「ふふん、どうよ?」
部屋に入ると幼馴染の少女が腰に手を当てて、ドヤ顔で立っていた。水着姿で。
胸を張っているせいで、二つの豊かな果実が強調されていた。目に毒である。
なんなんだ、これ?
一度整理しよう。今夏休み。夕焼けが綺麗な時間帯。学校から出された夏の課題をキリが良いところで終わらせコンビニに出かけた。帰ってきたら水着の女がいた。
……意味わかんねぇな。
「なんで、水着で、ここに、いる?」
「もちろん、見せるためっ」
嫌味ったらしく強調して尋ねたら、笑顔で返された。良い笑顔すぎてむかつく。
「新しく買ったんだよ~。似合うでしょっ」
そう言って幼馴染の少女――上原ひまりは青のビキニを見せ付けるようにその場で一回転してみせた。二つのお山が揺れる。目が追いそうになった。
いつもうちに入り浸るひまりだが、水着で居るのは初めてだ。そもそも水着は家で着るものではないと思う。
「ねっ、ねっ、可愛いでしょうっ?」
さてひまりは『可愛い』という言葉をご所望だ。しかし素直に言ってしまえばひまりは調子づく。俺の中に少し抵抗がある。
「……というか水着すでに持ってるのに買ったのか」
葛藤した末、話を逸らすことにした。
確かピンク色の、ふりふりが付いたビキニだった。
「もしかして太ったか?」
「ひどい! 太ってないよっ!」
「じゃあ、なんで新しい水着買ったんだよ」
「可愛かったから買ったんだよっ」
ひまりはぷんぷんと怒りながら説明してくれた。Aftergrowでショッピングモールへ行き、そこで水着を見たことを。今見せびらかしてる水着はそこで買ったものだと。
ついでに、Afterglow皆で明日プールに遊びに行くことになったことも教えてくれた。
「それ俺誘われてない」
「えっ、誘ったよ?」
「はっ?」
「ほらちょっと前にメールしたじゃん」
そう言えばひまりから『明日暇?』みたいなメッセージ来てたわ。『用事があるから暇じゃない』と返した覚えがある。
「あれのことか」
「そうそう。にしても残念だったねえ」
「何が?」
「みんなの水着見れなくて」
「ぐっ」
そうなんだよ、蘭もモカもつぐみも巴も美少女なんだよ。くっそ、なんで用事あるんだよ。
というかモカがよく行く気になったな。パンを餌にして釣ったか。
「話を戻すぞ……だから決して太ったわけじゃないと言いたいんだな?」
「何度も言ってるじゃんっ。もう~」
ひまりはそう言った後で小さな声で
「……まぁ胸のあたりがちょっときつくなってきちゃったなぁ、っていうのもあるんだけど」
と付け足した。おそらく俺に聞かせる気はまったくなかったのだろう。
ばっちり聞いてしまったが。余計に水着が冷静に見れなくなるような情報を与えるな。ただのお隣さん幼馴染に与える情報じゃない。
ただでさえ大きいあれがさらに大きくなるとか想像したらやべえなおい。
「? 顔背けちゃって、どうしたの?」
俺が聞いてたとは露ほども思ってなかったのだろう。不思議そうな顔をしてこちらを覗きこんでくる。
「……そういうことは男に聞かせるようなことじゃないと思うんだが」
「?? 何のこと?」
「だから、胸のあたりがっていうの」
「んなっ!?」
ひまりの顔がわかりやすく真っ赤になる。
「……変態っ!」
「自爆したのはお前じゃねぇか……」
俺はまったく悪くないと思う。
「うっ……でもでも何も聞かなかったことにもできたと思うんだけどっ」
「それは」
抗議するかのように詰め寄ってくるひまり。近い。普段は服で隠されている谷間が迫ってくる。身体と身体がぶつかりそう。思わず彼女から視線を逸らしてしまう。
確かにその通りなのでここは折れよう。理性が砕ける前に。
能天気な幼馴染に興奮してしまうなんてなんか負けた気分。
「ああもう、悪かったよ」
「……ん、許してあげる」
「どーも。でさ」
「なーに?」
「近いから離れて」
「へ? ……あっ!?」
