大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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25 短編閑話集

草薙剣

 

『僧道行が草薙剣盗み、新羅に向かひて逃げき。

されどその途中の畿内にて、山道の途中に童女泣き崩れたれば、僧は声を掛けき。

僧は童女に声を掛く。

 

「娘ぞ。など泣けるなり。」

「主人より、預かりし宝なくしにけるなり。」

 

童女は僧差し出だしし手思ひ切り引っ張り、僧を崖下に落としき。

崖に落ちて息絶えしそう見て、童女は言ひき。

 

「今、失せ物戻りゆきき。」

 

童女は僧の盗みし草薙剣抱へて空へと消えき。

 

 

※『』伊勢神宮蔵書 題名不明書物

 

 

 

 

 

 

命蓮の姉尼

 

『帝(醍醐天皇)は清涼殿落雷騒動驚くとこれ以後体調崩し、病篤くなる中に嘗て自身の重き病を快癒させき。僧侶命蓮の事思ひ出だしき。

 

帝は再び使者やり信貴山より命蓮を招くために使者の蔵人が信貴山へやりき。

 

蔵人が信貴山の命蓮のゐる寺を尋ぬと、命蓮の姉なる白蓮を名乗る若き尼僧出迎へき。

蔵人は尼僧に帝への快癒祈願の事を伝へで去にき。

尼僧は若かりし、若かりけり。命蓮の年を考へば若過ぐるなり。

蔵人は畏くなりて惑ひて信貴山去に、帝はこの世を去にき。

 

そのことを聞きし大樹野椎水御神はかこちあはれがりき。

「老いを超越する際の術者に頼らざりきとは、なにとくらき事か。」 』

 

※『』奈良国立博物館所蔵 信貴山縁起絵巻

 

 

 

 

 

 

西行の娘

 

『風の噂、西行の死を知りし後鳥羽院は西行の菩提を弔ふために、はつかなる供ぐし吉野山の奥千本にある西行庵へ向かひき。その道中に道に迷へりと西行の娘と出会ひ西行庵の墓前へ案内せさせ菩提を弔ひき。

 

とばかりして、西行の菩提樹なる桜の木に多くの者どもが亡骸を共にせりと聞き、西行の娘の事が気になり再び、訪れき。

 

すと、西行庵は閑散とせり桜の菩提樹のあるのみなりき。

娘見当たらねば、近くの民に声を掛く。

 

「ここの娘はいづこなり?」

「娘? 西行の娘は西行死にてすなはちかくれき。」

 

後鳥羽院の会ひし西行の娘とは何者なりけむや。 』

 

※『』能楽作品 西行の娘

 

 

 

 

 

 

 

『平安時代末期、うへのゐる内裏・清涼殿に、晩ごとのごとく黒煙と共におどろおどろしき鳴き声響き渡り、近衛うへがこれに恐怖せり。いよいようへは病の身となりてしまひ、薬や祈祷もちてすともしるしはあらざりき

 

源頼政が山鳥の尾に作りし尖り矢を射ると、悲鳴と共に鵺が二条城の北方あたりに落下し、宮廷の上空には、郭公の鳴き声が二声三声きこえ、静けさが戻りきたりといふ。

 

鵺は淀川下流に流れ着き、祟りを恐れし村人どもが母恩寺の住職に告げ、ねんごろに弔ひて土に埋みて塚を建てさせき。

その住職、二ッ岩マミゾウの化けし姿なりき。マミゾウは村人の返りし後に掘り返し鵺をにがしき。 』

 

※『』新潟県県庁資料保管室所蔵 二ツ岩文書

 

 

 

 

 

 

大樹と向日葵

 

『華獣碧奧蘭蒂、その横に静かに佇む女性。

月ごろ前よりかくして碧奧蘭蒂の横にうちいづるやうになりき。神官どもは人の放つ圧倒的なる妖気に恐れなして近寄らむとせざりき。実害もあらねば放置せるが実情なり。

 

いつまでも放りおく訳にもいかず。現地の神官どもは大樹野椎水御神に謀りき。

大樹野椎水御神は件の女妖怪の下訪れ、人に尋ぬ。

 

「碧奧蘭蒂の事が気にったのか?我に用事やある?」

 

「はい、大樹の神ぞ。神獣の雄々しき姿に見惚れたりき。汝の加護を受けし土地はいづこも青々としてなまめかし。」

 

彼女が手を向けると近くの向日葵が二人の方を向く。

 

「草花に少しばかり言ふこと聞きてもらふべきが、我の能力ぞ。」

「めでたき力なりとぞ思ふ。花の妖怪ぞ。もしなんぢにその気があらば我に・・・いへなればもあらぬ。花は自然なればこそにすね・・・。」

 

花の妖怪はあからさまにせる笑みに返し、いづらへと去にき。

 

「風見優香・・・我の名ぞ。その時が来せばまた会はむ。」 』

 

※『』国立国会図書館所蔵 大樹記写本

※風見優香と名乗る彼女は後に最強妖怪の一角として扱われる。

 

 

 

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