美濃を平定した信長は遂に上洛を決断する。
永禄11年(1568年)、軍勢を整えた信長は1万5000の兵を引き連れて岐阜城を出立し、これに三河の徳川家康は5000、飛騨の姉小路良頼が派遣した頼綱勢500、美濃尾張三河の大樹大社系の武装神官と戦巫女600、この大軍勢が上洛を開始したのである。その道中でも天狗や河童などの妖怪が少しづつ加わった。
足利義昭の下に集った幕臣とその手勢は後発の軍勢に組み込まれた。
また、この頃から大樹大社の勢力は信長に味方する動きを見せ始め、伊勢の北畠氏に対する仲介。飛騨姉小路氏との交渉と飛騨の天狗たちへの協力要請、上洛途上の河や湖にいる河童たちへの協力要請を行った。妖怪達の反応はまちまちであったがそれは一変する。
元寇の時代より前を生きていた妖怪達は大樹の存在を感じ取っていたのだ。
故に信長の軍勢を目にして理解した。
道中の木曽川で大軍を擁した渡河行軍の支度をしていると信長たちの前に木曽川の長を名乗る老河童が他の河童たちと平伏していた。
「そこな、河童よ。なにをしている。」
河童たちは平伏したまま信長の問いに答えた。
「中臣鎌足公、源頼朝公、北条時宗候に続く勤皇勤神の御方でございます。織田様に微力ながらお力添えをしたく思いお持ちしました。」
河童たちはボロ布に包まれていたそれを差し出す。
砂金がボロボロと零れ落ち、キラキラと光を反射する。
信長は近くの社を借り受け、木曽川の老河童と会談を持つ。
彼らは、信長を前に・・・否・・・その横の私を見てさらに床に穴を開けんばかりの勢いで平伏した。
信長の横に座っていたのは大樹野椎水御神、その神であった。
「おぉ・・・遂に・・・遂にこの日が・・・。」
大樹は凛とした表情で老河童に話しかけた。その姿からは神々しさがあふれ出ており、その神に選ばれた時代の革命児織田信長も強い覇気が伺われた。
「木曽川の翁よ。・・・河童たちよ・・・永らく待たせました。元寇の戦いの傷を癒すのに時間を掛けすぎてしまいました。私の知らぬ間に天皇家が割れ、簒奪者が猛威を振るいました。多くの下々が辛酸の苦渋に耐え忍んでいます。しかし、そのような時代は終わらせなければなりません。木曽川の翁よ・・・河童たちよ・・・今再び、私の下で力を貸してくれるか。」
「っは!っはは!!」
一連の会話の最後に信長が大きな声で発する。
「此度の上洛は大内や細川、三好が行った室町幕府のための物にあらず。義昭など一時の傀儡。この信長の真の目的は大樹野椎水御神を奉じ上洛し、朝廷を説得し天下に号令を出すためである。天皇を・・・この大樹を中心にした政を行うためである。上洛途上の河川の河童たちに知らせて回れ!神政を執り行うと!」
河童たちは散り散りに駆け出して行った。
数日後、北近江の浅井長政勢3千、近江大樹大社系武装神官と戦巫女200が加わり、愛知川北岸に進出した。
愛知川では木曽川の河童たちから知らせを受けた琵琶湖系河川の河童や山童たちが集結していた。
川幅を優に超える数の河童たちが川から顔を覗かせ、川縁の岩場からも姿を見せる。その周囲には天狗たちが空を飛び交って、山林の影からそのほかの妖怪達が様子を伺っていた。
上洛軍と彼らは正面に相対する。
信長は馬を進め、その横に私が付いていき私は彼らに言葉をかける。
「皆の者、天津神々への忠に応えた妖たちよ!今の世は私利私欲に動かされ乱れに乱れている!故に、私は戻ってきた!!この乱れた世を我らの手で正しく導くために!!皆々!!私の下に集い再び世を治めん為に力を貸してもらいたい!!」
愛知川に集った妖怪達が歓声を上げる。
河川は震え、木々は揺れ、大地を割かんばかりの歓声が響いた。
「神の加護を受けたのか。信長殿はどこまでやるつもりなのだ。」
「義兄上・・・、人ばかりか神・物の怪すらをも味方につけられるのか。」
家康と長政は、神の加護を受け妖怪達を味方にした信長を恐れ、頼もしく思った。
かつての源頼朝、北条時宗もかの神の庇護を受け天下を治めた。古の歴代天皇家を庇護してきた大樹野椎水御神と言う存在は織田・徳川・浅井の同盟の轍となるのであった。