どうやら無意識で近づいていたようだ。俺の言葉でそのことに気付いたひまりは慌てて少し距離を取る。せっかく元に戻っていた頬がまた赤く染まる。
「うぅ、変態っ」
「いや今のは俺悪くないだろ」
「そうだけど……そうだけどっ」
上目遣いで恨めしい声を上げるひまり。本当にころころ表情の変わる幼馴染だ。
意地張ってるのが馬鹿らしいと思えてきた。
「……ったく。よく似合ってるよ」
「ふぇっ」
ひまりは俺の言葉に不思議そうな顔をする。
「水着の感想。聞きたかったんだろ?」
「本当? 冗談じゃない?」
「冗談じゃない冗談じゃない」
「……おおう」
「信じられないみたいな顔をするな」
「……もう一回言ってくれたら信じる」
「よく似合ってる」
「もう一声っ」
もう一声ってなんだよ。意味がわからん。
「あー……可愛いなその水着」
「もう一声!」
「お前は俺に何を言わせたいんだ!?」
「えー……それ聞いちゃう?」
調子に乗ってるよ、この幼馴染。面白いもの見つけたみたいな、そのニヤついた笑みを止めろ。
「リピートアフターミー『ひまりちゃん可愛いっ』」
「何の罰ゲームだそれ。やらないぞ」
「えー」
「お望みの通り感想言ってやったんだからさっさと着替えろ」
「そんなこと言っちゃって。私の水着見れて嬉しいんでしょ」
「いやそれはない」
「ふんっ、そんなこと言っていいのかな。わかってるんだよっ、さっきからちらちら胸を見てること!」
ドヤ顔で言うひまり。バレてたのかよ。
「仕方ないだろ。生理現象みたいなもんだ」
男は皆そんなものだ。胸に目が行ってしまうんだよ。
「ふーん……それって私のこと女として見てるってことだよね?」
彼女は何故か嬉しいそうに言う。口元がニヤついているのを隠せていないぞ。
「それは」
俺は答えに困る。『そんなわけないだろ、バカひまり』と言ってやるつもりが、どうしたか言いたくなかった。
だけど素直に彼女の言葉を認めることも出来なかった。
「……そんなに気になるなら触ってみる?」
顔をこれ以上ないくらい真っ赤にしてひまりが言った。
「は?」
俺は呆然としてしまう。
「だからおっぱい触ってみるって言ってるのっ」
余計に意味がわからない。そんなことしたら幼馴染でいられなくなる。
「……私はいいよ?」
俺の考えなんてお見通しなのか、それとも何も考えていないのか。どちらかわからないが、ひまりは恥ずかしそうに俺を誘惑してきた。
俺は余計に混乱する。本心なのか、からかってるのか。長年一緒にいる幼馴染だっていうのになんて様だ。
視線がどうしてもひまりの薄い布越しの二つの膨らみに言ってしまう。意識するなっていうのが無理だ。
「……やらしい」
その視線に気付いたひまりは嬉しそうに微笑む。
「やっぱり女の子として意識してるんだ」
「……そりゃお前も一応女だし」
「一応は余計!」
さっきは答えられなかった言葉をついに認めてしまった。
「……気安く胸触ってみるとかいうなよ。もうちょっと自分を大切にしろ」
「大丈夫っ。言う相手は選んでるから!」
つまり……そういうことなんだろうか。俺も覚悟を決めるべきなのか。
「ああ、くそっ。後悔するなよ」
「しないよっ」
俺はひまりに近づいて、その豊かな胸へと手を伸ばす。この薄い水着が悪いんだと心の中で言い訳しながら。
「……ぁんっ」
質量を持った豊かな膨らみに恐る恐る触れる。マシュマロみたいな柔らかさで、触れてる指がどんどん沈んでいく。心地よくてずっと触っていたくなる。
ひまりが艶かしい声を上げる。こんな声を上げるなんて想像してなかった。
艶かしくて、それでいて嬉しそうに微笑むひまり。
「えへへっ」
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「だってずっとこうしてほしかったんだもん」
つまりそういうことなんだ。
「……俺もこうしたかった」
