大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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45 大樹信長記 契機

 

大樹大社から出かけるところで、雑談をしていた秋比売姉妹に話しかけられた。

 

「大樹様?また尾張に行かれるのですか?」

 

うん、そうだよ。

 

「あらまぁ・・・大樹は織田の殿様にご執心ね。」

「微笑ましいわね。」

 

静葉さんと穣子さんが優しく微笑みながらこちらに視線を向けてくる。

 

なんだか、むずがゆいのです。

 

「これは穣子姉さんが織田の殿様を見極めないといかんかね!」

「穣子、野暮なことは言わないの。」

「ちょ!?ちょっと!!お姉ちゃん!?冗談だって!?引っ張らないで~~。」

 

静葉さんは穣子を連れて大社の奥へ引っ込んでしまった。

見送りに来ていた大ちゃんが心配そうに言ってくる。

 

「大樹様いってらっしゃいませ。・・・・・・大樹さま、いくら公務をお控えになられているとは言え俗世の人に関わりすぎるのは・・・。」

 

わかってるよ。大ちゃん・・・有能な人間には簡単な繋ぎを付けるのは悪い事じゃないさ。

その後も信長と大樹は何度か桃園大樹宮で密会を繰り返した。

 

「信長様、これを・・・。」

 

私は信長にお守りとして持っていて欲しいと頭の黒御縵を渡した。

信長は拒否するでもなくそれを受け取った。

 

 

 

 

 

領国を広げる度にする戦いの中で、信長は同盟国を必要としていた。

そして、信長が目を付けたのは北近江を治める浅井家であった。

 

交通の要衝である小谷城を同盟勢力にすることで上洛経路の安全を確保すると言う目的は勿論、英邁と噂に高い浅井長政を盟友として取り込む目的もあった。

 

信長の下に、大樹大社より使者がやってきた。

大樹大社の使者は尾張桃園大樹宮、近江琵琶大樹大社の宮司らであった。

 

「神前で婚姻を誓わせるとな。」

 

「天津神々の前で誓わせることで、両家の結びつきは固いものとなるでしょう。」

 

この時代の結婚式は平安貴族の通い婚の様な例外を除けば、両家で宴会をする程度の今でいう人前式に近いものであった。

 

「その様なことできるのか?」

 

信長の疑問に宮司が答える。

 

「古くは伊邪那岐命と伊邪那美命の国生み・神生み神話ではオノゴロ島に天の御柱で夫婦の契りを結んだと記されております。浅井様とお市の方様にはそれに倣った物を執り行っていただき良縁を結んでいただければと、思案した次第にございます。」

 

信長はこの同盟を是が非でも成し遂げるために信長は、大きな決断をした。

 

「わかった。浅井との婚姻の契りは神前で執り行う。」

 

お市の方を浅井長政へ嫁がせた。

琵琶大樹大社には親族と織田浅井の重臣が参列した。

 

信長が大社の神殿の方を見ると、神前に誓う長政とお市の前にあの幼き巫女が座っているように見えた。再び目を凝らすとその姿はなかった。

同じく参列した勝家や他の者たちも気にした様子は無かった。

信長は首をかしげながらも平静を装い二人の式の成り行きを見守った。

 

 

 

二人の結婚式は琵琶大樹大社が主催した神前式で執り行われた。雅楽が奏でられ、巫女の舞が奉納された。

浅井長政とお市の方は琵琶大樹大社の神殿で、玉串を奉納し大樹野椎水御神に夫婦の契りを誓い合った。

 

こうして新進気鋭の浅井長政と絶世の美女と評判のお市の方、尾張・近江にあまねく知れ渡り民衆の祝福と羨望を一手に集めたのであった。

 

 

 

 

 

神前式終了後の琵琶大樹大社。

 

「我々が、口を出さずとも織田と浅井は同盟を結んだのでは?織田に肩入れしているようにも・・・。」

 

困惑気味の宮司の言葉に私は切り返す。

 

