大樹の妖精、神となり   作:公家麻呂

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51 大樹信長記 闇の福音 堺制圧戦

織田軍は大和国・松永久秀、摂津・池田氏及び荒木村重、

六角残党と言った畿内の敵対勢力を悉くを撃破撃退或いは恭順させた。

だが、堺衆は織田軍との対決姿勢を強め潤沢な資金で兵を雇い、兵糧を運び込んだ。

堺には諸侯に売り飛ばす予定であった火縄銃1万丁あまりと大筒100門があり、三方を囲む堀に水を流し込み、斎藤龍興らの残党を囲い込み、三好の援軍を持って信長の軍勢を迎え討とうとしていた。

 

「堺の会合衆め、矢銭を断ってきたか。おもしろい、矢銭としてこの信長に差し出す銭はなくとも戦を構える銭はあるらしい。」

 

「如何いたしましょう?本願寺は矢銭を差し出してきましたが・・・。」

 

「権六に堺を攻めさせぃ!今こそ信長の力を天下に示さねばならん!敵になる者には恐怖を植え付けねばならんのだ。」

 

「っは!」

 

 

畿内を平定するには堺を平定するしかなかった。

 

 

和泉国・織田軍本陣

信長は堺攻めに柴田勝家を総大将に、前田利家、佐久間信盛、織田信張と言った歴戦の将を派遣し、大樹も側近の白蔵主と刑部狸の手勢、それに風見幽香に向日葵衆を付けて派遣した。

 

「堺は銭で兵集め、南蛮の傭兵や異国の妖怪まで居ると聞く。」

「斎藤龍興も恨み晴らすと息巻いている様だ。」

「しかし、我らも堺衆に張り合えるだけの砲や銃を用意できた。」

「勝機は十分にあろうて。」

 

織田の将が陣内で話している頃、陣の外では白蔵主と刑部狸が堺の町から強大な妖気を感じ取っていた。

 

「強大な力を感じる。これは妖気だけではないな…。」

「魔力とでもいうのか…。異国の術士が使う力をも感じる。白蔵主殿これは一筋縄ではいかんかもしれんぞ。」

「あぁ、刑部殿。この戦い、身を引き締めねばならん。我らは大樹様の期待を背負っておるのだ。」

 

話し合っている二人の背中に若い女性の声が掛かる。

 

「お二人さん、お話もいいけど。そろそろ戦が始まるわよ?」

 

風見幽香である。彼女の姿は暗い赤色をした和服と番傘と言う戦場に似つかわしくない姿であった。

 

「すまない、今行く。」

「おぉ!すぐ手勢を動かさねば!」

 

そんな彼女に対して何も指摘することなく、普通に応じる。

強い妖怪は人の形をとる。妖狐狸の様に自身の伝統的な姿形を尊ぶ者も多いが強い妖怪は総じて人型であった。

 

 

軍議が執り行われる。

前田利家が地図を広げて諸将たちに説明をする。

 

「堺衆に雇われた将を倒せばこちらの勝ちです。軍の指揮を執る将は斎藤龍興。三好の援軍は四国で決起した刑部殿の軍勢によって無くなりましたが、雑賀衆の援軍が到着したとのことです。」

 

「南蛮の傭兵はいかなる用兵を仕掛けてくるかわからん。油断できぬ敵じゃな。」

織田一門の戦上手の老将信張は注意を促す。

 

「信張殿、そのとおりです。また、武勇において注意すべき者もいます。」

「それは・・・。」

 

信盛の疑問に利家は答える。

 

「異国の妖怪にございます。彼らは人の生き血を啜る妖怪で、吸血鬼とも呼ばれています。」

「してその名は何という?」

 

刑部狸は利家を促し、白蔵主も視線を鋭くする。

 

「南方の吸血妖怪ピーとその側近の女吸血鬼。そして彼が率いる吸血妖怪ランスブィル、ペナンガランと言った妖怪を率いているようです。」

 

「南方の妖怪か。元寇の戦いの折に轡を並べたがその中にはいなかった連中だな。」

 

白蔵主はそう呟いた。

 

「また、西洋の吸血鬼もいるようです。名はエヴァンジェリンと言うようで西洋魔術に秀でているとの事です。」

 

「それの相手は私がしましょう。」

 

風見幽香の言葉に勝家が応じる。

 

「おぉ!それは心強い。これで異国妖怪の問題は片付いた・・・我らは敵の軍勢を討ち取り、堺会合衆を制圧するのだ!!」

 

後詰の大樹野椎水御神が後方に布陣したのを確認すると、勝家は堺攻撃の命令を出した。

 

堺の港町を包囲する織田軍、両軍の砲が火を噴き、双方の術や銃弾が飛び交った。

石火槍衆が放った一撃が防壁を破壊し堺の町の外環部分への道を開き、勝家の号令で織田方の兵が殺到していく。

 

