比叡山延暦寺は六角と斎藤の残党軍を迎え入れた。
これに対して信長は、自身を総大将に据えた柴田勝家、明智光秀、池田恒興、佐久間信盛、木下秀吉、中川清秀、丹羽長秀の3万が比叡山延暦寺を隙間なく包囲した。
包囲から数日後、織田領の大樹大社系を中心とした織田に味方する神社の武装神官と戦巫女が神輿を担ぎ、比叡山延暦寺の僧兵たちが担ぐ神輿と睨み合いを始める。
神社と寺院がお互いを非難し合い罵り合う光景は、神と仏が争い合うと言う庶民の不安を煽る光景であった。
これに8千の兵を率いて合流した長政は、信長と同じ指揮所で伝令や忍からの報告を聞いていた。
比叡山は一向衆と共闘の形を形成することが出来たが、大概の場合は他宗教他宗派との折り合いの悪い一向宗は、足利義昭の御行書を盾に傍若無人に振る舞い織田に味方した寺社以外の中立的な寺社にも高圧的で反感を買った。
「寺を焼かれた平泉寺門徒宗は白山神社に立て籠もり、一向宗と睨み合いを始めています。」
「禅宗の村々は比叡山に同調した天台宗寺院への兵糧の供出を拒否し対立しております。」
「一向一揆は御味方の神社を焼き払っております。」
「光仏寺派と専修寺派の者たちは村に立て籠もって本願寺派と戦う姿勢を見せており、日蓮宗の町衆も、寺に土塁を巡らせ堀を穿ち備えを固めております。」
報告を聞いていた長政は天を仰いだ。
「正に、一国騒擾とはこのことか。」
この様な事態に陥っても義兄上は表情一つ変えない。
義兄上は何かを待っている様だ。その横に控える大樹野椎水御神も先ほどから薄っすらと笑みを浮かべるだけで発言は無い。
長政は不吉なものを感じ始めた。
ゆっくりとした足取りで織田家の事務官僚のトップである村井貞勝が入ってくる。
貞勝の左右には薄羽を覗かせた巫女服の妖精巫女が二人控えていた。
「正親町天皇は伊勢神宮へ永尊宮様を伊勢斎宮として下向させることをお約束されました。これを聞いた伊勢神宮は仲介した大樹様への御返礼としてご神物を奉じた神輿をこちらへ向かわせたとのことです。」
「で、あるか。」
信長は短く答えた。そして、大樹は・・・小さく声を出して笑い出した。
「うふふふふふふ、やっと・・・やっと腰を上げてくれたわ。神道の最高峰伊勢神宮、神輿が来る・・・神輿を守る伊勢の神官たちも来る。その姿は正に・・・天津神々全てが私達の行動を認めたも同然。」
長政は背筋が凍るような思いで、声を絞り出す。
「義兄上、大樹様・・・ま、まさか・・・お二方は・・・。」
「1000年も昔、仏教は海を越えこの国に伝わりました。その過程で神道と仏教は争い、今の形に収まりました。神仏習合・・・、仏教は神道を侵食し仏教が主、神道が従であると言う考えが広がりました。平安の世には神前での読経や、神に菩薩号を付ける行為なども多くなりました。日ノ本で仏、菩薩が仮に神の姿となったとし、阿弥陀如来の垂迹を八幡神、大日如来の垂迹が伊勢大神であるとする本地垂迹説が台頭し、鎌倉殿の世にはその理論化としての両部神道が発生しました。もちろん、神道側からは神道を主、仏教を従とする反本地垂迹説が出されましたが、もはやどうにもなりませんでした。仏教は日ノ本全土を席巻し、強訴と言う形で朝廷の政をも歪め、今の日ノ本の混沌の一因となったのです。妾が天照大御神様から託された日ノ本をめちゃくちゃにした・・・妾の愛した日ノ本国を・・・・・・。ですが、仏教は日ノ本に深く馴染んでしまった。もう、この国から取り除くことは出来ない。ですが!これだけは成し遂げる!成し遂げねばなりませぬ!日ノ本の国では仏教が主、神道が従にあらず!神道が主、仏教が従である!酒池肉林におぼれる腐敗した叡山を焼き払い!人々を煽動し世を乱すようなやり方を選び妾にこの様な手段を取らせた石山本願寺は絶対に滅ぼす!絶対にだ!」
長政は大樹の気に押され、床几から転げ落ちてしまう。信長以外の諸将たちも皆気圧されていた。
信長は立ち上がり、長政を助け起こしてから声を掛ける。
「山本山下の僧衆、王城の鎮守たりといえども、行躰、行法、出家の作法にもかかわらず、天下の嘲弄をも恥じず、天道のおそれをも顧みず、淫乱、魚鳥を食し、金銀まいないにふけり、六角・斎藤をひきい、ほしいままに相働き、京の鬼門を封じている延暦寺は滅ぼさねばならん。」
元亀2年(1571年)9月12日、織田信長は全軍に総攻撃を命じた。まず織田信長軍は坂本、堅田周辺を放火し、それを合図に攻撃が始まった。
信長は包囲を狭め、腐敗した叡山の僧たちを切り捨てさせた。長政も覚悟を決めて、これに加わった。
比叡山の焼き討ちの後、本願寺を除く殆どの寺院が反信長の旗を降ろし信長に恭順した。
これにより、神仏習合の考え方も変わり神道が主、仏教が従であると言う考え方に変わっていくのであった。