「わっ、素直だっ」
「うるせぇ」
「ごめんごめん。でもそう言う言葉ははっきり言ってほしいなぁー……ってダメ?」
ひまりは可愛らしく首を傾げておねだりしてきた。
「好きだぞ、ひまり」
「私も大好きっ」
俺がはっきりと好意を告げるとひまりも同じように返してくれた。やっぱりちゃんと好きだと言われるのは嬉しい。
「でもちょっと不満があるんだよね」
「なんだよ」
「嬉しいんだけどおっぱい触られながら言われると、なんかこう身体目当てみたいな感じがして」
そういえばずっと胸を触っていた。少し名残惜しいが胸から手を離す。
「それはすまん。で、どういうのがお望みなんだ」
「やっぱり満天の夜景をバックに告白とか」
「マンガの読みすぎだ」
ロマンチックすぎる。
「……今度二人でプール行かないか?」
「二人で……それってデート?」
「おう。プール行ってその後は夜景が綺麗なところでも行くか」
そういうとひまりの顔がぱぁっと明るくなる。
「……大好きっ!」
感極まったのか、彼女は抱きついてくる。急に抱きついてくるから倒れそうになるのをなんとか堪えた。
「お、おいっ」
胸だけじゃない、柔らかなひまりの身体の感触にどきまぎしてしまう。水着越しなのでなおさら感じてしまう。
「えへへ……嬉しいっ」
俺のことなどお構いなしに身体を擦り付けてくるひまり。動物のマーキング行為に似ているなぁと思った。
「わかったか離れろって」
「嬉しいくせに~」
「嬉しいけどな……」
その時ガチャとドアが開く音がする。
「晩御飯できたわよー。ひまりちゃんも一緒に……あらっ」
入ってきたのは俺の母親。どうやら晩御飯に呼びに来たみたいだ。
というか、不味い。どう説明するこれ。息子の部屋に入ったら息子と幼馴染(水着)が抱き合ってる。いかがわしいことしようとしてるようにしか見えない。
「お義母さん、ありがとうございますっ」
ひまりはひまりでなにしれっとご相伴に預かろうとしているのか。それとお母さんのニュアンスなんか違くない?
「……お邪魔だったかしら」
「いえいえ、そんな。でもご飯はあと2時間ぐらい待ってもらえると」
ひまり、貴様はナニをするつもりだ。
「今度からはノックするわね。ごゆっくりー」
お赤飯用意しなくちゃ、と呟きながら母は去っていった。
「それじゃお義母さんの許可も貰ったし……」
「しないからな?」
「えー……」
同じ屋根の下に母親がいるんだぞ? エロいことなんてできるか。
なんでそんなにことを急ぐのか。
「……だって中々素直になってくれないんだもんっ」
確かにひまりが好意を示してきても素直にならなかったな俺。その通りすぎて反論できない。
「……目閉じろ」
「ほぇっ……」
なんで不思議そうな顔するんだよ。
「ほらするんだろ。……でも俺たちキスもしてないだろ?」
「う、うんっ……」
そう言って少し躊躇いながらひまりは瞳を閉じる。
俺はひまりに顔を近づける。と言っても抱き合ってるから元々近いのだが。
近くで見たひまりの顔は可愛かった。細くて長いまつげとか整ってる顔立ちとか小さな鼻とか、可愛い要素を挙げたらキリが無い。
彼女の瑞々しい唇に口付けをする。
「……んっ」
時間にして数秒の短い口付け。だけどこれ以上ないくらい気持ちがよかった。
「……しゃーわせだよ」
ひまりは顔を蕩けさせてそう言った。俺も同じだった。
「……いいよ。して?」
ひまりは俺の手を掴み、再び自らの胸へと近づけて――
結論から言おう。
すごくよかったですはい。
あとあの後母親からおめでとうと避妊はしっかりねとの言葉を貰った。うるせぇ。
蘭たちからもお祝いとひまりを泣かせたらわかってるんだろうなメールを貰った。わかってる。大切にする。
「えへへ、大好きっ」
満面の笑みで俺の腕に抱きついてくるひまりを見て、俺は心が温かくなるのを感じた。
今度書くときはSiriを強調して書きます。