「邪な野望を抱きし者どもよ!!立ちはだかるなら容赦はせんぞ!!全軍掛かれ!!」

 

かくして、堺の戦いは市街戦へと舞台を変えた。

 

 

 

 

堺の町の各所に木柵や竹束で防壁が築かれていた。

織田軍と堺の浪人衆や賊の間で堺の各所で銃撃や弓射撃による射撃戦が繰り広げられ、その間を縫って白兵戦が繰り広げられた。

 

織田信張と佐久間信盛の軍勢が斎藤龍興の軍勢を挟み撃ちにする。

 

「ここが年貢の納め時よ!龍興覚悟!!」

「一気に攻め立てるのじゃ!!」

 

「えぇい!織田の軍勢なんぞ!!押し返してくれる!!」

 

 

各所で繰り広げられる戦いの最中、前田利家率いる一隊が堺内環を囲う水門を解放。

 

「水門を解放したぞ!者ども!!乗り込め!!」

 

 

白蔵主と刑部狸の軍勢が水が抜け浅くなった堀を先陣切って越えていく。

 

「内環に布陣するのは異国妖怪ぞ!!我らに任せてもらおう!!」

「渡れ渡れ!!大樹様の意に背く愚か者を討ち取れ!!」

 

「ぎえぇえええ!!き、来たな!!お前ら!!日本妖怪に我ら南方妖怪の恐ろしさをおしえてやれぃ!!」

「「「うぉおおおお!!」」」

 

 

堺内環の別の場所では、西洋の吸血鬼であり闇の福音の異名を持つエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと風見幽香が相対する。

 

「東洋、神秘の島国の妖怪達を纏め上げる大樹野椎水御神・・・。この私が確かめてやる!」

 

エヴァンジェリンの言葉に幽香は微笑んで返す。

 

「うふふ、それは困るわ。あの子、病み上がりな上に元々戦闘向けの子じゃないから私が相手してあげるわ!」

 

エヴァンジェリンは魔導書片手に、幽香は傘を突き付けて返す。

 

「あの、傀儡人形の相手は我々が!!」

「オレハ クグツニンギョウ ジャネー ッテノ!!」

 

向日葵衆の妖精巫女たちとエヴァンジェリンの従者人形であるチャチャゼロが刃物を激しく打ちあわせ始める。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!氷爆!!」

「蔓よ!あれを叩き落とせ!」

 

エヴァンジェリンの出した氷の塊を幽香は巨大な植物の蔓で叩き落す。

幽香のステゴロ戦法を躱しつつ距離を取り詠唱する。

 

「百本、集い来たりて敵を切り裂け!氷の矢!!さらに闇の矢!!」

「ふん!ぬるい!」

 

追尾する氷の矢を躱し、闇の矢を開いた傘で防ぐ幽香はそのまま傘から巨大な光線を放つ。

 

「な!?三十枚!!氷の盾!!っくそ!氷の盾28枚も破った!!」

「じゃあ、続けて!!私の魔法も受けなさい!!マスタースパーク!!」

 

エヴァンジェリンはマスタースパークと撃ち合うために早口で詠唱する。

 

「ウェニアント・スピーリトゥス・グラキアーレス・オブスクーランテース・クム・オブスクランティオーニ・フレット・テンペスタース・ニウァーリス(来たれ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け常夜の氷雪)!!闇の吹雪!!」

 

マスタースパークと闇の吹雪が相殺され、二人は再度向き直りかち合おうとするが、それは遮られる。

 

「双方そこまで!」

 

大樹の一声で戦いは中断され、その両脇には白蔵主と刑部狸が武器を構えて控えていた。

そして、堺の勝敗も決しており柴田勝家らはすでに捕虜を捕らえ堺各所の相当を始めていた。

 

大樹に幽香、白蔵主と刑部狸に包囲されたエヴァンジェリンは大人しく両手を上げる。

 

「寛大な処分とやらに期待だな。」

 

 

 

大樹の本陣に引っ立てられたエヴァンジェリンであったが、彼女を縛る縄はすぐに解かれた。

 

「私は妖精でもありますのでわかります。貴女ほど精霊に愛されたものが、宣教師共が言う様な悪人とは思えません。このまま、私に仕えてみませんか?」

 

「妖精の女王が、異教の神となっていたか。おもしろいな、しばらく厄介になる。」

 

大樹の言葉に軽く悪い笑顔を浮かべて返した。

 

堺より帰還する軍勢、大樹方の隊列には客将待遇で馬に乗るエヴァンジェリンがいた。

 

 

 

「な、何と言うコトダ・・・。織田のトノサマはダーク・エヴァンジェルと結びついた。否、異教の化物ともダ・・・。何という邪悪ナ・・・!すぐに本国へシラセネバ。」

 

堺を脱した宣教師一人がはキリシタンの多い九州へと去って行った。

 

 

 

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