空港ですが、あそこは襲撃を受け特別機に甚大な損害が発生したとのことです。」

 

「ふむ、脱出を考え・・・いや、ちょっと待ってください。」

 

大樹は数秒思案して考え直す。

 

「至急、英国首相とベアードに連絡を取りたい。できるか?」

 

1時間後、大樹より提案を受けた英国首相は大樹の案を受け入れる。

 

「ベアード、ご協力頂けますでしょうか。」

『今後の為にも必要なことか。・・・よかろう、英国内の完全なる世界の魔法使いたちの討伐・・・お引き受けしよう。』

「協力に感謝します。」

 

 

 

 

 

通信を切ったベアードは周囲に控えていた部下たちに向き直る。

 

「聞いていたな。お前たち。これより、我が西洋妖怪軍団は異世界の魔法使い勢力『完全なる世界』の討伐を行う。これは長年敵対関係にあった欧州各国との共同作戦となるであろう。人間たちと共闘することに含みを持つものもいるだろうが、これが政治と言うものだ理解せよ。・・・・・・これより、西洋妖怪軍団全軍に対し完全なる世界の討伐令を発令する。」

 

「「「「「っは!!」」」」」

 

部下たちが下がる中、ベアードは初代ドラキュラ公を呼び止める。

「ドラキュラよ。欧州の指揮は貴様に任せたい。我はアメリカに向かおうと思う。」

「なぜ?と聞いても良いか?」

「修繕が可能だったり、極小規模な出入りは可能だとしても、もはや現状大規模な行動を起こせるのは日本の麻帆良だけだ。大げさかもしれんが決戦はかの地だろう。能力を疑うわけではないが我が娘とヤングジェネレーションズに任せるのは無責任だろう。決戦に備えてアメリカの兵たちを纏め上げておこうと思う。」

「そうか。確かにその通りだな。私も療養中の身とは言え指揮を執ることはできる。欧州は任せてくれ。」

「うむ、頼んだぞ。」

「100年前に挫折した夢想が現実になるかもしれんな。」

「あぁ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私たちの脱出の手段はないのですか?」

 

大樹はぐわごぜに脱出の手段はないかと問う。

 

「いえ、シティ空港に確認を取りましたところ。雪広家のプライベートジェットがありましたのでこれを借り受けることにしました。」

「ん?雪広家?あやかさん?」

 

ここで雪広家の名前が出てくるとは、やはり3―Aとは縁がある。

 

「あ、はい雪広家の御令嬢には連絡済みです。おそらく現地で合流できるかと・・・。」

 

「そうですか。では早速向かいましょう。」

 

 


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