「肩入れしていると言えばその通りです。かつての源平合戦でも勝つ方に肩入れした。かの元寇襲来の時も勝ってもらわねばならぬ幕府に協力した。この時代の勝者なる資格が織田家・・・織田信長にはあると私が判断したのです。そして、織田の上洛は必ず成功してもらいます。浅井如きに煩わせられるのは不愉快、浅井の若大名は相応に有能です。織田に永らく恭順してもらい天下を支えてもらいたい。だから、織田との同盟は崩れるものでは困る・・・故にこの婚姻は神に誓わせたのです。」

 

神に誓ったことを反故にする真似はあの義理堅い浅井の若大名はしないはず。いえ、出来はしない。

 

 

 

 

その頃、室町幕府第十三代将軍足利義輝は、応仁の乱以降衰退の一途をたどる幕府権力の回復のために精力的な活動を続けていた。

義輝の活動は幕府の傀儡化を望むぬらりひょんに取って見過ごせないものになっていた自前の傀儡公方の足利義栄の使い道を失い自分が返り咲くことを困難とする義輝の存在は是が非でも排除したい存在であった。

そこで、ぬらりひょんは中央での実権拡大を狙う三好三人衆と松永久秀を焚きつけた。

足利義輝を討つべく、彼らは兵を率いて義輝の二条御所を包囲したのである。

 

燃え上がる二条御所を前にぬらりひょんは不気味に嗤う。

 

「傀儡は傀儡らしく紐で繋がって踊ればよいものを・・・。バカなことを考えた物の末路じゃな。」

「ぬらりひょん様。」

 

ぬらりひょんは朱の盆が継いだ酒をクイと喉に流した。

 

「ようやく、傀儡幕府に戻せるわい。人間風情が調子に乗るからに・・・。」

 

包囲軍の本陣でぬらりひょんは酒を飲みながら義輝の死を鑑賞した。

 

「義輝を殺すのは儂らではない。」

 

ぬらりひょんの言葉に応じたのは隣の席に座る松永久秀。

 

「ですな。世の流れを見ず、己の心を満たすのに汲々とし空回りした義輝自身ですな。」

「そのとおりじゃ、久秀殿。」

「ククッ・・・・・・時代の変化に気が付いておる大名がどれだけおることやら…。」

「神すらも気づいておらん・・・気付いていても手を拱く現状じゃ。並の大名などに気が付けるものではないぞ。カッカッカッカ!!」

「今の三好とて我らの手駒でございますな。ククククククッ」

 

邪悪な笑いを上げる二人。そこに、伝令の兵士が駆け込んでくる。

 

「申し上げます!足利義輝、相果てました!」

「ようやく死んだか・・・・・・どのような最期か?」

 

それを聞いた久秀は義輝の最期を聞いた。

 

「畳を剥がし盾とし、四方より押し包んで討ち取ったとのことです。」

 

久秀はニヤニヤと笑い義輝を愚弄する。

 

「存外、手こずったものだ・・・・・・。しかし、達人でありながら雑兵に圧されて死ぬとは・・・。いかにもあの男らしい無様な最期よ!ふっふっふっっふ、はーっはっはっは!!」

 

そんな久秀を尻目にぬらりひょんは立ち上がり、兵士に何事かを命令する。

 

「ぬらりひょん殿、如何された?」

「せっかくだからな、腰の刀を新しくしたいと思ってな。剣豪将軍の異名を持つあの男の刀を使ってやるのも一興じゃろう。」

 

朱の盆が兵士数名を連れて二条御所の宝物殿へと向かって行く姿をぬらりひょんは見送った。

 

こうして、室町幕府の権威回復に奔走した十三代将軍足利義輝は死亡。幕府は三好家・・・ぬらりひょんの傀儡に戻り独自の勢力を保つことは出来なくなった。

 

 

 

義輝が討ち死にし畿内が混乱する最中、義輝の弟であり奈良興福寺の高僧であった覚慶は将軍家を再興させるべく還俗。義昭を名乗り、諸大名に援助を要請した。その中には織田信長もいたが威厳を失った将軍家のために、動く様な大名は現れなかった。

 

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